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第5話 一人目
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それから彼女はことあるごとに……
「シュナイザー殿下って素敵ですね。邪魔は致しませんので、私も食事を御一緒させて下さい。」
と言って、第一王子と私が昼食を摂る際、勝手についてくる。
めっちゃ邪魔してんじゃん。なーにが、邪魔は致しません。キリッ。だ!
色気たっぷりに高い香水までつけやがって。侯爵家の権力でテメェの実家潰すぞコラ!! っとイケナイイケナイ。こいつの実家潰しても抹殺までは出来ないじゃん。
私はエーデラルが第一王子を篭絡しようとする場面を毎回邪魔した。
攻略方法を覚えていなければ面倒な寝取られイベントだったけど、メルトリアに憑依してから可能な限り情報を紙に書きだし、何度も反復しながら頭の中に叩き込んだ甲斐があった。
そして証拠固めを完了し、彼女に自分の罪の重さを自覚させる。
「エーデラル様、第一王子を誘惑するなど恥を知りなさい。国家転覆を目論むなど言語道断。」
「そ、そんなつもりは……」
目に涙を浮かべるエーデラル子爵令嬢。彼女は寝取る事そのものが目的になっていて、政治的な理由など一切考慮していないのはこちらも分かっているけど……。
ここで下手に情けを掛けると、今度はこの腹黒クソビッチが反撃してきて私の足を引っ張り始めるので、サクッと処刑する為の行動をとる。
「この事は証拠と合わせて陛下と裁判所にご報告致します。」
「待って! お願い、待って下さい!」
「待ちません。自身の行いを悔いる事です。」
たとえ心の底から悔いたとしても、処刑は回避できないけどね。
貴族裁判は順調に進んでいた。
「被告人は私メルトリアとシュナイザー殿下が婚約関係である事を知りながら、殿下に何度も誘惑を仕掛けています。彼女の実家が敵対国であるニマイジタ王国の王家と親戚関係にある事からも、国家転覆を目論んでいるものと推察されます。」
「違います! そのような恐ろしい事は考えていません! 私は……殿下が素敵な方だったから仲良くしたかっただけで……。」
寝取りたかっただけの癖に、随分とそれらしい事を言うじゃない。ただの寝取りだとしても、第一王子を相手に良くやるものだと感心してしまうわ。
この女は完全に寝取りが仕事の領域に達している。
だからと言って口撃の手は緩めないけど。
「かつて……女によって国が傾いたという事例は、歴史上枚挙にいとまがありません。子爵令嬢がそれを考慮していないなどと言う妄言にはまるで根拠がありません。」
「そんな……本当に違うんです。正直に言います。ほんの悪戯心で寝取ってやろうとしました。」
追い詰められて白状したわね?
普通だったら、寝取ろうとして失敗しただけなのでそこまで罪が重くないと思ったのは正解よ。
でも、私の追及がそれで終わりと思っているのは不正解。
「ちゃんと理由があ……。」
「発言内容が先程と変わりましたね? 仮に悪戯心だとしても、婚約者を奪おうなどと道義に反します。しかも相手は第一王子。国の重要人物を悪戯に誘惑し、婚約破棄に至る可能性を作り上げる事は、不敬罪が成立する可能性もある上に国家反逆罪とも考えられます。」
「違う! 本当に違うんです!」
焦ってる焦ってる。
そうよね。秘密の恋を楽しんでみたかった、と言い張ってうやむやにする作戦だったのだものね?
