上 下
16 / 38

第16話 第一王子失脚計画

しおりを挟む
「おはようございますシュナイザー殿下。その節はご協力頂きありがとうございましたわ。」

「あぁ。ジュリア嬢が亡くなったのは残念だったな。」


 能無し王子は政務が忙しいとかでここ何日か登校していなかったので、久しぶりの顔合わせだ。

 一生来なくて良いのに。


「はい。弟も大層気落ちしておりました。」

「弟……か。」

「えっと、どうなさいましたか?」


 そろそろね。


「ジュリア嬢はお前が消したんじゃないのか? 彼女はお前にとって邪魔者だったろう?」


 はい。きました。作中屈指の能無し王子がムカつくシーン。

 これじゃあ完全なモラハラ男よ。


「いえ、そんな……。」

「弟の婚約者に嫉妬など見苦しい。本当にお前は私の婚約者である自覚があるのか疑わしいものだ。」


 すげぇムカつく。お前の嫉妬の方が見苦しいわボケ。

 いくらなんでも決めつけにも程がある。殺したのはマリーベルだっての。

 状況を作ったのは私だけど。


「……。」

「それとも私との仲を邪魔されたからか? どちらにせよ、あんな状況でジュリア嬢が亡くなったら俺がお前を疑うに決まっている。全く、少し邪魔されたくらいで怒るなどどうかしているな。」


 全っ然! 少しじゃありませんでしたけどねっ!

 弟とちょっと仲が良いくらいでここまで怒る貴方の方が余程どうかしているわよ!

 そりゃ、多少は怒るのも仕方がないとは理解しているけど、ここまで暴言吐くのってどうなの?


「シュナイザー殿下。私はそのような事は致しません。」

「かもしれないな。」


 かもしれないな、じゃないわよ!

 ゲームやって知ってたけど、面と向かって言われると本当に腹が立つ。テメェが私を信じてたらジュリアが死ぬ状況にまで追い込まなくて済んだっつーの!

 やっぱコイツだめだわ。

 廃嫡じゃなくて、処刑すべきだわ。マリーベル共々。


「シュナイザー殿下がお疑いになるのも私の不徳の致すところでございます。」

「そうだな。」


 なんで私が謝らなきゃならないの? 馬鹿じゃないの?

 お前が私に謝れってば!


