上 下
91 / 128
最終章 幸せな日々

番外編 第24話 訓練風景

しおりを挟む
 暫くすると、楽し気に話しながら私達がいた部屋に戻ってきたカイル王子とアーリィ。

 二人きりのお見合いで仲良くなれたみたいね。

 その間碧ちゃんを私が引きつけていた甲斐もあり、レイ君の惨状には気付かれていない。


「カイル王子。宜しければレイベルトの訓練を見学してみませんか?」

「英雄の訓練……どんなものか興味がありますね。」


 最初から興味があるなんてもしかしたら才能があるかもしれないわ。

 碧ちゃんは興味をもってもらおうとして、更にカバーストーリーまで話し始めた。


「英雄レイベルトは愛する人を守る為、常軌を逸した訓練に身を投じていたんです。彼は死線を何度もくぐり抜け、絶対に死ぬだろうと思われた戦場から生きて帰ってきました。」

「なんと。愛する人の為だったんですか……。」

「はい。戦争に負ければ自分は勿論、愛する人だってどうなってしまうか分かりません。」

「そう……ですね。侵略戦争に負けた後どうなるか。それは相手次第ですからね。」


 深刻そうな顔で同意してみせるカイル王子。

 イットリウム王国が侵略されれば次はサルージ王国が国境を接する事になったはずなんだし、他人事ではないわよね。


「はい。だからこその訓練でした。彼は戦後にこう言っていました。」


 碧ちゃんは一度言葉を切り、続けて話す。


「いやぁ、あの訓練が無ければ今頃死んでたな。え? 辛くはないのかって? それは勿論辛かった。だがな? 愛する人だって守れたし、やはり訓練をしていて良かったと実感した、と。」


 碧ちゃんってこういう細かい芸というかなんというか……得意なのよね。

 レイベルトの真似が結構似ている。

 まぁ、半分以上…………いえ、ほぼ嘘なんだけど。

 他国の王族相手に堂々と嘘をつくあたり、碧ちゃんも相当肝が据わっている。


「英雄レイベルト殿が言うからには効果の高い訓練なのでしょうね。」

「はい。」


 訓練の効果が高いのは間違いないと私も思うわ。

 異界の神も逃げ出そうとするくらいの訓練内容だけど。


「魔法の訓練だったら私も見たいです。」

「あら。アーリィが訓練なんてどういう風の吹き回し?」

「魔法ならですよ? 魔法の訓練だけなら私も見たいです。」


 アーリィは訓練が好きじゃないと言って今まで見学すらした事がない。

 だから魔法の訓練もお勉強の延長線上にあると思っているのね。

 先日レイベルトに少しだけ魔法を教わったと聞いたけど、結構優しく教えてあげたのかしら?

