34 / 34
三十四 真実のカケラ
しおりを挟む
国を隔てる山々の麓にその拠点はあった。山肌を掘り下げて作り上げた町はとうの昔に廃墟となり風化して崩れ落ち、今や静寂だけが住まう土地になっていた筈だった。
そんな町の最奥部に作り上げられた神殿。その内部には静寂ではなくある種の熱を帯びた者達によって支配されていた。その集団の名は『烏木党』。彼等は一体何が目的で何の為にこんな所に引きこもっているのだろうか? その辺の事情を探るべく奴等の中に紛れ込んで情報収集をしようとしたのだけれど……
「ってなーっ! こんちくしょーっ!」
銀色に輝くナイフを手にした冒険者が叫び、そして攻撃したであろうカピロテに蹴りを加えて吹き飛ばす。冒険者に攻撃を加えようと棒を振りかぶっていたカピロテもこれに巻き込まれて尻餅を付いていた。そこへ冒険者の追撃が加わる。
「あらよっと。さっきのお返しだぃっ!」
倒れたカピロテの顎に冒険者の蹴りが炸裂して、そのまま動かなくなった。その冒険者の後ろでは、女性冒険者が長さは三十センチ以上はあるであろう針。いや、もはや杭といっても差し支えない先端の尖った棒を水平に持ってゆらゆらと上下に揺らし、射程内に入り込んだ輩を刺し貫く。その姿はさながらフェンシングの様だ。そしてまた一人彼女の犠牲となる。
「痛でぇっ!」
刺し貫かれたカピロテは傷口を押さえながら痛い痛いと転げ回る。その暴れっぷりが他のカピロテ達が彼女に近付く事を阻んでいた。
「ホラホラ。モタモタしているとお仲間が出血多量で死んじゃうわよ?」
即死を避け、時間的猶予を与える事で一手間増やして攻撃を鈍らせる。なるほど。考えている。そして……
ぢょっきん。ぢょっきん。
近付いたらちょんぎってやる。と、言わんばかりに剪定ばさみを開いたり閉じたりさせながらカピロテ達を牽制する男性冒険者。
それぞれが最善の状況を作り出して、押し寄せるカピロテに対処をしていた。しかしそれも長くは続かなかった。
「うっ?!」
針で突き刺していた女性冒険者に何かが飛来したのだ。床に転がるそれを視認してこれは不味いと思って顔を上げた瞬間。大小様々な石が私達に降り注ぐ。
殺到していたカピロテ達は数歩下がって壁を作り、後方に居る者達は石を拾っては投げてを繰り返す。流石な冒険者達でも装備が十分でない以上はこの攻撃の対処方法がない。目に当たらない様に顔をガードして身を固めるのが精一杯だ。最早これまで。そう判断した私は口を開いた。
「皆さん私の側に!」
その呼び掛けに即座に反応する冒険者達。私を投石から守る様に囲み、身を固めて投石からのダメージを少なくする。私はその囲みの中心で人差し指と中指に挟んだ宝石を高々とあげる。途端、空気が澱む地下室に風が生まれた。
「なっ、なんだ?!」
突然の事に宙を見るカピロテ達。その間にも風は強くなり部屋の埃を舞い上がらせる。
「あの小娘だ! 魔術を止めろ!」
誰が言ったかその言葉にハッと気付いたカピロテ達の視線を受ける。だけど遅かった。風は私に意思によって強風となり、暴風へと至るまでさしたる時間はかからなかった。
荒れ狂う風は土埃を舞上げて、カピロテ達の姿だけでなく悲鳴すらも呑み込んで地下室を蹂躙する。風が止み土埃が治ると、カピロテ達は誰一人として例外なく壁際へと吹き飛ばされていた。
「すげ……」
呆気に取られる男性冒険者。他の二人も同様に目をぱちくりとさせている。
「流石は使い勝手の良い風魔術ね」
「そうなんですか?」
「ええ。だって、他の属性魔術や弓矢なんかも吹き散らせるし、目眩しにももってこい。何より、火や水が残らないからね」
「ああ。そうか」
火魔術は火自体が残ってしまって二次被害がでてしまう。その点、風の魔術は何も残らない。もっとも、私が使っているのは風魔術じゃないけどね。
「魔術の講義は後にして、奴らが立て直す前に脱出するぞ」
オーケー、とっとと逃げだそうか。という男性冒険者の言葉で、壁を這うように設えてある螺旋階段をえっちらおっちらと駆け上がる。ふと下を見ると、カピロテの幾人かが復帰しようとしている所だった。
「ところで、商隊の人達はどうします?」
「商隊の人達?」
「はい。皆さん牢に捕らわれていましたが」
