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冬山の歩荷
運搬人と冬山登山 2
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「では行きます。俺の肩を離さず付いてきてください」
「はい」
暗闇の中を二人の人影が進む。明かりは僅かの月明かりのみ、暗闇でも見えるボッカの目だけが頼りだ。エルルマークはボッカの後ろから左肩に掴まり歩調を合わせて進む。
ウエノの支部で装備の最後の点検をすると、二人はティルタ山の麓に向かって出発した。移動にはギルドから馬車を出して貰った。こんなにコソコソ行動するのは、麓の集落に妨害されるのを防ぐためなのだ。いかにも『登山します』な恰好で麓をうろついたら、袋叩きにされかねない。彼らは、ティルタ山を神聖視して立ち入りを禁じているだけでなく、登頂した者がうっかりやらかして<命無き者達の王>を怒らせ、不死者の軍勢が山を降りて来る事を酷く恐れているのだ。
遍歴商人の馬車を装って街道を進んで野営地に落ち着き、夜更けを待って二人は出発した。
そのまま登山道に真っ直ぐ向かう。気温が最も下がる時間だ、空気は刺すように冷たい。息を白く弾ませてエルルマークは走るが、前を走るボッカは白い息すら吐かない。ひょっとすると、自分たちのように鼻と口では息をしていないのかもしれない…とエルルマークは思った。
見た目はヒトに見えないのにとてもヒトらしい。そんな不思議な歩荷は、リンコー支部では誰よりも人間臭く自分の心配をしてくれた。死ぬための客を送り届ける虚しい仕事を、支部の組合員もボッカも真剣にやってくれた。ダンドーは、「最後までお付き合いします」と言って自ら手綱を取って馬車を出してくれた。最後は「ご本懐を」と言って見送ってくれた。自分は絶対に挫ける事はできない。命を捧げるその時まで、全力を尽くして生きねばならないと思いを新たにした。
丘陵のような斜面を登り、だんだん傾斜は急になる。真っ暗な森の中の登山道に入ると、二人は歩調を落とした。もうここまでくれば明るくなっても下から見つかる事は無いだろう。
ボッカは、真っ暗な森の中で荷物を降ろすと、簡易天幕を組み立てた。
「少し休みます。仮眠してください」
「でも…」
「先はまだまだ長いですよ。日が昇ったら出発しましょう」
登山はまだ始まったばかりだ。拝殿まではある程度の道があるから、それを外れなければ五合目まではなんとかなるだろう。本当の登山はそこから先だ。素人二人の無謀な挑戦、余力は出来る限り残しておきたい。
天幕の中に小さなコンロを据えて固形燃料を放り込み、携帯火種で点火するとほんのりと明るくなる。
「なんです、これ?」
「強い酒精…みたいなのを練って固めたものです。長持ちはしませんが、簡単に火が付きます。一晩野営する時はこれで炭に着火します」
「一口だけどうぞ」
受け取った小さな杯からは強い酒精の匂いがする。エルルマークは僅かに笑顔を見せた。
「初めてです」
「おや、大概大人が呑んでいるのを見て、そんなに美味しいものなら…と、舐めて後悔するものですが…」
「僕の母は自分では呑みませんでしたし、大変厳しい人でしたから」
恐る恐る口にすると、とても甘い。
「えっ?」
「この酒はとても子供が美味しいと思える味じゃありませんので、蜂蜜を大量に入れてあります」
「……わざと黙っていましたね?」
「はい。ご理解が早いので、企んだ甲斐があります」
暗がりのうえボッカは覆面で顔を隠している。それでも雰囲気から笑ったと判った。緊張を解そうというだけではない、根っからこういう性格なのだろう…とエルルマークは思った。
契約する時、指示には絶対従うと約束した。眠れと言われたら眠る。毛布を身体に巻き付け横になった。野営地で懐に入れて来た温石はまだ熱を持っている。ほどなく意識は眠りに落ちた。
夜明けと共に山を登り始めて二燭時(約4時間)、太陽は中天に達している。エルルマークは改めてボッカの体力に驚いていた。
