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第30話 タイムリミット

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 それにしても凄い裁判だったわ。裁判になっていない裁判ってやる意味あるのかしら?

 お蔭で私はあの二人を処刑出来たわけなんだけど、そもそもあんなクソみたいな裁判じゃなければ私はここまで苦労せず普通に生きられたってのにね。


「メルトリア嬢。貴女のお蔭で兄上を追い込む事が出来た。兄上が廃嫡となった以上、貴女は自由の身だ。」

「ありがとうございますわ。」


 廃嫡? そもそも刑が執行されればシュナイザーは死ぬけどね。

 ま、別にいっか。言う必要のない事よね。


「あの……それで、俺と婚約を……。」

「ユリウス殿下。勿論私も同じ気持ちです。ですが、これからは貴方が次期王となるのです。兄が刑に服すというのに、すぐに婚約を結ぶのはいささか外聞が悪いでしょうから……。」

「そ、そうだな。この話はまたいずれ。」

「はい。ありがとうございますわ。」


 ばーか。誰がお前なんかと婚約するものか。

 今だけ愛想良くしておいて後で処分しましょう。


「メルトリア嬢。息子を助けてくれて礼を言う。」

「それには及びません。第一王子を処刑というのは流石にどうかと思いまして……。」

「ありがたい。」


 王が私に頭を下げるなんて意外ね。

 でも本当に礼には及ばないわよ? シュナイザーは百叩きでどうせ死ぬもの。


「メルトリア嬢はこうも高潔な精神を持っていたのか。シュナイザーに見習わせてやりたいものだ。」


 それはどうも。ま、本当はドブみたいな性根を持ってるんだけどね。

 あ、これって王を殺害する絶好の機会じゃない? 何とか今殺せないかしら?


「いえ。私なんてそんな……。」

「ははは。ユリウスが惚れ込むのも分かる気がするな。俺も後20年早く生まれていれば。」

「勿体ないお言葉。」


 嫌よ。この国の王族は例外なくカスだから無理。


「何かあれば遠慮なく言ってくれ。最大限配慮しよう。」

「ありがとうございますわ。」


 死ねって言ったら死んでくれるかしら?