階段を登る足を止め、手すりから階下を見る男性冒険者。そして階下に向けていた視線を私に戻す。
「ダメだな。助けている時間がない。奴らに追いつかれる」
「そうね。私達だけで一旦脱出して、警備隊を引き連れてくるしかないわ」
男性冒険者に次いで階下を覗き込む女性冒険者。そんな彼らにふと閃いたアイデアを提示する。
「じゃあ、通路。塞いじゃいます?」
「「「え?」」」
声だけでなく唖然とする仕草もハモる冒険者達。
「階段を上がると通路になってますので、それを崩落させるんです」
「で、出来るの?」
「はい。簡単ですよ」
壁の向こう側にも空気は存在している。その空気を内側に向かって押し出すだけで容易に崩落をおこす事が出来る。
「はっはっは。そいつはいいや。あんな危険な連中、生き埋めにしてやろうぜ」
「それならみんなで脱出する時間も稼げるか……」
考え込む男性冒険者。頭の中では脱出する時間の計算でもしているのだろう。
「よし。嬢ちゃんの案を採用しよう。安易に突破出来ない様に念入りに崩してくれ」
「分かりました」
そう結論が出たところで、私たちは再び階段を上り始めた。
☆ ☆ ☆
階段を上り、通路を進むこと少し。私が最初にカピロテ達と遭遇した別れ道へと戻ってきた。ここを右に行けば牢屋に続き、左に行けば恐らくは外に通じているはずだ。
「んじゃ、オレ達は捕らわれのオジサマ達を救ってくらぁな」
ひらひらと手を振り、男性冒険者の二人が牢屋へと向かう。この場には女性冒険者が残った。彼女の名前はアキさんといった。
「それじゃ、こっちも始めましょうか」
「そうですね」
私はポケットから宝石(偽)を取り出し、これから使うのは魔術である。という前提を作る。そして意識を壁の向こう側に集中し、内側に向かって空気を膨らませる事で簡単に崩落をおこせるのだ。
「けほっけほっ」
ガラガラと崩れ落ちる壁に土埃が舞い上がり、顔を顰めながらパタパタと手で払う。
「完了しました」
「地下の事とといい今の事といい、とんでもねー小娘だな」
返ってきた返事が予想外の野太い声に、私は慌てて振り返る。そこには、商隊を襲ったリーダー格の男がアキさんの首に腕を回して羽交締めにし、その首筋に一本の針の様なものを突き立てていた。
「おっと、下手な真似はするなよ? こいつには毒を塗ってある。少しでも体内に入ればこの女は死ぬ事になる」
「一体何処から……」
「なに、この遺跡には隠し通路がそこかしこにあってな、それを通ってきた訳だ。それにしても、上手い事ことが運んでいたのにお前の所為で台無しだ。ここいらで元通りといきたいモノだな」
そうはさせない。と言いたい所だけど、アキさんに突き付けている毒針が厄介でしょうがない。弾き飛ばそうにも壁なんかに当たって何処へ飛ぶかも分からない。ここは様子見が正解か。
「捕らえた人達をどうするつもりなの? 身代金でも請求するつもり?」
「身代金だと?」
男は鼻で笑う。
「いいや。お前達には我らが神の生贄となってもらう」
「生贄ですって?!」
男に拘束されているアキさんが声を上げる。
「そんな何処の馬の骨か知らない邪神の糧になるつもりはぐうっ!」
アキさんの首に巻きついている男の腕がみるみるうちに膨れ上がっていく。その腕を掴んで剥がそうとするも手よりも腕のほうが太い為になす術がなく腕を掻きむしる。
「図に乗るなよ女ぁ。我らの神を愚弄する事は許さんぞ」
「分かったから、それくらいにしなさい」
そう言うと男は腕の力を緩めた。
「生贄は死んだら意味がないでしょ」
「別にこいつじゃなくとも他に居るしな」
確かにそうだ。
「で? 折角だしあなた達の神とやらを紹介してはもらえないかしら?」
生贄を捧げるくらいだからアキさんの言う通りに邪神なんだろうけど。
「…………いいだろう」
少し間をあけて男は返事をする。そこへ連れて行っても平気かどうか考えたって所か。
「こっちへ来い」
男は出口側の通路を後退る。そして、壁と床の間にある突起物を足で押し込むと壁がゴリゴリと動いた。
「隠し通路……」
男が言っていたヤツか。そこかしこと言うくらいだまだ他にもあるとみていいだろう。
「入ったら壁にある松明を取れ」
「これ?」
