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第12話 幸子

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 何……だ?

 幸子も頭を押さえている。

 いったい……なに…が?




(好きです。付き合って下さい。

 本当に…? 俺も好きだった。 

 両想いだったんだ……。良かった。



 引っ越したくないなあ。

 ……。

 早く告っとけば良かった。そしたら思い出たくさん作れたのにな……。

 別れたくない。

 私だってそうだけど、きっとお互い負担になっちゃう。だから…ね?)




 突然前世の記憶がフラッシュバックした。

 これは……。怜の魔法の影響なのだろうか?


 幸子は前世で中一の時に付き合っていた元カノだ。期間は一か月と短く、彼女は引っ越しが分かったから勇気を出して告白してくれた。

 当時は中学生が携帯を持つことは珍しく、二人とも携帯を持っていないのに加え、中学生が会えるような距離ではなかった。俺達は泣きながら仕方なしに別れたのだ。


 幸子にも魔法は影響を及ぼしたのだろう。彼女は泣いていた。

「これ……。何? 分からないのに知ってる。私、楠君と昔付き合ってた……。」

「……。」

「私達、付き合ってた事なんて無いのに…でも付き合ってた。」

「……。」

 魔法の事を何て説明して良いか分からない。仮に説明出来たとしても、怜の力を勝手に言いふらす事はしたくない。

 彼女は俺の胸にドッと体を預け……

「ねえ……。お願いだから、少しだけこうさせて。」

 そう言って腕の中で泣いていた。

「この記憶って…何なのかな? 楠君とは高校で初めて会ったはずなのに……。」

 前世の記憶だという事前情報がない為か、彼女は混乱しているようだ。こんな幸子は初めて見る。

「引っ越した後もずっと楠君を忘れられなかった……。何か知ってるんでしょ? 楠君もこの記憶を知ったのが、何となく伝わってきてるの。」

「知ってるけど……話すのは少し待って欲しい。」

 分かった。そう言って彼女はひとしきり泣いた後、少し落ち着きを取り戻したようだ。

「付き合ってないのに付き合った事があるって不思議だね?」

「……そうだな。」

「楠君さえ良かったら、またおっぱい触っても良いよ? いつの間にか、私の忘れられない男になっちゃったみたいだし。」

 照れながらに言う彼女の顔は、あの日々の記憶を鮮明に思い出させる。

 俺も彼女に対して未練が全く無かったワケではないのだ。

「なんだったら、怜ちゃんからお乗り換えしても良いよ?」

「流石にそれは……。」

「だよね。あーあ、もっと早く思い出せてれば…私にもチャンスはあったのかな?」

 せっかく泣き止んだ彼女は、泣きそうな表情になる。

「……。」

「あの時みた…に……ひっ…好きって…っ…言っ…欲しかったな……。」

(幸子……。好きだったよ。)

 俺は当時の幸子を既に思い出にしてしまっていたが、彼女はそうじゃなかったようだ。

 引っ越してしまわなければ、一緒に過ごしたという過去が…もしかしたらあったのだろうか?

「何回も泣いちゃってごめんね?」

「良いよ。俺だってちょっと泣きそうだったからさ。」

「キスして? 合体しろとまでは言わないからさ。したければしても良いけど。」

 涙ぐんで下品な事を言う幸子。

(幸子……。好きだったよ。でも、お前のそういうとこだけは微妙だと思ってた。)

「キスだけなら…。でも、今回かぎ……」
ブチュ―!!

(またこのパターンかよ!?)

 完全に顔面を両手でロックされ、全く引き剥がす事が出来ない。

(どんな力してんだ! 全く外せねぇ!)

 ドサッ

(待て待て! 何故押し倒す!?)

 彼女は倒れた俺に覆い被さり、ガッチリと体をホールドしている。

(う……動けん。)

「プハっ!」

「まいった?」

 何がだよ。勝負でもしてんのか?

「いきなり過ぎだろ…。今回だけだからな?」

「わかった。」

「じゃあ、そろそろ体起こしたいからどい……」
 ブチュー!!

(一回だけ! 一回だけって言った!)

 彼女の力はとても強く、俺が全く抵抗できない。

(ストーップ! 腰を動かすな! 股間と股間をスリスリするなぁぁぁ!)

「プハっ!」

「まいった?」

「わかった! まいったから!」

 幸子は勝ち誇った顔でニンマリとこちらを見ている。

「気持ち良かった?」

「良かっ……」

(待てよ? ここで良かったなんて言えば、続きを要求されそうな気がする。) 

「ったような気がしないでもないような、なんかそんな感じ。」

「ハッキリしないなぁ。でも、ありがとう。」

 責めるような口調の彼女は、少しだけ不満を込めて礼を言う。

「だいぶ無理矢理だったけどな。」

「ごめんね。」

(あんまりごめんと思ってない顔だコレ。それにしても、なんか忘れてるような……。)

 俺は大事な事を思い出した。何故忘れていたのか。

「おっぱいの約束。」

「うん?」

「おっぱい触る約束。今日から毎日揉みしだいて良いって言った。」

 本来は幸子のおっぱいを触る為に屋上へ来たのだ。まだ一瞬しか触れていない。

「そこまでは言ってなくない? 勝手に記憶を捏造するな。」

 ベシっと俺の頭をチョップする幸子。

「オカシイな。何度でも好きにして良いって言ってた気がするんだけど……。」



※幸子はそこまで言っていません。
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