ミスリルの剣

りっち

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一流との差

04 事前調査 (改)

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 死の森の調査が始まるまでのここ4日間ほど、様子見も兼ねて死の森で採取依頼をこなし続けた。


 報酬としては旨いが、死の森の様子は拍子抜けも良いところだな。

 俺以外の冒険者も沢山森に入っているし、普段よりも森に入っている人数が多いためかモンスターとも出会うことなく、かえって安全に採取を行なうことが出来たくらいだ。

 これでも結構奥の方まで行ってみたんだけどなぁ。異常ってのはモンスターの数が減ってるって意味だったのか……? まさかなぁ……。


 まぁいい。とうとう明日は本番の調査任務だ。大事な本番に疲れを残すわけにはいかない。今日は早めに切り上げて、ゆっくり休んで明日に備えよう。


 ……なんて思っちゃいるが、やっぱり現実ってのは甘くないようだ。

 さっさと切り上げて帰りたいのに、4日間も採集に明け暮れたおかげで、森の入り口付近では依頼品が見つからないのだ。

 ソロ冒険者の俺はあまり危険を犯すべきじゃねぇんだが、依頼がこなせないんじゃ仕方ない。多少のリスクは覚悟するか。

 俺は依頼のために更に森の奥まで入ることに決めた。

 1人で進むにはちと危険ではあるが、入ったことが無いわけでもないからな。充分に警戒しながら進むとすっか。


 だけどこういう時に限って何か起こるのが人生って奴だ。気を引き締めていこうじゃねぇか。



 森の奥に進んでいく。

 ここは死の森なんて呼ばれてるくらいにはモンスターの領域だ。ソロの俺は一瞬たりとも気を抜くわけにはいかねぇ場所だ。

 だってのに、モンスターよりもすれ違う冒険者のほうが数が多いな。ありがてぇ。結構奥まった場所だが、この辺までモンスターが排除されているなんてツイてるぜ。
 

 薬草。解毒草。毒草。熱冷ましや死の森でしか取れない果実まで、採取依頼の物品は多岐に渡る。扱いも面倒で、それぞれに適した採取方法、運搬方法、保存方法を把握しなければ価値が下がる。価値が下がるという事は、当然報酬も下がるというわけだ。


 勉強なんざ昔から大嫌いだったが、金には代えられねぇと片っ端から資料を読み漁った。おかげで採取物の種類やら扱いは全て頭に入ってる。

 元々は読み書きすら出来なかった俺がギルドの植物資料を読破できるくらいになるたぁ、金の力ってのは偉大だよなぁ。

 

 結局1度もモンスターに遭遇することもなく、持ってきた道具袋がパンパンになるまで採取しまくった。

 流石、昨日よりも森が深い場所なだけあって、依頼品の集まりがいいぜ。かえってラッキーだったなこりゃあ。


 木々が生い茂って分かりにくいが、恐らくまだかなり日が高いだろう。これなら明日の本番に備えてゆっくり休めそうだ。

 依頼品が詰まった道具袋を肩に担ぎ、死の森の入り口に向かって歩き始める。


 さてと、帰りこそ気をつけないとな。

 帰りはどうしても気が緩んでしまうし、仕事の後で体に疲労もあり、採取品や討伐証明部位などのせいで行きよりも荷物が増えていることも少なくない。行きと比べて不利な条件が幾つも重なるのだ。

 冒険者ギルドにブツを納めるまでは気を抜かない。それこそ金を貯める秘訣って奴よ。


 最新の注意を払いながら死の森の中を移動する。まだ日が高いためか、俺以外に街に戻ろうとする奴は居ないようだ。

 他の奴らがまだ稼いでるのに街に戻るなんざちょっとバツが悪いな、なんて思いながら、周囲を警戒しつつ出口へと急いだ。




「ん? なんだありゃ?」


 1人黙々と出口に向かって歩き続け、昨日まで採取を行なっていた森の浅い場所まで来た俺の目の前で、1匹のモンスターが俺に目もくれずに一直線に走り去っていった。


 ……なんだか気になるな。モンスターの影しか見えなかったが、近くに居た俺になんかまったく目もくれずに、まるで何かを追いかけていたようにも思える動きだった。


 ……ちっ。なんでもないかもしれねぇけど、何かあったら寝覚めが悪いか。それに明日の金貨10枚を前にして変に縁起が悪いことを放置するのも良くねぇな。


 持っていた道具袋を茂みに隠し、モンスターの走っていった方向に向かって全力で走った。



「あぁ? なんだなんだぁ?」


 数分走ったあたりで、前方の方から爆発音や閃光が届くようになる。

 なんだこりゃ? 攻撃魔法か?