壁にかかっている松明を手に取る。そして男は何やら呟き始めた。
「万物の根源の一つたる火。我が前に顕現せよ。ひとときの灯火を与えよ」
呟きが終わると私の持つ松明にボッと火が灯った。
「ちょっ! 今何したの?!」
「いいから歩け」
松明の明かりの所為なのか。男の顔色が悪い気がする。ともかく私は男の言う事に従った。
通路は大人が二人並んで歩くくらいの広さがあり、あまり使われていないのか床には埃が積もっている。なだらかに下る道に足を滑らさぬ様注意しつつ歩いていくと古ぼけた一枚の扉に突き当たった。
「開けな」
ドアノブを引っ張り扉を開ける。ギギギィ。と古めかしい音がするかと思いきや、メギメギと壊れそうな音が響き木屑がパラパラと落ちてくる。
「ここは?」
中は本棚が幾つも並べられていた。その棚に乗っている本は背表紙が新しいものからボロボロのものまで様々。
「世界の異変に気付き、その謎を解き明かしたある人物の書物だ」
「これ全部……?」
世界の異変なんて大袈裟すぎる気がするけど。
「目的地はその先だ」
顎で指し示す先には別な扉があった。その扉を押し開くと今度は広い空間に出る。光源が松明の明かりのみなので正確な広さは分からないが、口を開けて見上げるほどに天井は高く、火を焚いたくらいでは室温が変化しないほどに広くヒンヤリとしている。そして、天井に届こうかという大きな神像が鎮座していた。
「この像は……」
胸板は厚めに彫られ、体は全体的にガッチリと作られている。各地の教会に祀られている像とは明確に異なっている。あるべきものがなくてあるはずのないものがついている。
「我々男神教が崇める神。トアム様の神像だ」
「な……」
男が言ったその言葉に私は目を見開き驚いていた。
そんな町の最奥部に作り上げられた神殿。その内部には静寂ではなくある種の熱を帯びた者達によって支配されていた。その集団の名は『烏木党』。彼等は一体何が目的で何の為にこんな所に引きこもっているのだろうか? その辺の事情を探るべく奴等の中に紛れ込んで情報収集をしようとしたのだけれど……
「ってなーっ! こんちくしょーっ!」
銀色に輝くナイフを手にした冒険者が叫び、そして攻撃したであろうカピロテに蹴りを加えて吹き飛ばす。冒険者に攻撃を加えようと棒を振りかぶっていたカピロテもこれに巻き込まれて尻餅を付いていた。そこへ冒険者の追撃が加わる。
「あらよっと。さっきのお返しだぃっ!」
倒れたカピロテの顎に冒険者の蹴りが炸裂して、そのまま動かなくなった。その冒険者の後ろでは、女性冒険者が長さは三十センチ以上はあるであろう針。いや、もはや杭といっても差し支えない先端の尖った棒を水平に持ってゆらゆらと上下に揺らし、射程内に入り込んだ輩を刺し貫く。その姿はさながらフェンシングの様だ。そしてまた一人彼女の犠牲となる。
「痛でぇっ!」
刺し貫かれたカピロテは傷口を押さえながら痛い痛いと転げ回る。その暴れっぷりが他のカピロテ達が彼女に近付く事を阻んでいた。
「ホラホラ。モタモタしているとお仲間が出血多量で死んじゃうわよ?」
即死を避け、時間的猶予を与える事で一手間増やして攻撃を鈍らせる。なるほど。考えている。そして……
ぢょっきん。ぢょっきん。
近付いたらちょんぎってやる。と、言わんばかりに剪定ばさみを開いたり閉じたりさせながらカピロテ達を牽制する男性冒険者。
それぞれが最善の状況を作り出して、押し寄せるカピロテに対処をしていた。しかしそれも長くは続かなかった。
「うっ?!」
針で突き刺していた女性冒険者に何かが飛来したのだ。床に転がるそれを視認してこれは不味いと思って顔を上げた瞬間。大小様々な石が私達に降り注ぐ。
殺到していたカピロテ達は数歩下がって壁を作り、後方に居る者達は石を拾っては投げてを繰り返す。流石な冒険者達でも装備が十分でない以上はこの攻撃の対処方法がない。目に当たらない様に顔をガードして身を固めるのが精一杯だ。最早これまで。そう判断した私は口を開いた。
「皆さん私の側に!」
その呼び掛けに即座に反応する冒険者達。私を投石から守る様に囲み、身を固めて投石からのダメージを少なくする。私はその囲みの中心で人差し指と中指に挟んだ宝石を高々とあげる。途端、空気が澱む地下室に風が生まれた。