支部長が「彼しかいない」と言い切り、ボッカ本人が「自分一人ならどうとでもなる」と言ったのは、誇張でもなんでもなかった。
エルルマークは小さな荷物しか背負っていない。ボッカは彼の分もまとめて詰め込んだ巨大な背負子を背負い、力強い足取りで山を登って行く。そして、きちんと時間経過を測っては、定期的に休憩を入れる。仮眠の間はボッカは不寝番をしていたようが、それにも関わず全く疲れた様子も見せなかった。
「大休止にしましょう」
そう言ってボッカが立ち止まると、携帯香時計の蓋を綴じた。エルルマークは、荷物を背負ったまま座り込む。 ボッカは登って来た道を振り返って、目を凝らしていた。
(まずは第一段階はクリアかな…)
見える範囲に人の気配はない。だが、エルルマークは追われている。契約する際に、刺客何度か襲われかけ、たぶん今も諦めていない……という事は説明されていた。「僕には時間が無い」と言ったのはそれを指している。この山に登ろうとする彼を『敵』はどうあっても阻止しょうとするだろう。
(……俺、運搬人だよなぁ?。なんでこんな<冒険者>みたいな事やってんだろ…)
と、この世界に存在しない職業の事を思い出してなんとなく納得いかない気分になる。そういう仕事はしたく無いからボッカは運搬人になったのだが(ちなみに護衛は傭兵ギルドに依頼する仕事である)、よくよく考えると<冒険者>の仕事の半分は運搬人な気もしてきた。
今回の仕事は、絶対に『運搬クエスト』などではないが。
「食事も意外に体力を使います。食べると眠くなるのはそのせいですね。ですので昼食はこれで我慢してください」
テカテカ光る褐色の塊を取り出した。座り込んだまま背中の荷物を降ろしたエルルマークは、受け取った塊の端を少しかじる。
「……甘い」
「木の実を刻んで水あめで固めたものです」
食事には少量でカロリーの高いものが望ましいと考え。油分の多い木の実や干果を買って帰り、インテグラの指導でフューリーに大量に作って貰った。森人には似たような料理があるそうだ。
甘味はエネルギーになるだけでなく気分転換にもなるだろうと考えて、今回持ち込んだ食材は甘い物が多い。
「今日だけで一生分の甘い物を口にした気がします」
「元気が出たなら、あと一頑張りしましょう。夜までに雪の多いところまで上がらないと、明日からの水に困ります」
「はい」
甘い物の効果は十分にあったようだった。
小休止を挟みながら夕暮れまで歩き続けると、ボッカは麓から見えない位置に簡易天幕を張った。既に周りには雪が積もっていた。
ボッカはコンロを据えて固形燃料と炭を積んで着火すると、雪を一杯に詰め込んだ鍋をかけた。ボッカは、仕事を請けると決めたあと、急ぎ実家に戻ると思いつくものを片っ端から準備した。固形燃料は、シリオンと一緒に木精(メタノール)から自作した。木炭と一緒に背負子に大量に詰め込んである。
お湯が沸くと、味噌を一匙放り込んでかき混ぜる。これも実家から持ち出してきた。出汁も具も無いが、水分と塩分とその他のミネラルを手軽に補給するにはこれが手軽だろうと思っている。溶け残りが無いのを確認すると、錫のカップに移してエルルマークに手渡した。一人分しか無いのを訝しみながらも、エルルマークはふーふー吹きながら恐る恐る口を付ける。
「変わった味ですね…」
「大事なのは水分と塩気です。口に合わないかもしれませんが、我慢してください」
「いえ、温かいスープはそれだけで有り難いです」
「食事は分量が決まっています。満腹には足りないかもしれませんが、我慢してください」
そう言って、そのまま口にできる食事を並べた。重焼麺麭(乾パン)と砂糖は支部長に買い集めてもらったものを詰め込んで来た。干し肉もあるが、嗜好品いだ。眠気が酷いときに噛むのに使う。
「あの……ボッカさんは食べないんですか?」
食事もとらず、鍋で雪を溶かして飲料水を作っていたボッカは、そう問われて一瞬だけ手が止まった。
(隠すべき……ではないか)
