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最終章 幸せな日々
番外編 第26話 恐ろしい子
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「絶対に強くなって帰ってきますので、どうか待っていて下さい。」
「はい。カイル様をずっとお待ちしております。」
カイル王子とアーリィは互いに抱き合いながら別れを惜しんでいる。
あの訓練の後、カイル王子は自らの魔法を磨き上げるのだと息巻いていた。
「ではカイル様。またのお越しをお待ちしております。」
「ありがとうございます。これ程歓迎して頂いて、更には私としても大変嬉しい縁を結べた事を心より感謝しております。」
そう言って爽やかに手を振るカイル王子の帰国を全員で見送った。
「碧ちゃん。何であの人を同行させたの?」
「あぁ。バッツの事? あの人はナガツキ軍所属だけど出身はサルージ王国だからね。帰郷ついでにカイル王子の魔法を鍛えてくれるでしょ。」
私は訓練の指導者として、ナガツキ大公軍の魔法部隊総隊長であるバッツをカイル王子に同行させた。
バッツはサルージ王国出身で、魔法だけなら勇者級。剣術は護身程度という極端な能力の持ち主。
里帰りの意味も込めてカイル王子達とともに送り出してあげた。再びカイル王子がこちらに来る時には一緒に戻って来る予定だ。
「これでカイル王子は訓練出来るし、バッツは里帰り出来るしで良い事尽くめだよ。」
「碧ママも良い人を同行させたよね。あの二人、さっきはサルージ王国あるあるみたいな話で盛り上がってたもん。」
バッツは思いの外王子と気が合ったらしく、すっかり仲良くなっていた。
「そうだね。さて、次はサクラかな? 結婚出来そうなんだよね?」
「勿論! 将来の旦那様の為に周囲にいる女の性質を調査すると共に旦那様の趣味嗜好も今一度洗い出したの。他にも私自身が女としての魅力を磨いているんだから。」
何それ? 努力の方向性が変。
「ストーカーじゃん。ストーカーは犯罪……ってこの国にはストーカーって概念が無いのか。」
「ストーカー? はともかく、メメちゃんに教わった方法だから間違いないよ。」
「メメちゃんに?」
だったら問題ないか。
本当は問題だらけだけど、メメちゃんが言うなら恐らく考えがあるんだろうしね。
「サクラはどうするつもりなんだ? 今回のように爵位を渡す事も出来るぞ。それとも自分が嫁に行くのか?」
「私も出来れば婿を取りたいと思ってる。相手は貴族家の三男だからね。」
「自分の家は継げないってことか。なら、どの程度の爵位を渡すのが良いだろうな……。」
「旦那様は優秀だから侯爵とは言わないけど、伯爵位は欲しいかな。」
まだ結婚も決まってないのに旦那様呼ばわり。
もしかしてサクラって結構地雷系女子?
「そ、そうなんだ。頑張らないとね。」
まさかサクラの妄想じゃないよね? 大丈夫だよね?
