上 下
114 / 128
外伝:メイド喫茶でバイトテロしたら異世界召喚されました。しかも死に戻り特典付きで。

第1話 知らないご主人様

しおりを挟む
 私は猫耳メイド喫茶で楽しく働く女子大生、名前は佐倉桜。

 はい。ここで疑問に思った人大正解ですよ。さくらが2つ続くなんて馬鹿な親の元に生まれたんだなって思ったでしょ?


 本当にバッカ! うちの親はバッカなの!

 さくらが2つって縁起良くね? って付けたらしいのよ。

 バッカよね?

 役所も役所よ。お役所仕事も大概にしてよね。こんなアホな名前で出生届を受理しないでよ!

 でも、うちの親にも良い所だってあるのよ?

 桜は可愛いねって言って、お父さんが親子デートした後にお小遣いをくれるの。

 バッカ! 友達に見られたらパパ活だと思われるでしょ! 本当にバッカ!

 金額も大体2~3万くらい? それが相場なんだって。

 バッカ! 相場って何よ!? 本当にもう!


「サクラクラちゃーん! 今日も来ったよぉ!」

「お帰りなさいませご主人様―! わぁ! 今日もお早いお帰りなんですね!」

「サクラクラちゃんに会う為に仕事を早めに切り上げたんだ!」


 ねえ、それ本当なの? 朝から来てるのに? 本当は裕福な家の自宅警備員なんじゃなくて?


「お疲れ様ですご主人様! 今日もサクラクラに癒されて下さいね?」


 私は毎週日曜日、メイド喫茶でバイトをしている。

 お父さんから頻繁にお小遣いを貰っている私が何故バイトをしているのか……

 それはメイドになってみたかったから。本当にそれだけ。

 実際メイドになって、たくさんのご主人様を癒して、お話を聞けるのは凄く充実してるし楽しいの。

 でもね。

 一人だけ凄おく、嫌なお客さんが居て……


「はぁはぁサクラクラたん。今日も来たよぉぉ。」

「お、お帰りなさいませ……ご主人様。」


 え、笑顔が引き攣らないようにしなきゃ。


「サクラクラたん可愛いねぇ。ぐふふ。」


 このご主人様はお店の禁止事項ギリギリのラインを偶に攻めてくる人。

 ギリギリラインを偶に、という所がポイントで、上手い具合に言い逃れ出来る範囲でしかオイタをしないし、それを偶にやるだけに留めるので、こちらからはアレコレと言い難い非常に困ったご主人様。

 私は今日こそ、このご主人様に毅然と対応してみせる!

 バイトテロって奴でね。


「ぐふふ。オムライスをお願いします。」

「ありがとうございます! 少々お待ちくださーい!」


 チャンス到来!!

 待っててね? ご主人様。ただいま最高のオムライスをお持ちしますから……






「お待たせ致しましたぁ!」

「ありがとうサクラクラたん。」


 ふっふっふっ。何も知らずにオムライスを食べられると思っているのね?

 先ずはケチャップで模様を描いてっと。


「ま、禍々しい模様だね。魔法……陣?」

「ご主人様は魔法少女がお好きだと聞きましたので!」


 サービス精神もたっぷり。結構冒涜的な感じに描けたわ。


「それでは一緒においしくなる魔法の呪文を唱えましょう!」

「うんうん。サクラクラたんと一緒に唱えるよ!」


 貴方が美味しくオムライスを食べられるのは今日限りよっ!!

 私は魔法の呪文を唱える為、そっと目を閉じた。


「それでは一緒に~……」










「萌え萌え……」
「ふんぐるい むぐるうなふ くとぅるう るるいえ うがふなぐる ふたぐん」

「へあっ!? え? な……なにを」


 戸惑ってる戸惑ってる。声の調子から凄く伝わってくる。

 でも、手加減はしないんだから!


「いえ いえ しゅぶ・にぐらす いあーる むなーる うが なぐる となろろ よらならーく しらーりー!」


 ん? 何だか周りが騒がしいわね。

 何か光ってる?

 まぶた越しにも分かる程光らせて邪魔しようってのね!