いつもは「只人と同じものは食べられない」と言って適当に誤魔化しているボッカだが、今回は食事をボッカが管理している。さすがにこの状況でその言い訳は通用しないだろう。それに、エルルマークはかなり頭が良い。隠し事をして疑念を持たれれば、彼の命を守る事ができない。
「隠しても仕方ないので言っておきます。俺はこの登山中は食事はしません。エルルマークさんの食事も、実は片道分しか用意していません。それでできる限り一回の食事を充実させつつ、俺一人でどうにかなる荷物の量に抑えています」
冬山の素人のボッカが、客をどうにか頂上に連れていくためにひねり出した方法は、食料を1名片道分に抑えて、その代わりに衣類やら燃料を片っ端から積み込むというものだった。カロリーの高い食事、使い捨てにする勢いで着替える衣服、大量の燃料。とにかく食べて暖かくして凍傷を防げばなんとかなるだろう……という力業の発想だ。
「そんな…食べなくても平気なのですか?」
「……はい。甲殻人が…と言う気はありません、俺が特殊なんだと思ってください。理由はそうですね…俺はバケモノなんですよ」
「バケモノ……」
繰り返す言葉に、『信じられない…』という心情が籠っていたとしても、ボッカには批判する気は無い。
「ですが、仕事はきちんとこなします。俺については、不思議に思ったり気味悪く思ったりすることが多々あると思います。ですが…できれば『ボッカだから仕方ない』で飲み込んでいただければ助かります」
「そうか……支部長さんが、ボッカさんでなければ生きて帰れない…と言っていたのはそういう事なんですね」
「はい。念のため言っておきますが、俺は人を食ったりはしませんよ。人を食ったような台詞は言いますけどね」
エルルマークはくすりと笑った。
「えぇ、それは十分に判りました」
「本当に?本気の俺は相当に『ウザイ』ですよ」
「本当です。僕は、とても運に恵まれたという事が判りましたから」
「……明日からは本格的に雪の中を進む事になります。そのセリフは頂上が見えるまで取っておきましょう」
「はい」
エルルマークは、絶望的だった登頂に僅かに光明が見えたと感じていた。
「はい」
暗闇の中を二人の人影が進む。明かりは僅かの月明かりのみ、暗闇でも見えるボッカの目だけが頼りだ。エルルマークはボッカの後ろから左肩に掴まり歩調を合わせて進む。
ウエノの支部で装備の最後の点検をすると、二人はティルタ山の麓に向かって出発した。移動にはギルドから馬車を出して貰った。こんなにコソコソ行動するのは、麓の集落に妨害されるのを防ぐためなのだ。いかにも『登山します』な恰好で麓をうろついたら、袋叩きにされかねない。彼らは、ティルタ山を神聖視して立ち入りを禁じているだけでなく、登頂した者がうっかりやらかして<命無き者達の王>を怒らせ、不死者の軍勢が山を降りて来る事を酷く恐れているのだ。
遍歴商人の馬車を装って街道を進んで野営地に落ち着き、夜更けを待って二人は出発した。
そのまま登山道に真っ直ぐ向かう。気温が最も下がる時間だ、空気は刺すように冷たい。息を白く弾ませてエルルマークは走るが、前を走るボッカは白い息すら吐かない。ひょっとすると、自分たちのように鼻と口では息をしていないのかもしれない…とエルルマークは思った。
見た目はヒトに見えないのにとてもヒトらしい。そんな不思議な歩荷は、リンコー支部では誰よりも人間臭く自分の心配をしてくれた。死ぬための客を送り届ける虚しい仕事を、支部の組合員もボッカも真剣にやってくれた。ダンドーは、「最後までお付き合いします」と言って自ら手綱を取って馬車を出してくれた。最後は「ご本懐を」と言って見送ってくれた。自分は絶対に挫ける事はできない。命を捧げるその時まで、全力を尽くして生きねばならないと思いを新たにした。
丘陵のような斜面を登り、だんだん傾斜は急になる。真っ暗な森の中の登山道に入ると、二人は歩調を落とした。もうここまでくれば明るくなっても下から見つかる事は無いだろう。
ボッカは、真っ暗な森の中で荷物を降ろすと、簡易天幕を組み立てた。