「本当、メメちゃんに相談して良かったわ。」
エイミーはほっと胸をなでおろし、サクラの問題は解決したと言う。
「これから旦那様籠絡作戦の最終段階に入るんだよ。私の計画は完璧。もう旦那様は私の手に入ったも同然。」
ふっふっふと笑うサクラのなんて怪しいことか。
本当に大丈夫? もう一人の母として心配になっちゃうよ。
「サクラが立てた作戦なら大丈夫だろ。まぁ、恋愛ごとに作戦なんて小賢しいような気もするが。」
「はいはい。お母さんになかなか告白出来なかったヘタレなお父さんは黙ってて。」
うわぁっ…………なんて辛辣。
「お、俺はちゃんと告白したぞ!」
「戦争が始まるってことで切羽詰まったからでしょ? それまではずーっとただの幼馴染だったくせに。」
娘の一言がトドメとなり、ガクリと膝を付く父親。
「あちゃぁ。」
レイベルトったら落ち込んじゃった。
エイミーになかなか告白出来なかった事、実は気にしてたんだね。
「サクラ。お父さんをそんな風に言っちゃダメよ? お父さんは凄く立派なんだから。」
エイミーの視線はレイベルトの下半身に集中している。
「はいはい。お母さんったらこういう時は絶対お父さんの味方だもんね。」
そしてエイミーの様子に気付かず不貞腐れるサクラ。
ねえエイミー? アンタどこ見て立派とか言ってんの? 一応娘の前でしょうが。
「じゃ、私は早速旦那様を篭絡してくるから。」
そう言ってサクラは風魔法で駆け出して行った。
心配だから念のため追いかけよう。万一力づくで相手に迫ったら事件だし。
私はサクラに追跡がバレないよう、エイミー仕込みの魔力隠蔽結界を自分に纏わせ走り出した。
サクラを追いかけてから約三時間。
私はザーラル伯爵が治める街へと来ていた。
「サクラの相手はザーラル伯爵の三男だったんだ……。」
意外。
ザーラル伯爵は確か私の親と同年代なはず。
となれば、あそこの三男はサクラと年が十くらい離れていても不思議じゃない。
「それにしても作戦ってどんなだろ? あんまり変な事はして欲しくないんだけどなぁ。」
ザーラル伯爵の屋敷が見える辺りでサクラは立ち止まり、周囲を見回してからサッと路地裏に入った。
私は急いで付近の民家の屋根に飛び乗りサクラの様子を確認すると、建物の陰に隠れてコソコソと何かをやっているみたい。
「何してるのかな?」
注意して見てみると、何故か自分のスカートの後ろ部分をパンツの中に押し込んでいる。
「あの子、マジで何してんの?」
あれじゃあ後ろからパンツが丸見えだよ。
「まるっきり痴女じゃん。」
暫くの間サクラを監視していると…………。
「あっ。門が。」
ザーラル伯爵の屋敷の門が開いた。
門からは一台の馬車が出てきている。
「もしかして、あれにお相手が乗ってるとか?」
きっとそうなんだろうね。
というか、お相手のスケジュールなんてどうやって把握したんだろ。密偵とか放っているんじゃないよね?
「動き出したね。」
馬車はそのままゆっくりと進み、そしてサクラがそこへ勢いよく飛び出した。
「は?」
馬車は急に目の前に飛び出してきた人を轢くまいと急停止し、サクラは驚いたように可愛く尻餅をつく。
「急に……出す…!」
聞こえないね。
急に飛び出してくるな、みたいな事を言われてるんだろうけど……もっと近づいてみよう。
「危ないじゃないか!」
「す、すみません。」
御者に叱られシュンとするサクラ。
エイミーに似た顔でそんな表情をするとか、なかなか可愛いじゃん。自分の可愛さを自覚しているからこその手法だ。
「おいおい。そんなに大声を出したら娘さんが怖がる。お怪我はありませんか?」
馬車から一人の男が降りてきて御者を窘め、尻を地べたにつけたサクラに手を貸した。
結構イケメンだね。レイベルト程じゃないけど。
「は、はい。ありがとうございます。私ったらおっちょこちょいで……。」
うん。普通は自分をおっちょこちょいなんて言わない。
どこでそのあざとい方法を覚えたんだか。
「あら。いけないわ。私のせいでお手を汚させてしまい申し訳ありません。」
そう言ってサクラがハンカチをバッグから取り出そうとするも、バッグが無い事に気付いた……という小芝居をし始める。
無い、無いわ、と言ってその場でクルリと回り、辺りを探しながら自らのパンツを見せつけ始めるサクラ。
「くくっ。面白れぇ女。」
そんなサクラの様子を見た男は口に手を当て笑っている。
な、なんて事。
少女漫画でしか見た事のない、あの伝説の『面白れぇ女』がリアルに聞けるだなんて。
サクラ……恐ろしい子っ!
