上 下
27 / 38

第27話 綱渡り

しおりを挟む

「メルトリア様、大丈夫ですか? お加減が悪いのでしたら尻尾を巻いて退散なさった方が宜しいのでは?」


 マリーベルのさえずり声が勘に触る。


「黙れ。殺すわよ?」

「ひぃっ!?」


 私はこっそり指先に魔力の玉を形成し、誰にも見えないよう手を隠してマリーベルに突き付け小声で話しかける。


(一言でも喋ったら殺してやるから。私がかつてディアナ公爵令嬢の弟を魔法で殺したのは知ってるわよね?)


 コクコクと首を縦に振って震えるマリーベル。

 こんなクソ女、その気になれば直接手をかけて殺せば良い。今はどちらに転ぶか分からないこの状況を何とかしなければ。

 何とか気持ちを落ち着けようと深く呼吸し、卒業生を見渡す。


「居た……。」


 マルグリット生徒会長。あいつは婚約者同盟派閥に引き込んだなかなか使える駒だわ。

 マリーベルがダラス暗殺を企てた証拠っぽい物をあいつに提示してもらえば良い。

 私はマルグリット生徒会長にジッと視線を合わせるが…………。


「え?」


 私と視線の合ったマルグリット生徒会長は気まずそうに視線を逸らした。


「何……で?」


 裏切った?

 いえ、でもあいつはあいつでテレーゼからドントレス大公に話がいくのを恐れているはず。

 ここで従わない理由が…………。


「あっ。」


 そうよ。この場面で大声を出して注目を集めるなど普通の貴族令嬢はやらない。つまり、裏切ったと言うよりは自分の保身を考えたんだ。

 こんな事なら馬鹿なお友達のクラリッサ伯爵令嬢に証拠を持たせておくべきだったわ。

 いくら優秀でも土壇場で使えない駒はない方がマシ。


「私も……私もマリーベル様はダラス様を殺したんだと思います!」

「私もそう思いますわ! 盗賊の動きがきな臭いので調べさせていたら、盗賊がダラス様を狙っているという情報を掴んだのです! あのタイミングでダラス様が死んで一番得をするのは恐らくはマリーベル様です!」


 クラリッサ伯爵令嬢とカタリナ侯爵令嬢が私を庇ってくれた。あの二人は大事なお友達として、なるべく丁重に扱うとしよう。

 そしてここまでお膳立てされているにもかかわらず、マルグリット生徒会長は動く様子がない。

 本当に使えない奴だわ。

 あれ・・はもう……いらない。


「成る程……それは増々マリーベル嬢が怪しいですね! 第二王子として、マリーベル嬢には貴族裁判を要求します!」

「待て! この場でそんな事は許さんぞ! お前達は卒業パーティーを何だと思っている!」


 ふん。使えない王のお出ましか。

 元々お前の躾がなってないからでしょうが。馬鹿な子供を二人も生産しておいて、何を王様ぶっているのかしらね?

 お前の馬鹿ガキどものせいで、こっちは死にそうな目に遭ってるってのに。


「ですが父上……。」

「ですがじゃない! シュナイザーもユリウスもどういうつもりだ! お前達には王族の自覚がないのか!?」

「……。」
「……。」


 無いでしょ。あったらこんな事してないわよ。


「卒業パーティーは卒業生の為に開かれている! お前達の喧嘩の場にするんじゃない! メルトリア嬢、申し訳なかった。シュナイザーには良く言って聞かせるので、どうか婚約破棄は無かった事にしてもらいたい。」

「は?」


 この人は何を言っているの?