 出来れば焼身自殺でもしてもらいたい。


「では私はこれにて失礼いたします。」

「あぁ、行くと良い。テレーゼとは仲が良いと聞いている。貴族間のあれやこれやで色々と思う事もあるだろうが、これからも仲良くしてやってくれ。」

「はい。勿論ですわ。」


 私は頭を下げ、テレーゼの下に向かった。






















 私とテレーゼは帰りの馬車に揺られている。


「テレーゼ様。ありがとうございますわ。」

「はい。正直ここまで上手くいくとは思ってもいませんでしたね。」

「私も予想外でした。」


 予想ではシュナイザーを処刑まで持っていけず、廃嫡に追い込むくらいのものだと思っていた。

 シュナイザーを処分するのは廃嫡になった後。市井に解き放たれ王族籍を失った無能を私が個人的に暗殺してやれば良いと考えていたのだ。


「これで私の命も一先ずは安泰です。」

「えぇ。メルトリア様は今まで苦労してらっしゃいました。どうかご自愛を。」


 ご自愛なんて言葉、他人からは久しく言われていない。

 何て良い娘なんだろう。


「本当にありがとうございます。」


 でもなぁ……。そうはいかないのよテレーゼ。

 あの時はシュナイザー憎しで百叩きの刑を執行させるよう誘導したけど、シュナイザーが刑を執行されて死んでしまえば、それを知った王は私を憎むでしょうね。

 私は王に目を付けられる事が確定している。

 王家の闇であるマリーベルの実家が消滅しても、アースダイン家は王に追い込まれ滅亡してしまうかもしれない。

 マリーベルとシュナイザーの刑が執行されるのは一週間後。それまでに王を追い落とすか直接手にかけるか考えておかなきゃね。

 失敗したなぁ……。裁判の時はあれが最良だと思っていたけど、シュナイザーを廃嫡に追い込む程度に留めておけば良かった。

 自分で自分のタイムリミットを作ってしまうだなんて……。


「テレーゼ様。何かあれば私がお力添え致します。遠慮なく何でも言って下さいね。」

「それはこちらの台詞ですわメルトリア様。王家の闇を暴き、悪を降したのはメルトリア様です。私の方こそ協力致します。」


 この娘を巻き込むのは申し訳ないけど、正直ありがたいわ。

 丁度良い方法を思いついてしまったから早速話してみましょうか。


「実はテレーゼ様、これで終わりではないのです。」

「え? 王家の闇を暴き、これで平和が訪れるのではないのでしょうか?」


 忘れてる事があるわよテレーゼ? 私も忘れてたけど、王家の闇はケラトル家だった。

 でもね……?


「ケラトル家に悪事を押し付け、トカゲのしっぽ切りをした存在が平然と残っています。それは先々代の頃、ハワード家にも悪事を行わせていた存在。」

「まさか……。」

「そのまさかです。」


 そう。まだ王家が残っている。

 元々は私の作り話でしかなかったけど、あの場面で王が否定しなかった事を考えるなら、王家の闇という役割をケラトル家が行っていたのは事実。

 王は自らに飛び火する事を恐れ、ケラトル家を損切りしたんだ。


「これは……私達の手には余るのではありませんか?」


 余るわね。余りまくりね。これが借金だったら自己破産を申請したいくらいよ。


「テレーゼ様、私達は味方になってくれそうな存在を……いえ。対王家の勢力を築き上げ、王を追い落とすべきです。」


 私が王にとって憎らしい存在となるのなら、どうせならとびっきり憎んでもらおうじゃない。

 反乱勢力の中核を担う存在としてね。


「第一の味方として、婚約者同盟勢力に呼びかけましょう。」

「は、はい。」


 そうだわ。反乱勢力の旗印にマルグリットなんて良いかもしれないわね。

 あれはどうせ処分する予定だった。それなら有効に使い潰すのが最上。

 正攻法で呼びかけてもマルグリットは拒否するでしょうから、拒否できないように追い込んで反乱勢力のトップになってもらおう。

 反乱勢力のトップなら王家に消されても不自然じゃない。どこかのタイミングで死んでもらった後は私が引き継いでも良いし、また別の代理を立てても良い。

 決まりね。


「テレーゼ様。私はマルグリット生徒会長様にトップを務めてもらったらどうかと思いますわ。」

「マルグリット生徒会長様? でも、あの方はお友達を亡くされたばかりで……。」


 ダラスの事か。

 丁度良い理由付けになるわ。あの男、死んだ方が役に立つなんてある種の才能ね。


「だからこそです。マルグリット生徒会長様は大切なお友達を亡くしたばかりで悲しみにくれているでしょう。実はマルグリット生徒会長様ってダラス様の事をお慕いしていたのではないかと思っております。」

「え!?」


 知らんけど。


「侯爵令嬢ともあろう方が人前で泣いていらしたのです。それはもう、お慕いしていたのではないかと。」


 多分な。知らんけど。


「そうですね。その通りだと思います。」


 自分で言っておいてなんだけど、そうなの?


「ダラス様には婚約者であるマリーベル様がいらっしゃいましたし、マルグリット生徒会長様は特にそういった素振りは見せていませんでした。ですが、あの裁判の様子を拝見した限りだとメルトリア様のおっしゃる通りかと。」


 ただの仲良い友達の可能性もあるけど確かにそうかも。適当こいただけなのに、私も段々とそんな気がしてきたわ。


「そういう訳ですので、マルグリット生徒会長様が悲しみに押しつぶされないよう、役目をお願いする事で奮起してもらおうと思いました。それにどうせいつかはマルグリット生徒会長様も気付いてしまいます。復讐すべき対象が王家なのだと。」

「マルグリット生徒会長様が一人で暴走するよりは、皆で協調していこうというお考えですね?」

「はい。如何でしょう?」

「マルグリット生徒会長様を思えば、良い提案だと思います。」


 人はやる事があれば悲しくても誤魔化せる。

 マルグリット生徒会長様には悲しみを誤魔化しつつ、矢面に立ってもらいましょう。


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