上 下
54 / 87
聖女の暴力編

第53話 聖女の赦し

しおりを挟む
 変ね。実力は見せたから納得して返事をしてくれても良いんだけど……もしかして、ちゃんと見せろって事?

「納得してないみたいなので、本気を見せますね。」

 私は身体強化魔法を今の出来る最大出力まで上げた。

 このレベルまで強化すると、戦いたくてムズムズしてくる。無性に何かブッ叩きたい気分だわ。

「あっ……。」

 目の前のメフィスちゃんが尻餅をついた状態で泣きそうな顔をしている。

「大丈夫? オシッコ漏らしちゃってるけど……。」

 そっか。トイレを我慢出来なくて泣きそうだったのね。

「トイレに……」

 でも、もう漏らしちゃってるし……なら、お風呂かな?

「お風呂に行ってきて下さい。」

「は……ひ……。」

 メフィスちゃんは上手く返事が出来ていない。

 分かった、余程お母さんの事が怖かったのね?

「ほら。お母さんはもう怒ってないみたいですよ?」

 私が笑顔で手を差し伸べようとすると……

「ひぃぃぃ!! 殺さないで! お願いしますっ! ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!」

 必死に土下座し始めるメフィスちゃん。

 えぇ……? もしかして、怖がられてる?

 むしろ私が助けてあげたはずなのに……。なんて失礼な人なの。

 というか、オシッコで出来た水溜りに顔がついちゃってるけど。

「あの……。」

 誰かに止めてもらおうと声を掛けるが、配下の人達は全員が下を向いて、私と目を合わせないようにしていた。

 皆酷くない?

「ふふっ……アリエンナったら怖がられてるわよ? もっと優しくしてあげないと。」

 優しい対応をしなかったお母さんには言われたくないんだけど。

「何でアドンまで下を向いているんですか?」

「はっ! ごめんよ。咄嗟に恐怖が沸き上がってきてね。それよりも、メフィスを許してあげてくれないか?」

 おかしくない? それだと私が凄く怖いみたいに聞こえるから、やめて欲しい。

 後、許すも何も最初から怒ってなかったよ。

 怒ってたのはお母さんの方なのに……。

「それはお母さんに言って下さい。私は止めてあげた側ですよ? 何で怖がられなければいけないんです?」

「えっと、予想外に強かったからだと思う。」

 アドンは言い難そうに答えたけど、それは変よ。

「最初、アドンに勝ったって言ったじゃないですか。嘘だ嘘だって言うから強さを証明したのに、その態度はおかしくありませんか?」

 メフィスちゃんが土下座の体勢のまま、体をビクリと震わせている。

「アリエンナ? 瞳孔が開いてるわよ?」

 そんな事言ってる場合じゃないよ。お母さんも何か言ってやってよ。

「アリエンナちゃん、すまなかったね。うちのメフィスが失礼な事をした。」

 アドンは悪くないから別に良いんだけど。まぁ、こうして謝ってもくれたから許してあげよう。

 ……アドンは。

「謝罪は受け入れますが、肝心の本人がこれでは……。」

 無言で頭を下げ続ける女悪魔のメフィスちゃん。体をぷるぷると震えさせているけど、村人とは違った失礼さを感じる子ね。

「申し訳ありません! 気が動転して失礼な事をしました!」

「もう良いです。……お母さんが殴りかかった気持ちが良く分かりました。」

「でしょう? 失礼な人はどこまでいっても失礼だから、躾が必要なのよ。」

「お母さん。躾って言っても、あの威力じゃ死んじゃうよ?」

「大丈夫よ。悪魔は復活出来るんだし、死んで反省するのも良いんじゃないかしら?」

 いっそそれもアリなのかなぁ……。

 さっきから何かブッ叩きたくて仕方ないし、この人をブッ叩いちゃダメかな?