「なっ、なんだ?!」
突然の事に宙を見るカピロテ達。その間にも風は強くなり部屋の埃を舞い上がらせる。
「あの小娘だ! 魔術を止めろ!」
誰が言ったかその言葉にハッと気付いたカピロテ達の視線を受ける。だけど遅かった。風は私に意思によって強風となり、暴風へと至るまでさしたる時間はかからなかった。
荒れ狂う風は土埃を舞上げて、カピロテ達の姿だけでなく悲鳴すらも呑み込んで地下室を蹂躙する。風が止み土埃が治ると、カピロテ達は誰一人として例外なく壁際へと吹き飛ばされていた。
「すげ……」
呆気に取られる男性冒険者。他の二人も同様に目をぱちくりとさせている。
「流石は使い勝手の良い風魔術ね」
「そうなんですか?」
「ええ。だって、他の属性魔術や弓矢なんかも吹き散らせるし、目眩しにももってこい。何より、火や水が残らないからね」
「ああ。そうか」
火魔術は火自体が残ってしまって二次被害がでてしまう。その点、風の魔術は何も残らない。もっとも、私が使っているのは風魔術じゃないけどね。
「魔術の講義は後にして、奴らが立て直す前に脱出するぞ」
オーケー、とっとと逃げだそうか。という男性冒険者の言葉で、壁を這うように設えてある螺旋階段をえっちらおっちらと駆け上がる。ふと下を見ると、カピロテの幾人かが復帰しようとしている所だった。
「ところで、商隊の人達はどうします?」
「商隊の人達?」
「はい。皆さん牢に捕らわれていましたが」
階段を登る足を止め、手すりから階下を見る男性冒険者。そして階下に向けていた視線を私に戻す。
「ダメだな。助けている時間がない。奴らに追いつかれる」
「そうね。私達だけで一旦脱出して、警備隊を引き連れてくるしかないわ」
男性冒険者に次いで階下を覗き込む女性冒険者。そんな彼らにふと閃いたアイデアを提示する。
「じゃあ、通路。塞いじゃいます?」
「「「え?」」」
声だけでなく唖然とする仕草もハモる冒険者達。
「階段を上がると通路になってますので、それを崩落させるんです」
「で、出来るの?」
「はい。簡単ですよ」
壁の向こう側にも空気は存在している。その空気を内側に向かって押し出すだけで容易に崩落をおこす事が出来る。
「はっはっは。そいつはいいや。あんな危険な連中、生き埋めにしてやろうぜ」
「それならみんなで脱出する時間も稼げるか……」
考え込む男性冒険者。頭の中では脱出する時間の計算でもしているのだろう。
「よし。嬢ちゃんの案を採用しよう。安易に突破出来ない様に念入りに崩してくれ」
「分かりました」
そう結論が出たところで、私たちは再び階段を上り始めた。
☆ ☆ ☆
階段を上り、通路を進むこと少し。私が最初にカピロテ達と遭遇した別れ道へと戻ってきた。ここを右に行けば牢屋に続き、左に行けば恐らくは外に通じているはずだ。
「んじゃ、オレ達は捕らわれのオジサマ達を救ってくらぁな」
ひらひらと手を振り、男性冒険者の二人が牢屋へと向かう。この場には女性冒険者が残った。彼女の名前はアキさんといった。
「それじゃ、こっちも始めましょうか」
「そうですね」
私はポケットから宝石(偽)を取り出し、これから使うのは魔術である。という前提を作る。そして意識を壁の向こう側に集中し、内側に向かって空気を膨らませる事で簡単に崩落をおこせるのだ。
「けほっけほっ」
ガラガラと崩れ落ちる壁に土埃が舞い上がり、顔を顰めながらパタパタと手で払う。
「完了しました」
「地下の事とといい今の事といい、とんでもねー小娘だな」
返ってきた返事が予想外の野太い声に、私は慌てて振り返る。そこには、商隊を襲ったリーダー格の男がアキさんの首に腕を回して羽交締めにし、その首筋に一本の針の様なものを突き立てていた。
「おっと、下手な真似はするなよ? こいつには毒を塗ってある。少しでも体内に入ればこの女は死ぬ事になる」
「一体何処から……」
「なに、この遺跡には隠し通路がそこかしこにあってな、それを通ってきた訳だ。それにしても、上手い事ことが運んでいたのにお前の所為で台無しだ。ここいらで元通りといきたいモノだな」
そうはさせない。と言いたい所だけど、アキさんに突き付けている毒針が厄介でしょうがない。弾き飛ばそうにも壁なんかに当たって何処へ飛ぶかも分からない。ここは様子見が正解か。
