ミスリルの剣

りっち

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大きな依頼

14 ダニー (改)

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 黒い渦の調査と破壊。それは人々の平和のために必ず完遂しなくてはいけない仕事だ。

 天才魔法使いであるミシェルは聖教会から依頼されて、人々の為に人知れずあの渦を破壊しなければならず、なぜかその旅に俺も同行する事になってしまった。

 なぜかって言うか、ミシェルから依頼を持ちかけられたんだけどな。


 旅の始めに訪れた村はとても小さな集落で、俺は勿論のこと、同行者も誰も訪れたことがない場所だった。

 俺には詳しく教えてくれなかったが、黒い渦の発生する場所と周期はある程度分かっているらしい。しかしその存在は極秘なため、人々に知られておらず、調査から自分たちで行わなければいけないのだ。

 なんとなく非効率的な気がしちまうけど、そういうもんだと割り切る。


 要は黒い渦発生候補地に1番近い村落で情報を集め、何らかの異常が起きていないかを聞いて回り、その情報を元に黒い渦を発見して破壊するのがこの旅の目的だ。

 初めての土地というのはそれだけで危険度が高い。ましてやそんな土地で黒い渦と関わらなければいけない。慎重に動かねぇとな。



 ……なんて張り切っていたのが馬鹿らしいぜ。

 現地に到着すると、俺に言い渡されたのは『自由行動』だった。好きに行動していいが、騒動だけは起こさないように、か。つまりは余計な事をするなってことだ。

 こっちとしても依頼主様に逆らう気はない。だが好きに行動していいと言われた以上は好きに行動させてもらうぜ。俺だって死にたくないからな。


 俺は1人宿を出て、村の住人に聞き込みを開始する。

 初めて訪れた俺たちでは気付かないような些細な変化も、ずっと村で暮らしている住人達は気付いたりしているものだ。老若男女を問わず、なるべく沢山の村人に話を聞いていく。



 暫く聞き込みを続けていると、やがて日が落ちてきた。

 聞き込みを切り上げて宿に戻ると、なんと俺の分の夕食は用意されておらず、各自で済ませろと言われてしまった。

 流石に思うところが無いでもなかったが、聞き込みの続きをするにはちょうど良いかと村で唯一の酒場に出向き、引き続き話を聞いて回る事にした。


「まぁまぁ1杯どうだ兄弟? 出会った記念に奢ってやるぜ?」

「おうおう悪いなアンちゃん! 村じゃ見かけねぇ面だが、こんな辺鄙な場所になんの用だいっ?」


 酒飲みってのはどいつもこいつも似たようなもので、隣りの席に座ればもう友人。1杯奢ればその瞬間に親友扱いだ。

 プライベートに関わるような問題でなけりゃいくらでも口が軽くなる、情報収集にはもってこいの生き物だ。



 俺は冒険者らしい風体をしているので、村周辺の狩場の情報などを聞くと、皆饒舌に語ってくれた。

 村に居座る予定が無い旅の途中に立ち寄っただけの冒険者だ。自分たちの生活を脅かされる心配も少ない。逆に厄介事を片付けてもらえたらラッキー、って程度の考え方なんだろうな。


 酒場の連中とは粗方仲良くなった頃、店に見知った顔が入ってきた。俺と一緒にミシェルに同行してきた、確か斥候役のダニーだったか。コイツも情報収集に来たのか?

 ……と思ったら1人で離れた席に座り、1人で食事を始めやがった。

 単に夕食食いに来ただけかよ? っていうか今まで村で見かけなかったけど、どこに行ってたんだコイツ?


 飲み物とつまみを持って、ダニーに声をかけてみる。


「おうダニーおつかれさん。仕事は順調かい?」

「ん? ああソイルじゃねぇか。お前さんも宿を追い出されたクチか? 仕事の方はぼちぼちってとこかな」


 嫌がられるかと思ったけれど、普通に会話に応じてきたな。

 ていうかダニーの言い分だと、ダイン家の使用人らしいダニーも宿から追い出されてるってことかぁ? なに考えてんだミシェルは?