「どうした? 不服か? シュナイザーは第一王子だ。ユリウスよりも好物件だろう?」


 信じられない。

 好物件かどうかはもはやどうでも良い。シュナイザー相手に結婚しようという気持ちなど持てという方がどうかしている。


「ではユリウスの方が良いか?」


 正直どちらもいらない。

 馬鹿と無能とどちらが良いですか? と聞かれても選びようなんてない。


「お待ちください王よ! 婚約者選びというのはデリケートな問題ですわ。この場でメルトリア様に決めさせるは酷というもの。」

「そうですね。メルトリア様も色々あってお疲れでしょうし、後日じっくり考えて頂くのが良いかと。」

「おぉ。確かにローズマリーやテレーゼの言う通りだな。」

「……すぐに決められず申し訳ございません。」

「よいよい。二人の言う事も尤もだ。」


 クソ王が。

 クソ王に無能王子に馬鹿王子。こいつら王族など皆殺しにしてやるわ。


「感謝致しますわ。」


 私はマリーベルに指を突き付けながらゆっくり頭を下げた。

 王族も、マリーベルも、マルグリットも……全員殺してやる。
























「どうするのよメルトリア。あれが作戦だったという事?」

「かなり滅茶苦茶でしたけど、メルトリア様は確かに婚約破棄に持っていけそうな流れを作り出しましたわ。」


 卒業パーティーは修羅場もあったけど無事?に終わり、テレーゼが急遽提案して会場の一室にローズマリーと私を誘ってくれた。


「そうね。婚約破棄という意味ではそこまで悪くない結果になったわ。」


 命が危ういところだったけどね。

 マルグリット生徒会長は使えないから証拠を出させた後、以前言い掛かりをつけられた事をドントレス大公に告げ口しよう。

 生徒会メンバーも連座で良いわね。


「問題はどちらと婚約するかですけど……。」

「シュナイザー殿下はあり得ないわね。でもユリウス殿下もちょっと……。」

「まぁ、ローズマリー様。ユリウス殿下は確かにあの場面でマズい発言をしてしまいましたけど、メルトリア様を想う故です。」

「そうかしら?」

「はい。普段は優秀な方です。きっとメルトリア様への愛で少し間違えてしまっただけだと私は考えます。」

「うーん……。」


 テレーゼの言いたい事も理解出来なくはない。

 でもね? 今は馬鹿な可愛い子供で済むんだけど、万一あのまま大人になればただの馬鹿な大人が完成するのよ?

 要するにただの馬鹿じゃない。


「メルトリア様はどうなさりたいのでしょうか?」

「私はどちらもごめんです。今日の出来事ではっきりしました。王族との結婚は願い下げです。」


 愛に生きる男と言えば聞こえは良い。でも、私への愛で場の流れを読んだり出来ないのは致命的だわ。

 結婚後にユリウスがポカをやらかして、私が敵対的な勢力に謀殺される危険がある。


「この流れならどちらも断れそうだけど、それはそれで王の機嫌を損ねるわよ?」

「そうですね。せめてユリウス殿下を選ばなければ危険かと。」


 クソがっ。

 さっきマルグリット生徒会長が証拠を提示してさえいれば、あの流れでマリーベルとシュナイザーを排除出来た可能性は高い。

 そうなれば残った王とユリウスを始末するだけで良かったのに……。

 爪を噛みたい気持ちを必死に抑え込んでいると、コンコンとノックの音が聞こえてくる。


「あの……マルグリットです。このお部屋に入っていく皆様をお見かけしましたもので。」

「まぁ、マルグリット生徒会長様? どうぞお入りください。」

「失礼します。」


 ガチャリとドアを開け、使えない駒マルグリットが入ってきた。


「先程は申し訳ございません。あの状況で割って入っていくのは常識的にマズいと思いまして……。」

 使えない駒マルグリットが頭を下げて謝罪する。


「いえいえ。あの場面では仕方ありません。私は気にしていませんよ?」

「ありがとうございますメルトリア様。」


 使えない駒マルグリットの謝罪に価値はない。

 こいつを処分するのは決定事項だけど、どう処分しようかしら?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

学園長からのお話です

ラララキヲ
ファンタジー
 学園長の声が学園に響く。 『昨日、平民の女生徒の食べていたお菓子を高位貴族の令息5人が取り囲んで奪うという事がありました』  昨日ピンク髪の女生徒からクッキーを貰った自覚のある王太子とその側近4人は項垂れながらその声を聴いていた。  学園長の話はまだまだ続く…… ◇テンプレ乙女ゲームになりそうな登場人物(しかし出てこない) ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げています。

