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第一章 出逢い
第29話 勿忘草
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今日は二人で並びながら歩く。この方が話し易いと金森が言ったからだ。
だが、ユウにとっては逆だった。金森の顔がよく見える分、話しづらくなった。
・・今日の金森は、反則だろ?
金森にもいつもの明るさは無く、今日はあまり話をしなかった。それでも横を流れる河のせせらぎは心地よく、ゆっくりと二人の時間は流れていく。
やっと二人が話し始めたのは、大きな味噌工場横の桜並木の辺りだ。
「しかしさ、三人がそんなに仲のいい幼馴なんて知らなかったよ」
「うん。あの二人とは家もすぐ近くだったから、物心ついた頃からずっと一緒だったんだよ。ふふっ私たち、毎日一緒に遊んでたんだ」
「ん?ちょっと待て金森。家がすぐ近くってことはさ、金森の家って、この辺?」
「うん、あの橋を過ぎて直だよ」
と、前方の橋に指をさす金森。あのポプラ並木からこの桜並木まで、もう10分以上は歩いてきた筈だ。
「じゃあ、あんな遠くまで、わざわざ迎えに来てくれたのか?」
確かにユウの言う通り、一昨日、歓迎会の話をした時に、準備で忙しい紅葉に代わってユウの案内役を金森自身が立候補してくれたのだが、わざわざ待ち合わせ場所を歩いて15分以上も離れている小学校にしなくても、この辺りに目印になる場所はいくらでもありそうだった。
「べ、別に全然遠くないよ。小学校の時、毎日通ってた道だし」
その問いに少し焦り気味に答えるその顔は、ほんのりと桜色。
「それに・・ね。如月くんと、あのポプラの木を一緒に見たいと思ったの」
そして、それに続いた彼女の言葉。
・・そんな嬉しい瞬間を目の当たりにすれば、自然と笑顔になるというものだ。
「そっか、ありがとな金森。俺もあの大きくて優しい木を、金森と一緒に見れてよかったよ」
「うん!」
二人は、そんな眩しい時間を過ごしながら歩を進める。そして橋を通り過ぎて、しばらく進むと土手道から離れ、住宅街の中へと入って行った。どうやら目的地は近そうだ。
この辺りの住宅は新しい家は殆どなく、落ち着いた雰囲気の街並みだ。庭先で庭仕事をしているおばさんや、駐車場で車を洗っているおじさんなど、如何にも休日の住宅街といった雰囲気である。
そんな閑静な住宅街の中を暫く進んで行くと、金森が足を止めた。
「ここが、私の家なんだ」
彼女の視線の先には、薄い青色が特徴の一軒の木造建ての家がある。
その家の庭先には今の季節に咲き誇る色とりどりの薔薇と、よく手入れをされた木々。そして可愛らしい草花が足元を飾っていた。
その勿忘草色をした家は、彼女にとても似合っていた。落ち着きのある雰囲気が、長年ここに住む家族を守ってきた強さや、優しさに満ちている。
家が住む人に似るのか、その逆なのか、金森と似ているな、とユウは思った。
「・・素敵な家だな」
「うん!私も大好きな家なの」
ユウが素直な感想を言葉にして、金森が誇らしそうに応えた時だ。
「じゃあ寄っていきなさいよ」
「うおっ!」
突然、予想していなかった方向から声を掛けられ、ユウは驚いてしまった。
「お、お母さん!」
そして隣りからは、金森の悲鳴が聞こえた。
だが、ユウにとっては逆だった。金森の顔がよく見える分、話しづらくなった。
・・今日の金森は、反則だろ?
金森にもいつもの明るさは無く、今日はあまり話をしなかった。それでも横を流れる河のせせらぎは心地よく、ゆっくりと二人の時間は流れていく。
やっと二人が話し始めたのは、大きな味噌工場横の桜並木の辺りだ。
「しかしさ、三人がそんなに仲のいい幼馴なんて知らなかったよ」
「うん。あの二人とは家もすぐ近くだったから、物心ついた頃からずっと一緒だったんだよ。ふふっ私たち、毎日一緒に遊んでたんだ」
「ん?ちょっと待て金森。家がすぐ近くってことはさ、金森の家って、この辺?」
「うん、あの橋を過ぎて直だよ」
と、前方の橋に指をさす金森。あのポプラ並木からこの桜並木まで、もう10分以上は歩いてきた筈だ。
「じゃあ、あんな遠くまで、わざわざ迎えに来てくれたのか?」
確かにユウの言う通り、一昨日、歓迎会の話をした時に、準備で忙しい紅葉に代わってユウの案内役を金森自身が立候補してくれたのだが、わざわざ待ち合わせ場所を歩いて15分以上も離れている小学校にしなくても、この辺りに目印になる場所はいくらでもありそうだった。
「べ、別に全然遠くないよ。小学校の時、毎日通ってた道だし」
その問いに少し焦り気味に答えるその顔は、ほんのりと桜色。
「それに・・ね。如月くんと、あのポプラの木を一緒に見たいと思ったの」
そして、それに続いた彼女の言葉。
・・そんな嬉しい瞬間を目の当たりにすれば、自然と笑顔になるというものだ。
「そっか、ありがとな金森。俺もあの大きくて優しい木を、金森と一緒に見れてよかったよ」
「うん!」
二人は、そんな眩しい時間を過ごしながら歩を進める。そして橋を通り過ぎて、しばらく進むと土手道から離れ、住宅街の中へと入って行った。どうやら目的地は近そうだ。
この辺りの住宅は新しい家は殆どなく、落ち着いた雰囲気の街並みだ。庭先で庭仕事をしているおばさんや、駐車場で車を洗っているおじさんなど、如何にも休日の住宅街といった雰囲気である。
そんな閑静な住宅街の中を暫く進んで行くと、金森が足を止めた。
「ここが、私の家なんだ」
彼女の視線の先には、薄い青色が特徴の一軒の木造建ての家がある。
その家の庭先には今の季節に咲き誇る色とりどりの薔薇と、よく手入れをされた木々。そして可愛らしい草花が足元を飾っていた。
その勿忘草色をした家は、彼女にとても似合っていた。落ち着きのある雰囲気が、長年ここに住む家族を守ってきた強さや、優しさに満ちている。
家が住む人に似るのか、その逆なのか、金森と似ているな、とユウは思った。
「・・素敵な家だな」
「うん!私も大好きな家なの」
ユウが素直な感想を言葉にして、金森が誇らしそうに応えた時だ。
「じゃあ寄っていきなさいよ」
「うおっ!」
突然、予想していなかった方向から声を掛けられ、ユウは驚いてしまった。
「お、お母さん!」
そして隣りからは、金森の悲鳴が聞こえた。
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