 そのくらいじゃ、私は負けないんだからっ!


「な、なん……なんだこれ」

「いむろくなるのいくろむ! のいくろむ らじゃにー! いえ いえ しゅぶ・にぐらす! となるろ よらなるか!」


 良し! 一息で言い切った!

 見たか迷惑系ご主人様めっ!

 キモい魔法陣とキモい魔法の呪文で、迷惑をかけてごめんなさいと謝りたくさせるこの作戦。完璧よね?

 これは見事なバイトテロと言っても過言じゃないはずよ。





 そして目を開いた私の目の前には……


「おお! 来てくれたのか! 俺はイットリウム公国君主、モリブデン公爵だ。」


 ……誰?


「し、知らないご主人様だ……。」

「ご主人様? 勇者は既に誰かに仕えているのか?」


 え? え? なにこれ? 勇者?

 知らない場所にいるし!

 まさか誘拐!?

 と、とにかく、質問に答えなきゃ。


「あの……週に一度、たくさんのご主人様に仕えています。」

「週に一度、たくさんのご主人様……だと? その恰好で……イカン鼻血が。」


 なに? なに? なんなのこの人?

 20代後半くらいの男の人が鼻血を出しながら、良く分からない事を言っている。


「なんと憐れな……親は、いないのか?」

「いますいます。昨日もお父さんと親子デートしてお小遣いをもらいました。」

「親はいるのか。しかし、デートとは何だ?」


 デートは……何だろ?


「可愛い格好をして、異性とドキドキなお出掛けする事……でしょうか?」

「そ、そんな格好で父親とドキドキ……だと? しかも金銭の授受もある。何といかがわ……イカンまた鼻血が。」


 あれ? 何か勘違いしてる?


「勇者よ。この俺が幸せな待遇を用意すると約束しよう! 絶対に! 幸せな! 暮らしを……おっとイカン鼻血が。」


 この人の視線は私の胸にロックオンされている。

 あんまりジロジロ見られると恥ずかしいんだけどなぁ。

 ま、結構際どい感じのメイド服だから仕方ないか。


「ところで、私は何でここにいるんですか?」

「あぁ、まだ何も言っていなかったか。イットリウム公国は現在独立戦争中でな。どうか我が公国をストレッチ王国の魔手から独立させて欲しい。」


 ま、まさかの異世界召喚!?

 なんで?

 バイトテロしたから?


「あのう……帰りたいんですけど。」

「ダメだダメだ! 勇者は帰ったらいかがわしい事をされるのだろう? そんな所へなど帰してしまったら……まさか!? いかがわしい事を自ら望んで……は、鼻血が。」


 そんなに鼻血出して大丈夫?

 すぐ貧血になりそうだけど。

 というか、物凄い誤解を受けてる?


「別にいかがわしい事なんてしてませんよ? メイドの一員として頑張って働いてるだけですから!」

「冥土の一員? 成る程。天国……という事か。やって来た者達も満足するだろうな。」


 そうね……ご主人様達には天国だと思ってもらえるよう頑張ってるから、間違ってはないもんね。

 誤解も解けたみたいで良かったぁ。


「さて勇者よ。古文書によれば、勇者は絶大なる魔法の力と固有の能力が備わっているとの事。良ければ魔法や能力を見せてくれ。」


 魔法? 能力?

 私、そんなもの使えな……あっ! もしかしてさっきの呪文?

 あれがきっかけでこの世界に召喚されたのかもしれないんだ……。

 ダメ元で試すだけ試してみよう。ダメならダメでしょうがないよね?

 私が魔法を見せる方向で考えを進めていると、目の前に文字が現れた。



 1.分かりました! 魔法を見せるので、書く物を貸して下さい。
 2.魔法の使い方を知りませんので、教えて下さい。



 え?

 選択肢?


「あの、目の前に選択肢が出てきたんですけど……」

「選択肢? ふーむ……何を言っているのか良く分からんな。」


 公爵様には見えていないみたい。

 あっ! そうか。これがきっと私の固有能力って奴なんだ。

 ゲームとかで見かけるシナリオが分岐する能力って事?