 ダニーの夕食に付き合いながら、今日村で聞いて回った中でも個人的に引っかかった事を、雑談を交えてダニーに伝えていく。

 俺の言い分なんて誰も聞いてくれないからな。会話に応じてくれるダニーに情報提供するしかない。


「村の西側の森でモンスターが増えているって? 気になる情報だが、情報の出所は信用出来るのか?」

「ああ、普段から森に薬草や木の実を取りに行ってる子供たちから聞いたんだよ。同じ事を言っている奴は何人も居たから少し気になってな。明日明るくなったら見に行ってみようと思ってたんだ」


 村の子供達が俺に嘘を言う理由もない。それに同じことを複数の村人が証言している。信憑性はそれなりにあるだろう。

 それにモンスターが増えているなら、渦とは関係なくとも確認は必要だろうしな。


「ふむ。ならば俺も同行しよう。西側のほうはまだ調べてないからな。お前さんが1人でも森に入れるってんなら、2人で行けば倍の速さで調査が進むだろ」


 俺の報告を聞いたダニーは、少し思案してから俺の報告を採用したようだった。


「へぇ? 俺の話を信用してくれるのか? ダイン家の使用人様たちは、俺と一緒に旅をするのが嫌なんだと思ってたぜ?」

「はん。俺をメイド共と一緒にしないで欲しいね。俺は効率よく仕事を済ませて、早いとこネクスに帰りてぇと思ってるだけだ。そのために使えるもんは何でも使うぜぇ?」


 なんだ。そういうことは早く言って欲しかったぜ。そういう考え方してるなら始めから協力したってのによ。

 この日はダニーと盃をぶつけ合い、明日の調査に向けて2人で英気を養った。




 翌日、まだ日も昇る前の早朝から、俺とダニーは村の西側の森の調査を始めた。

 調査を始めてみると、情報通り確かにモンスターとの遭遇率が高いと感じる。幸いな事に俺1人でも梃子摺らない程度のモンスターしか出ないが、こんな小さな村では充分に脅威だろうな。


 今回は森の調査が目的なので、遭遇して討伐したモンスターは討伐証明部位だけ切り取って、あとは聖油で燃やしていく。

 普段であれば解体もするが、今は別の目的で動いてるんだ。赤字にさえならなきゃ儲けは度外視だ。


 その調子で調査を続けた俺達は、太陽が最も高いくらいの時間に見事に渦の発見に成功した。


「お、おお……。マジでありやがったよ……」


 森の中に唐突に現れた、空間を捻じ曲げて渦巻く黒い渦。

 村人たちの証言を疑っていたわけじゃねぇが、予想以上にすんなりと見つかってしまって逆に不安になってしまう。


「ダニー。あとは戻って報告して、みんなで破壊する感じなんだよな?」

「みんなっつうか、お嬢様が1人で破壊する感じだろうけどな。他の全員はお嬢様の護衛だ」


 つまり案内人とミシェル以外の全員はミシェルの護衛でしかないのか。死の森で遭遇した感じ、魔法でしか破壊できないっぽいもんなあの渦。

 そんなことを思っていると、ダニーが本当に嬉しそうな顔で俺に話しかけてくる。


「しかしソイルのおかげで早く片付きそうでありがてぇぜ。この村には1週間から10日くらい滞在する予定だったのによ。まさか半分もかからねぇなんてなっ!」

「……まさか、ダニー1人で村の周辺を直接調査する気だったのか? そりゃあ流石に効率悪すぎってもんだろ? なんで聞き込みからしないんだ?」


 黒い渦の破壊は人類の平和の為に必要な任務じゃなかったのか? 旅の同行者達の様子を見てると、なんかいまいち危機感を感じないんだが……。

 首を傾げる俺に対して、ダニーはがっくりと肩を落としながら説明してくれる。


「一応この旅はお忍びの極秘任務だからよぉ。俺はあまり住人との接触を許されてねぇんだ。万が一にでも身分や仕事がばれたら首が飛んじまう。やってられねぇぜ……!」

「うっわぁ……。そりゃなんともお気の毒なこった……」


 今回迅速に渦の発見に至れたのは、現地の住人に聞きこみをした結果だ。

 なのにそれを禁じられているとか正気かよ? この黒い渦は人類の脅威なんじゃなかったのか? 随分とまぁ悠長なこった。


 ダニーは住人との接触を禁じられているそうだが、俺は特に何も言われていない。自由行動の時に現地の人間と世間話をしたって、咎められる筋合いはねぇよなぁ?


「それじゃ現地での聞きこみは俺が担当するよ。それでお互いの調査結果は夕飯の時に情報交換しないか? 手分けして調査の効率を上げていこうぜ」

「おお、そりゃ願ってもない! よろしく頼むぜソイル! とっととこんな仕事終わらせて家に帰ろうやっ」


 渦の発見に成功したことで、ダニーとの協力体制を得ることができた。

 協力者が1人出来て、旅の最中の俺の仕事も見つかった。まずは順調な滑り出し、ってか?


 村に戻ってダニーが渦の発見を報告すると、なんとそのまま休憩も無しに渦まで案内させられ、なんとか日が落ちる前に渦を処理することが出来た。


 その日の夕食も宿を追い出された俺達は、クタクタの体に鞭打って酒場でささやかな祝勝会を楽しみ、2人で酒を酌み交わした。

 ふ、久しぶりに酒を飲んだんだが、酒ってこんなに旨いもんだったかね?
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