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三 神より与えられし力
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――あれから三日。今日も私は学校帰りに街の郊外の森へと寄り道をしてこっそりと訓練を行っている。私に与えられた神の祝福はこの世界に存在するどの魔術にも当てはまらない事から、大っぴらに見せびらかすわけにはいかないと判断した。なにせ私に与えられたのは『空気を自在に操れる』というものだからだ。
七大魔術の風に似ているけどその実は全くの別物。一定空間内を真空にしたり、逆に水中でも呼吸を可能にしたり出来るし圧縮させて破裂させる事も可能。その圧縮開放実験を行い、もうもうと上がる土煙が収まった跡地を見て、目をパチクリとさせながら口をだらんと開けていた。
「なんつー威力や……」
下草は勿論の事、生い茂る木々をなぎ倒して、設置した箇所が深く抉られている。直径は十五メートルで深さはだいたい三メートルといったところだろう。それほど力を込めた訳ではないのだが……
「何だ!? 今の爆発はっ?!」
「やばっ!」
人の声に慌てて木立に身を隠すと同時に景色に溶け込む様に術を操作する。体のあちこちがまるで何かで抉られたかの様に消えていき、やがて完全に消えて景色と同化する。そして息を潜めて声を発した人を待った。
ガサリガサリと草をかき分けてやって来たのは二十代の男性。着ている鎧からしてこの街の衛兵さんだと思われる。男性は手に槍を持ちその矛先を進行方向に向けて警戒しながら進み、現場へと着いてその目を見開いた。
「な、なんだ。これは……?」
眼前に見えるはでっかいクレーター。辺りを見渡すも犯人と思しき人影は見えない。呆気にとられている衛兵さんにバレない様、抜き足差し足で家にもどっ――
「本部に報告しなくてはっ!」
うおっ、危ないっ! 急に方向転換しないでよっ! 危なく衝突する所だったじゃないか!
姿を消す事の出来るこの術も、存在自体が消える訳ではないので触れる事も出来れば衝突もする。徐々に集まりつつある野次馬の間を上手い事すり抜けて、なんとか家路に就く事が出来た。
☆ ☆ ☆
「ねね、郊外の森に正体不明の魔物が出現するらしいよ」
「なんでも巨大な穴を掘る魔物だそうよ」
「いやいや。オレは影法師の仕業だって聞いたぜ」
「あそこは紅玉石の範囲内だろ? 影法師は活動できないんじゃないか?」
休み時間。各々が聞いた話を披露しあう。それに聞き耳を立てていた私は内心で汗をかいていた。
あれから二日しか経ってないのにめっちゃ噂になってるぅ。
「もし、影法師の仕業だとしたら一大事ですわね」
「そうだよねぇ」
話を聞いていたヴィエラが腕を組みながら言い、ケイトは一大事には程遠い呑気な顔でうんうんと頷く。
「そ、そんなに慌てる必要もないんじゃ……?」
「何を言ってますのルナ。『紅玉石』という防衛機構があるからこそ人類は生活出来ているのですわ。それが破られたとなると……これから被害が拡大するのは目に見えています」
「う……」
私達はまだ神託の儀を終えてはおらず、能力発現の根源である宝石を授かってはいない。その為、『あ、あれあたしがやったの。あははは……』とは口が避けても言えない。まあ、授かる属性によってはあんな事が出来るはずは無いのだが。
「一部の貴族は夜逃げ同然に引っ越ししたらしいですわ」
そこまで大袈裟になってんの?!
「それってミール伯爵様の事? あの人って今は行方不明らしいよ」
「そうなんですの?」
「うん。なんでも家財を乗せた馬車だけが隣街に着いたって話。伯爵様本人どころか、御者も従者もきれいさっぱり消えてたんだって」
何それ怖っ!
