ミスリルの剣

りっち

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25 ソイル③ (改)

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「ソイル。今日からは魔力操作を意識しながら、パメラやスティーブと手合わせして欲しいの」


 ミシェルに言われて、今日は魔力操作を使った模擬戦を行う事になった。

 ……なんだか剣を握るのは久しぶりに感じる。


「今までの貴方の技術に魔力操作を組み合わせるつもりで、全力でお願い」

「分かった。魔力を使ってみんなと手合わせすればいいんだな。分かったよ」


 俺の前に旅に同行していたメンバーが立っている。みんなもうすっかり臨戦態勢になっているみたいだ。

 魔力を感知できるようになって改めて分かる、同行しているメンバーの優秀さ。全員が平均を大きく上回る魔力を持っていて、魔力操作も非常にスムーズだ。


 初戦の相手はパメラのようだ。今までに無いほど真剣な表情を浮かべて俺に剣を向けている。

 対峙しているパメラの実力が、魔力操作を覚える前以上に遠く感じられる。これが本来の俺と周りの実力差だったのか……。



「手加減せんぞソイル! 全力で来いっ!」


 パメラの雄叫びを合図に模擬戦が始まる。

 今までの俺の技術に魔力操作を組み合わせるんだったな。やれるだけやってみよう。


「はぁっ!」


 俺目掛けて一直線に飛んでくるパメラの攻撃。

 相変わらずパメラの剣は綺麗だ。我流の俺とは下地からして違う、真っ当な剣術。そのうえで体に魔力を走らせ、全ての動作を加速しているんだな。

 ……なるほど。こんなの魔力無しで勝てるはずがなかった。俺はなんて無駄な事をしていたんだろう。


「ソイル、貴様いったいなにをしたっ……!? 数日しか経っていないというのに、なぜここまで……!」


 パメラが何か驚いているようだけど、そんなもに構う余裕なんて無い。模擬戦に集中する。


 魔力操作を練習したおかげで、一瞬だけ体に魔力を流して全ての動作を加速することが出来るようになった。おかげでパメラの剣もギリギリのところで避けられる。

 そもそも魔力の動きが分かるので、パメラの動きが予測できる。予測できるのに余裕が無い。流石は聖騎士だ、強すぎる。


「馬鹿な……。私は一切の手加減をしていなかったというのに……!」


 勝てる気は全然しなかったが、パメラとの模擬戦は引き分けに持ち込むまで粘ることは出来た。


 ……元々、薄汚く粘るのは得意だったもんな。

 おかげで今までズルズルと生き延びてきちまったぜ。




「容赦はせんぞソイル。全力で来るが良い!」


 パメラの次はスティーブと手合わせする。

 パメラと比べるとスティーブの魔力操作は荒々しい。1度に走る魔力の量が尋常じゃない。それなのに問題ないほどの魔力量を宿しているようだ。


 ……魔力量か。不思議なもんだな。

 魔力操作を知らなかった頃は他人の魔力量が羨ましくて羨ましくて仕方なかったってのに、魔力を感知できるようになってはっきりと自分と他人に圧倒的な差があるってことを突きつけられると、逆に諦めがついてしまう。


