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第一章 悪役令嬢だった私
3.女神様との再会
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ここが、神殿……!
白を基調としたまるでお城を連想させるその建物を目の前に、圧巻される。
実は、この世界に転生してから神殿に来るのは初めてだったりする。
神殿は基本的に王族か限られた身分の人しか入れないという規則がある為だ。
たとえ王子の婚約者であっても、結婚していないことには王族と見なされない。
だから私がここにくるのが初めてでもなんの支障もない訳なのだけど。
……こういう所に入るのは、やっぱり緊張する。
そう思っていたからだろう、自然と神殿の方向へと向かう足が止まってしまった。
私が歩くのを辞めたのに気づいたアルベルトは、神殿の扉に手をかけようとするのを止め、こちらに振り向いた。
「大丈夫だよ。ほら、行こ?」
そして、いつものように笑顔で促す彼に私はどこか安心してしまっている自分がいることに気づいてしまう。
絆されたらダメなのに。
私は絶対に、彼に心を許してはいけないのだ。
……だって、知っているから。
どうして彼が私に良くしてくれるのかを。
そんなのわかりきっている。
もう裏切られるのも、捨てられるのも嫌だ。
そうならない為には、私はアルベルトを本当の意味では信用してはいけない。
彼……アルベルトは利益目的でしか動かない、そんな人なのだから。
私の後を追って来たのも、心配したからなんて言っていたけれど本当は違う。
多分、私が使える人間かどうかを最後に確かめようとしたのだろう。
そして、運良くと言うべきか私の姿が変わるのを目撃した。
そうなれば、そこに居たのが誰であろうと声をかけるに決まっている。
それくらい魔法……未知の能力を使う者は希少なのだ。
私は最初、彼が信用に足る人物だといったが、それもあながち間違いではない。
彼は、近づいて来た時……つまりファーストコンタクトの時は相手の有利になることしかしない。
そして信頼させて、自分の意のままに操る。
それがアルベルトの手法なのだ。
……だから、信頼してはダメ。
私の計画が終わるまで、私が彼を利用するの。
グッと拳を作り、もう一度決意を固める。
そして感情を心の底に押し込んで笑顔を造った。
「……ええ。」
アルベルトがいつもそうしているように、本心を心の奥底に隠して返事をする。
彼は少し眉を顰めたが、気付かないふりをして開けられた扉を潜ったのだった。
*
「じゃ、俺は神殿内を回ってくるから。」
神殿長に大体の説明を受けた後。
私しかこの先は入れないと聞いたアルベルトはそう言ってどこかに向かってしまった。
……入るしかないか。
しばらくその無駄に豪華な扉の前で立ち尽くししていたが、ようやく決意を固め、ノブに手をかける。
ふぅと息を吐いて気持ちを落ち着かせ、私は少し不安を抱きながらも重々しい扉を開けた。
「……綺麗。」
中を目にした私の口からはポロッとそんな言葉がもれた。
前世でいう教会みたいな作りだけど、所々が色付きのガラス張りになっていて、そこから光が差し込んで床が七色に光っている。
とても神秘的な空間だった。
正直、もっと派手な感じだと思って構えていたので、普段以上に見入ってしまう。
……っと、早く儀式を済ませないと。
確か、彫刻に祈りを捧げるんだったよね?
私は神殿長の言葉を思い出しながら辺りを見回してみる。
あ、これか……。
真ん中にあるいかにも女神ですというような彫刻を目にして、すぐにこれが例の彫刻だと腑に落ちた。
私は彫刻の前に跪き、両手を握って、言われていた通りの言葉を口にする。
「女神様、貴方様のお望みのままに会いに来ました。」
そう言い終わると同時に女神様の彫刻が眩いほどの光を放ち、私はその眩しさに反射的に目を閉じてしまった。
そして、
「もう目を開けても大丈夫ですよ。」
そのよく通る綺麗な声を聞いて、ゆっくりと目を開いた。
私の視界に映し出されたのは、真っ白な空間に、光っている女性が立っているという異様な光景。
多分この人が、女神様……ってことなのかな。
「そうです。」
私の心の声に応えるかのように、目の前の女性は優しく微笑んだ。
でもすぐに申し訳なさそうな顔になって、
「ごめんなさい。私のミスで貴方をあんな目に合わせてしまって……」
と、ものすごい勢いで謝れてしまったんだ。
私は突然の出来事に目を白黒させことしかできなかった。
だって私と彼女は初めて会うはずなのだから。
なぜ謝っているのか全くわからなかった。
女神様にもそれが伝わったのだろう。
「最初から、お話します。……と、その前に貴方から預かっていた記憶をお返ししますね。」
「その方がわかると思います」そう告げた女神様は、私の頭にポンッと優しく触れる。
暖かい、それからどこか懐かしいような感覚がした後、私の脳内をとある記憶が駆け巡った。
まるで映画を見ているかのような、そんな感覚。
だけど映画と全く違ったのは、感情も一緒に入って来たこと。
それで私は、これが私の過去の出来事だとすんなり受け入れることができた。
「あ、私……」
記憶が混じった混乱の中、大切なことを思い出してしまった。
そして、ポロポロと記憶を取り戻した私はこの世界で初めて涙を流したのだった。
「どうやら無事に思い出せたようですね。」
女神様は私の涙をそっと拭ってくれた後に、安心したようにそう言った。