 だけど死の森でこんなに派手にぶっ放せば、それを感じ取った新手のモンスターたちが集まってくる。恐らくさっき見えたモンスターもそのクチだろう。


 ってそうじゃねぇ。今重要なのは、どっかのアホが大量のモンスターを集めまくってるってことだ。つまり、集まった大量のモンスターどもに誰かが襲われてるんだよっ。


 音と光のする方へと急いで走る。


「いい加減にぃぃ、しなさいよぉっ!!」


 攻撃魔法の合間に若そうな女の声が混じる。駆け出しか!?

 なんとか声が途切れる前に爆心地に到着すると、戦っていたのはかなり若そうな女だった。だがさっきから大規模な攻撃魔法を何度も撃っているはずなのに、疲労している素振りがない。俺と違って相当な魔力をお持ちのようで。

 っと、今はそんなことはどうでもいい。まずはモンスターを集めるのを止めさせねぇと!


「おい! 派手に攻撃魔法をぶっ放すのは控えろ! その音や振動でモンスターが集まって来るんだよ! キリがねぇぞ!」


 女に声をかけつつも弓を用意する。これでも弓は得意な方だ。剣術よりも自信があるくらいにな。

 遠くから一方的に攻撃できる弓は、ソロの俺が討伐任務をこなす上での頼れる相棒だ。


「はぁっ!? バッカじゃないの!? 攻撃魔法を撃つのをやめたら、今いる奴等に殺されちゃうじゃない!」


 しかし頼れる相棒と違って、考え無しに攻撃魔法をぶっ放している女は俺の言うことを聞く気は無いらしい。


「ふんっ! 来るなら来れば良いじゃない! 片っ端から倒してあげるわっ!」


 こいつ、人の話を聞かねぇ奴かよ。めんどくせぇな。やっぱ見捨てりゃ良かったか?


 人の話を聞かない女の態度に辟易しながら弓を引き、集中して狙いを定める。

 ま、ここまで来て見捨てるわけにもいかねぇか、なっ!


「ひっ!? な、なに!? 弓矢!?」


 女に駆け寄ろうとしていた猪野郎の脳天を射抜く。休まず矢を番え、これ以上攻撃魔法を使わせないよう女の近くに居るモンスターから順に倒していく。

 まだ森の手前の方で良かったぜ。弓で太刀打ち出来ないような強力なモンスターは集まってないようだからな。


 女に攻撃魔法を撃たせるとキリがねぇ。魔法を撃たれる前に殲滅しねぇと。

 ……けどよ。なんで俺がここまでして、女の魔法を阻止しなきゃならねぇんだろうなぁ?



 数分かけて矢を放ち続け、増援が来る前になんとか全てのモンスターを仕留めきることが出来た。強力なモンスターはいなかったらしく、俺の弓で充分殲滅が可能だったのは運が良かった。


 ふぅ。なんとか女に魔法を使わせずに仕留めきることに成功したぜぇ……。

 ま、俺は腐ってもC級だからな。死の森の入り口付近のモンスターに後れを取ることは流石にない。


「え、えと……。た、助けてくれて、ありが……って聞きなさいよぉっ!」


 モンスターに刺さった矢を回収してみたが、やはりほとんどが使い物にならなそうだ。魔法で吹っ飛ばされて討伐証明部位が損失している死体も多いし、余計な出費だぜ。ったくよぉ。


「いきなり現れてモンスターを殲滅して、声もかけずに淡々と事後処理してんじゃないわよっ! 何なのアンタ!?」


 周りのモンスターの状態を確認していると、暴れていた女が目の前に立ち塞がった。

 いや、人の話を聞かなそうな奴とは関わりたくないんだよ。ソロで冒険者やっていくなら空気を読むのは大事だぜ、お嬢さん。
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