「あら、これはご機嫌麗しゅうございます殿下、メルトリア様。」


 この声はローズマリーだわ。ナイスタイミング。

 能無し王子と二人は苦痛だったから丁度良かった。


「あぁ、ローズマリー嬢か。君も早いな。」

「はい。たまたまでございますが。お二人方もお早いんですのね?」

「えぇ。ローズマリー様も、昨日はありがとうございました。」

「うん? 君たちは昨日会っていたのか?」

「はい。テレーゼ様がお茶会を開いて下さいまして。」


 あ、ローズマリーが言うのかよそれって顔してるわ。

 平気よ。コイツは能無しだからなーんにも不自然に思いやしないから。


「そうか。ジュリア嬢があんな事になった後だというのに、私の婚約者は大層なご身分だな?」

「「申し訳ありません。」」

「あっいや……ローズマリー嬢に言ったのではない。す、すまんが用事を思い出した。それではな。」

「「行ってらっしゃいませ。」」


 とっとと行け。しっしっ。

 ちょっと失言したからって逃げる男ってダサいわ。


「ちょっとメルトリア。いきなりなんて事言ってるのよ。危ないでしょう。」

「大丈夫よ。今後はあのメンバーで行動する事が増えるのだから、お茶会の事はここで言っておかないと反って怪しいわ。」

「まぁ、そうなんだけど。」

「それより見ました? あの態度。」

「えぇ。完全にメルトリアを排除したがっているように見えたわ。」


 そうでしょうとも。ジュリアに色々吹き込まれて機嫌が悪いからね。


「最近はあんな調子ですよ。もしかしたら、私が体を許さないからイライラしているのかも。」

「結婚するまでは普通許さないわよ。」

「本来はそうなんだけど、今までの事があるでしょう?」

「えぇ、あの事ね?」


 ローズマリーも当然私の妄想話を聞いているから、能無し王子が女と肉体関係を結んでやらかしては王族が排除している事を信じ込んでいるのだ。


「そうよ。」

「絶対に体を許してはダメよ。今の状態でさえメルトリアは危ういのだから、一度許してしまえば向こうはもう満足したと言って今以上に苛烈な排除を試みかねないんだから。」

「気をつけるわ。」


 成る程。そういう考え方もあるわね。

 ローズマリーも意地悪だから考え方が私と似ていて、勝手に能無し王子の不自然な様子を悪い方向で解釈してくれるから助かるわ。


「私、教室はこっちだから。」

「えぇ。ありがとう。」

「な……。とと当然でしょ? 私だって危ないんだから。」

「ふふ。照れなくても良いのに。」

「照れてないわよ!」


 意地悪令嬢のツンデレも案外悪くないわね。

 私とローズマリーは二年生、テレーゼとレイチェルは一年生。

 基本的には同学年同士で行動し、お昼の時間や学園が終わった後など四人で行動する事にしている。

 私も意地を張らずに接していれば、ローズマリーやレイチェルとも最初から仲良くなれたのかもしれない。

 日本人としての記憶がある今の私だからこそ思い至ったわけなんだけどね。

 昨日のローズマリーやレイチェルの様子を見るに、意地悪だけど人を殺すまではしないように感じた。

 婚約者候補同士の争いをしていたせいで私の目が曇っていたんだわ。

 マリーベルなんかと同列に思ってしまってごめんね。多分、人を何人も死に追いやって平気でいる私の方が余程……。



「メルトリア様? どうなさいましたか?」


 ローズマリーが余所行きの口調で話しかけてきていた。


「え? えぇ。ボーっとしてしまって申し訳ありません。」

「お昼ですので昼食を御一緒致しませんか?」

「はい。喜んで。」


 暗い考えに陥っている間に、お昼になってしまったようだ。

 私達はクラスメイトの視線を集めながら教室を出る。


「ちょっと、何ボーっとしてるのよ。」

「ごめんなさい。少し考え事をしていたわ。」

「皆メルトリアの様子がおかしいから見てたわよ。」

「そんなにおかしかったかしら。」

「かなりね。」


 気をつけよう。

 ボーっとしているという事はそれだけ付け入る隙があるという事なのだから。

 食堂ではテレーゼとレイチェルが席を確保し、待ってくれていた。


「やっと来たわね。遅いわよ」

「メルトリアがボケーっとしてるからよ。」

「まぁまぁ、メルトリア様は大丈夫なのでしょうか?」

「ごめんなさい。大丈夫よ。」


 私とローズマリーは席に座り、早速本題を小声で話し始める。


「先ず、報告があるわ。メルトリアの話はやはり正しいようね。あの方ったら、あからさまにメルトリアを排除したいようだったわ。」


 ローズマリーが今朝の私と能無し王子のやり取り見て、そう確信したのだと告げる。


「性的欲求をぶつける対象がなくてイライラしているようにも見えたから、絶対あの人と二人の状況を作ってはダメよ。」

「そうね。私達は元候補だから特に危ないわ。無理矢理襲われる事も視野に入れておかないと。」

「はい。気をつけたいと思います。」


 いや、流石に無理矢理はしないでしょ。

 能無し王子を悪い方に疑ってくれる分には全く問題ないからツッコまないけど。


「メルトリア。絶対にこの中の誰かを連れて歩きなさい。貴女は今日襲われ、明日にでも行方不明なんて事になっていてもおかしくないわ。」


 ローズマリーが特に念を押してくる。


「分かったわ。」


 返事をして頷き返すと、彼女は満足げに続きを話す。


「私なりに情報を精査してみたけど。完全に黒だと思う。ここ五年で行方不明の貴族令嬢は七人。それ以前は行方不明者なんて殆どいないわ。」

「私も同意見よ。しかも、全員がマリーベルの実家から排除されたのではないかと噂が立っている人ばかりだもの。」

「はい。私もその結論に辿り着きました。加えて言えば、先々代国王はお気に入りの侍女に手を付け適当なタイミングで行方不明扱いにしていたのだとか。」


 え? なにそれ知らない。


「信じられない。そんな事って許されるの?」

「私が古い書斎を調べていましたところ、記録に残っていました。どうやら私の家、ハワード家は先々代の頃にマリーベル様のご実家と同じ役割を担っていたようです。」


 マジで? 私の妄想話だと思っていたけど、実は現実に起こっていた?