「はい。カイル様をずっとお待ちしております。」
カイル王子とアーリィは互いに抱き合いながら別れを惜しんでいる。
あの訓練の後、カイル王子は自らの魔法を磨き上げるのだと息巻いていた。
「ではカイル様。またのお越しをお待ちしております。」
「ありがとうございます。これ程歓迎して頂いて、更には私としても大変嬉しい縁を結べた事を心より感謝しております。」
そう言って爽やかに手を振るカイル王子の帰国を全員で見送った。
「碧ちゃん。何であの人を同行させたの?」
「あぁ。バッツの事? あの人はナガツキ軍所属だけど出身はサルージ王国だからね。帰郷ついでにカイル王子の魔法を鍛えてくれるでしょ。」
私は訓練の指導者として、ナガツキ大公軍の魔法部隊総隊長であるバッツをカイル王子に同行させた。
バッツはサルージ王国出身で、魔法だけなら勇者級。剣術は護身程度という極端な能力の持ち主。
里帰りの意味も込めてカイル王子達とともに送り出してあげた。再びカイル王子がこちらに来る時には一緒に戻って来る予定だ。
「これでカイル王子は訓練出来るし、バッツは里帰り出来るしで良い事尽くめだよ。」
「碧ママも良い人を同行させたよね。あの二人、さっきはサルージ王国あるあるみたいな話で盛り上がってたもん。」
バッツは思いの外王子と気が合ったらしく、すっかり仲良くなっていた。
「そうだね。さて、次はサクラかな? 結婚出来そうなんだよね?」
「勿論! 将来の旦那様の為に周囲にいる女の性質を調査すると共に旦那様の趣味嗜好も今一度洗い出したの。他にも私自身が女としての魅力を磨いているんだから。」
何それ? 努力の方向性が変。
「ストーカーじゃん。ストーカーは犯罪……ってこの国にはストーカーって概念が無いのか。」
「ストーカー? はともかく、メメちゃんに教わった方法だから間違いないよ。」
「メメちゃんに?」
だったら問題ないか。
本当は問題だらけだけど、メメちゃんが言うなら恐らく考えがあるんだろうしね。
「サクラはどうするつもりなんだ? 今回のように爵位を渡す事も出来るぞ。それとも自分が嫁に行くのか?」
「私も出来れば婿を取りたいと思ってる。相手は貴族家の三男だからね。」
「自分の家は継げないってことか。なら、どの程度の爵位を渡すのが良いだろうな……。」
「旦那様は優秀だから侯爵とは言わないけど、伯爵位は欲しいかな。」
まだ結婚も決まってないのに旦那様呼ばわり。
もしかしてサクラって結構地雷系女子?
「そ、そうなんだ。頑張らないとね。」
まさかサクラの妄想じゃないよね? 大丈夫だよね?
