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一流との差
06 依頼前夜 (改)
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余計なお荷物がついてきてしまったが、なんとか無事にネクスに帰還することが出来た。
帰還したその足でまずは冒険者ギルドに行き、採取物と魔物の討伐証明部位を提出する。
「おうお疲れさん。ソイルのおかげで薬草類の在庫が増えて助かったぜ」
「こっちとしても競合相手の居ない採取依頼は楽な仕事だからな。お互い様って奴だ」
「本当はお前さん以外にも採取依頼を請ける奴が増えて欲しいんだがなぁ。っとほらよ、報酬だ。また頼むぜっ」
採取品の状態も問題無しと見做され、無事に満額の報酬が入った袋を渡される。
ふふ、中々の重みだ。報酬を貰うと依頼での苦労なんか吹っ飛んじまうぜ。
「あ、ソイル。用事は終わったの?」
……だってのに、なんか変な嬢ちゃんが付きまとってくるから変に疲れちまうぜ。冒険者ギルドまでついてきて、依頼の達成報告が終わるまで待ってやがんだから参っちまうよ。
「なぁ嬢ちゃんよ。なんで俺に付いて来るんだよ? もうネクスに戻ってきたんだから解散で良いだろ?」
「嬢ちゃんでもお前でもないっ! 私の名前はミシェルだって言ってるでしょ!」
「いやもう日没だし家に帰れよ。お前貴族なんだろ? こんなところで油売ってちゃマズいだろうに……」
「私の事はどうでもいいの! ソイルの用事は終わったのかって聞いてるのよっ!」
モンスターを吹っ飛ばしていたときのような剣幕で、俺に詰め寄ってくるミシェル。
なんだこいつ? マジで俺になにか用事でもあるのかね?
「俺は明日の準備があるからまだ忙しいんだよ。今日使った矢の補充もしなきゃならねぇし。嬢ちゃんこそなんなんだよ? なんか俺に用事でもあんのか?」
「次に嬢ちゃんって言ったら燃やしてやるわよっ!?」
怖ぇなこいつ!? お前の魔法の腕でそれを言うと洒落にならねぇんだがっ「!?
「助けてもらったお礼に、夕食をご馳走するって言ってんのよ! お礼もせずに帰れる訳ないじゃないのっ!」
……言ってんのよって、そんな話は今初めて聞いたんだが?
お礼の夕食ねぇ。コイツの相手するのはめんどくせぇけど、タダメシは魅力的だな。
でも貴族らしい嬢ちゃんと2人で食事ぃ……? どう考えても厄介事の予感しかしねぇわ。遠慮すべきだな。
「嬢ちゃ……、っとミシェルだったか。気持ちだけ受け取っとくよ。実は宿にもう夕食の用意を頼んであってね。間に合ってるんだわ。ありがとな」
「そ、そんなのそっちを断れば良いじゃないのっ! 絶対私のほうが美味しい食事をご馳走できるんだからっ!」
そりゃね。安宿の食事よりも貴族様のお礼の食事のほうが美味いに決まってるわ。
せめてお前が若い女じゃなければ素直に受け取れんだが、貴族令嬢との夕食会なんてトラブルが起こる気配しかしねぇんだよ。
……なんか相手するのが面倒臭くなってきた。が、明日まではネクスに居ないとダメだからなぁ。
依頼さえなけりゃトンズラこいてもいいんだが、ここまで来て金貨10枚を諦めるなんてありえねぇし、どうすっか。
「……分かったよ。それじゃ悪いけど日を改めてくれないか?」
「何でよっ! 助けてもらったお礼もせずに私に帰れって言うのっ!?」
「俺は明日ネクスで行なわれる死の森調査に参加するからその準備で忙しいし、さっきも言ったけど今日の夕食の用意も既にしてあるんだよ」
「えっ、ソイルって死の森の調査に参加するの……?」
「まぁね。つうことでよ、いくらお礼のためとはいえ、相手の都合や予定も考えずに自分の行動を押し付けるのは良くないだろ? ミシェルの気持ちは分かったけど、俺にも都合があるんだよ」