 いや、たまたま昔の記録が今の状況と被っただけか。


「追い落とした方が良いかも……。」


 レイチェルが反逆罪待ったなしの発言をする。


「同意よ。」

「私も賛成です。」


 これは完全に予想外。

 私が誘導するまでもなく、第一王子殿下失脚計画がスタートしてしまった。


しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

魔法のせいだからって許せるわけがない

ユウユウ
ファンタジー
 私は魅了魔法にかけられ、婚約者を裏切って、婚約破棄を宣言してしまった。同じように魔法にかけられても婚約者を強く愛していた者は魔法に抵抗したらしい。  すべてが明るみになり、魅了がとけた私は婚約者に謝罪してやり直そうと懇願したが、彼女はけして私を許さなかった。

あなたがそう望んだから

まる
ファンタジー
「ちょっとアンタ!アンタよ!!アデライス・オールテア!」 思わず不快さに顔が歪みそうになり、慌てて扇で顔を隠す。 確か彼女は…最近編入してきたという男爵家の庶子の娘だったかしら。 喚き散らす娘が望んだのでその通りにしてあげましたわ。 ○○○○○○○○○○ 誤字脱字ご容赦下さい。もし電波な転生者に貴族の令嬢が絡まれたら。攻略対象と思われてる男性もガッチリ貴族思考だったらと考えて書いてみました。ゆっくりペースになりそうですがよろしければ是非。 閲覧、しおり、お気に入りの登録ありがとうございました(*´ω`*) 何となくねっとりじわじわな感じになっていたらいいのにと思ったのですがどうなんでしょうね?

側妃に追放された王太子

基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」 正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。 そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。 王の代理が側妃など異例の出来事だ。 「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」 王太子は息を吐いた。 「それが国のためなら」 貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。 無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。

『伯爵令嬢 爆死する』

三木谷夜宵
ファンタジー
王立学園の中庭で、ひとりの伯爵令嬢が死んだ。彼女は婚約者である侯爵令息から婚約解消を求められた。しかし、令嬢はそれに反発した。そんな彼女を、令息は魔術で爆死させてしまったのである。 その後、大陸一のゴシップ誌が伯爵令嬢が日頃から受けていた仕打ちを暴露するのであった。 カクヨムでも公開しています。

姉から奪うことしかできない妹は、ザマァされました

饕餮
ファンタジー
わたくしは、オフィリア。ジョンパルト伯爵家の長女です。 わたくしには双子の妹がいるのですが、使用人を含めた全員が妹を溺愛するあまり、我儘に育ちました。 しかもわたくしと色違いのものを両親から与えられているにもかかわらず、なぜかわたくしのものを欲しがるのです。 末っ子故に甘やかされ、泣いて喚いて駄々をこね、暴れるという貴族女性としてはあるまじき行為をずっとしてきたからなのか、手に入らないものはないと考えているようです。 そんなあざといどころかあさましい性根を持つ妹ですから、いつの間にか両親も兄も、使用人たちですらも絆されてしまい、たとえ嘘であったとしても妹の言葉を鵜呑みにするようになってしまいました。 それから数年が経ち、学園に入学できる年齢になりました。が、そこで兄と妹は―― n番煎じのよくある妹が姉からものを奪うことしかしない系の話です。 全15話。 ※カクヨムでも公開しています

婚約破棄されて勝利宣言する令嬢の話

Ryo-k
ファンタジー
「セレスティーナ・ルーベンブルク! 貴様との婚約を破棄する!!」 「よっしゃー!! ありがとうございます!!」 婚約破棄されたセレスティーナは国王との賭けに勝利した。 果たして国王との賭けの内容とは――

完)まあ!これが噂の婚約破棄ですのね!

オリハルコン陸
ファンタジー
王子が公衆の面前で婚約破棄をしました。しかし、その場に居合わせた他国の皇女に主導権を奪われてしまいました。 さあ、どうなる?

処理中です...