「……そうかも。」

 そうぽつりと呟いた瞬間、アドンが土下座で謝ってきた。

「アリエンナちゃんとアリエーンちゃんには迷惑をかけた。どうか許して欲しい! この通りだよ。」

 うーん……。

「……そこまでされたら許すしかないじゃないですか。」

 魔界の最高戦力の一角、魔神にここまでされたら許さざるを得ない。

 あまり責めると私が悪いみたいになっちゃうし。

「ありがとう。助かるよ。」

「アドンは顔を上げて下さい。メフィスちゃんはしばらくそのままで居ると良いと思います。」

「本当にすまなかったね。」

 アドンはようやく顔を上げて立ち上がり、周囲を見渡して言った。

「こういうワケで、本当にこの2人は強い。僕がアリエンナちゃんの配下になったのも納得しただろ?」

 魔神配下の人達は全員が下を向き、決して私とお母さんに目を合わせないようにしていた。

「皆さんちゃんと返事して下さいよ。こんなに優しくしてあげてるのに、下を向いてるなんて酷いじゃないですか。」

 部屋の中が一瞬だけシンと静まり、魔神勢が口を開いた。

「す、すまないね。皆魔神より強い人なんて見た事が無いから、きっと驚いてるんだよ。」

「そう、そうよ。アリエンナちゃんが強すぎてビビってるだけだから、気にしないでね?」

「……何故アドンと戦った時よりも強くなっているのだ? アンリの孫よ。」

 それで怖がられてたの?

 力を見せなきゃ舐められるし、力を見せたら今度は怖がられるし、どうしろって言うのよ。

 ムカついちゃうじゃない。

「アリエンナは昔から、イライラすると力が強くなるみたいなのよね。身体強化魔法を覚えた今、そちらにも影響があるのかもしれないわ。」

 言われてみれば、イライラし出してから出力が上がっている気がする。

「まぁまぁ、そんなにイライラしないで? アリエンナちゃんは優しいから、もう怒らないでくれるわよね?」

「……はい。」

 自分でも分かる。結構不貞腐れた返事をしてしまった。

「誰かアリエンナと戦ってくれる人いない?」

 お母さん……。やっぱり娘の事を分かってくれるのね。

 誰かいないかなぁ……。戦ってくれる人。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

芋くさ聖女は捨てられた先で冷徹公爵に拾われました ~後になって私の力に気付いたってもう遅い! 私は新しい居場所を見つけました~

日之影ソラ
ファンタジー
アルカンティア王国の聖女として務めを果たしてたヘスティアは、突然国王から追放勧告を受けてしまう。ヘスティアの言葉は国王には届かず、王女が新しい聖女となってしまったことで用済みとされてしまった。 田舎生まれで地位や権力に関わらず平等に力を振るう彼女を快く思っておらず、民衆からの支持がこれ以上増える前に追い出してしまいたかったようだ。 成すすべなく追い出されることになったヘスティアは、荷物をまとめて大聖堂を出ようとする。そこへ現れたのは、冷徹で有名な公爵様だった。 「行くところがないならうちにこないか? 君の力が必要なんだ」 彼の一声に頷き、冷徹公爵の領地へ赴くことに。どんなことをされるのかと内心緊張していたが、実際に話してみると優しい人で…… 一方王都では、真の聖女であるヘスティアがいなくなったことで、少しずつ歯車がズレ始めていた。 国王や王女は気づいていない。 自分たちが失った者の大きさと、手に入れてしまった力の正体に。 小説家になろうでも短編として投稿してます。

聖女として全力を尽くしてまいりました。しかし、好色王子に婚約破棄された挙句に国を追放されました。国がどうなるか分かっていますか?

宮城 晟峰
ファンタジー
代々、受け継がれてきた聖女の力。 それは、神との誓約のもと、決して誰にも漏らしてはいけない秘密だった。 そんな事とは知らないバカな王子に、聖女アティアは追放されてしまう。 アティアは葛藤の中、国を去り、不毛の地と言われた隣国を豊穣な地へと変えていく。 その話を聞きつけ、王子、もといい王となっていた青年は、彼女のもとを訪れるのだが……。 ※完結いたしました。お読みいただきありがとうございました。

婚約破棄と追放をされたので能力使って自立したいと思います

かるぼな
ファンタジー
突然、王太子に婚約破棄と追放を言い渡されたリーネ・アルソフィ。 現代日本人の『神木れいな』の記憶を持つリーネはレイナと名前を変えて生きていく事に。 一人旅に出るが周りの人間に助けられ甘やかされていく。 【拒絶と吸収】の能力で取捨選択して良いとこ取り。 癒し系統の才能が徐々に開花してとんでもない事に。 レイナの目標は自立する事なのだが……。

嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜

𝓝𝓞𝓐
ファンタジー
13歳の時に聖女として認定されてから、身を粉にして人々のために頑張り続けたセレスティアさん。どんな人が相手だろうと、死にかけながらも癒し続けた。 だが、その結果は悲惨の一言に尽きた。 「もっと早く癒せよ! このグズが!」 「お前がもっと早く治療しないせいで、後遺症が残った! 死んで詫びろ!」 「お前が呪いを防いでいれば! 私はこんなに醜くならなかったのに! お前も呪われろ!」 また、日々大人も気絶するほどの魔力回復ポーションを飲み続けながら、国中に魔物を弱らせる結界を張っていたのだが……、 「もっと出力を上げんか! 貴様のせいで我が国の騎士が傷付いたではないか! とっとと癒せ! このウスノロが!」 「チッ。あの能無しのせいで……」 頑張っても頑張っても誰にも感謝されず、それどころか罵られるばかり。 もう我慢ならない! 聖女さんは、とうとう怒った。

聖女やめます……タダ働きは嫌!友達作ります!冒険者なります!お金稼ぎます!ちゃっかり世界も救います!

さくしゃ
ファンタジー
職業「聖女」としてお勤めに忙殺されるクミ 祈りに始まり、一日中治療、時にはドラゴン討伐……しかし、全てタダ働き! も……もう嫌だぁ! 半狂乱の最強聖女は冒険者となり、軟禁生活では味わえなかった生活を知りはっちゃける! 時には、不労所得、冒険者業、アルバイトで稼ぐ! 大金持ちにもなっていき、世界も救いまーす。 色んなキャラ出しまくりぃ! カクヨムでも掲載チュッ ⚠︎この物語は全てフィクションです。 ⚠︎現実では絶対にマネはしないでください!

似非聖女呼ばわりされたのでスローライフ満喫しながら引き篭もります

秋月乃衣
恋愛
侯爵令嬢オリヴィアは聖女として今まで16年間生きてきたのにも関わらず、婚約者である王子から「お前は聖女ではない」と言われた挙句、婚約破棄をされてしまった。 そして、その瞬間オリヴィアの背中には何故か純白の羽が出現し、オリヴィアは泣き叫んだ。 「私、仰向け派なのに!これからどうやって寝たらいいの!?」 聖女じゃないみたいだし、婚約破棄されたし、何より羽が邪魔なので王都の外れでスローライフ始めます。

戦地に舞い降りた真の聖女〜偽物と言われて戦場送りされましたが問題ありません、それが望みでしたから〜

黄舞
ファンタジー
 侯爵令嬢である主人公フローラは、次の聖女として王太子妃となる予定だった。しかし婚約者であるはずの王太子、ルチル王子から、聖女を偽ったとして婚約破棄され、激しい戦闘が繰り広げられている戦場に送られてしまう。ルチル王子はさらに自分の気に入った女性であるマリーゴールドこそが聖女であると言い出した。  一方のフローラは幼少から、王侯貴族のみが回復魔法の益を受けることに疑問を抱き、自ら強い奉仕の心で戦場で傷付いた兵士たちを治療したいと前々から思っていた。強い意志を秘めたまま衛生兵として部隊に所属したフローラは、そこで様々な苦難を乗り越えながら、あまねく人々を癒し、兵士たちに聖女と呼ばれていく。  配属初日に助けた瀕死の青年クロムや、フローラの指導のおかげで後にフローラに次ぐ回復魔法の使い手へと育つデイジー、他にも主人公を慕う衛生兵たちに囲まれ、フローラ個人だけではなく、衛生兵部隊として徐々に成長していく。  一方、フローラを陥れようとした王子たちや、配属先の上官たちは、自らの行いによって、その身を落としていく。

元聖女だった少女は我が道を往く

春の小径
ファンタジー
突然入ってきた王子や取り巻きたちに聖室を荒らされた。 彼らは先代聖女様の棺を蹴り倒し、聖石まで蹴り倒した。 「聖女は必要がない」と言われた新たな聖女になるはずだったわたし。 その言葉は取り返しのつかない事態を招く。 でも、もうわたしには関係ない。 だって神に見捨てられたこの世界に聖女は二度と現れない。 わたしが聖女となることもない。 ─── それは誓約だったから ☆これは聖女物ではありません ☆他社でも公開はじめました

処理中です...