「……え? ちょっと待って。紅玉石は持ち歩いてなかったの?」
街の外を主な活動の場としている冒険者ですら装備やアクセサリー等に加工して持ち歩いているというのに、伯爵様ほどの人が影法師除けの紅玉石を持ち歩いてない訳がない。
「それが、あるべき場所にあるはずの物が無かったってパパが言ってた」
「それは奇妙な話ですわね……」
指で顎をトントンするヴィエラ。ケイトの父親であるニューニット男爵は警備隊の隊長を勤めている。娘とはいえ捜査情報をベラベラと喋るのはいただけないが、我が親と同様にかの男爵も娘を溺愛しているのでケイトかその姉が上手い事情報を引き出したのだろうと思われる。
「もしかしたら、何者かの陰謀によるものかもしれませんわね」
「陰謀……?」
「そうですわ。ミール卿ご自身、良からぬ噂ばかりが流れていましたもの」
暴力を振るったり虐待したり。まあ、悪徳貴族の見本みたいな事をしていた様で、恨みを持つ者達が今回の騒動に便乗したのだろうとヴィエラは言った。
ガランゴロン。と、本日一回目の授業の始まりの鐘が鳴る。立っていた生徒が自身にあてがわれた席に着いた頃、教室の引き戸がカラリと開けられて担任のマリアンヌ先生が教壇に立った。
「さて。本日これより皆さん待望の神託の儀を行います。他のクラスでは授業を行っていますので、静かに大聖堂へ移動をして下さい。それとアストルムさん。体は大丈夫ですか?」
「はい。大丈夫です」
以前倒れたのは前世の記憶が蘇った所為で脳に負荷が掛かってしまったのだと推測している。なので、全てを思い出して整理をし終わった今なら問題は無いと思われた。
「そうですか。異変を感じたらすぐに先生に言ってね」
「はい」
「それでは、静かに移動をして下さい」
ガタリ、ギギギと耳障りな音が聞こえ、嬉しさのあまりお喋りをする者が続出する。『騒ぐんじゃねぇ』と言わんばかりに睨み付けるマリアンヌ先生に、気付いた者は萎縮して気付かぬ者に諭して黙らせていた。
☆ ☆ ☆
王立フォルテイア学院の敷地内にその大聖堂は建てられていた。外観は某ランドに聳え立つお城に似ていて、広さはちょっとした学校がスッポリと入ってしまう程。熱心な信徒が列をなした先で祀られているのは、世界創造の女神である『エルミナ』だ。
「本当は男神なのにな……」
「何か言いました?」
「う、ううん。なんでもない」
ボソリと呟いたのをヴィエラに拾われて慌てる。本物を見た事があると言った所で頭おかしい子のレッテルを貼られるだけだ。
「それにしても……」
祀られている像を見上げてふと思う。人は何故、女神を求めるのだろうか? と。像からはエロスを感じるボンキュッボンのナイスバディ。それを良しとして嬉々として祀る教会もどうかと思う。偶像とエロスは切り離すべきではないだろうか?
「それでは皆様、お好きな席にお座り下さい」
ここまで案内をしてくれた、五十代と思しきシスターが言うと、生徒達が思い思いの場所に座る。私はというと、ヴィエラ、ケイトといつものメンバーと並んで座っていた。
「皆様の前に置かれているのが、知の揺籠と呼ばれている神器です。今は中に何も入ってませんが、皆様が女神様に祈りを捧げる事で宝石を授かります。それは皆様の今後に大きく役立つ事でしょう」
言ってシスターは静かに祈りを捧げる。その言葉を聞いて、気の短い男の子達は祈りを捧げて蓋を開けるも何も無い事に首を傾げ、本当なのかと疑問の言葉を口にしていた。
「それではこれより神託の儀を始めます。皆様、箱の前で手を合わせて目を閉じ、女神エルミナ様に祈りを捧げましょう」
シスターが手を合わせて祈りを捧げると、どこからともなく流れてきたパイプオルガンの音色が体を優しく包み込む。
穏やかに流れるパイプオルガンの音色の中で、カタリ。と、音色とは明らかに違った音が微かに聞こえた気がした。
「それでは皆様、ゆっくりと目を開けて箱の中身を確認して下さい」
言われて箱を開け、そしてわぁっと歓喜が上がる。ある者は黄緑。またある者は水色と白。何も無かった筈の箱の中には、それぞれに輝く宝石が在った。
「すごっ! ヴィエラの箱には三つも入ってるっ!」
「えっ?!」
「ウソ……」
「マジで!?」
ケイトの言葉に周りの生徒が騒ぐ。見ればヴィエラの箱には、黄色と黄緑色。そして黒く輝く宝石が置かれていた。