頭ごなしに拒絶するとかえって反発されそうだからな。真面目なコイツには論理的に諭すほうが理解してくれそうだ。
そんで依頼が終わって報酬貰ったら、とっととイコンに帰っちまおう。お礼をしたいのはそっちの言い分。受け取るかどうかは俺の自由ってね。
「う~~……! 分かった、分かったわよ! 後日改めてご馳走するから忘れないでよっ!?」
「ああ、後日な。悪いが今日は俺の都合を優先させてくれ」
「そ、それと……、私のせいで矢を使わせちゃったんだし、その矢の補充の代金は私が……!」
「それは悪いけど遠慮させてくれ。自分の命を預ける物を人任せにするのは嫌なんだ。生死を分ける瞬間に、自分自身が100%信用できる物しか持ち歩きたくないんだよ」
仮に不良品が混ざっていた時に、ミシェルのせいでこんな目に、なんてことを考えるのは馬鹿馬鹿しいからな。仕事に必要な物は、可能な限り自分の手で調達しないと気が済まねぇ。くだらねぇジンクスみたいなもんだけどよ。
しかし、俺があまりにもきっぱりと拒否してしまったせいか、ミシェルは少ししょんぼりしてしまった。
「ご、ごめんなさい……。またソイルの都合を無視しちゃって……」
「いや、別に謝られることじゃねぇよ。気にすんな」
「え、えと……、それじゃ、あの、あっ、あれよ! せめて明日の準備に付き合わせて貰えないかしらっ!? 私、依頼の準備とかしたことなくて……!」
しかしめげずに、直ぐに別の理由で食い下がってくるミシェル。
この食い下がり方はなんなんだ? もしかして家に帰りたくない事情でもあんのか? 貴族令嬢が1人で死の森に居たのも不自然だしなぁ。
依頼の準備を見たいって、もしかして冒険者に憧れでもあるのかね? 貴族令嬢が冒険者と接点なんてあるわけねぇし、この機会に色々学んでおきたいとか?
「……分かった分かった。それじゃ明日の準備まではついてきても良いよ」
「ほ、ほんとっ……!?」
「けどそれが終わったら間違いなく家に帰ると約束できるか? それが約束出来ないなら準備についてくるのもナシだ。終わったら送ってってやるからよ。どうだ?」
「え、ええ……! それが終わったらちゃんと帰るわよ? 別に送ってくれなくても平気だけど、送ってくれるなら送ってもらおうかしらねっ?」
意外とあっさり俺の提示した条件を飲んでくれたミシェル。別に家に帰れない事情があるわけではないのか?
まぁいい。帰宅を確約できたんだから、さっさと明日の準備を済ませよう。ミシェルと共に冒険者ギルドを後にする。
まずは武器屋に行って、消費した分の矢を買い足す。
……しかし明日は死の森の調査か。何があるか分からないし、もう少し買い足しておくか。
それに加えて剣の状態も見てもらう事にする。ここ3日間は剣は使用してないし毎日手入れも欠かしちゃいないが、一応プロの目でチェックもしてもらう。大事な依頼前だしな。
無事、整備の必要無しと判断されてひと安心だ。
「はぁ~……。私には商品の違いが分からないわね……。武器ってこんなにいっぱいあるんだぁ……」
俺が用事を済ませている間、ミシェルは武器屋の店内を物色していたようだ。立派な杖を持ってるくせに武器屋に来た事は無いのか。世間知らずのお嬢様そのものだな。
ああ。世間知らずのお嬢様には、魔法も使わず冒険者やってる俺みたいな落ち零れが珍しいのかもな。
「ミシェル行くぞ。次は消耗品を色々買いに行かなきゃなんねぇ」
「あっ、うん!」
次は雑貨屋で消耗品を物色する。
さて、今回の依頼をどう見るべきかな。依頼の内容が曖昧なだけに、どの程度の時間がかかるのかイメージできない。
う~ん、死の森ってもネクスからそこまで離れてるわけでもないしな。余裕をもって5日分も用意しておけば充分か。