「本当、メメちゃんに相談して良かったわ。」
エイミーはほっと胸をなでおろし、サクラの問題は解決したと言う。
「これから旦那様籠絡作戦の最終段階に入るんだよ。私の計画は完璧。もう旦那様は私の手に入ったも同然。」
ふっふっふと笑うサクラのなんて怪しいことか。
本当に大丈夫? もう一人の母として心配になっちゃうよ。
「サクラが立てた作戦なら大丈夫だろ。まぁ、恋愛ごとに作戦なんて小賢しいような気もするが。」
「はいはい。お母さんになかなか告白出来なかったヘタレなお父さんは黙ってて。」
うわぁっ…………なんて辛辣。
「お、俺はちゃんと告白したぞ!」
「戦争が始まるってことで切羽詰まったからでしょ? それまではずーっとただの幼馴染だったくせに。」
娘の一言がトドメとなり、ガクリと膝を付く父親。
「あちゃぁ。」
レイベルトったら落ち込んじゃった。
エイミーになかなか告白出来なかった事、実は気にしてたんだね。
「サクラ。お父さんをそんな風に言っちゃダメよ? お父さんは凄く立派なんだから。」
エイミーの視線はレイベルトの下半身に集中している。
「はいはい。お母さんったらこういう時は絶対お父さんの味方だもんね。」
そしてエイミーの様子に気付かず不貞腐れるサクラ。
ねえエイミー? アンタどこ見て立派とか言ってんの? 一応娘の前でしょうが。
「じゃ、私は早速旦那様を篭絡してくるから。」
そう言ってサクラは風魔法で駆け出して行った。
心配だから念のため追いかけよう。万一力づくで相手に迫ったら事件だし。
私はサクラに追跡がバレないよう、エイミー仕込みの魔力隠蔽結界を自分に纏わせ走り出した。
サクラを追いかけてから約三時間。
私はザーラル伯爵が治める街へと来ていた。
「サクラの相手はザーラル伯爵の三男だったんだ……。」
意外。
ザーラル伯爵は確か私の親と同年代なはず。
となれば、あそこの三男はサクラと年が十くらい離れていても不思議じゃない。
「それにしても作戦ってどんなだろ? あんまり変な事はして欲しくないんだけどなぁ。」
ザーラル伯爵の屋敷が見える辺りでサクラは立ち止まり、周囲を見回してからサッと路地裏に入った。
私は急いで付近の民家の屋根に飛び乗りサクラの様子を確認すると、建物の陰に隠れてコソコソと何かをやっているみたい。
「何してるのかな?」
注意して見てみると、何故か自分のスカートの後ろ部分をパンツの中に押し込んでいる。
「あの子、マジで何してんの?」
あれじゃあ後ろからパンツが丸見えだよ。
「まるっきり痴女じゃん。」
暫くの間サクラを監視していると…………。
「あっ。門が。」
ザーラル伯爵の屋敷の門が開いた。
門からは一台の馬車が出てきている。
「もしかして、あれにお相手が乗ってるとか?」
きっとそうなんだろうね。
というか、お相手のスケジュールなんてどうやって把握したんだろ。密偵とか放っているんじゃないよね?
「動き出したね。」
馬車はそのままゆっくりと進み、そしてサクラがそこへ勢いよく飛び出した。
「は?」
馬車は急に目の前に飛び出してきた人を轢くまいと急停止し、サクラは驚いたように可愛く尻餅をつく。
「急に……出す…!」
聞こえないね。
急に飛び出してくるな、みたいな事を言われてるんだろうけど……もっと近づいてみよう。
「危ないじゃないか!」
「す、すみません。」
御者に叱られシュンとするサクラ。
エイミーに似た顔でそんな表情をするとか、なかなか可愛いじゃん。自分の可愛さを自覚しているからこその手法だ。
「おいおい。そんなに大声を出したら娘さんが怖がる。お怪我はありませんか?」
馬車から一人の男が降りてきて御者を窘め、尻を地べたにつけたサクラに手を貸した。
結構イケメンだね。レイベルト程じゃないけど。
「は、はい。ありがとうございます。私ったらおっちょこちょいで……。」
うん。普通は自分をおっちょこちょいなんて言わない。
どこでそのあざとい方法を覚えたんだか。
「あら。いけないわ。私のせいでお手を汚させてしまい申し訳ありません。」
そう言ってサクラがハンカチをバッグから取り出そうとするも、バッグが無い事に気付いた……という小芝居をし始める。
無い、無いわ、と言ってその場でクルリと回り、辺りを探しながら自らのパンツを見せつけ始めるサクラ。
「くくっ。面白れぇ女。」
そんなサクラの様子を見た男は口に手を当て笑っている。
な、なんて事。
少女漫画でしか見た事のない、あの伝説の『面白れぇ女』がリアルに聞けるだなんて。
サクラ……恐ろしい子っ!
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