「少し休みます。仮眠してください」
「でも…」
「先はまだまだ長いですよ。日が昇ったら出発しましょう」
登山はまだ始まったばかりだ。拝殿まではある程度の道があるから、それを外れなければ五合目まではなんとかなるだろう。本当の登山はそこから先だ。素人二人の無謀な挑戦、余力は出来る限り残しておきたい。
天幕の中に小さなコンロを据えて固形燃料を放り込み、携帯火種で点火するとほんのりと明るくなる。
「なんです、これ?」
「強い酒精…みたいなのを練って固めたものです。長持ちはしませんが、簡単に火が付きます。一晩野営する時はこれで炭に着火します」
「一口だけどうぞ」
受け取った小さな杯からは強い酒精の匂いがする。エルルマークは僅かに笑顔を見せた。
「初めてです」
「おや、大概大人が呑んでいるのを見て、そんなに美味しいものなら…と、舐めて後悔するものですが…」
「僕の母は自分では呑みませんでしたし、大変厳しい人でしたから」
恐る恐る口にすると、とても甘い。
「えっ?」
「この酒はとても子供が美味しいと思える味じゃありませんので、蜂蜜を大量に入れてあります」
「……わざと黙っていましたね?」
「はい。ご理解が早いので、企んだ甲斐があります」
暗がりのうえボッカは覆面で顔を隠している。それでも雰囲気から笑ったと判った。緊張を解そうというだけではない、根っからこういう性格なのだろう…とエルルマークは思った。
契約する時、指示には絶対従うと約束した。眠れと言われたら眠る。毛布を身体に巻き付け横になった。野営地で懐に入れて来た温石はまだ熱を持っている。ほどなく意識は眠りに落ちた。
夜明けと共に山を登り始めて二燭時(約4時間)、太陽は中天に達している。エルルマークは改めてボッカの体力に驚いていた。
支部長が「彼しかいない」と言い切り、ボッカ本人が「自分一人ならどうとでもなる」と言ったのは、誇張でもなんでもなかった。
エルルマークは小さな荷物しか背負っていない。ボッカは彼の分もまとめて詰め込んだ巨大な背負子を背負い、力強い足取りで山を登って行く。そして、きちんと時間経過を測っては、定期的に休憩を入れる。仮眠の間はボッカは不寝番をしていたようが、それにも関わず全く疲れた様子も見せなかった。
「大休止にしましょう」
そう言ってボッカが立ち止まると、携帯香時計の蓋を綴じた。エルルマークは、荷物を背負ったまま座り込む。 ボッカは登って来た道を振り返って、目を凝らしていた。
(まずは第一段階はクリアかな…)
見える範囲に人の気配はない。だが、エルルマークは追われている。契約する際に、刺客何度か襲われかけ、たぶん今も諦めていない……という事は説明されていた。「僕には時間が無い」と言ったのはそれを指している。この山に登ろうとする彼を『敵』はどうあっても阻止しょうとするだろう。
(……俺、運搬人だよなぁ?。なんでこんな<冒険者>みたいな事やってんだろ…)
と、この世界に存在しない職業の事を思い出してなんとなく納得いかない気分になる。そういう仕事はしたく無いからボッカは運搬人になったのだが(ちなみに護衛は傭兵ギルドに依頼する仕事である)、よくよく考えると<冒険者>の仕事の半分は運搬人な気もしてきた。
今回の仕事は、絶対に『運搬クエスト』などではないが。
「食事も意外に体力を使います。食べると眠くなるのはそのせいですね。ですので昼食はこれで我慢してください」
テカテカ光る褐色の塊を取り出した。座り込んだまま背中の荷物を降ろしたエルルマークは、受け取った塊の端を少しかじる。
「……甘い」
「木の実を刻んで水あめで固めたものです」
食事には少量でカロリーの高いものが望ましいと考え。油分の多い木の実や干果を買って帰り、インテグラの指導でフューリーに大量に作って貰った。森人には似たような料理があるそうだ。
甘味はエネルギーになるだけでなく気分転換にもなるだろうと考えて、今回持ち込んだ食材は甘い物が多い。
「今日だけで一生分の甘い物を口にした気がします」