記憶を取り戻してわかったこと。
…——それは、私は本来クロエに転生する予定ではなかったということだ。
白を基調としたまるでお城を連想させるその建物を目の前に、圧巻される。
実は、この世界に転生してから神殿に来るのは初めてだったりする。
神殿は基本的に王族か限られた身分の人しか入れないという規則がある為だ。
たとえ王子の婚約者であっても、結婚していないことには王族と見なされない。
だから私がここにくるのが初めてでもなんの支障もない訳なのだけど。
……こういう所に入るのは、やっぱり緊張する。
そう思っていたからだろう、自然と神殿の方向へと向かう足が止まってしまった。
私が歩くのを辞めたのに気づいたアルベルトは、神殿の扉に手をかけようとするのを止め、こちらに振り向いた。
「大丈夫だよ。ほら、行こ?」
そして、いつものように笑顔で促す彼に私はどこか安心してしまっている自分がいることに気づいてしまう。
絆されたらダメなのに。
私は絶対に、彼に心を許してはいけないのだ。
……だって、知っているから。
どうして彼が私に良くしてくれるのかを。
そんなのわかりきっている。
もう裏切られるのも、捨てられるのも嫌だ。
そうならない為には、私はアルベルトを本当の意味では信用してはいけない。
彼……アルベルトは利益目的でしか動かない、そんな人なのだから。
私の後を追って来たのも、心配したからなんて言っていたけれど本当は違う。
多分、私が使える人間かどうかを最後に確かめようとしたのだろう。
そして、運良くと言うべきか私の姿が変わるのを目撃した。
そうなれば、そこに居たのが誰であろうと声をかけるに決まっている。
それくらい魔法……未知の能力を使う者は希少なのだ。
私は最初、彼が信用に足る人物だといったが、それもあながち間違いではない。
彼は、近づいて来た時……つまりファーストコンタクトの時は相手の有利になることしかしない。
そして信頼させて、自分の意のままに操る。
それがアルベルトの手法なのだ。
……だから、信頼してはダメ。
私の計画が終わるまで、私が彼を利用するの。
グッと拳を作り、もう一度決意を固める。
そして感情を心の底に押し込んで笑顔を造った。
「……ええ。」
アルベルトがいつもそうしているように、本心を心の奥底に隠して返事をする。
彼は少し眉を顰めたが、気付かないふりをして開けられた扉を潜ったのだった。
*
「じゃ、俺は神殿内を回ってくるから。」
神殿長に大体の説明を受けた後。
私しかこの先は入れないと聞いたアルベルトはそう言ってどこかに向かってしまった。
……入るしかないか。
しばらくその無駄に豪華な扉の前で立ち尽くししていたが、ようやく決意を固め、ノブに手をかける。
ふぅと息を吐いて気持ちを落ち着かせ、私は少し不安を抱きながらも重々しい扉を開けた。
「……綺麗。」
中を目にした私の口からはポロッとそんな言葉がもれた。
前世でいう教会みたいな作りだけど、所々が色付きのガラス張りになっていて、そこから光が差し込んで床が七色に光っている。
とても神秘的な空間だった。
正直、もっと派手な感じだと思って構えていたので、普段以上に見入ってしまう。
……っと、早く儀式を済ませないと。
確か、彫刻に祈りを捧げるんだったよね?
私は神殿長の言葉を思い出しながら辺りを見回してみる。
あ、これか……。
真ん中にあるいかにも女神ですというような彫刻を目にして、すぐにこれが例の彫刻だと腑に落ちた。
私は彫刻の前に跪き、両手を握って、言われていた通りの言葉を口にする。
「女神様、貴方様のお望みのままに会いに来ました。」
そう言い終わると同時に女神様の彫刻が眩いほどの光を放ち、私はその眩しさに反射的に目を閉じてしまった。
そして、
「もう目を開けても大丈夫ですよ。」
そのよく通る綺麗な声を聞いて、ゆっくりと目を開いた。
私の視界に映し出されたのは、真っ白な空間に、光っている女性が立っているという異様な光景。
多分この人が、女神様……ってことなのかな。
「そうです。」
私の心の声に応えるかのように、目の前の女性は優しく微笑んだ。
でもすぐに申し訳なさそうな顔になって、
「ごめんなさい。私のミスで貴方をあんな目に合わせてしまって……」
と、ものすごい勢いで謝れてしまったんだ。
私は突然の出来事に目を白黒させことしかできなかった。
だって私と彼女は初めて会うはずなのだから。
なぜ謝っているのか全くわからなかった。
女神様にもそれが伝わったのだろう。
「最初から、お話します。……と、その前に貴方から預かっていた記憶をお返ししますね。」
「その方がわかると思います」そう告げた女神様は、私の頭にポンッと優しく触れる。
暖かい、それからどこか懐かしいような感覚がした後、私の脳内をとある記憶が駆け巡った。
まるで映画を見ているかのような、そんな感覚。
だけど映画と全く違ったのは、感情も一緒に入って来たこと。
それで私は、これが私の過去の出来事だとすんなり受け入れることができた。
「あ、私……」
記憶が混じった混乱の中、大切なことを思い出してしまった。
そして、ポロポロと記憶を取り戻した私はこの世界で初めて涙を流したのだった。
「どうやら無事に思い出せたようですね。」
女神様は私の涙をそっと拭ってくれた後に、安心したようにそう言った。
記憶を取り戻してわかったこと。
…——それは、私は本来クロエに転生する予定ではなかったということだ。
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