 まぁ、正直だから何? って感じのあまり意味がない能力っぽい気がする。人生とは常に選択の連続なのだよ。

 普通に考えてここは1を選ぶべきよね。

 さっきの呪文はきっとチート魔法で、公爵様をあっと驚かせるシーンを演出する選択肢に違いないんだから。


「分かりました! 魔法を見せるので、何か書く物を貸して下さい。」

「おうとも。一応、場所も移動しておこうか。」

「はい!」


 その方が良いかも。

 さっきも無駄に明るかったし。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

小さな大魔法使いの自分探しの旅 親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします

藤なごみ
ファンタジー
※2024年10月下旬に、第2巻刊行予定です  2024年6月中旬に第一巻が発売されます  2024年6月16日出荷、19日販売となります  発売に伴い、題名を「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、元気いっぱいに無自覚チートで街の人を笑顔にします~」→「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします~」 中世ヨーロッパに似ているようで少し違う世界。 数少ないですが魔法使いがが存在し、様々な魔導具も生産され、人々の生活を支えています。 また、未開発の土地も多く、数多くの冒険者が活動しています この世界のとある地域では、シェルフィード王国とタターランド帝国という二つの国が争いを続けています 戦争を行る理由は様ながら長年戦争をしては停戦を繰り返していて、今は辛うじて平和な時が訪れています そんな世界の田舎で、男の子は産まれました 男の子の両親は浪費家で、親の資産を一気に食いつぶしてしまい、あろうことかお金を得るために両親は行商人に幼い男の子を売ってしまいました 男の子は行商人に連れていかれながら街道を進んでいくが、ここで行商人一行が盗賊に襲われます そして盗賊により行商人一行が殺害される中、男の子にも命の危険が迫ります 絶体絶命の中、男の子の中に眠っていた力が目覚めて…… この物語は、男の子が各地を旅しながら自分というものを探すものです 各地で出会う人との繋がりを通じて、男の子は少しずつ成長していきます そして、自分の中にある魔法の力と向かいながら、色々な事を覚えていきます カクヨム様と小説家になろう様にも投稿しております

婚約者が隣国の王子殿下に夢中なので潔く身を引いたら病弱王女の婚約者に選ばれました。

ユウ
ファンタジー
辺境伯爵家の次男シオンは八歳の頃から伯爵令嬢のサンドラと婚約していた。 我儘で少し夢見がちのサンドラは隣国の皇太子殿下に憧れていた。 その為事あるごとに… 「ライルハルト様だったらもっと美しいのに」 「どうして貴方はライルハルト様じゃないの」 隣国の皇太子殿下と比べて罵倒した。 そんな中隣国からライルハルトが留学に来たことで関係は悪化した。 そして社交界では二人が恋仲で悲恋だと噂をされ爪はじきに合うシオンは二人を思って身を引き、騎士団を辞めて国を出ようとするが王命により病弱な第二王女殿下の婚約を望まれる。 生まれつき体が弱く他国に嫁ぐこともできないハズレ姫と呼ばれるリディア王女を献身的に支え続ける中王はシオンを婿養子に望む。 一方サンドラは皇太子殿下に近づくも既に婚約者がいる事に気づき、シオンと復縁を望むのだが… HOT一位となりました! 皆様ありがとうございます!

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

「私が愛するのは王妃のみだ、君を愛することはない」私だって会ったばかりの人を愛したりしませんけど。

下菊みこと
恋愛
このヒロイン、実は…結構逞しい性格を持ち合わせている。 レティシアは貧乏な男爵家の長女。実家の男爵家に少しでも貢献するために、国王陛下の側妃となる。しかし国王陛下は王妃殿下を溺愛しており、レティシアに失礼な態度をとってきた!レティシアはそれに対して、一言言い返す。それに対する国王陛下の反応は? 小説家になろう様でも投稿しています。

婚約者に会いに行ったらば

龍の御寮さん
BL
王都で暮らす婚約者レオンのもとへと会いに行ったミシェル。 そこで見たのは、レオンをお父さんと呼ぶ子供と仲良さそうに並ぶ女性の姿。 ショックでその場を逃げ出したミシェルは―― 何とか弁解しようするレオンとなぜか記憶を失ったミシェル。 そこには何やら事件も絡んできて? 傷つけられたミシェルが幸せになるまでのお話です。