攻略情報で知ってる。
実際、貴族間での秘密の恋などいくらでもある。秘密の恋と言い張られてしまえばこちらとしても少しばかり都合が悪いので、即座に発言を潰しにかかったのだから。
「いいえ、違いません。証拠として、彼女の実家がニマイジタ王国から人を惑わす媚薬を手に入れている事も合わせて報告致します。」
「そんなものは使っていません!」
「使っていますよ。いつも貴女が付けている香水を魔法で鑑定してもらいました。確かに媚薬の成分が検出されたと報告があがっています。」
「ふむ……確かに書類上はそうなっているな。」
「なんなら、今彼女を鑑定してもらえばハッキリします。彼女はその香水をいつも付けているのですから。」
「そ、そうですよ! 鑑定して下さい! そんな怪しい香水じゃありませんから!」
そしてエーデラルの同意もあり魔法による鑑定が行われた。
どうも自信あり気なようだけど、自分の立場が分かってるのかしら? 仮に媚薬成分が検出されなかったとしても、多少の罪には問われるというのに。
「媚薬成分を検出しました。」
鑑定士が抑揚のない声で告げる。
そろそろトドメね。この腹立つ女とまともに会話をするのもこれが最後。
「嘘よ!!」
「これでハッキリしましたね。殿下を惑わし言いなりにでもしようとしていたのでしょう。」
「してません! 誰かの陰謀だわ!」
「いえ、陰謀を企んだのは貴女です。」
私がニヤっと彼女に笑みを見せると……
「っ!? 貴女、私を嵌めたわね!!」
「突然何を言うのですか? 貴女が散々殿下を嵌めようとしたのでしょう?」
「絶対に許さない!! 貴女なんて……」
「静粛に!!」
裁判長が黒塗りのガベルを打つ。
「被告人エーデラル=ヴェーラーを国家反逆罪により、市中引き回しの上で死刑に処す。合わせてヴェーラー家にも同様の処罰を下す。」
「そんな……。」
エーデラルは顔を青ざめさせる。
「被告人は子爵令嬢である事からも、殿下を誘惑する行いが政治的なものを含んでいる事を考慮していないなど考えられない。また、媚薬の使用という点を鑑みるに悪戯であったとも考えにくい。敵対国ニマイジタ王国の謀略であったと考えるのが妥当である。国家転覆を目論んだ罪は重い。」
完全に決着した。エーデラルは数日後には処刑台送りだ。
道義から言えば、そもそも殿下を誘惑しておいて知らぬ存ぜぬで通るはずがない。
「原告の発言には筋道が通っており、非常に納得のいくものであった。一方で被告の発言には一貫性がなく、否定にはまるで根拠がない為このような判決となった。」
裁判長は再びガベルを打ち鳴らす。
「これにて閉廷とする。」
そうしてエーデラルは連れて行かれた。勿論彼女の香水に媚薬を仕込んだのは私だ。
酷いって?
おいおい、自分と同じ不幸を赤の他人にも味わわせようとする方がオカシイでしょ。
しかも私が対処しなかった場合、婚約者寝を取ったエーデラルは私を嵌めようとするんだから。
元々は向こうが売ってきたケンカだ。買ったからと文句を言われる筋合いはない。
殿下も殿下で簡単に寝取られそうになってんじゃねえよ、と思っている事は本人には内緒だけど。
「ジングルベール♪ ジングルベール♪ 首がー飛ぶーっ♪ へいっ! しーちゅうーひきまーわしの刑ー♪ イェーイ!!」
私はオリジナルソング『シチュー引き回します』を時々歌いながら、彼女が処刑されるまでの日を厳かに過ごした。
エーデラルの死刑執行日、私は彼女の死を見届けた。
そして涙したのだ。
エーデラルが死んで悲しいワケじゃない。むしろ、ざまぁみろとさえ思っていた。
しかし、処刑台に連れて来られた彼女は恐怖に顔が強張り涙を流し、いざ刑が執行されると……
私のせいで人が死んだ。
日本では一般人として生きた以上、人を死なせてしまった事に罪悪感を覚えるのは当然の事。
自責の念に駆られると同時に、よりハッキリとここが自分の生きた世界とは常識が違う事を理解した。
何か凡ミスをやらかしてしまえば、次は私があの場に立つ事になる。
一度は死を経験しているけど、こうして第三者視点で見ると余計に恐怖を感じてしまい他人事のようには全く思えない。
私は絶対に二度とあの上に立ちたくはないのだ。
一つのミスも許さない覚悟で臨まなければならないと自覚した。
きっと頭のどこかでは分かっていたのかもしれない。あんな馬鹿な歌を歌っていたのも、自身の無自覚な恐怖心を誤魔化す為だったのだろう。
処刑された時の事を思い出す。
あの時、マリーベルは笑顔だった。私が死ぬ瞬間を心底楽しんでいた。あれは完全に人の死を娯楽と捉えていた。
負の感情ではなく、正の感情を抱いているようにさえ見えた。
私はエーデラルが死んだ時、ざまぁとは思ったが……楽しい、面白い、爽快。そのような正の感情は抱かなかったし、抱けなかった。
きっとあの腐れ女マリーベルは楽しんで私を嵌め、楽しんで処刑を見届けていたのだろう。
絶対に許すものか。
何が何でもあの女だけは処刑台に送らないと、きっと私は壊れてしまう。許す選択肢は最初から存在していなかったが、改めて誓った。
あいつは必ず処刑する。
そうしなければ、もしもあの女を処刑できずにシナリオが終わってしまえば……多分、私は私として生きていけないような気がする。
「シュナイザー殿下って素敵ですね。邪魔は致しませんので、私も食事を御一緒させて下さい。」
と言って、第一王子と私が昼食を摂る際、勝手についてくる。
めっちゃ邪魔してんじゃん。なーにが、邪魔は致しません。キリッ。だ!
