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最終章 幸せな日々
番外編 第21話 天使
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「お初にお目にかかりますナガツキ大公様。私はサルージ王国の第二王子、名をカイル=サルージと申します。」
丁寧にお辞儀をし、俺よりも低い位置に頭を置くサクラよりやや年上に見える青年。まるで上位者に対しての挨拶であるかのようだ。
にしても随分と腰の低い王子だな。しかも一緒にいる従者なんて俺達に土下座までしてるじゃないか。
「ようこそお越しくださいました。ナガツキ大公家一同歓迎致します。」
「「「ははぁっ!」」」
ちょっと待て。お前王子だろ? 従者と一緒に土下座するのやめろ。
「どうか頭を上げて頂きたい。貴方は王族ですよ?」
「私のような下賤な者になんと寛大な……。」
王族が下賤な者なわけないだろが。
悲しい事に、国内の貴族は一部を除いてナガツキ家に対しては皆こうなのだ。
相手が隣国だから大丈夫だろうと思っていたが、正直油断した。
「さあさあ。歓迎の準備は整っています。堅苦しい挨拶は抜きにして、先ずは食事でも。」
「なんと……たかが第二王子風情の私に食事まで…………。」
「カイル様、良かったですね。」
「おお。我らの王子が英雄に歓迎されている。」
風情って何だよ。お前は俺達を何だと思ってるんだ?
こちらへの敬意なのか畏怖なのかはたまた両方か、そういったものを払拭する為レイアが何度も俺達は普通の人間である事を説明した。
酒をしこたま飲ませながら。
何かが違う気はするが、結果としてある程度普通に接してくれるようにはなった。
「いやはや、レイベルト殿も息子のレイア殿も気さくで助かります。このカイル、先程までは正直生きた心地がしませんでした。ぷはぁっ。」
だろうな。
あそこまで自分を卑下するのだから、大方そんなところだとは思っていた。
というか酒臭いなおい。
「ナガツキ大公家は確かに強くはありますが、心は普通の人間です。今後ともカイル様には普通に接して頂ければ幸いです。」
「英雄というからにはもっと怖そうな方を想像していましたが、雰囲気が優し気で話しやすい御仁。何故皆が恐れているのか不思議なくらいです。」
それは俺も分からん。
「全くです。これも風評被害というやつかもしれません。ところで、そろそろうちのアーリィを紹介したいのですが。」
「おお! レイア殿が出す酒の旨さに目が眩み、すっかり失念していましたね。ひっく。」
レイア。雰囲気を和ませる程度で良かったんだぞ?
第二王子をこんなに酔わせてどうする気だ。
これは後でアオイに怒られるな。
「アーリィを呼んできてくれ。」
レイアが一度退席し、アーリィを呼びに行く。
「うちのアーリィは政治の話なんかも好きでして、カイル様とお話が合うかもしれません。」
「それは嬉しいですね。どうも年の近い御令嬢方は流行のお茶や小物、美しいドレス、恋愛ごとなどに興味があるようでして、私とはなかなか話が合わず……。」
あぁ……普通の貴族令嬢はそうかもしれん。
うちの娘達は全く違うようだが、一体どうやってサクラやアーリィは友達を作ってるんだ?
他の令嬢達と話が合わないんじゃないか?
「連れて参りました。」
「良し入れ。」
ドアから入って来たのは着飾った四人の女性陣。アオイ、エイミー、サクラ、アーリィだ。
レイアよ。何故四人も連れて来たんだ?
取り敢えずアーリィだけで良いだろが。
「な、なんと可憐な…………。初めまして。私はサルージ王国第二王子、カイル=サルージと申します。」
カイル王子はアオイの手を取り挨拶をする。
完全に勘違いしてるな。
「あ、あー……初めましてですけど、私は碧。レイベルトの妻です。」
「え? あ、これは失礼致しました。レイベルト殿の奥方は随分お若いようですが……。」
勘違いされるのも仕方ない。見た目だけならレイアと姉弟にしか見えんからな。
「アオイは俺より年上ですよ。」
「うん? レイベルト殿も冗談を言うのですね。」
「いえ、冗談ではありませんが。」
「…………え?」
分かるぞ。アオイを見た奴は大体こんな反応だからな。
「で、ではこちらがアーリィ殿で? 大変可愛らしい方だ。」
エイミーの方を見ながら俺に質問するカイル王子。
「私はレイベルトの妻、エイミーです。」
「レイベルト殿。こちらの奥方も随分お若いですね?」
「あー……。エイミーは俺と同い年です。」
「…………もしや若返りの秘薬などお持ちなのですか?」
「持ってないです。」
どうしてその結論に至ったんだ?
