71 / 235
七十一
しおりを挟む
青い空の下、ベンチに腰掛けて棒を咥えている私が居た。初めのうちは口の中に幸せが一杯溢れていたが、今現在は唾液の一滴すらも溢れていない。全部コイツに吸われている為だ。咥えた棒の先を辿ってゆくと、リリーカさんの顔があった。
目を潤ませて食べ進む姿は何とも言えない可愛さだ。時折リスの様に膨らむホッペも中々にグッドである。しかし、幾ら半分食べれば良くても流石に一メートルものチュロスを食べきるのはキツイものがある。飲み物を挟みたい所だけど、一気に食べないといけないらしい。ソレ、恵方巻だよね。
一口食べ進めるとリリーカさんの顔も近付く。互いに端から食べ進めているのだから当たり前といえば当たり前だけど、このまま行けばチューをしなければならない。
「これはこれは、お熱いカップルが居る。と思えば、リリーカ=リブラ=ユーリウス様ではありませんか」
横手から掛けられた声にチュロスはポッキリと折れる。ブチュッ。といかなくて人先ずは安心したが、占い的には邪魔が入って上手くいかない。って事になるのかな?
「チッ」
おい、今舌打ちしなかったか!?
「何か御用ですの? フォワール卿」
リリーカさんが好意的ではない視線を向けている所を見ると、この小太りで顎髭が長めの貴族に言い寄られているのであろう事が伺える。
「いえいえ。暇潰しに散策をしておりましたら見知った御方を御見掛け致しましたので、ご挨拶をせねば。と御声を掛けた次第でして。ところで……こちらの御人は何方様ですかな?」
リリーカさんは面倒臭そうに立ち上がる。その際、嫌そうなため息を吐いた。
「カーン様。彼は冠九位であらせるメアン=サヒタリオ=フォワール卿ですわ。そして、こちらはカーン様。私の婚約者ですわ」
「婚約者……?」
「御初に御目に掛かりますフォワール卿。カーン=アシュフォードと申します。どうぞお見知りおきを」
恭しくお辞儀をし、頭を上げると目をまん丸にして驚いている小太り卿が居た。
「アシュフォード。まさか、あの……?」
「いえ、わた……ボクはそのアシュフォードとは関係ありません」
これはリリーカさんから、アシュフォードの名を聞いて目をまん丸くする奴が居るから無関係だと言う様に。と事前に取り決められていた。ちなみに、その人が誰なのか聞いてみたが、上手い事はぐらかされた。
「そ、そうですか。おっと、これ以上居てはお二人のお邪魔になりますな。散歩の続きへと戻る事に致します。それでは、また」
そう言い残し、フォワールさんは急ぎ足で公園を出てゆく。
「フン、何が散歩よ。嘘ばっかり」
見送るリリーカさんが呟いたその言葉を、私は聞き逃さなかった――
目を潤ませて食べ進む姿は何とも言えない可愛さだ。時折リスの様に膨らむホッペも中々にグッドである。しかし、幾ら半分食べれば良くても流石に一メートルものチュロスを食べきるのはキツイものがある。飲み物を挟みたい所だけど、一気に食べないといけないらしい。ソレ、恵方巻だよね。
一口食べ進めるとリリーカさんの顔も近付く。互いに端から食べ進めているのだから当たり前といえば当たり前だけど、このまま行けばチューをしなければならない。
「これはこれは、お熱いカップルが居る。と思えば、リリーカ=リブラ=ユーリウス様ではありませんか」
横手から掛けられた声にチュロスはポッキリと折れる。ブチュッ。といかなくて人先ずは安心したが、占い的には邪魔が入って上手くいかない。って事になるのかな?
「チッ」
おい、今舌打ちしなかったか!?
「何か御用ですの? フォワール卿」
リリーカさんが好意的ではない視線を向けている所を見ると、この小太りで顎髭が長めの貴族に言い寄られているのであろう事が伺える。
「いえいえ。暇潰しに散策をしておりましたら見知った御方を御見掛け致しましたので、ご挨拶をせねば。と御声を掛けた次第でして。ところで……こちらの御人は何方様ですかな?」
リリーカさんは面倒臭そうに立ち上がる。その際、嫌そうなため息を吐いた。
「カーン様。彼は冠九位であらせるメアン=サヒタリオ=フォワール卿ですわ。そして、こちらはカーン様。私の婚約者ですわ」
「婚約者……?」
「御初に御目に掛かりますフォワール卿。カーン=アシュフォードと申します。どうぞお見知りおきを」
恭しくお辞儀をし、頭を上げると目をまん丸にして驚いている小太り卿が居た。
「アシュフォード。まさか、あの……?」
「いえ、わた……ボクはそのアシュフォードとは関係ありません」
これはリリーカさんから、アシュフォードの名を聞いて目をまん丸くする奴が居るから無関係だと言う様に。と事前に取り決められていた。ちなみに、その人が誰なのか聞いてみたが、上手い事はぐらかされた。
「そ、そうですか。おっと、これ以上居てはお二人のお邪魔になりますな。散歩の続きへと戻る事に致します。それでは、また」
そう言い残し、フォワールさんは急ぎ足で公園を出てゆく。
「フン、何が散歩よ。嘘ばっかり」
見送るリリーカさんが呟いたその言葉を、私は聞き逃さなかった――
0
お気に入りに追加
69
あなたにおすすめの小説
【完結】私の望み通り婚約を解消しようと言うけど、そもそも半年間も嫌だと言い続けたのは貴方でしょう?〜初恋は終わりました。
るんた
恋愛
「君の望み通り、君との婚約解消を受け入れるよ」
色とりどりの春の花が咲き誇る我が伯爵家の庭園で、沈痛な面持ちで目の前に座る男の言葉を、私は内心冷ややかに受け止める。
……ほんとに屑だわ。
結果はうまくいかないけど、初恋と学園生活をそれなりに真面目にがんばる主人公のお話です。
彼はイケメンだけど、あれ?何か残念だな……。という感じを目指してます。そう思っていただけたら嬉しいです。
彼女視点(side A)と彼視点(side J)を交互にあげていきます。
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる