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乙原ゆう

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 浩太は大学生になり住んでいるところは更に川から遠くなった。それでも合間をみては訪れ、たわいもない話を彼女に聞かせる。
 ひとり暮らしを始めたこと、近所の飲食店でバイトを始めたこと、風変わりな友達ができたこと、家庭菜園のサークルなるものがあったので入ったことなど。
 彼女は相変わらず無表情で言葉少なに浩太の話を聞いていた。

「都会はいろんなものが溢れてるんだ。人も物もたくさん集まってるから正直戸惑うよ」

 すべてのモノを認識することはできないから、自然と認識するものとしないものを選別している。自分もそうしてるのに…認識されない側に立たされると寂しさを覚えてしまう。身勝手なことはよくわかっているけれど、今はまだその感情をコントロールすることは難しい。

「そのうち慣れるのかなぁ」
「慣れる…そのうちに」

 発せられたその言葉で、自分の幼さを瞬時に自覚し恥じた。
 彼女に聞かせてはいけない愚痴を言い、言わせてはならない言葉を言わせた。でも謝るのも違う。どうすればいいのか。今の自分には何が正しいのかわからない。

「気にしてないし、気にしなくていい」

 彼女は何も言わなくてもいつもこちらの感情を怖いくらいに読み取る。
 表情も言葉数も少ない彼女の考えなんて、とてもじゃないけど推測できない。どうすれば彼女を笑わせることができるのか、どうすれば彼女に嫌な思いをさせずにすむのかわからない。

「それは?」

 彼女はチラリと手元の袋に視線を向ける。
 あきらかに話題を変えられたのを感じたが、彼女の気遣いを無視してまで続ける話ではないので浩太は流された。

「今住んでるところ花火祭りがね、すごいんだ。」

 浩太は持ってきていた小さな花火セットを袋からだす。

「すごいんだよ、音楽に合わせて数え切れないほどの花火が打ち上げられるんだ」

 その様子があまりにも衝撃的で彼女に見せたいと思った。でも一緒にみることはできない。
 あんなに華やかではないけれど、迫力も全然ないけれど、一緒に花火が見たいと思ったから小さな花火を持ってきた。

 日が暮れかけた川辺で花火に火をつける。パチパチと弾ける火花は夜に見るよりもはるかに劣るけれど仕方がない。まだ続くであろう未来を捨ててまで、目の前のささやかな望みを叶えたいとは思わなかった。
 シュワシュワと光をはき出す花火、キラキラと輝いている時間はさほど長くはない。
浩太は無言で花火に次々と火をつけ続けた。穏やかな川に不似合いな煙が充満した。
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