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第一章 悪役令嬢だった私

7.目が覚めたら溺愛が始まりました?

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「おはよう。」
 
「えっと……おはようございます?」
 
目を覚ますと、今までにみたことがないほど綺麗な笑顔を浮かべるアルベルトがそばにいて、和かな瞳で私を見つめている。
反射的に挨拶を返したものの、頭の中は「?」でいっぱいだった私は、何が起こっているのか理解できずに固まってしまった。
なに、この状況。
 
『寝起きもかわいいとか。どれだけ俺のこと惚れさせたら気が済むんだろ。』
 
……どうやら私はまだ夢の中にいるらしい。
その言葉を聞いてそう結論づけた私は、もう一度目を閉じようとした。
そこで、ようやくあることに気づく。

ここ、どこ……?

見慣れないベッドに、見慣れない椅子に腰掛けているアルベルト。
状況を把握する為に、昨日あった出来事を思い出そうと試みる。
えーっと確か婚約破棄されて、神殿に行って、女神様に力をもらって、それから……

「……っ」
  
何故かアルベルトに抱きしめられたことを思い出し、顔が赤くなってしまう。
 
『可愛過ぎる。……やっぱり声をかけて正解だったな。』
 
……なんでまだ聞こえるの?

魔法を使ってしばらく経ったはずなのに、未だにアルベルトの心の声が聞こえてくるのは何故だろうか。
私は恥ずかしさを誤魔化すようにそのことを考え始める。

もしかして、解除しないといけない?
そうだよね、発動しっぱなしだったもんね、うん。
……でも、今解除したらバレちゃうかも。
すぐに魔法を解きたい所だけど、光って指摘されたら誤魔化せる自信なんてない。
しょうがない、しばらくはこのままで……
 
『また抱きしめたら怒るかな?』
 
「……!?」
 
ダメだ、このままだと私の心臓が持たないかもしれない。
そう思った私は、別に隠す必要もないんじゃないかと考え直す。
そりゃあ誰かに知られて利用されるかもしれないけど、アルベルトには私の姿が変わるのをみられてしまっている。
多分もう色々と勘付かれてる気がするし。
今更隠したって、巻き込んでしまうことに変わりはない。

……アルベルトにだったら、話しても良いかも。

まあ、そう考えてしまう時点で大分手遅れなのかもしれないけれど。
 
「あの、アルベルト様。話しておきたいことがあるのですが……」

私の意を決した言葉に、アルベルトは真剣な表情になって、「なぁに?」と優しく聞いてくれる。
それに安堵した私は、転生者について、そして女神様との話したことについてアルベルトに説明していった。
途中何度か質問を受けながらもなんとか話しきった私はドキドキしながら彼の反応を見る。

「そっか。話してくれてありがとう。」

そう言ったアルベルトはなんだか嬉しそうで、私も自然と笑顔になってしまった。
まあ、途中アルベルトの心の声は政治的なものばかりに変わっていたわけだが。
そこはさすが王子様と言うべきか。

……だけど、

私を利用しようとは一度も考えてなかった。
むしろ私をどう守ろうかってことをずっと考えてくれていて、その優しさにきゅんとしてしまったのは内緒にしておこう。

……あと、エドワードを出し抜く作戦を立てていたのは、聞かなかったことにしようかな。

「……まさかこんなことになるなんて、ね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」

話に区切りがついた後、やはりと言うべきか、アルベルトから例の話を持ちかけられてしまう。

復讐……。

やっぱりアルベルトも私が彼らに一泡吹かせたいって思ってたんだろうな。
冤罪までかけられたんだもん。
貴族社会だから……と言えば想像しやすいかもしれないが、身分の高い人に対してこの世界ではすごく気を遣わなければならない。
不敬罪があるくらいだしね。

つまり、魔法を使える私は第一王子であるエドワードよりも身分が高くなるわけだから、簡単に復讐できるとアルベルトは言いたいのだろう。
……だけどもう私の心は決まっていた。

「いえ、もう吹っ切れましたから。」

今は心に余裕もあるし、わざわざ……というか彼らにもう会いたいとは思えなかった。
それでキッパリと言い放ったのだが、その言葉にアルベルトはものすごく嬉しそうな笑みを浮かべて「それが良いよ」なんて言っている。

てっきり兄のことが好きではないからこの機会に出し抜こうと提案してくると思っていた私は、不思議に思いながらも頷く。

『兄上に未練が残ってなくて良かった。もしまだ好きだったら、今度こそ兄上に何をしてしまうかわからないし。』

……なんて物騒なことが聞こえたのは、きっと気のせいだろう。

 
 
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