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第二章 絆
第58話 刑事と殺気
しおりを挟む喫茶店の中は、カウンター席の他に4~6人掛けのテーブル席が3つ用意してあった。それぞれのテーブルは仕切られていて、お互いの顔が見えない様になっている。
店内は木目調のアンティークな造りだが沢山の観葉植物が置いてあり、まるで森の中にいる様な雰囲気である。その店内の一番奥のテーブル席から身を乗り出す様に、一人の男性が手を振っていた。
二人はゆっくりと奥まで進み、男性に声を掛けた。
「随分と早くからお着きなんですね小野さん。お待たせして申し訳ありません」
「いやいや、最近暇でね。それに紅葉ちゃんからのお誘いなんて初めてだから、嬉しくて早く来ちゃったよ」
男は、日に焼けた顔に笑顔を見せた。
「……警察が暇なのは、何よりじゃないですか」
その笑顔に応えることもなく、紅葉は淡々と返した。
小野と呼ばれた男は年の頃、30才手前位だろう。如何にもサラリーマンという風貌で、ヨレヨレのYシャツにスパッツという恰好だ。
日に焼けた肌と人懐っこそうな笑顔が差し詰め外回りの営業マンといった印象だが、彼は県警の捜査一課に所属する腕利きの刑事である。
小野は紅葉の冷たい態度に全くめげる様子もなく、そりゃあそうだねと、また笑顔をみせた。
「……小野さん、警部補にご出世されたんですってね。おめでとうございます」
全くおめでたさを感じない口調で、紅葉が小野の昇進を祝う言葉を口にした。
「いやーお恥ずかしい。ほら紅葉ちゃん来年、高校を卒業するだろ?二人の将来の為に昇進しなくちゃって、俺頑張ったんだよ」
小野は嬉しそうに、右腕でガッツポーズをした。
「その将来は無いですから、お気になさらないで下さい。小野警部補」
真顔のまま、紅葉は冷たく言い放った。それ以上、その話に付き合うつもりは無い、という意思表示である。
それでも諦めることなく、まだ紅葉に言い寄ろうとするタフさは流石、百戦錬磨の刑事といったところだが、紅葉の横に立つ青葉の顔を見た小野の体がビクリと震えた。
「……い、いやあ、青葉ちゃん。今日も一段と美人さんだね」
青葉はいつも通りの無表情ではあったが、小野を見るその視線は冷たく、殺気を帯びていた。それ以上、姉にしつこくしたら殺す。と、ハッキリと分かる視線だ。
珈琲カップを握る小野の手が微かに震え、カタカタと音を立てた。
「い、いやあ、二人のお陰だよ。二人が捜査に協力してくれたお蔭で、何度も大きな事件を解決出来たからね。二人には感謝してるよ、本当に……」
声のトーンを明らかに小さくした小野が、ポツリと呟いた。
「ふふっ、そんなにご謙遜なさらないで下さい。全て小野さんの努力の賜物ですよ。私達の協力なんて、微々たるものです」
その様子を見ていた紅葉は、小野に会ってから初めてにっこりと微笑んだ。
「…それより小野さんに折り入ってご相談があって、今日はお呼び立てしたんです」
その紅葉の笑顔を見て、小野の顔がまた少し強張った。
「な、何かな相談って……?」
「小野さんは、この市で起こっている若い女性の行方不明事件のこと、もちろんご存知ですよね?」
紅葉の言葉に、小野の眉毛がピクリと上がった。
「……ああ、勿論知ってる。僕が担当しているからね」
「なら、話は早いです。犯人の目星は、もう付いているんですか?」
紅葉の言葉を聞いて、小野は小さく溜息を付いた。
「なあ、紅葉ちゃん。何でそんなことを聞いてくるのか分からないけど、捜査については何も言えない。僕たち警察には守秘義務があるからね。君なら、そんなことくらい分かっているだろ?」
「ええ勿論、分かっています。だからこそ、小野さんに相談しているです」
そう言って、小野の目をじっと見つめる紅葉。暫くその視線を受け止めていた小野だが、唐突に視線を逸らし頭をポリポリと掻いた。
「……君達が知りたがっていると言うことは、この一連の事件にオカルトが関係しているのかい?」
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