ボロ雑巾な伯爵夫人、旦那様から棄てられて、ギブ&テイクでハートフルな共同生活を始めます。

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
 ――貧乏だから不幸せ❓ いいえ、求めているのは寄り添ってくれる『誰か』。  ◆  第二夫人に最愛の旦那様も息子も奪われ、挙句の果てに家から追い出された伯爵夫人・フィーリア。  両親も既に事故で亡くなっており帰る場所もない彼女は、なけなしの餞別だけを持って大雨の中を歩き続けていた。  しかし目的地も希望も生きる理由さえ見失いかけた時、とある男の子たちに出会う。  言葉汚く直情的で、だけど決してフィーリアを無視したりはしない、ディーダ。  喋り方こそ柔らかいが、その実どこか冷めた毒舌家である、ノイン。    10歳前後に見える彼らにとっては、親がいない事も、日々食べるものに困る事も、雨に降られる事だって、すべて日常なのだという。  そんな彼らの瞳に宿る強い生命力に感化された彼女は、気が付いたら声をかけていた。 「ねぇ君たち、お腹空いてない?」  まるで野良犬のような彼らと、貴族の素性を隠したフィーリアの三人共同生活。  平民の勝手が分からない彼女は、二人や親切な街の人達に助けられながら、自分の生き方やあり方を見つけて『自分』を取り戻していく。

ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました

杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」 王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。 第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。 確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。 唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。 もう味方はいない。 誰への義理もない。 ならば、もうどうにでもなればいい。 アレクシアはスッと背筋を伸ばした。 そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺! ◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。 ◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。 ◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。 ◆全8話、最終話だけ少し長めです。 恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。 ◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。 ◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03) ◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます! 9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!

妻がエロくて死にそうです

菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。 美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。 こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。 それは…… 限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常

私の家族はハイスペックです! 落ちこぼれ転生末姫ですが溺愛されつつ世界救っちゃいます!

りーさん
ファンタジー
 ある日、突然生まれ変わっていた。理由はわからないけど、私は末っ子のお姫さまになったらしい。 でも、このお姫さま、なんか放置気味!?と思っていたら、お兄さんやお姉さん、お父さんやお母さんのスペックが高すぎるのが原因みたい。 こうなったら、こうなったでがんばる!放置されてるんなら、なにしてもいいよね! のんびりマイペースをモットーに、私は好きに生きようと思ったんだけど、実は私は、重要な使命で転生していて、それを遂行するために神器までもらってしまいました!でも、私は私で楽しく暮らしたいと思います!

私が産まれる前に消えた父親が、隣国の皇帝陛下だなんて聞いてない

丙 あかり
ファンタジー
 ハミルトン侯爵家のアリスはレノワール王国でも有数の優秀な魔法士で、王立学園卒業後には婚約者である王太子との結婚が決まっていた。  しかし、王立学園の卒業記念パーティーの日、アリスは王太子から婚約破棄を言い渡される。  王太子が寵愛する伯爵令嬢にアリスが嫌がらせをし、さらに魔法士としては禁忌である『魔法を使用した通貨偽造』という理由で。    身に覚えがないと言うアリスの言葉に王太子は耳を貸さず、国外追放を言い渡す。    翌日、アリスは実父を頼って隣国・グランディエ帝国へ出発。  パーティーでアリスを助けてくれた帝国の貴族・エリックも何故か同行することに。  祖父のハミルトン侯爵は爵位を返上して王都から姿を消した。  アリスを追い出せたと喜ぶ王太子だが、激怒した国王に吹っ飛ばされた。  「この馬鹿息子が!お前は帝国を敵にまわすつもりか!!」    一方、帝国で仰々しく迎えられて困惑するアリスは告げられるのだった。   「さあ、貴女のお父君ーー皇帝陛下のもとへお連れ致しますよ、お姫様」と。 ****** 週3日更新です。  

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

召喚されたけど要らないと言われたので旅に出ます。探さないでください。

udonlevel2
ファンタジー
修学旅行中に異世界召喚された教師、中園アツシと中園の生徒の姫島カナエと他3名の生徒達。 他の三人には国が欲しがる力があったようだが、中園と姫島のスキルは文字化けして読めなかった。 その為、城を追い出されるように金貨一人50枚を渡され外の世界に放り出されてしまう。 教え子であるカナエを守りながら異世界を生き抜かねばならないが、まずは見た目をこの世界の物に替えて二人は慎重に話し合いをし、冒険者を雇うか、奴隷を買うか悩む。 まずはこの世界を知らねばならないとして、奴隷市場に行き、明日殺処分だった虎獣人のシュウと、妹のナノを購入。 シュウとナノを購入した二人は、国を出て別の国へと移動する事となる。 ★他サイトにも連載中です(カクヨム・なろう・ピクシブ) 中国でコピーされていたので自衛です。 「天安門事件」

処理中です...