ウンウンと唸りながら商品を物色している俺を、不思議そうに眺めているミシェル。
「ねぇソイル。ここでは何を買ってるの? 消耗品って?」
「ん? ああ、油とか火種とか、それと水と食料だな。今回の依頼は期間が曖昧だからよ。全体的に少し多めに用意しとくんだよ」
極力無駄な出費は抑えたいところだが、余裕を持った事前準備が生死を分ける事は往々にしてあるからな。
「死の森の水場の位置は把握してるが、現実は何が起こるかわからねぇからな。多少は自前で用意しておくんだよ」
「え、これって食べ物なの……? なんかすっごい硬いんだけど……」
「ああ、悪くならないように乾燥させてんだよ。実際に食う場合は無理矢理噛み千切るか、水に浸して柔らかくすんだ」
俺が購入した保存食を手に取り、嘘でしょとでも言いたげな表情を俺に向けるミシェル。
旅でもしないと保存食には縁が無いだろうからな。食べ物に見えなくても無理は無いかもしれねぇ。実際美味くもねぇし。
「保存用に塩気もかなりきついからな。出来ればこのままで食わずに済む事を祈るぜ」
ふ~んと言いながら、ミシェルは素直に保存食を返してくれた。
さてと、消耗品も補充したしミシェルを送っていくか。
……と思って表に出たら、雑貨屋の前に豪華な馬車が止まっていて驚かされた。
「ミシェルお嬢様。お迎えに上がりました。どうぞ馬車へ」
ミシェルを出迎えたのはかなり身なりの良い初老の男だ。執事って奴か?
チラッとミシェルを盗み見ると、特に取り乱したような様子もない。どうやら本当に迎えらしい。
初老の男の言葉に従って素直に馬車に乗り込む前に、ミシェルは俺を振り返って柔らかく微笑んだ。
「ソイル。今日は助けてくれてありがとね。夕食の約束、絶対忘れないでよ?」
「本日はお嬢様がお世話になったようで。お礼はまた日を改めて。本日はこれにて」
適当に返事を返して馬車に乗り込むミシェルを見送る。執事の男は御者を務めるらしい。
遠ざかっていく馬車を見つめながら、執事が最後に口にした『日を改めて』の部分を思い返して憂鬱になる。
悪いが勘弁してくれよ。貴族になんか関わりたくねぇんだわ。
帰還したその足でまずは冒険者ギルドに行き、採取物と魔物の討伐証明部位を提出する。
「おうお疲れさん。ソイルのおかげで薬草類の在庫が増えて助かったぜ」
「こっちとしても競合相手の居ない採取依頼は楽な仕事だからな。お互い様って奴だ」
「本当はお前さん以外にも採取依頼を請ける奴が増えて欲しいんだがなぁ。っとほらよ、報酬だ。また頼むぜっ」
採取品の状態も問題無しと見做され、無事に満額の報酬が入った袋を渡される。
ふふ、中々の重みだ。報酬を貰うと依頼での苦労なんか吹っ飛んじまうぜ。
「あ、ソイル。用事は終わったの?」
……だってのに、なんか変な嬢ちゃんが付きまとってくるから変に疲れちまうぜ。冒険者ギルドまでついてきて、依頼の達成報告が終わるまで待ってやがんだから参っちまうよ。
「なぁ嬢ちゃんよ。なんで俺に付いて来るんだよ? もうネクスに戻ってきたんだから解散で良いだろ?」
「嬢ちゃんでもお前でもないっ! 私の名前はミシェルだって言ってるでしょ!」
「いやもう日没だし家に帰れよ。お前貴族なんだろ? こんなところで油売ってちゃマズいだろうに……」
「私の事はどうでもいいの! ソイルの用事は終わったのかって聞いてるのよっ!」
モンスターを吹っ飛ばしていたときのような剣幕で、俺に詰め寄ってくるミシェル。
なんだこいつ? マジで俺になにか用事でもあるのかね?
「俺は明日の準備があるからまだ忙しいんだよ。今日使った矢の補充もしなきゃならねぇし。嬢ちゃんこそなんなんだよ? なんか俺に用事でもあんのか?」
「次に嬢ちゃんって言ったら燃やしてやるわよっ!?」
怖ぇなこいつ!? お前の魔法の腕でそれを言うと洒落にならねぇんだがっ「!?
