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第三章 ルートⅠ

第9話 帰還した勇者(ルートⅠEnd)

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 レイベルトと私は結婚して辺境伯の地位を得た。

 広大な領地と精強な兵を与えられ、国土防衛の要に据えられる。

 碧ちゃんは…………私達には何も告げずに日本へと帰って行った。

 王が立ち合い何度か引き止めたみたいだけど、本人の意思を無視するわけにもいかないという事で、私達への手紙だけ預かり見送ったそうだ。

 暫くの間は悲しみに暮れていたけど、いつまでも泣いてはいられないと自分を鼓舞してなんとか立ち上がった。

 でも、私はレイベルトと暮らせて幸せを感じる一方で、どうしても碧ちゃんがいない現実を受け入れ切れずにいる。

 レイベルトは自分の分を読んだみたいだけど、私宛ての手紙はまだ読んでいない。

 運命に干渉する力のせいでレイベルトと碧ちゃんが結ばれる未来が消え去ってしまったという事実がある以上、私は恨まれている可能性だってある。

 自分に対する恨み言が書かれていたらと思うと怖くて、まだ手紙の内容を確認出来ないでいた。

 碧ちゃんはそんな人じゃないけど、もしかしたら……と考えてしまってなかなか決心出来ない。


「なぁ。そろそろ手紙を読んで見たらどうだ? 俺の方には別に変な事は書かれてないぞ。」


 分かってる。それは分かってるの。

 頭ではちゃんと理解してるんだよ。


「うん。もう少し……待って。」

「まぁ。強制はしないがな。」


 ごめんね。碧ちゃんからの手紙、怖くてまだ読めないよ。



































「エイミーは私の手紙、読んでくれたかなぁ。」


 あの娘の事だから、ウジウジしてまだ読んでない可能性がある。

 何気に私と似たようなところがあるからね。


「さて、今日も元気に学校へ行きますか。」




 今の私は大学二年生。

 バイトにサークルに勉強に……と、充実した生活を送っている。

 あの二人に黙って帰還してから二年と半年。

 日本に帰還したら、私があの世界に召喚された時と同じ時間にまで戻っていたのはラッキーだった。

 最悪、二年くらい行方不明扱いになっている可能性もあったからね。

 従姉妹の桜ちゃんは私が召喚されたあの日から行方不明だ。

 やはりエイミーから聞いた通り、あっちの世界の伝説の勇者が桜ちゃんだったんだと思う。

 会えないのは寂しいけれども、王宮にあった日記を見た限りだと幸せだったみたい。

 400年前の存在だからって全く気付きもしなかった。

 猫耳メイド喫茶でバイトしてたなんて意外だよ。


「おっはよう碧!」

「絵美ちゃんおはよーう!」


 あの世界で経験した出来事によって、私の心は図太く成長している。

 指示した大学に行かなければ学費は出さないと親に言われたので「じゃあ奨学金借りるしお前らの金なんてアテにしないよー。」とアッカンベーして言ってやったら、父がビンタしてきたので加減して放り投げてやった。

 父はその時にギックリ腰になってしまい、私に何も言わなくなったので万々歳。

 母は娘がグレたとか言ってたけど……知りませーん。

 これも健全な親子喧嘩の範疇だと思う。

 ギックリ腰は……まぁドンマイ。


「あーあ。私も彼氏欲しいなぁ。」

「碧ならすぐ出来るでしょ? 何で作らないの?」

「無茶言わないでよ絵美ちゃん。寄ってくる男がどいつもこいつも軟弱なんだから仕方ないでしょ。」


 この子は大学で出来た友達の絵美ちゃん。

 キャンパスライフ初日、学内でしつこい奴にナンパされてて鬱陶しいなぁって思ってたら、教授を呼んでくれたとっても良い子。

 ナンパ野郎を叩きのめしてあげたところを丁度教授に見られ、厳重注意を受けてしまったけどさ。

 それで絵美ちゃんと話してみたら、なんと同じ学部の同じ学年だと言うじゃありませんか。

 これは友達になるっきゃないよね。


「碧の言う軟弱の基準って酷くない? 空手部のイケメン主将も楽勝で叩きのめしてたじゃん。」

「そんな事言われてもなぁ。心根が軟弱なんだよね。ちょっと空手出来るからって調子のってるし。」

「ちょっとじゃないじゃん! 全国大会いった事あるんだよあの先輩!?」


 全国大会がなんぼのもんよ。

 私なんて国を救った勇者だってーの。


「あの人はちょっと骨折れたくらいでピーピー騒ぎ過ぎ。私は骨が折れても『グッ。やるじゃないか。』とか言って耐える男が好きなの。」


 レイベルトみたいな……ね。


「武士かよ。」


 お?

 良いじゃん武士。


「武士みたいな人いないかなぁ。」

「ござるとか?」

「それはただの口調じゃん。」

「あはは! ごめんて。」


 全く。


「絵美ちゃんはすーぐに適当言うんだから。」


 レイベルト。君は今、エイミーと幸せに過ごせてるかな?

 私を失恋させたんだし、辺境伯なんて立派な肩書までもらってるんだから、しっかりエイミーを幸せにしてあげないとダメだよ?

 私の方はと言えば、こっちには軟弱な男が多くてホント困ってる。

 せめて君の半分くらいでも根性のある奴がいればねぇ。

 周りの男にレイベルトの特訓でも受けさせれば少しはマシになるのかな?


「異世界間郵便局とかないものかな。」


 そしたら二人に手紙を送って、二人から手紙が来て……って出来るから凄く楽しいんだけど。


「なにそれ?」

「異世界の人に手紙を送れるサービス。私が今考えた。絶対流行るよ。」

「あったら便利だよね。面白そうだし。」


 ねぇエイミー……君はきっと私に対して罪悪感を抱いてるんだろうね。

 運命の相手を奪ってしまったとか思ってるんだろうけど、君の今までの話を聞いてそんな風には思えなかったよ。

 凄く大変な思いをしてきたんだって、すぐに分かったからね。

 君がやり直した回数は恐らく一回や二回じゃない。

 いくら吸収能力があるとしても、あんな人間離れした魔力量を持つには相当な数の人間を殺さなきゃいけない。

 本当に辛い目にあってきたんだろうから、少しくらい報われたって良いはずだよ。

 好きな人と幸せになってね?


「運命に干渉する力、か。」

「急に中二病発動しちゃったの?」

「ま、そんなとこ。」


 実は手紙にヒントを残しておいたんだ。

 君がいつ読むのかは知らないけど、私の残したヒントに気付けるかな?

 私からのほんのささいな意趣返しであり、そして宿題。

 別に嫌がらせとかじゃないけど、私の運命の相手を奪ったと罪悪感を抱くなら、このくらいの事を受けてもらって贖罪にしてもらおうじゃない。

 そしたら君の心も少しは晴れるんじゃないかな?

 もっと分かり易く言ってよ碧ちゃん! なんて怒った君の姿が目に浮かぶよ。


「ふふっ。」

「なーに笑ってんの?」

「親友のね。怒った顔を思い出しちゃって。」

「笑う要素どこ!? ちょっと興味湧いたから聞かせてよ。」

「良いよ。異世界に行ったらね。」

「それ、絶対言わないヤツじゃん!」


 あの世界での出来事を誰かに言うつもりはない。

 だって信じてもらえるとは思わないし。

 それにもう、私は日本に帰って来たんだから。


「あぁ……今日も空が碧いね。」
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