色気たっぷりに高い香水までつけやがって。侯爵家の権力でテメェの実家潰すぞコラ!! っとイケナイイケナイ。こいつの実家潰しても抹殺までは出来ないじゃん。
私はエーデラルが第一王子を篭絡しようとする場面を毎回邪魔した。
攻略方法を覚えていなければ面倒な寝取られイベントだったけど、メルトリアに憑依してから可能な限り情報を紙に書きだし、何度も反復しながら頭の中に叩き込んだ甲斐があった。
そして証拠固めを完了し、彼女に自分の罪の重さを自覚させる。
「エーデラル様、第一王子を誘惑するなど恥を知りなさい。国家転覆を目論むなど言語道断。」
「そ、そんなつもりは……」
目に涙を浮かべるエーデラル子爵令嬢。彼女は寝取る事そのものが目的になっていて、政治的な理由など一切考慮していないのはこちらも分かっているけど……。
ここで下手に情けを掛けると、今度はこの腹黒クソビッチが反撃してきて私の足を引っ張り始めるので、サクッと処刑する為の行動をとる。
「この事は証拠と合わせて陛下と裁判所にご報告致します。」
「待って! お願い、待って下さい!」
「待ちません。自身の行いを悔いる事です。」
たとえ心の底から悔いたとしても、処刑は回避できないけどね。
貴族裁判は順調に進んでいた。
「被告人は私メルトリアとシュナイザー殿下が婚約関係である事を知りながら、殿下に何度も誘惑を仕掛けています。彼女の実家が敵対国であるニマイジタ王国の王家と親戚関係にある事からも、国家転覆を目論んでいるものと推察されます。」
「違います! そのような恐ろしい事は考えていません! 私は……殿下が素敵な方だったから仲良くしたかっただけで……。」
寝取りたかっただけの癖に、随分とそれらしい事を言うじゃない。ただの寝取りだとしても、第一王子を相手に良くやるものだと感心してしまうわ。
この女は完全に寝取りが仕事の領域に達している。
だからと言って口撃の手は緩めないけど。
「かつて……女によって国が傾いたという事例は、歴史上枚挙にいとまがありません。子爵令嬢がそれを考慮していないなどと言う妄言にはまるで根拠がありません。」
「そんな……本当に違うんです。正直に言います。ほんの悪戯心で寝取ってやろうとしました。」
追い詰められて白状したわね?
普通だったら、寝取ろうとして失敗しただけなのでそこまで罪が重くないと思ったのは正解よ。
でも、私の追及がそれで終わりと思っているのは不正解。
「ちゃんと理由があ……。」
「発言内容が先程と変わりましたね? 仮に悪戯心だとしても、婚約者を奪おうなどと道義に反します。しかも相手は第一王子。国の重要人物を悪戯に誘惑し、婚約破棄に至る可能性を作り上げる事は、不敬罪が成立する可能性もある上に国家反逆罪とも考えられます。」
「違う! 本当に違うんです!」
焦ってる焦ってる。
そうよね。秘密の恋を楽しんでみたかった、と言い張ってうやむやにする作戦だったのだものね?