 訓練を見て泣かないといいけど…………














「アオイ殿。刑罰ではなくて、訓練を見せてくれるのではなかったのですか?」


 完全に誤解されてるわね。


「訓練です。」

「え?」

「あれが訓練です。」

「……。」


 カイル王子は目を見開いて驚いている。

 そうよね。

 私も初めて見た時は訓練だと思わなかったもの。


「レイア殿の奥方は…………何か許されざる罪を犯してしまったのでしょうか?」

「えぇ。王子に挨拶もなしに立ち去った罪ですね。」


 刑罰だとしても確実にあれはやり過ぎだと思う。

 一般家屋よりも遥かに巨大な大岩を抱え、のろのろと歩く人を見て刑罰だと勘違いしてしまうのも仕方ないわ。


「あの……気にしていませんので、やめてあげてはどうでしょうか? というか、良くあんなの持てますね。」

「カイル王子。あれは訓練なので安心ですよ。それにあの子は頑丈だから心配いりません。」

「は…………はい?」

「頑丈に出来ていますから。鉄なんかより余程。」


 あの訓練のどこに安心する要素があるのかしら。

 シューメルちゃんは疲労で立ち止まったりすると、レイベルトの怒声が聞こえては再びのろのろと歩き出すという事を繰り返していた。

 私だって魔力を全開にすれば抱えて走る事は出来るけど、シューメルちゃんと同じ量の魔力しか使えないのなら多分同じようになる。

 まるで小さな岩山が動いているようにも見えるこの状況、カイル王子に上手く説明する自信が私にはない。

 碧ちゃんの説明もかなり無理矢理で、全く説明になっていないもの。


「うぅ……やっぱり訓練なんて禄なものじゃないです。」


 アーリィには刺激が強過ぎたみたいね。


「だ、大丈夫よアーリィ? ちゃんとこの後魔法の訓練もあるからね?」


 魔法の訓練はこれに比べたらかなりまとも。


「本当ですか?」

「本当よ。」


 あくまで、これに比べたらの話だけど。


「あっ……。」


 ズウウウウンンと大岩が地面に接地してしまった。

 レイベルトが「次は魔法の訓練だ。」と言っているのが聞こえる。

 シューメルちゃんが潰されたところで訓練は終了したみたい。


「あの……潰れてしまったのでは?」

「大丈夫です。あの子は鉄より頑丈なので、大岩の下敷きになったくらいでは死にません。」


 碧ちゃん。あれを見て大丈夫だと思う人はいないよ。


「やはり……魔神か。」


 カイル王子がそう思うのも無理はないでしょうね。

 まぁ、魔神というのもあながち間違いではないかしら。

 なにせ、シューメルちゃんは正真正銘さぐぬtヴぃらヴんみrの神なのだから。


「シューメルさんが…………。」


 アーリィが泣きそうな顔で大岩を見つめていると、レイベルトが大岩をスパスパ斬り始めた。

 まるで柔らかい物でも斬るかのように。

 そうして大岩の下敷きになったシューメルちゃんを掘り起こした後、引き摺ってこちらへ来る彼は…………どちらが異界から現れた怪物なのか分からない。


「カイル王子。訓練はどうでしたか?」


 爽やかな笑顔で王子に話しかけるレイベルトはいっそ清々しい。


「す、凄いですね……。レイベルト殿はいつもあのような訓練を?」

「流石にあれ程の大岩は俺じゃ持てません。精々あの十分の一程度ですね。」


 レイベルトの魔力量であの大岩の十分の一も持てるなら十分おかしい。

 魔力なしの純粋な身体能力がかけ離れているという事。


「レイベルト殿はその……自分では出来ない訓練を息子の嫁に課したのですか?」

「……申し訳ありません。俺はまだ訓練が足りないのであれ程の大岩を持つ事は出来ないのです。そのうち出来るようになりますので、どうかご容赦を。」


 違うよレイベルト。

 王子はそういう話がしたいんじゃないと思うの。


「彼女は特別魔力が多いので、あれくらいでなければ訓練にならないのです。」


 碧ちゃん。それ、全然フォローになってないよ。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

勇者パーティを追放されそうになった俺は、泣いて縋って何とか残り『元のDQNに戻る事にした』どうせ俺が生きている間には滅びんだろう!

石のやっさん
ファンタジー
今度の主人公はマジで腐っている。基本悪党、だけど自分のルールあり! パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のリヒトは、とうとう勇者でありパーティリーダーのドルマンにクビを宣告されてしまう。幼馴染も全員ドルマンの物で、全員から下に見られているのが解った。 だが、意外にも主人公は馬鹿にされながらも残る道を選んだ。 『もう友達じゃ無いんだな』そう心に誓った彼は…勇者達を骨の髄までしゃぶり尽くす事を決意した。 此処迄するのか…そう思う『ざまぁ』を貴方に 前世のDQNに戻る事を決意した、暗黒面に落ちた外道魔法戦士…このざまぁは知らないうちに世界を壊す。

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

【石のやっさん旧作】『心は』●●勇者…さぁ勇者褒美をとらす! 欲しい物をなんでも言うが良い! 「はい、では●●●で!」

石のやっさん
ファンタジー
主人公の理人(りひと)はこの世界に転生し、勇者に選として、戦い続けてきた。 理人は誰にも言っていなかったが、転生前は42歳の会社員の為、精神年齢が高く、周りの女性が子供に思えて仕方なかった。 キャピキャピする、聖女や賢者も最早、子供にしか見えず、紳士な彼からしたら恋愛対象じゃない。 そんな彼が魔王を倒した後の物語… 久々の短編です。

『異世界は貧乳が正義でした』~だから幼馴染の勇者に追放されても問題がない~ざまぁ? しませんよ!マジで!