「元気が出たなら、あと一頑張りしましょう。夜までに雪の多いところまで上がらないと、明日からの水に困ります」
「はい」
甘い物の効果は十分にあったようだった。
小休止を挟みながら夕暮れまで歩き続けると、ボッカは麓から見えない位置に簡易天幕を張った。既に周りには雪が積もっていた。
ボッカはコンロを据えて固形燃料と炭を積んで着火すると、雪を一杯に詰め込んだ鍋をかけた。ボッカは、仕事を請けると決めたあと、急ぎ実家に戻ると思いつくものを片っ端から準備した。固形燃料は、シリオンと一緒に木精(メタノール)から自作した。木炭と一緒に背負子に大量に詰め込んである。
お湯が沸くと、味噌を一匙放り込んでかき混ぜる。これも実家から持ち出してきた。出汁も具も無いが、水分と塩分とその他のミネラルを手軽に補給するにはこれが手軽だろうと思っている。溶け残りが無いのを確認すると、錫のカップに移してエルルマークに手渡した。一人分しか無いのを訝しみながらも、エルルマークはふーふー吹きながら恐る恐る口を付ける。
「変わった味ですね…」
「大事なのは水分と塩気です。口に合わないかもしれませんが、我慢してください」
「いえ、温かいスープはそれだけで有り難いです」
「食事は分量が決まっています。満腹には足りないかもしれませんが、我慢してください」
そう言って、そのまま口にできる食事を並べた。重焼麺麭(乾パン)と砂糖は支部長に買い集めてもらったものを詰め込んで来た。干し肉もあるが、嗜好品いだ。眠気が酷いときに噛むのに使う。
「あの……ボッカさんは食べないんですか?」
食事もとらず、鍋で雪を溶かして飲料水を作っていたボッカは、そう問われて一瞬だけ手が止まった。
(隠すべき……ではないか)
いつもは「只人と同じものは食べられない」と言って適当に誤魔化しているボッカだが、今回は食事をボッカが管理している。さすがにこの状況でその言い訳は通用しないだろう。それに、エルルマークはかなり頭が良い。隠し事をして疑念を持たれれば、彼の命を守る事ができない。
「隠しても仕方ないので言っておきます。俺はこの登山中は食事はしません。エルルマークさんの食事も、実は片道分しか用意していません。それでできる限り一回の食事を充実させつつ、俺一人でどうにかなる荷物の量に抑えています」
冬山の素人のボッカが、客をどうにか頂上に連れていくためにひねり出した方法は、食料を1名片道分に抑えて、その代わりに衣類やら燃料を片っ端から積み込むというものだった。カロリーの高い食事、使い捨てにする勢いで着替える衣服、大量の燃料。とにかく食べて暖かくして凍傷を防げばなんとかなるだろう……という力業の発想だ。
「そんな…食べなくても平気なのですか?」
「……はい。甲殻人が…と言う気はありません、俺が特殊なんだと思ってください。理由はそうですね…俺はバケモノなんですよ」
「バケモノ……」
繰り返す言葉に、『信じられない…』という心情が籠っていたとしても、ボッカには批判する気は無い。
「ですが、仕事はきちんとこなします。俺については、不思議に思ったり気味悪く思ったりすることが多々あると思います。ですが…できれば『ボッカだから仕方ない』で飲み込んでいただければ助かります」
「そうか……支部長さんが、ボッカさんでなければ生きて帰れない…と言っていたのはそういう事なんですね」
「はい。念のため言っておきますが、俺は人を食ったりはしませんよ。人を食ったような台詞は言いますけどね」
エルルマークはくすりと笑った。
「えぇ、それは十分に判りました」
「本当に?本気の俺は相当に『ウザイ』ですよ」
「本当です。僕は、とても運に恵まれたという事が判りましたから」
「……明日からは本格的に雪の中を進む事になります。そのセリフは頂上が見えるまで取っておきましょう」
「はい」
エルルマークは、絶望的だった登頂に僅かに光明が見えたと感じていた。
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