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お姉様編

75 お姉様死す!? ですわ 前編

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 大貴族の屋敷であるならこのくらいの広さはあっても不思議ではない。そんな廊下が、今のカリアにはどこまでも続いているかのように感じられる。

 恐怖で上手く体が動かない彼女は、それでもこの屋敷には居たくないのだと懸命に立ち上がる。

(帰るのよ……。私は帰らなきゃ……。頭が、痛い……。)

 徐々に増していく頭痛を堪え、来た道をそのまま戻るカリア。

『もう帰るの?』
『くすくす。』
『執事さん死んじゃったね。』
『あなたも死んじゃうの?』

 背後から声が聞こえた彼女はバッと振り向く。

 そこには死者……かつて生者だったものが複数、宙を舞っていた。

「あっ……」

 あまりの恐怖に悲鳴すら出ない彼女は全力で走りだす。

『どこへ行くの?』
『どうせ出られない。』

 後ろから聞こえてくる声達を頭から追いやり、兎に角エントランスを目指す。

(どうして? 私が何をしたというの……? 痛い……。)

 カリアの心臓はバクバクと鼓動を打ち鳴らし、いかに全力で走っているのかを物語る。

 今にも背後から誰かが自分を捕まえてしまうのではないかと、先程の出来事を思い返すだけでより一層恐怖を煽る。頭痛の酷さも増していく一方だ。

 走っている彼女は、遠目で前方から歩いてくる3人の人物を目にした。

(人間……人間だわ!)

 人の姿を確認し、安心した彼女は更に近づいて声を掛けようとするが……

(さっきの、私……達?)

 前方から歩いてくる人物は、自分、マサーレオ、使用人、の3人だった。

 これから何が起こるとも知らず、呑気に鏡の前で色々なポーズを試している自分。

 自身に長く仕えてくれた執事マサーレオが、鏡の不自然さに驚いた自分に手を差し伸べている場面。

 ただ、それをじっと待っている不気味な使用人。

 紛れもなく過去の自分達だと気付いてしまった。

(行かないで……行っちゃダメ……。)

 これ以上進むのをやめさせる為に執事を掴もうとするが、体をすり抜けるだけで進んでいく自分達を止められない。

「ダメ……!」

 カリアが必死に止めようと足掻くのも虚しく、3人は惨劇の舞台へと向かって行く。

 執事と自分には恋愛感情などないが、長年接するうちに芽生えた主従の絆がある。そう思っている彼女は、なんとしても止めようと後を追う。

 正に過去の焼き直しを見ているようで、どれだけ掴もうとしても、どれだけ声を掛けても
進んでいく自分達は決して止まる事なく……とうとうあの扉の前に辿り着いてしまった。
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