「捕らえた人達をどうするつもりなの? 身代金でも請求するつもり?」
「身代金だと?」
男は鼻で笑う。
「いいや。お前達には我らが神の生贄となってもらう」
「生贄ですって?!」
男に拘束されているアキさんが声を上げる。
「そんな何処の馬の骨か知らない邪神の糧になるつもりはぐうっ!」
アキさんの首に巻きついている男の腕がみるみるうちに膨れ上がっていく。その腕を掴んで剥がそうとするも手よりも腕のほうが太い為になす術がなく腕を掻きむしる。
「図に乗るなよ女ぁ。我らの神を愚弄する事は許さんぞ」
「分かったから、それくらいにしなさい」
そう言うと男は腕の力を緩めた。
「生贄は死んだら意味がないでしょ」
「別にこいつじゃなくとも他に居るしな」
確かにそうだ。
「で? 折角だしあなた達の神とやらを紹介してはもらえないかしら?」
生贄を捧げるくらいだからアキさんの言う通りに邪神なんだろうけど。
「…………いいだろう」
少し間をあけて男は返事をする。そこへ連れて行っても平気かどうか考えたって所か。
「こっちへ来い」
男は出口側の通路を後退る。そして、壁と床の間にある突起物を足で押し込むと壁がゴリゴリと動いた。
「隠し通路……」
男が言っていたヤツか。そこかしこと言うくらいだまだ他にもあるとみていいだろう。
「入ったら壁にある松明を取れ」
「これ?」
壁にかかっている松明を手に取る。そして男は何やら呟き始めた。
「万物の根源の一つたる火。我が前に顕現せよ。ひとときの灯火を与えよ」
呟きが終わると私の持つ松明にボッと火が灯った。
「ちょっ! 今何したの?!」
「いいから歩け」
松明の明かりの所為なのか。男の顔色が悪い気がする。ともかく私は男の言う事に従った。
通路は大人が二人並んで歩くくらいの広さがあり、あまり使われていないのか床には埃が積もっている。なだらかに下る道に足を滑らさぬ様注意しつつ歩いていくと古ぼけた一枚の扉に突き当たった。
「開けな」
ドアノブを引っ張り扉を開ける。ギギギィ。と古めかしい音がするかと思いきや、メギメギと壊れそうな音が響き木屑がパラパラと落ちてくる。
「ここは?」
中は本棚が幾つも並べられていた。その棚に乗っている本は背表紙が新しいものからボロボロのものまで様々。
「世界の異変に気付き、その謎を解き明かしたある人物の書物だ」
「これ全部……?」
世界の異変なんて大袈裟すぎる気がするけど。
「目的地はその先だ」
顎で指し示す先には別な扉があった。その扉を押し開くと今度は広い空間に出る。光源が松明の明かりのみなので正確な広さは分からないが、口を開けて見上げるほどに天井は高く、火を焚いたくらいでは室温が変化しないほどに広くヒンヤリとしている。そして、天井に届こうかという大きな神像が鎮座していた。
「この像は……」
胸板は厚めに彫られ、体は全体的にガッチリと作られている。各地の教会に祀られている像とは明確に異なっている。あるべきものがなくてあるはずのないものがついている。
「我々男神教が崇める神。トアム様の神像だ」
「な……」
男が言ったその言葉に私は目を見開き驚いていた。
20
お気に入りに追加
264
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(1件)
あなたにおすすめの小説
冷宮の人形姫
りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。
幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。
※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。
※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので)
そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。
私の家族はハイスペックです! 落ちこぼれ転生末姫ですが溺愛されつつ世界救っちゃいます!