いや、言いたい事は分かるがな。
「もしやこの方も……。」
「あぁ。その子はサクラ。エイミーとの娘で今は17歳です。」
サクラの年齢を聞いた途端、カイル王子はほっとした様子を見せた。
「そ、それでは……お三方の後ろに隠れている方が……。」
「はい。アーリィ、恥ずかしがってないで出てくるんだ。」
アーリィはもじもじしながらひょこっとアオイの後ろから顔を覗かせる。
うちの娘はなんて可愛いのだろうか。
「……。」
どうしたんだ?
アーリィを見たかと思えば固まってるじゃないか。
「天使だ…………。」
「はい?」
「天使が地上に降臨なされたのだ。」
ぼけーっとアーリィを見つめるカイル王子は熱に浮かされているかのように独り言を呟いた。
この男は何を言ってるんだ?
「カイル様。恐れながら、天使よりも可愛いと思いますが。」
「し、失礼しました! その通りです! 天使などとは比較にならない程可愛い!」
「え、えっと。アーリィと申します。」
「ふおおおおおおおおおっっ!! 可愛いっ!!」
興奮し過ぎだろ。
完全に飲ませ過ぎたな。
「あの、あの……政治面で優れている殿方と伺っております。私もそういったお話を好んでする傾向にございまして。」
「アーリィ殿。私と結婚致しましょう。」
ガシッとアーリィの手を取り求婚する第二王子は少し暴走気味のようだ。
「アーリィ殿程愛らしい方には第二王子の妻では相応しくないですね。ちょっと王位を簒奪して参りますので、二年……いや一年時間を下さい。貴女にきっと王妃の座をお贈り致します故! ひっく。」
頼むからやめろ。国際問題になる。
「王子!」
「カイル様!」
お? 良いぞ。
従者達よ、お前らの王子がご乱心だから止めてくれ。
「誠に素晴らしき案かと!」
「お二人に乾杯!」
なんでだよ!? お前らは止める側だろ!
「父さんごめん。」
「レイアは何を謝っているんだ?」
「その……従者の人達も酒を飲めないと可哀想かと思って…………。」
は?
「たくさん飲ませてしまった。」
「待て。一応聞くが、何を飲ませた?」
頼むからナガツキ家のおいしい湧き水とか健全なものであってくれっっ!
「英勇殺し。」
お、お前…………。
「客に出す類いの酒じゃないだろ!」
「しかもストレートで。」
「謝る気あるのかお前は!?」
「ご、ごめんって。でも、今は酔ってるけど後で冷静になれば問題ないはずだから。」
それもそうか。
酔った状態が一生持続するわけじゃないしな。
「ちょっとちょっと。あれ、良いの?」
アオイが俺の袖を引っ張りカイル王子に視線を向ける。
何かを書いているようだが……何をやってるんだ?
俺は後ろからこっそりと回り込み、王子が書いている文章を読んで見た。
我、絶対強者レイベルト殿の名の下に王位を簒奪せん。
英雄レイベルト殿と勇者アオイ殿の娘アーリィ殿を娶るにあたり、第二王子という私の格では不足である。
これ程の強者の娘には王ですら格が足りないというのに、あろうことかアーリィ殿はサルージ王国王妃程度で我慢して下さるとの事。
父上におかれましては、王位を私に明け渡し下さるのがよろしいかと。
突然だと問題になるので、時間を掛けて兄上と王位継承を争う体で自然な流れを作り…………
「待て。その手紙を出してはいけない。」
「いきなり奪うのはマズいのでは?」
いきなりじゃなくても奪うのはダメだろう。
「そもそも奪うのがマズい。」
「はぁ……。」
良く分からないという顔をするカイル王子だが……俺の方が分からんわ!