「四つではありませんでしたか……」
残念そうにヴィエラは言うが、三属性でも十分にレアだと思う。四属性を授かった人なんて、人類史上稀でしかないんだから。
「ケイトはどうなんですの?」
「私? 私は二個ぉ」
頬にVサインをくっ付けるケイト。箱の中には水色と黄緑色の宝石が入っていた。
そして、互いに見せ合いっこをした二人が、今度は私をジッと見つめる。
「ああ。次は私の番か」
「そうですわ」
「うんうん」
ヴィエラのトリプルホルダーに気を取られ、私の箱は未だ開けられてはいない。
私は知っている。ラノベにしろアニメにしろ、異世界転移・転生モノには大抵チートと呼ばれるとんでも能力が付いている事を。
だからこの蓋を開けると宝石がゴロゴロと入っていて、人類初のセヴンスホルダーとなってクラスメイトからだけじゃなく、学院や果ては国からも注目を浴びる人生を歩むのではないかと。
ゴクリ。と、唾を飲み込み、両手で箱の蓋を掴んで一気に開ける。そして私は台の上に突っ伏した。
「一個だったね」
「言わなくてもよろしいですわ」
「何故?!」
箱をガッと掴んで問い掛ける。異世界転生という条件クリアはしているのに、赤く輝く宝石が一個。その色から火属性である事が分かる。
「私とヴィエラの風属性だけが同じであとは違うね」
「そうですわね。わたくしのは風と土。それと結属性ですわね」
宝石の色によって属性が分かる。赤は火、水色は水。黄色が土で黄緑色が風。そして白は癒、紫色は除、黒色は結。といった具合だ。
「うう。一個かぁ……」
「落ち込んでいても仕方ないですわ。火属性なんて使い勝手がよろしいじゃありませんの」
「世界を旅するのには不足だよぉ。せめてあと水属性でもあったらなぁ……」
はふぅ。と大きくため息を吐く。火と水。この二つがあれば快適な旅が出来るだろうとみている。火で焚き火を起こす事が出来、水で飲み水にも困らない。両方合わせてお風呂だって毎日入れちゃう。
「え、なに? ルナってば将来世界を旅するつもりなの?!」
「あっ」
慌てて口を塞ぐも時すでに遅し。ケイトの目はランランと輝き、ヴィエラは呆れた顔をする。
「まさか、世界中をですの? それは無謀にも程がありますわ」
無謀とまで言うか。
「出来ればだよ。出来れば」
あはは。と、頬をかきながら空笑い。身の安全を図りつつ、出来うる限り世界を見て回ろうと思っている。
「まあ、今スグにって訳じゃないから。少なくとも卒業してからかな……」
それまでに宝石の力を十二分に引き出せるようになれればと思っている。……よくよく考えてみると、授かった宝石が一個だったのは好都合だ。二つ、三つにかける時間を一つに集約する事が出来る。
そして、転生特典で貰った神の祝福とも相性が良い。
これは色々と試してみないとと思うと無意識に顔がほころびた。
七大魔術の風に似ているけどその実は全くの別物。一定空間内を真空にしたり、逆に水中でも呼吸を可能にしたり出来るし圧縮させて破裂させる事も可能。その圧縮開放実験を行い、もうもうと上がる土煙が収まった跡地を見て、目をパチクリとさせながら口をだらんと開けていた。
「なんつー威力や……」
下草は勿論の事、生い茂る木々をなぎ倒して、設置した箇所が深く抉られている。直径は十五メートルで深さはだいたい三メートルといったところだろう。それほど力を込めた訳ではないのだが……
「何だ!? 今の爆発はっ?!」
「やばっ!」
人の声に慌てて木立に身を隠すと同時に景色に溶け込む様に術を操作する。体のあちこちがまるで何かで抉られたかの様に消えていき、やがて完全に消えて景色と同化する。そして息を潜めて声を発した人を待った。
ガサリガサリと草をかき分けてやって来たのは二十代の男性。着ている鎧からしてこの街の衛兵さんだと思われる。男性は手に槍を持ちその矛先を進行方向に向けて警戒しながら進み、現場へと着いてその目を見開いた。
「な、なんだ。これは……?」
眼前に見えるはでっかいクレーター。辺りを見渡すも犯人と思しき人影は見えない。呆気にとられている衛兵さんにバレない様、抜き足差し足で家にもどっ――
「本部に報告しなくてはっ!」
うおっ、危ないっ! 急に方向転換しないでよっ! 危なく衝突する所だったじゃないか!