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のリヒトは、とうとう勇者でありパーティリーダーのガイアにクビを宣告されてしまう。幼馴染も全員ガイアの物で、居場所がどこにもないことを悟った彼は、一人去ったのだった。 実は彼は転生者で幼馴染には全く興味が無かったからだ。 そして彼は…此処からは読んでからのお楽しみです。 『美醜逆転』『男女比』で異世界系のリクエストを貰ったので書き始めてみました。 ただ、それだと面白味が無いので少し捻ってみました。 実験を兼ねた思いつきなので中編になるか長編になるか未定。 1話はいつもの使いまわしです。

たとえば勇者パーティを追放された少年が宿屋の未亡人達に恋するような物語

石のやっさん
ファンタジー
主人公のリヒトは勇者パーティを追放されるが別に気にも留めていなかった。 ハーレムパーティ状態だったので元から時期が来たら自分から出て行く予定だったし、三人の幼馴染は確かに可愛いが、リヒトにとって恋愛対象にどうしても見られなかったからだ。 だから、ただ見せつけられても困るだけだった。 何故ならリヒトの好きなタイプの女性は…大人の女性だったから。 この作品の主人公は転生者ですが、精神的に大人なだけでチートは知識も含んでありません。 勿論ヒロインもチートはありません。 他のライトノベルや漫画じゃ主人公にはなれない、背景に居るような主人公やヒロインが、楽しく暮すような話です。 1~2話は何時もの使いまわし。 リクエスト作品です。 今回は他作品もありますので亀更新になるかも知れません。 ※ つい調子にのって4作同時に書き始めてしまいました。   

勇者のハーレムパーティを追放された男が『実は別にヒロインが居るから気にしないで生活する』ような物語(仮)

石のやっさん
ファンタジー
主人公のリヒトは勇者パーティを追放されるが 別に気にも留めていなかった。 元から時期が来たら自分から出て行く予定だったし、彼には時期的にやりたい事があったからだ。 リヒトのやりたかった事、それは、元勇者のレイラが奴隷オークションに出されると聞き、それに参加する事だった。 この作品の主人公は転生者ですが、精神的に大人なだけでチートは知識も含んでありません。 勿論ヒロインもチートはありません。 そんな二人がどうやって生きていくか…それがテーマです。 他のライトノベルや漫画じゃ主人公になれない筈の二人が主人公、そんな物語です。 最近、感想欄から『人間臭さ』について書いて下さった方がいました。 確かに自分の原点はそこの様な気がしますので書き始めました。 タイトルが実はしっくりこないので、途中で代えるかも知れません。

【完結】数十分後に婚約破棄&冤罪を食らうっぽいので、野次馬と手を組んでみた

月白ヤトヒコ
ファンタジー
「レシウス伯爵令嬢ディアンヌ! 今ここで、貴様との婚約を破棄するっ!?」  高らかに宣言する声が、辺りに響き渡った。  この婚約破棄は数十分前に知ったこと。  きっと、『衆人環視の前で婚約破棄する俺、かっこいい!』とでも思っているんでしょうね。キモっ! 「婚約破棄、了承致しました。つきましては、理由をお伺いしても?」  だからわたくしは、すぐそこで知り合った野次馬と手を組むことにした。 「ふっ、知れたこと! 貴様は、わたしの愛するこの可憐な」 「よっ、まさかの自分からの不貞の告白!」 「憎いねこの色男!」  ドヤ顔して、なんぞ花畑なことを言い掛けた言葉が、飛んで来た核心的な野次に遮られる。 「婚約者を蔑ろにして育てた不誠実な真実の愛!」 「女泣かせたぁこのことだね!」 「そして、婚約者がいる男に擦り寄るか弱い女!」 「か弱いだぁ? 図太ぇ神経した厚顔女の間違いじゃぁねぇのかい!」  さあ、存分に野次ってもらうから覚悟して頂きますわ。 設定はふわっと。 『腐ったお姉様。伏してお願い奉りやがるから、是非とも助けろくださいっ!?』と、ちょっと繋りあり。『腐ったお姉様~』を読んでなくても大丈夫です。

処理中です...