攻略情報で知ってる。
実際、貴族間での秘密の恋などいくらでもある。秘密の恋と言い張られてしまえばこちらとしても少しばかり都合が悪いので、即座に発言を潰しにかかったのだから。
「いいえ、違いません。証拠として、彼女の実家がニマイジタ王国から人を惑わす媚薬を手に入れている事も合わせて報告致します。」
「そんなものは使っていません!」
「使っていますよ。いつも貴女が付けている香水を魔法で鑑定してもらいました。確かに媚薬の成分が検出されたと報告があがっています。」
「ふむ……確かに書類上はそうなっているな。」
「なんなら、今彼女を鑑定してもらえばハッキリします。彼女はその香水をいつも付けているのですから。」
「そ、そうですよ! 鑑定して下さい! そんな怪しい香水じゃありませんから!」
そしてエーデラルの同意もあり魔法による鑑定が行われた。
どうも自信あり気なようだけど、自分の立場が分かってるのかしら? 仮に媚薬成分が検出されなかったとしても、多少の罪には問われるというのに。
「媚薬成分を検出しました。」
鑑定士が抑揚のない声で告げる。
そろそろトドメね。この腹立つ女とまともに会話をするのもこれが最後。
「嘘よ!!」
「これでハッキリしましたね。殿下を惑わし言いなりにでもしようとしていたのでしょう。」
「してません! 誰かの陰謀だわ!」
「いえ、陰謀を企んだのは貴女です。」
私がニヤっと彼女に笑みを見せると……
「っ!? 貴女、私を嵌めたわね!!」
「突然何を言うのですか? 貴女が散々殿下を嵌めようとしたのでしょう?」
「絶対に許さない!! 貴女なんて……」
「静粛に!!」
裁判長が黒塗りのガベルを打つ。
「被告人エーデラル=ヴェーラーを国家反逆罪により、市中引き回しの上で死刑に処す。合わせてヴェーラー家にも同様の処罰を下す。」
「そんな……。」
エーデラルは顔を青ざめさせる。
「被告人は子爵令嬢である事からも、殿下を誘惑する行いが政治的なものを含んでいる事を考慮していないなど考えられない。また、媚薬の使用という点を鑑みるに悪戯であったとも考えにくい。敵対国ニマイジタ王国の謀略であったと考えるのが妥当である。国家転覆を目論んだ罪は重い。」
完全に決着した。エーデラルは数日後には処刑台送りだ。
道義から言えば、そもそも殿下を誘惑しておいて知らぬ存ぜぬで通るはずがない。
「原告の発言には筋道が通っており、非常に納得のいくものであった。一方で被告の発言には一貫性がなく、否定にはまるで根拠がない為このような判決となった。」
裁判長は再びガベルを打ち鳴らす。
「これにて閉廷とする。」
そうしてエーデラルは連れて行かれた。勿論彼女の香水に媚薬を仕込んだのは私だ。
酷いって?
おいおい、自分と同じ不幸を赤の他人にも味わわせようとする方がオカシイでしょ。
しかも私が対処しなかった場合、婚約者寝を取ったエーデラルは私を嵌めようとするんだから。
元々は向こうが売ってきたケンカだ。買ったからと文句を言われる筋合いはない。
殿下も殿下で簡単に寝取られそうになってんじゃねえよ、と思っている事は本人には内緒だけど。
「ジングルベール♪ ジングルベール♪ 首がー飛ぶーっ♪ へいっ! しーちゅうーひきまーわしの刑ー♪ イェーイ!!」
私はオリジナルソング『シチュー引き回します』を時々歌いながら、彼女が処刑されるまでの日を厳かに過ごした。
エーデラルの死刑執行日、私は彼女の死を見届けた。
そして涙したのだ。
エーデラルが死んで悲しいワケじゃない。むしろ、ざまぁみろとさえ思っていた。
しかし、処刑台に連れて来られた彼女は恐怖に顔が強張り涙を流し、いざ刑が執行されると……
私のせいで人が死んだ。
日本では一般人として生きた以上、人を死なせてしまった事に罪悪感を覚えるのは当然の事。
自責の念に駆られると同時に、よりハッキリとここが自分の生きた世界とは常識が違う事を理解した。
何か凡ミスをやらかしてしまえば、次は私があの場に立つ事になる。
一度は死を経験しているけど、こうして第三者視点で見ると余計に恐怖を感じてしまい他人事のようには全く思えない。
私は絶対に二度とあの上に立ちたくはないのだ。
一つのミスも許さない覚悟で臨まなければならないと自覚した。
きっと頭のどこかでは分かっていたのかもしれない。あんな馬鹿な歌を歌っていたのも、自身の無自覚な恐怖心を誤魔化す為だったのだろう。
処刑された時の事を思い出す。
あの時、マリーベルは笑顔だった。私が死ぬ瞬間を心底楽しんでいた。あれは完全に人の死を娯楽と捉えていた。
負の感情ではなく、正の感情を抱いているようにさえ見えた。
私はエーデラルが死んだ時、ざまぁとは思ったが……楽しい、面白い、爽快。そのような正の感情は抱かなかったし、抱けなかった。
きっとあの腐れ女マリーベルは楽しんで私を嵌め、楽しんで処刑を見届けていたのだろう。
絶対に許すものか。
何が何でもあの女だけは処刑台に送らないと、きっと私は壊れてしまう。許す選択肢は最初から存在していなかったが、改めて誓った。
あいつは必ず処刑する。
そうしなければ、もしもあの女を処刑できずにシナリオが終わってしまえば……多分、私は私として生きていけないような気がする。
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