姿を消す事の出来るこの術も、存在自体が消える訳ではないので触れる事も出来れば衝突もする。徐々に集まりつつある野次馬の間を上手い事すり抜けて、なんとか家路に就く事が出来た。
☆ ☆ ☆
「ねね、郊外の森に正体不明の魔物が出現するらしいよ」
「なんでも巨大な穴を掘る魔物だそうよ」
「いやいや。オレは影法師の仕業だって聞いたぜ」
「あそこは紅玉石の範囲内だろ? 影法師は活動できないんじゃないか?」
休み時間。各々が聞いた話を披露しあう。それに聞き耳を立てていた私は内心で汗をかいていた。
あれから二日しか経ってないのにめっちゃ噂になってるぅ。
「もし、影法師の仕業だとしたら一大事ですわね」
「そうだよねぇ」
話を聞いていたヴィエラが腕を組みながら言い、ケイトは一大事には程遠い呑気な顔でうんうんと頷く。
「そ、そんなに慌てる必要もないんじゃ……?」
「何を言ってますのルナ。『紅玉石』という防衛機構があるからこそ人類は生活出来ているのですわ。それが破られたとなると……これから被害が拡大するのは目に見えています」
「う……」
私達はまだ神託の儀を終えてはおらず、能力発現の根源である宝石を授かってはいない。その為、『あ、あれあたしがやったの。あははは……』とは口が避けても言えない。まあ、授かる属性によってはあんな事が出来るはずは無いのだが。
「一部の貴族は夜逃げ同然に引っ越ししたらしいですわ」
そこまで大袈裟になってんの?!
「それってミール伯爵様の事? あの人って今は行方不明らしいよ」
「そうなんですの?」
「うん。なんでも家財を乗せた馬車だけが隣街に着いたって話。伯爵様本人どころか、御者も従者もきれいさっぱり消えてたんだって」
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「……え? ちょっと待って。紅玉石は持ち歩いてなかったの?」
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「それが、あるべき場所にあるはずの物が無かったってパパが言ってた」
「それは奇妙な話ですわね……」
指で顎をトントンするヴィエラ。ケイトの父親であるニューニット男爵は警備隊の隊長を勤めている。娘とはいえ捜査情報をベラベラと喋るのはいただけないが、我が親と同様にかの男爵も娘を溺愛しているのでケイトかその姉が上手い事情報を引き出したのだろうと思われる。
「もしかしたら、何者かの陰謀によるものかもしれませんわね」
「陰謀……?」
「そうですわ。ミール卿ご自身、良からぬ噂ばかりが流れていましたもの」
暴力を振るったり虐待したり。まあ、悪徳貴族の見本みたいな事をしていた様で、恨みを持つ者達が今回の騒動に便乗したのだろうとヴィエラは言った。
ガランゴロン。と、本日一回目の授業の始まりの鐘が鳴る。立っていた生徒が自身にあてがわれた席に着いた頃、教室の引き戸がカラリと開けられて担任のマリアンヌ先生が教壇に立った。
「さて。本日これより皆さん待望の神託の儀を行います。他のクラスでは授業を行っていますので、静かに大聖堂へ移動をして下さい。それとアストルムさん。体は大丈夫ですか?」
「はい。大丈夫です」
以前倒れたのは前世の記憶が蘇った所為で脳に負荷が掛かってしまったのだと推測している。なので、全てを思い出して整理をし終わった今なら問題は無いと思われた。
「そうですか。異変を感じたらすぐに先生に言ってね」
「はい」
「それでは、静かに移動をして下さい」
ガタリ、ギギギと耳障りな音が聞こえ、嬉しさのあまりお喋りをする者が続出する。『騒ぐんじゃねぇ』と言わんばかりに睨み付けるマリアンヌ先生に、気付いた者は萎縮して気付かぬ者に諭して黙らせていた。
☆ ☆ ☆
王立フォルテイア学院の敷地内にその大聖堂は建てられていた。外観は某ランドに聳え立つお城に似ていて、広さはちょっとした学校がスッポリと入ってしまう程。熱心な信徒が列をなした先で祀られているのは、世界創造の女神である『エルミナ』だ。
「本当は男神なのにな……」
「何か言いました?」
「う、ううん。なんでもない」
ボソリと呟いたのをヴィエラに拾われて慌てる。本物を見た事があると言った所で頭おかしい子のレッテルを貼られるだけだ。
「それにしても……」
祀られている像を見上げてふと思う。人は何故、女神を求めるのだろうか? と。像からはエロスを感じるボンキュッボンのナイスバディ。それを良しとして嬉々として祀る教会もどうかと思う。偶像とエロスは切り離すべきではないだろうか?
