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第一章 悪役令嬢だった私

12.対立する覚悟

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エドワードの突然の訪問に困惑する間もなく、側室にする宣言を受けた私。
どうしてこんなことになったのか今すぐアルベルトに詰め寄りたい気持ちをなんとか抑え、目の前のエドワードにニッコリと微笑みかける。
 
「丁重にお断りさせて頂きますわ。」
 
「え……?」
 
微笑まれたことでいい返事が貰えると踏んでいたのであろうエドワードは、私の言葉に唖然としたまま固まって、動かなくなってしまった。
 
「お、王族の提案を断れると思っているのか!?」
 
この人は……。
そのあまりにも最低な言動に、私は頭を抱えた。
元々自分本位な人だとは思っていたが、こんなに酷かっただろうか。

あー、そうだった。
私が婚約者だった時は、ボロを出させない為にフォローをしていた気がする。
これは予想でしかないが嗜めることも何度かあったので、怒られるのが嫌なエドワードは私の前だけ発言に気を付けていたのかもしれない。

……私の努力は、意味なんてなかったのね。

これならむしろ婚約破棄されて良かったのかも。
婚約者として尊重はしていたが、エドワードのことを恋愛的な意味で好きだったことなんて一度もない。
ただ私は、死にたくなくて婚約破棄を避けたかっただけなのだ。
聖女が現れた瞬間あっさりと長年連れ添ってきた婚約者を捨てたこの人に、何の未練のかけらもない。
顔を真っ赤にして、「ただじゃ置かないからな」と脅しをかけてくるエドワード。
ここまできたらもう、更生の余地もなさそうだ。
はぁとため息が漏れる。
 
「なんだその態度は!?……見て呉れはいいが、所詮はアルベルトが選んだ女なだな。」
 
その言葉に、私の堪忍袋の緒が切れた。
これ以上黙って聞いていられそうもない。
もう関わらないつもりでいたが、気が変わった。
私だけじゃなくて、アルベルトを貶める発言をするなんて……!
……絶対に許せない。
キッとエドワードを睨んで、閉じていた口を開く。
 
「お言葉ですが殿下。今の言葉は……」
 
「ストーップ!ごめんさらちゃん、ここからは俺に任せてくれない?」
 
今まで静観していた……というか入るタイミングを見計らっていたのであろうアルベルトが私を守るようにしてエドワードの前に立ちはだかる。

どうして……。

いや、今はアルベルトを止めないと。
そう判断した私はアルベルトの裾を軽く握り、辞めてというようにフルフルと首を横に振った。
アルベルトにエドワードと対立して欲しくなかったからだ。
……ゲームの中でアルベルトは王位に興味がなかった。
だからこそ、エドワードが王太子になれた訳だが。
そんなアルベルトはヒロインに兄と戦うのが嫌だから王を譲ったのだと明かすシーンがある。
 
『あれでも、俺のたった1人の兄だからさ……』
 
そう告げたアルベルトの表情は切なくて、私は涙ぐんでしまった記憶がある。
今でこそ2人の関係は冷え切っているが、昔は仲が良かったのだ。
アルベルトは基本的に冷静で物事を客観視するが、気を許した相手には優しい一面がある。

……それこそ自分を犠牲にしてでも願いを叶え程に。

アルベルトは昔、エドワードに救われたことがあって、そのことに恩を感じている。
今はあんなんだけど、昔は優しかったんだよ……と、エドワードが昔のように権力なんて知らず、ただ太陽みたいだったあの頃に戻って欲しいと1番願っていたのがアルベルトなのだ。
だから王位を簡単に放棄したし、エドワードが王になれるように裏から色々と手も回しているとゲームで言っていた。
そんな2人が私のせいで対立するなんて……。
絶対にダメだ。
アルベルトは今まで衝突を避けていたはずだ。
どれだけ耐えて、どれ程傷ついたのか……。
計り知れないその傷口をこれ以上開かせるわけにはいかない。

だから、アルベルト止めた。
ダメだって、今までの努力が水の泡になっちゃうから辞めてって。
……それなのに、アルベルトはなんでもないよって顔で微笑みかけてきた。
それどころか、私を安心させる為にそっと手を握ってくれる。

どうやら覚悟を決めたようだった。
 
「……アルベルト様がそれで良いなら。」
 
だから私もぎゅっとその手を握り返して答える。
1人になんてさせない。戦う時は一緒だよ、とそんな意味を込めて。
 
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