「助けてもらったお礼に、夕食をご馳走するって言ってんのよ! お礼もせずに帰れる訳ないじゃないのっ!」
……言ってんのよって、そんな話は今初めて聞いたんだが?
お礼の夕食ねぇ。コイツの相手するのはめんどくせぇけど、タダメシは魅力的だな。
でも貴族らしい嬢ちゃんと2人で食事ぃ……? どう考えても厄介事の予感しかしねぇわ。遠慮すべきだな。
「嬢ちゃ……、っとミシェルだったか。気持ちだけ受け取っとくよ。実は宿にもう夕食の用意を頼んであってね。間に合ってるんだわ。ありがとな」
「そ、そんなのそっちを断れば良いじゃないのっ! 絶対私のほうが美味しい食事をご馳走できるんだからっ!」
そりゃね。安宿の食事よりも貴族様のお礼の食事のほうが美味いに決まってるわ。
せめてお前が若い女じゃなければ素直に受け取れんだが、貴族令嬢との夕食会なんてトラブルが起こる気配しかしねぇんだよ。
……なんか相手するのが面倒臭くなってきた。が、明日まではネクスに居ないとダメだからなぁ。
依頼さえなけりゃトンズラこいてもいいんだが、ここまで来て金貨10枚を諦めるなんてありえねぇし、どうすっか。
「……分かったよ。それじゃ悪いけど日を改めてくれないか?」
「何でよっ! 助けてもらったお礼もせずに私に帰れって言うのっ!?」
「俺は明日ネクスで行なわれる死の森調査に参加するからその準備で忙しいし、さっきも言ったけど今日の夕食の用意も既にしてあるんだよ」
「えっ、ソイルって死の森の調査に参加するの……?」
「まぁね。つうことでよ、いくらお礼のためとはいえ、相手の都合や予定も考えずに自分の行動を押し付けるのは良くないだろ? ミシェルの気持ちは分かったけど、俺にも都合があるんだよ」
頭ごなしに拒絶するとかえって反発されそうだからな。真面目なコイツには論理的に諭すほうが理解してくれそうだ。
そんで依頼が終わって報酬貰ったら、とっととイコンに帰っちまおう。お礼をしたいのはそっちの言い分。受け取るかどうかは俺の自由ってね。
「う~~……! 分かった、分かったわよ! 後日改めてご馳走するから忘れないでよっ!?」
「ああ、後日な。悪いが今日は俺の都合を優先させてくれ」
「そ、それと……、私のせいで矢を使わせちゃったんだし、その矢の補充の代金は私が……!」
「それは悪いけど遠慮させてくれ。自分の命を預ける物を人任せにするのは嫌なんだ。生死を分ける瞬間に、自分自身が100%信用できる物しか持ち歩きたくないんだよ」
仮に不良品が混ざっていた時に、ミシェルのせいでこんな目に、なんてことを考えるのは馬鹿馬鹿しいからな。仕事に必要な物は、可能な限り自分の手で調達しないと気が済まねぇ。くだらねぇジンクスみたいなもんだけどよ。
しかし、俺があまりにもきっぱりと拒否してしまったせいか、ミシェルは少ししょんぼりしてしまった。
「ご、ごめんなさい……。またソイルの都合を無視しちゃって……」
「いや、別に謝られることじゃねぇよ。気にすんな」
「え、えと……、それじゃ、あの、あっ、あれよ! せめて明日の準備に付き合わせて貰えないかしらっ!? 私、依頼の準備とかしたことなくて……!」
しかしめげずに、直ぐに別の理由で食い下がってくるミシェル。
この食い下がり方はなんなんだ? もしかして家に帰りたくない事情でもあんのか? 貴族令嬢が1人で死の森に居たのも不自然だしなぁ。
依頼の準備を見たいって、もしかして冒険者に憧れでもあるのかね? 貴族令嬢が冒険者と接点なんてあるわけねぇし、この機会に色々学んでおきたいとか?