丁寧にお辞儀をし、俺よりも低い位置に頭を置くサクラよりやや年上に見える青年。まるで上位者に対しての挨拶であるかのようだ。
にしても随分と腰の低い王子だな。しかも一緒にいる従者なんて俺達に土下座までしてるじゃないか。
「ようこそお越しくださいました。ナガツキ大公家一同歓迎致します。」
「「「ははぁっ!」」」
ちょっと待て。お前王子だろ? 従者と一緒に土下座するのやめろ。
「どうか頭を上げて頂きたい。貴方は王族ですよ?」
「私のような下賤な者になんと寛大な……。」
王族が下賤な者なわけないだろが。
悲しい事に、国内の貴族は一部を除いてナガツキ家に対しては皆こうなのだ。
相手が隣国だから大丈夫だろうと思っていたが、正直油断した。
「さあさあ。歓迎の準備は整っています。堅苦しい挨拶は抜きにして、先ずは食事でも。」
「なんと……たかが第二王子風情の私に食事まで…………。」
「カイル様、良かったですね。」
「おお。我らの王子が英雄に歓迎されている。」
風情って何だよ。お前は俺達を何だと思ってるんだ?
こちらへの敬意なのか畏怖なのかはたまた両方か、そういったものを払拭する為レイアが何度も俺達は普通の人間である事を説明した。
酒をしこたま飲ませながら。
何かが違う気はするが、結果としてある程度普通に接してくれるようにはなった。
「いやはや、レイベルト殿も息子のレイア殿も気さくで助かります。このカイル、先程までは正直生きた心地がしませんでした。ぷはぁっ。」
だろうな。
あそこまで自分を卑下するのだから、大方そんなところだとは思っていた。
というか酒臭いなおい。
「ナガツキ大公家は確かに強くはありますが、心は普通の人間です。今後ともカイル様には普通に接して頂ければ幸いです。」
「英雄というからにはもっと怖そうな方を想像していましたが、雰囲気が優し気で話しやすい御仁。何故皆が恐れているのか不思議なくらいです。」
それは俺も分からん。
「全くです。これも風評被害というやつかもしれません。ところで、そろそろうちのアーリィを紹介したいのですが。」
「おお! レイア殿が出す酒の旨さに目が眩み、すっかり失念していましたね。ひっく。」
レイア。雰囲気を和ませる程度で良かったんだぞ?
第二王子をこんなに酔わせてどうする気だ。
これは後でアオイに怒られるな。
「アーリィを呼んできてくれ。」
レイアが一度退席し、アーリィを呼びに行く。
「うちのアーリィは政治の話なんかも好きでして、カイル様とお話が合うかもしれません。」
「それは嬉しいですね。どうも年の近い御令嬢方は流行のお茶や小物、美しいドレス、恋愛ごとなどに興味があるようでして、私とはなかなか話が合わず……。」
あぁ……普通の貴族令嬢はそうかもしれん。
うちの娘達は全く違うようだが、一体どうやってサクラやアーリィは友達を作ってるんだ?
他の令嬢達と話が合わないんじゃないか?
「連れて参りました。」
「良し入れ。」
ドアから入って来たのは着飾った四人の女性陣。アオイ、エイミー、サクラ、アーリィだ。
レイアよ。何故四人も連れて来たんだ?
取り敢えずアーリィだけで良いだろが。
「な、なんと可憐な…………。初めまして。私はサルージ王国第二王子、カイル=サルージと申します。」
カイル王子はアオイの手を取り挨拶をする。
完全に勘違いしてるな。
「あ、あー……初めましてですけど、私は碧。レイベルトの妻です。」
「え? あ、これは失礼致しました。レイベルト殿の奥方は随分お若いようですが……。」
勘違いされるのも仕方ない。見た目だけならレイアと姉弟にしか見えんからな。
「アオイは俺より年上ですよ。」
「うん? レイベルト殿も冗談を言うのですね。」
「いえ、冗談ではありませんが。」
「…………え?」
分かるぞ。アオイを見た奴は大体こんな反応だからな。
「で、ではこちらがアーリィ殿で? 大変可愛らしい方だ。」
エイミーの方を見ながら俺に質問するカイル王子。
「私はレイベルトの妻、エイミーです。」
「レイベルト殿。こちらの奥方も随分お若いですね?」
「あー……。エイミーは俺と同い年です。」
「…………もしや若返りの秘薬などお持ちなのですか?」
「持ってないです。」
どうしてその結論に至ったんだ?