「それでは皆様、お好きな席にお座り下さい」
ここまで案内をしてくれた、五十代と思しきシスターが言うと、生徒達が思い思いの場所に座る。私はというと、ヴィエラ、ケイトといつものメンバーと並んで座っていた。
「皆様の前に置かれているのが、知の揺籠と呼ばれている神器です。今は中に何も入ってませんが、皆様が女神様に祈りを捧げる事で宝石を授かります。それは皆様の今後に大きく役立つ事でしょう」
言ってシスターは静かに祈りを捧げる。その言葉を聞いて、気の短い男の子達は祈りを捧げて蓋を開けるも何も無い事に首を傾げ、本当なのかと疑問の言葉を口にしていた。
「それではこれより神託の儀を始めます。皆様、箱の前で手を合わせて目を閉じ、女神エルミナ様に祈りを捧げましょう」
シスターが手を合わせて祈りを捧げると、どこからともなく流れてきたパイプオルガンの音色が体を優しく包み込む。
穏やかに流れるパイプオルガンの音色の中で、カタリ。と、音色とは明らかに違った音が微かに聞こえた気がした。
「それでは皆様、ゆっくりと目を開けて箱の中身を確認して下さい」
言われて箱を開け、そしてわぁっと歓喜が上がる。ある者は黄緑。またある者は水色と白。何も無かった筈の箱の中には、それぞれに輝く宝石が在った。
「すごっ! ヴィエラの箱には三つも入ってるっ!」
「えっ?!」
「ウソ……」
「マジで!?」
ケイトの言葉に周りの生徒が騒ぐ。見ればヴィエラの箱には、黄色と黄緑色。そして黒く輝く宝石が置かれていた。
「四つではありませんでしたか……」
残念そうにヴィエラは言うが、三属性でも十分にレアだと思う。四属性を授かった人なんて、人類史上稀でしかないんだから。
「ケイトはどうなんですの?」
「私? 私は二個ぉ」
頬にVサインをくっ付けるケイト。箱の中には水色と黄緑色の宝石が入っていた。
そして、互いに見せ合いっこをした二人が、今度は私をジッと見つめる。
「ああ。次は私の番か」
「そうですわ」
「うんうん」
ヴィエラのトリプルホルダーに気を取られ、私の箱は未だ開けられてはいない。
私は知っている。ラノベにしろアニメにしろ、異世界転移・転生モノには大抵チートと呼ばれるとんでも能力が付いている事を。
だからこの蓋を開けると宝石がゴロゴロと入っていて、人類初のセヴンスホルダーとなってクラスメイトからだけじゃなく、学院や果ては国からも注目を浴びる人生を歩むのではないかと。
ゴクリ。と、唾を飲み込み、両手で箱の蓋を掴んで一気に開ける。そして私は台の上に突っ伏した。
「一個だったね」
「言わなくてもよろしいですわ」
「何故?!」
箱をガッと掴んで問い掛ける。異世界転生という条件クリアはしているのに、赤く輝く宝石が一個。その色から火属性である事が分かる。
「私とヴィエラの風属性だけが同じであとは違うね」
「そうですわね。わたくしのは風と土。それと結属性ですわね」
宝石の色によって属性が分かる。赤は火、水色は水。黄色が土で黄緑色が風。そして白は癒、紫色は除、黒色は結。といった具合だ。
「うう。一個かぁ……」
「落ち込んでいても仕方ないですわ。火属性なんて使い勝手がよろしいじゃありませんの」
「世界を旅するのには不足だよぉ。せめてあと水属性でもあったらなぁ……」
はふぅ。と大きくため息を吐く。火と水。この二つがあれば快適な旅が出来るだろうとみている。火で焚き火を起こす事が出来、水で飲み水にも困らない。両方合わせてお風呂だって毎日入れちゃう。
「え、なに? ルナってば将来世界を旅するつもりなの?!」
「あっ」
慌てて口を塞ぐも時すでに遅し。ケイトの目はランランと輝き、ヴィエラは呆れた顔をする。
「まさか、世界中をですの? それは無謀にも程がありますわ」
無謀とまで言うか。
「出来ればだよ。出来れば」
あはは。と、頬をかきながら空笑い。身の安全を図りつつ、出来うる限り世界を見て回ろうと思っている。
「まあ、今スグにって訳じゃないから。少なくとも卒業してからかな……」
それまでに宝石の力を十二分に引き出せるようになれればと思っている。……よくよく考えてみると、授かった宝石が一個だったのは好都合だ。二つ、三つにかける時間を一つに集約する事が出来る。
そして、転生特典で貰った神の祝福とも相性が良い。
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