「……分かった分かった。それじゃ明日の準備まではついてきても良いよ」
「ほ、ほんとっ……!?」
「けどそれが終わったら間違いなく家に帰ると約束できるか? それが約束出来ないなら準備についてくるのもナシだ。終わったら送ってってやるからよ。どうだ?」
「え、ええ……! それが終わったらちゃんと帰るわよ? 別に送ってくれなくても平気だけど、送ってくれるなら送ってもらおうかしらねっ?」
意外とあっさり俺の提示した条件を飲んでくれたミシェル。別に家に帰れない事情があるわけではないのか?
まぁいい。帰宅を確約できたんだから、さっさと明日の準備を済ませよう。ミシェルと共に冒険者ギルドを後にする。
まずは武器屋に行って、消費した分の矢を買い足す。
……しかし明日は死の森の調査か。何があるか分からないし、もう少し買い足しておくか。
それに加えて剣の状態も見てもらう事にする。ここ3日間は剣は使用してないし毎日手入れも欠かしちゃいないが、一応プロの目でチェックもしてもらう。大事な依頼前だしな。
無事、整備の必要無しと判断されてひと安心だ。
「はぁ~……。私には商品の違いが分からないわね……。武器ってこんなにいっぱいあるんだぁ……」
俺が用事を済ませている間、ミシェルは武器屋の店内を物色していたようだ。立派な杖を持ってるくせに武器屋に来た事は無いのか。世間知らずのお嬢様そのものだな。
ああ。世間知らずのお嬢様には、魔法も使わず冒険者やってる俺みたいな落ち零れが珍しいのかもな。
「ミシェル行くぞ。次は消耗品を色々買いに行かなきゃなんねぇ」
「あっ、うん!」
次は雑貨屋で消耗品を物色する。
さて、今回の依頼をどう見るべきかな。依頼の内容が曖昧なだけに、どの程度の時間がかかるのかイメージできない。
う~ん、死の森ってもネクスからそこまで離れてるわけでもないしな。余裕をもって5日分も用意しておけば充分か。
ウンウンと唸りながら商品を物色している俺を、不思議そうに眺めているミシェル。
「ねぇソイル。ここでは何を買ってるの? 消耗品って?」
「ん? ああ、油とか火種とか、それと水と食料だな。今回の依頼は期間が曖昧だからよ。全体的に少し多めに用意しとくんだよ」
極力無駄な出費は抑えたいところだが、余裕を持った事前準備が生死を分ける事は往々にしてあるからな。
「死の森の水場の位置は把握してるが、現実は何が起こるかわからねぇからな。多少は自前で用意しておくんだよ」
「え、これって食べ物なの……? なんかすっごい硬いんだけど……」
「ああ、悪くならないように乾燥させてんだよ。実際に食う場合は無理矢理噛み千切るか、水に浸して柔らかくすんだ」
俺が購入した保存食を手に取り、嘘でしょとでも言いたげな表情を俺に向けるミシェル。
旅でもしないと保存食には縁が無いだろうからな。食べ物に見えなくても無理は無いかもしれねぇ。実際美味くもねぇし。
「保存用に塩気もかなりきついからな。出来ればこのままで食わずに済む事を祈るぜ」
ふ~んと言いながら、ミシェルは素直に保存食を返してくれた。
さてと、消耗品も補充したしミシェルを送っていくか。
……と思って表に出たら、雑貨屋の前に豪華な馬車が止まっていて驚かされた。
「ミシェルお嬢様。お迎えに上がりました。どうぞ馬車へ」
ミシェルを出迎えたのはかなり身なりの良い初老の男だ。執事って奴か?
チラッとミシェルを盗み見ると、特に取り乱したような様子もない。どうやら本当に迎えらしい。
初老の男の言葉に従って素直に馬車に乗り込む前に、ミシェルは俺を振り返って柔らかく微笑んだ。
「ソイル。今日は助けてくれてありがとね。夕食の約束、絶対忘れないでよ?」
「本日はお嬢様がお世話になったようで。お礼はまた日を改めて。本日はこれにて」
適当に返事を返して馬車に乗り込むミシェルを見送る。執事の男は御者を務めるらしい。
遠ざかっていく馬車を見つめながら、執事が最後に口にした『日を改めて』の部分を思い返して憂鬱になる。
悪いが勘弁してくれよ。貴族になんか関わりたくねぇんだわ。
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