いや、言いたい事は分かるがな。
「もしやこの方も……。」
「あぁ。その子はサクラ。エイミーとの娘で今は17歳です。」
サクラの年齢を聞いた途端、カイル王子はほっとした様子を見せた。
「そ、それでは……お三方の後ろに隠れている方が……。」
「はい。アーリィ、恥ずかしがってないで出てくるんだ。」
アーリィはもじもじしながらひょこっとアオイの後ろから顔を覗かせる。
うちの娘はなんて可愛いのだろうか。
「……。」
どうしたんだ?
アーリィを見たかと思えば固まってるじゃないか。
「天使だ…………。」
「はい?」
「天使が地上に降臨なされたのだ。」
ぼけーっとアーリィを見つめるカイル王子は熱に浮かされているかのように独り言を呟いた。
この男は何を言ってるんだ?
「カイル様。恐れながら、天使よりも可愛いと思いますが。」
「し、失礼しました! その通りです! 天使などとは比較にならない程可愛い!」
「え、えっと。アーリィと申します。」
「ふおおおおおおおおおっっ!! 可愛いっ!!」
興奮し過ぎだろ。
完全に飲ませ過ぎたな。
「あの、あの……政治面で優れている殿方と伺っております。私もそういったお話を好んでする傾向にございまして。」
「アーリィ殿。私と結婚致しましょう。」
ガシッとアーリィの手を取り求婚する第二王子は少し暴走気味のようだ。
「アーリィ殿程愛らしい方には第二王子の妻では相応しくないですね。ちょっと王位を簒奪して参りますので、二年……いや一年時間を下さい。貴女にきっと王妃の座をお贈り致します故! ひっく。」
頼むからやめろ。国際問題になる。
「王子!」
「カイル様!」
お? 良いぞ。
従者達よ、お前らの王子がご乱心だから止めてくれ。
「誠に素晴らしき案かと!」
「お二人に乾杯!」
なんでだよ!? お前らは止める側だろ!
「父さんごめん。」
「レイアは何を謝っているんだ?」
「その……従者の人達も酒を飲めないと可哀想かと思って…………。」
は?
「たくさん飲ませてしまった。」
「待て。一応聞くが、何を飲ませた?」
頼むからナガツキ家のおいしい湧き水とか健全なものであってくれっっ!
「英勇殺し。」
お、お前…………。
「客に出す類いの酒じゃないだろ!」
「しかもストレートで。」
「謝る気あるのかお前は!?」
「ご、ごめんって。でも、今は酔ってるけど後で冷静になれば問題ないはずだから。」
それもそうか。
酔った状態が一生持続するわけじゃないしな。
「ちょっとちょっと。あれ、良いの?」
アオイが俺の袖を引っ張りカイル王子に視線を向ける。
何かを書いているようだが……何をやってるんだ?
俺は後ろからこっそりと回り込み、王子が書いている文章を読んで見た。
我、絶対強者レイベルト殿の名の下に王位を簒奪せん。
英雄レイベルト殿と勇者アオイ殿の娘アーリィ殿を娶るにあたり、第二王子という私の格では不足である。
これ程の強者の娘には王ですら格が足りないというのに、あろうことかアーリィ殿はサルージ王国王妃程度で我慢して下さるとの事。
父上におかれましては、王位を私に明け渡し下さるのがよろしいかと。
突然だと問題になるので、時間を掛けて兄上と王位継承を争う体で自然な流れを作り…………
「待て。その手紙を出してはいけない。」
「いきなり奪うのはマズいのでは?」
いきなりじゃなくても奪うのはダメだろう。
「そもそも奪うのがマズい。」
「はぁ……。」
良く分からないという顔をするカイル王子だが……俺の方が分からんわ!
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