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冒険の書 その2

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な、なんということだ・・・

俺は打ち震えていた。

ゲームの世界と思いカクカクのポリゴンの中、平面のモンスターと戦うものとばかり思っていた俺を思いっきりひっぱたきたい気持ちでいっぱいになったんだよ。

俺の目の前には「イザベルの酒場」という大きな看板が見え、その奥には大きなカウンターが見える。
そのカウンターの脇にはちょっとした軽食を食べれる場所があり、そこには今まで俺らが育ててきた多くのキャラクターが各々のスタイルでくつろいでいるのが見えたんだ。

イカツイ斧を持った屈強な戦士や、トンガリ帽子をかぶり杖を持ったTHE魔導士。青い法衣を着た僧侶にバンダナを巻いて腰に小さなショートソードを二つ仕込んでいる盗賊かな?そんな数々の懐かしいキャラクターの中でひときわ目立つ女性たち。

深紅のビキニアーマーを着たスタイルバツグンの大剣を持った戦士や、バニーガールちゃんな遊び人。
割と女性キャラクターでも、お色気装備無しでしっかりした装備を着せて遊んでいたはずなのになぁと、当時を思い出しながら、ふと公式の女性戦士がビキニアーマーで遊び人がバニーさんだったことを思い出し納得した俺。

そんな恰好のうら若き女性が、平然と歩いているのを見て、思わず勇気の目を抑えたのよ。
そして、そんな俺の目をカミサンが抑えるという二段構えが発生して、俺らは一度イザベルの酒場から離れた訳です。

そんな俺を見て「お父さんのエッチ!」とイデアに言われ、「どーせ私はあんなにスタイル良くないですよーだ」とカミサンにはすねられ。もうどうしょうもなくて土下座した俺を誰か慰めてくれますか?ねぇねぇ。

ただ、そんな事をしていたら日も暮れてしまうので、各々の職業を決めようと、近くのベンチに腰かけて話をすることにしました。

俺らが飛び込んだこのゲームは、職業によって自分の能力が変わったりします。

「勇者」は攻撃も魔法も使える万能キャラ。主人公キャラという事もあり特殊な呪文が使えます。
「戦士」は武器での攻撃に特化しています。装備できる武器や防具が多いです。魔法は使えません。
「武闘家」は自分の体を武器に戦います。大きなダメージを与えやすいです。魔法は使えません。
「魔法使い」は魔法を使って攻撃を行います。補助魔法も少し使えます。武器攻撃は苦手です。
「僧侶」は味方を回復したり、補助魔法を使います。攻撃魔法使えません。武器攻撃は少し出来ます。
「盗賊」は素早さを武器に戦う遊撃手です。相手からモノを盗むことが出来ます。魔法は使えません。
「商人」は戦闘ではお金を多く獲得出来たり、街では商品を安く購入出来ます。戦闘は向いていません。
「遊び人」はレベルが上がると賢者になれますが、基本遊びまくって戦闘にはほとんど役しません。
「賢者」は魔法のスペシャリストです。特殊な書物を持つか、遊び人を育てないとこの職業にはなれません。
「忍者」はとあるクエストをこなすとなれる特殊な職業です。忍術という特殊な攻撃魔法があります。

イザベルに話を聞いたところ、俺らは「賢者」と「忍者」にはなれないと言う事。

残りの職業から選択することしか出来ず、職業の選択をしないと冒険に出る事が出来ないという事でしたので、早速何にしようか考えて見ました。

イデアは「戦士」だそうです。
魔法は使えるものの、まだまだ不安定だそうで、それだったら自分が手に武器を持って立ち回れる戦士のほうが良いということでした。

それをフォローするのがカミサンの「魔法使い」。
僧侶と迷ったけど、イデアには自分の力を上げて欲しいという思いから、補助は少しで自分も攻撃に加わりたい事という事でした。

で、問題は俺と勇気。

正直俺ら、イデアとカミサンのおまけなんだよね。

魔法も使えなきゃ、イデアと一緒に異世界に行くことも出来ない。

ここで突拍子もない力をつけてしまったら、職場や学校生活でとんでもない力を発揮し、これからの生活がしにくくなっちゃうんだよなぁ・・・というと、それまで勇者がいい!なんて言ってた勇気も悩んでしまいました。

「学校で稲光なんて発生させたらとんでもなくヤバイ奴になっちゃう・・・」
「俺だって・・・魔法どころか大きな力を付けちゃって、重い荷物ひょいって持っちゃった日には、その日からやばい奴になっちゃうよ・・・ホントこの職業選択きっつよ・・・」

そんな訳で俺と勇気は「勇者」「戦士」「武闘家」「魔法使い」「僧侶」は選択肢から外すことになり、残りの「盗賊」「商人」「遊び人」から選ぶことになってしまいました。

「手癖が悪くなっちゃったら、俺学校いられなくなっちゃうよ…」
「俺も同感。お客様の手から何かが無くなったりしたら、全部俺のせい?冗談じゃない!」
という訳で盗賊が却下された時点で、俺らの選択肢はひとつになりました。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「戦士イデアさーん、出番ですよー!!」
そうイザベルさんに呼ばれて出て来たのは、深紅のビキニアーマーに身を包み、恥ずかしそうにこちらに向かって歩いてくるイデア・・・せめてもの抵抗か?少し長めのマントを全身に巻き恥ずかしそうに歩いてきます。

「お父さん・・・お母さん・・・恥ずかしいです・・・」
「ねぇちゃん!めっちゃ恰好いい!!大丈夫!ここゲームの世界だから、誰も見てないって!」
「んだんだ、大丈夫大丈夫!イデアスタイルいいから、戦士の恰好本当にかっこいいよ!」
「それ褒めてるんですか?!!もう!!!!」

次に呼ばれたのはカミサン。
「魔法使いゆきさーーーん、出番ですよ!!!」
トンガリ帽子に黒いマントを羽織り、中は若草色のロングドレスのような衣装を着ています。

「なんか、この杖を持ってるとやる気出るって感じ!かかってらっしゃい!」
「雰囲気あるなぁ~早く魔法打つところ見てみたいなぁ!」
「中はビキニじゃないのか・・・ちぇーーーーっ」
「なんかいった?「ごめんなさい」」

そして俺ら・・・
「遊び人のマサキさーーーん、ユウキさーーーん、出番ですよ!!!」

「ピエロだね。」
「ピエロだね。」
「・・・」
「・・・・・・」

そうだったね。遊び人=ピエロだったのすっかり忘れてたよ・・・

いくら選択肢がないとはいえ、なんで遊び人=ピエロなのか、小一時間問い詰めたい気持ちでいっぱいになった俺らがいましたよ!!!

ちくしょー!!!!!
こうなりゃヤケだ!
このゲームの世界で、一番の大笑い起こしてやんよ!!!!ちくしょ!!!!!!!!

…なんて勇気と気合いを入れてたら、早速、イザベルさんに怒られちゃったよ。



・・・この時は知らなかったんです。

まさかこの俺らの選択が、あんなことを引き起こすなんて・・・
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