とあるおっさんのVRMMO活動記

椎名ほわほわ
ファンタジー
VRMMORPGが普及した世界。 念のため申し上げますが戦闘も生産もあります。 戦闘は生々しい表現も含みます。 のんびりする時もあるし、えぐい戦闘もあります。 また一話一話が3000文字ぐらいの日記帳ぐらいの分量であり 一人の冒険者の一日の活動記録を覗く、ぐらいの感覚が お好みではない場合は読まれないほうがよろしいと思われます。 また、このお話の舞台となっているVRMMOはクリアする事や 無双する事が目的ではなく、冒険し生きていくもう1つの人生が テーマとなっているVRMMOですので、極端に戦闘続きという 事もございません。 また、転生物やデスゲームなどに変化することもございませんので、そのようなお話がお好みの方は読まれないほうが良いと思われます。

『濁』なる俺は『清』なる幼馴染と決別する

はにわ
ファンタジー
主人公ゴウキは幼馴染である女勇者クレアのパーティーに属する前衛の拳闘士である。 スラムで育ち喧嘩に明け暮れていたゴウキに声をかけ、特待生として学校に通わせてくれたクレアに恩を感じ、ゴウキは苛烈な戦闘塗れの勇者パーティーに加入して日々活躍していた。 だがクレアは人の良い両親に育てられた人間を疑うことを知らずに育った脳内お花畑の女の子。 そんな彼女のパーティーにはエリート神官で腹黒のリフト、クレアと同じくゴウキと幼馴染の聖女ミリアと、剣聖マリスというリーダーと気持ちを同じくするお人よしの聖人ばかりが揃う。 勇者パーティーの聖人達は普段の立ち振る舞いもさることながら、戦いにおいても「美しい」と言わしめるスマートな戦いぶりに周囲は彼らを国の誇りだと称える。 そんなパーティーでゴウキ一人だけ・・・人を疑い、荒っぽい言動、額にある大きな古傷、『拳鬼』と呼ばれるほどの荒々しく泥臭い戦闘スタイル・・・そんな異色な彼が浮いていた。 周囲からも『清』の中の『濁』だと彼のパーティー在籍を疑問視する声も多い。 素直過ぎる勇者パーティーの面々にゴウキは捻くれ者とカテゴライズされ、パーティーと意見を違えることが多く、衝突を繰り返すが常となっていた。 しかしゴウキはゴウキなりに救世の道を歩めることに誇りを持っており、パーティーを離れようとは思っていなかった。 そんなある日、ゴウキは勇者パーティーをいつの間にか追放処分とされていた。失意の底に沈むゴウキだったが、『濁』なる存在と認知されていると思っていたはずの彼には思いの外人望があることに気付く。 『濁』の存在である自分にも『濁』なりの救世の道があることに気付き、ゴウキは勇者パーティーと決別して己の道を歩み始めるが、流れに流れいつの間にか『マフィア』を率いるようになってしまい、立場の違いから勇者と争うように・・・ 一方、人を疑うことのないクレア達は防波堤となっていたゴウキがいなくなったことで、悪意ある者達の食い物にされ弱体化しつつあった。

(完結)私の夫は死にました(全3話)

青空一夏
恋愛
夫が新しく始める事業の資金を借りに出かけた直後に行方不明となり、市井の治安が悪い裏通りで夫が乗っていた馬車が発見される。おびただしい血痕があり、盗賊に襲われたのだろうと判断された。1年後に失踪宣告がなされ死んだものと見なされたが、多数の債権者が押し寄せる。 私は莫大な借金を背負い、給料が高いガラス工房の仕事についた。それでも返し切れず夜中は定食屋で調理補助の仕事まで始める。半年後過労で倒れた私に従兄弟が手を差し伸べてくれた。 ところがある日、夫とそっくりな男を見かけてしまい・・・・・・ R15ざまぁ。因果応報。ゆるふわ設定ご都合主義です。全3話。お話しの長さに偏りがあるかもしれません。

処理中です...