りーさん
ファンタジー
ある日、突然生まれ変わっていた。理由はわからないけど、私は末っ子のお姫さまになったらしい。
でも、このお姫さま、なんか放置気味!?と思っていたら、お兄さんやお姉さん、お父さんやお母さんのスペックが高すぎるのが原因みたい。
こうなったら、こうなったでがんばる!放置されてるんなら、なにしてもいいよね!
のんびりマイペースをモットーに、私は好きに生きようと思ったんだけど、実は私は、重要な使命で転生していて、それを遂行するために神器までもらってしまいました!でも、私は私で楽しく暮らしたいと思います!
異世界を【創造】【召喚】【付与】で無双します。
FREE
ファンタジー
ブラック企業へ就職して5年…今日も疲れ果て眠りにつく。
目が醒めるとそこは見慣れた部屋ではなかった。
ふと頭に直接聞こえる声。それに俺は火事で死んだことを伝えられ、異世界に転生できると言われる。
異世界、それは剣と魔法が存在するファンタジーな世界。
これは主人公、タイムが神様から選んだスキルで異世界を自由に生きる物語。
*リメイク作品です。
拝啓、お父様お母様 勇者パーティをクビになりました。
ちくわ feat. 亜鳳
ファンタジー
弱い、使えないと勇者パーティをクビになった
16歳の少年【カン】
しかし彼は転生者であり、勇者パーティに配属される前は【無冠の帝王】とまで謳われた最強の武・剣道者だ
これで魔導まで極めているのだが
王国より勇者の尊厳とレベルが上がるまではその実力を隠せと言われ
渋々それに付き合っていた…
だが、勘違いした勇者にパーティを追い出されてしまう
この物語はそんな最強の少年【カン】が「もう知るか!王命何かくそ食らえ!!」と実力解放して好き勝手に過ごすだけのストーリーである
※タイトルは思い付かなかったので適当です
※5話【ギルド長との対談】を持って前書きを廃止致しました
以降はあとがきに変更になります
※現在執筆に集中させて頂くべく
必要最低限の感想しか返信できません、ご理解のほどよろしくお願いいたします
※現在書き溜め中、もうしばらくお待ちください
異世界テイスト ~宿屋の跡継ぎは、転生前の知識とスキルで女性と客をもてなす~
きーす
ファンタジー
介護職の椎名守24歳が交通事故に巻き込まれたが、女神の計らいで宿屋を経営する両親を亡くした少年シーマへと転生することに。
残された宿屋と大切な女性たち?を守るために、現代の知識とスキルを駆使して異世界を魅了していく物語。
よくある異世界転生のチーレムもので、飯テロ要素も加えてます。
出来るだけですが、週4回くらいのペースで更新していく予定ですので、末永くご愛顧くださいますようお願いいたします。
※この作品は小説家になろう、カクヨムなどにも投稿されております。
異世界でのんびり暮らしてみることにしました
松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。
異世界生活〜異世界に飛ばされても生活水準は変えません〜
アーエル
ファンタジー
女神に愛されて『加護』を受けたために、元の世界から弾き出された主人公。
「元の世界へ帰られない!」
だったら死ぬまでこの世界で生きてやる!
その代わり、遺骨は家族の墓へ入れてよね!
女神は約束する。
「貴女に不自由な思いはさせません」
異世界へ渡った主人公は、新たな世界で自由気ままに生きていく。
『小説家になろう』
『カクヨム』
でも投稿をしています。
内容はこちらとほぼ同じです。
森だった 確かに自宅近くで犬のお散歩してたのに。。ここ どこーーーー
ポチ
ファンタジー
何か 私的には好きな場所だけど
安全が確保されてたらの話だよそれは
犬のお散歩してたはずなのに
何故か寝ていた。。おばちゃんはどうすれば良いのか。。
何だか10歳になったっぽいし
あらら
初めて書くので拙いですがよろしくお願いします
あと、こうだったら良いなー
だらけなので、ご都合主義でしかありません。。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
楽しく拝読させていただいております
10話のタイトルですが、「拉致された」の方が良いのではないでしょうか
お読みいただき誠に有り難う御座います。
ご指摘頂いた通りにサブタイトルの変更をさせて頂きました。有り難う御座います。
今後ともどうぞ宜しくお願い致します。