「あ、当たらん……! なんだこれは……!? 動きだって我の方が数段速いはずなのに……!?」


 パメラと比べると分かりやすい魔力の流れのおかげで、パメラよりも動きの先が読みやすい。


 魔力を感じながら無心で打ち合い続けた末、スティーブとの模擬戦も決着はつかなかった。


 ……やっぱ強いなスティーブは。俺なんかじゃどう足掻いても敵いっこない。




「ソイルさん。こんな腕前になっておきながら、いつまで呆けているおつもりですか」


 最後の相手はグリッジか。

 ダニーは渦の調査が終わっていなくて、模擬戦は辞退して調査を続けているようだ。1人で仕事をしているダニーには頭が下がるよ。


「くっ……! 本当になんなんですかこれ……!? なんで攻撃が通らないのかっ……!」


 グリッジの剣はメンバーの中で1番付き合いが長い。おかげで1番理解も深い。

 それでもこうして打ち合うと、未だ実力差は歴然としてるが全力を尽くすとしよう。


「……ミシェル様。ソイルになにをしたんですか? いくらなんでも上達の速度が異常ですよ」


 グリッジと剣を打ち合う外で、模擬戦の終わった2人がミシェルと会話している声が聞こえた。


「それに休憩も挟まず3人目を相手にしているなど、いったいどういうことなのです? ソイルの魔力量は、平均的な量にも大きく及ばなかったと記憶しておりますが……」

「私はただ魔力操作の基礎の基礎を教えただけよ。そしてソイルはただそれをずっと集中して訓練していただけ……」


 グリッジは俺と比べて、技術も身体能力も魔力量も戦闘経験も、ありとあらゆる面で圧倒的に格上だ。俺なんかがグリッジに勝てる道理はない。

 だからこそ、気楽に手合わせ出来るってもんだ。


「何をした、か。私は、何も出来なかった……。ソイルに何もしてあげられなかったわ……」


 グリッジがどれだけ早く動こうとしたって、先に魔力が走ってるのを感じられるから、事前に動作を察知出来てしまう。

 動作を事前に察知出来てしまえば、どんなに早い攻撃だって対処できる。


 グリッジの凄まじい剣の威力にも、魔力操作による身体強化を覚えた今の俺なら耐え切れる。


「勘弁してくださいよソイルさん……! こんなCクラス冒険者がいるわけないでしょうに……!」


 ……なんだそれ? 俺はCクラス冒険者としてすら相応しくないとでも言いたいのか?

 そんな分かりきった事を今更言われても、今の俺には構っている余裕は無い。ただグリッジの剣に集中する。


 やがてグリッジの剣に慣れ始める。目が慣れてきたら視力の強化をやめ、動きについていけるようになったら動作のサポートを止める。

 俺の魔力量は常識ハズレの最低クラスだ。無駄遣いは一切許されない。ただでさえグリッジで3戦目だ。節約しないと。


「あ、あれ……? ソイル、貴方今、魔力を全く使って、ないんじゃ……?」

「はぁっ!? そ、そんなはずないでしょう!? グリッジの剣に魔力操作無しでついていけるはずが……!」


 魔力の感知による動作の事前察知。これのおかげで動きについていける。これが無かったら既に何回斬られていたのか想像も出来ない。

 魔力量に余裕の無い俺は、攻撃に回す魔力なんてあるわけがない。俺に出来るのは最低限の魔力を使って、死なないように立ち回ることだけだ。


 ……ただひたすらに身を守る剣か、馬鹿馬鹿しい。今さら身を守ってどうするんだって話なのに。

 俺なんて、生きている価値もねぇってのによ。




「それまで! それまでだ! 双方止まられよ!」


 スティーブが模擬戦に終了を告げてくる。どうやら終わったらしい。

 模擬戦は魔力の消費が少なくて良いな。魔力操作の訓練よりもずっと楽だ。


「まさか倒しきれないとは思いませんでしたよ……。腕を上げましたねソイルさん」

「……俺は何も変わってないよ。何か変わったと感じるなら、そりゃミシェルが凄かったんだろ」


 グリッジと会話をしても仕方ない。ミシェルに次の指示を聞かないと。


「模擬戦終わったよ。次はなにを?」

「……いつも通り魔力操作の練習をしてちょうだい。模擬戦ご苦労様」

「うん。分かった。ごめん。俺のせいでミシェルに迷惑ばかりかけて、本当にごめん」


 俺を見ているとミシェルは辛そうな顔をする。だから迷惑をかけていることを謝るんだけど、どんなに謝ってもミシェルは悲しそうな顔をしてしまう。

 ……俺は本当にミシェルの旅に同行すべきなのか? 同行するほうが迷惑をかけているんじゃないのか?


 いや、余計な事は考えるな。今はただミシェルの要望に応えることだけを考えろ。


「お嬢様。大丈夫ですか? それにしてもソイルさんがあそこまで戦えるようになっているとは……」

「ええ。ソイルも戦えるのだし、これ以上旅を遅らせるわけにはいかないわ」

「……では、動くのですね?」

「ソイルのおかげでまだ日数には大分余裕があるけれど、今後ソイルが動けないなら予定の期日に旅を終えられるかどうか怪しいもの。ダニーの調査で渦の場所が判明したら、破壊に打って出ましょう」


 魔力操作の訓練の為に宿に戻る俺の背中に、グリッジとミシェルの会話が聞こえてきた。


 ……ああ、そう言えば渦の破壊をする旅の途中だったんだっけ。俺にはもうなんの関係も無いだろうけど。
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