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二章 魔女のたしなみ

2-2 さすがにこれは無理がありますよ!

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「それにしても遅いなぁばあちゃん…」

女性用の洋服やら下着やらを片付け、タンスなどにしまい終えた僕は、泣きながら出ていったばあちゃんの事が気になって仕方がありません。

今まで、慎ましい生活を送ってきたばあちゃんしか知らなかった僕だから、昔、冒険者としてブイブイ言わせてたんだなんて昔話を言ってくれた時も、冗談で言ってるものとばかり思ってたんだ。

今の姿や、先日の破壊行為を見ていたら、実力がある魔術師だって事は理解できる気がしたんだけど、ばあちゃんに引き取られてから今まで、あんな姿見たことなかったから本当に戸惑ってる。

僕が引き取られてからから数年後、じいちゃんが死んじゃって、ばあちゃんがションボリしてしまったのを見て、僕は一生ばあちゃんを守ろうって思って、自分に出来ることから一生懸命やって来たんだ。

それを見てたばあちゃんが、少しずつ元気になっていくのを見て、僕が頑張ればばあちゃんが元気になるって思ったから今まで頑張れたんだよ。

いじめられても耐えて耐えて…

でも、そんな学園生活も、僕のせいで終わっちゃった…

あんなどうしょうもない学園でも、よい先生も仲間もいたけど、あんなきっかけを作った僕はもうあそこに戻れないよ。

学園を卒業したら、ばあちゃんを老人ホームに入れるお金を稼ぐために冒険者になってさ、ばあちゃんにありがとうって僕はもう大丈夫だよ!って言って安心させてあげるのが目標だったのに、これからどうしよう。

そうだ!

どうせ決めてたんだもん。冒険者になってしまおう!ばあちゃんは帰って来ないけど、登録位だったら一人でも大丈夫なはず。駄目でも話だけ聞ければ良いかな?

そう思った僕は書き置きして、街の冒険者ギルドに行くことにしました。

『ばあちゃん、さっきは言い過ぎました。ごめんなさい。お洋服は僕のアルバイト代で支払いますので、安心して着てください。これから冒険者になるためにギルドに話を聞きに行きますので、夕食は適当にしてください。正直まだばあちゃんの事に戸惑っていますが、嫌いじゃないです。あとでゆっくりお話しましょう。孫より』

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

「だ・か・ら!私がエンゲリスなんです…ひっく! こうやってちゃんと ひっく! 冒険者カード持ってますよね ひっく!」
「いやいや!さすがにこれは無理がありますよ!お嬢さん今何歳ですか?どう見ても二十歳くらいですよね?でも、エンゲリスさんは80歳!それにカードの期限切れてますから!」

そう言い合う両者を交互に見て、ギルドにいた冒険者は楽しんでいます。

方や20歳前後の魔導師と思われる少女。
方やベテランな40代の元冒険者のギルド社員。
その脇にはハイオークの死体が積まれ、それらの買い取りの為に訪れた少女?が見せた冒険者カードに違和感を感じた受付嬢が、ベテラン社員に変わってから小一時間。ずーっとこのやり取りが続いているのです。

魔導師が自身の魔力量で実年齢よりも若い姿でいれるケースがあることはベテラン社員もわかっているのですが、相手が酔っぱらっていて半分しか話が通じない事や、確認出来ないほど古い冒険者カードを提示してるため、どうにかならないか?と悩んでる最中。

所々で「まごちゃんに嫌われた」とか「学園ぶっ壊してスッキリした」など訳のわからない事を言ってるので、ベテラン社員はどうしたものか?と思い、ギルド長に伺いを立てようとした時でした。

ギルド長を見た目の前の少女が

「もうサラマンダー怖くなくなった?怖くなったらいつでもおばちゃんが倒してあげるからね」

なんて言ったんですよ。
そしたら、ギルド長、えっ?って顔して少女を見て「エンゲリスおばちゃん?!」って駆け寄ってきたんですよ!あの鬼のように怖く、決して笑顔を見せない、あのギルド長がですよ!顔をくちゃくちゃにして、まるで無邪気な子供のような顔で近寄ってきて、目の前の少女に笑いかけたんですよ!

それだけでも驚きなのに、目の前の少女は

「はいおばちゃんですよ。貴方が頑張って働いてるのは噂に聞いてましたけど、すっかりお爺さんになってねぇ…そんなに眉間にシワができるまであんまり考えすぎてると、怖い人に勘違いされちゃいますよ」

なんて言ってるんですよ。
そしたらギルド長、

「わかる人にわかってもらえたらそれで良いんですよ。それを教えてくれたのは貴女じゃないですか」

なんて言って少女に頭を下げるじゃないですか!それ見てたギルド社員も冒険者も口あんぐりですよ!

今まで鬼のギルド長って言われ、数々の高ランク冒険者に対して厳しい態度で接してきた方が、まるで子供の様な態度で一人の少女に接する姿は何とも言えない暖かいもので、誰もがその姿に心の暖かさを感じていました。

その後、さりげなくその少女の冒険者再登録がされていたり、ギルド長のお墨付きと言うことで特A級冒険者として彼女の名が登録されたりしてましたが、あのギルド長の笑顔見たら野暮な事は言えないなぁとギルド社員一同は思った次第であります。

ですが、困ったのはこの後…

「ば、ばあちゃん?!」
「ま、まごちゃん!…」

ワイン瓶をラッパ飲みしていた少女の顔色が見る見る変わる様子を見た一同は、これからはじまる何かに戸惑いながらもワクワクしてしまうのでありました。

だって、冒険者ですもの。
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