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夫婦円満の秘訣編

9 商売繁盛ですわ 前編

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あれから2ヵ月。

 キャロルは私のお友達として、ずっと屋敷に逗留していましたわ。彼女のお蔭で、旦那様をたくさんお預けさせる事が出来ましたの。

 旦那様は本来の愛する人から見切りをつけられ、既にお会いしていないご様子。毎日悶々としているのが手に取るように伝わってきますわ。


「セリア。今日は君と夜を過ごしたいんだ。」

「まあ、本当ですの?」

 流石にアメを与えてあげないとダメですわね。だって……私を見る目がギラついて、まるで変質者みたいなんですもの。

「やっと言えた。ずっとチャンスを窺っていたんだ。」

 旦那様、その言い方はストーカーみたいですわよ?





セリア魔道具工房にて

「今日は皆様の成果を確認しに参りました。」

 セリアは完成品の報告書に目を通す。

(どれどれ? 予想以上に出来ているじゃない。どれも売り出せばヒット間違いなしね。)

「特にこれなんて素晴らしいわ。」

 そう言ってセリアが指さしたのは、『センタックン』と名付けられた魔道具。

 水と洗剤を入れると自動で洗濯してくれ、お値段も一般庶民の手に届く価格になっている。

「これは信じられない程のヒット商品になりますわ! 早速売り出しましょう。」

 職人達は命じられた通り、工房から店に商品を移し並べ始めた。

「お店の方はお任せしますので、どんどん売って下さいな。」

 セリアはそう言って、ルンルン気分で公爵邸に帰る。




「あ、セリア。お帰りなさい。」

「キャロル。何をしていますの?」

「今ね。回復魔法を掛け続けるとどうなるか実験してたよ。」

 彼女はセリアの影響なのか、実験大好きっ娘になってしまった。

「壺に魔法を掛けていますの?」

「そう。もしかしたら回復の壺にならないかなぁって。」

 既に二時間以上も魔法を掛けているそうだ。

「それは楽しそうですわ!」

 2人はワクワクしながらその様子を眺めていると……



 にゅっと壺から手脚が生えてきた。



「「え?」」

 突然の出来事にキャロルは魔法を止めてしまった。

 そして壺はというと、部屋の扉に向けて突進しては、ゴンゴンと何度も入口にぶつかるのだ。

「もしかして、出たいのかしら?」

「出してみる?」

「そうしましょう。」

 入口を開けてやると、壺は勢いよく走り出す。

「追いましょう。」

「うん。」

 勢いづいた壺の後を追っていくと、そこは厨房だった。

 今まさに、ヒゲを生やした料理人に突撃して押し倒している。

「うわっ! なんだ!?」

 壺の口には彼の手が入り込んでいた。まるでその手を食べているかのように……。

「お? 手の痛みが引いた……。」

 どうやら彼は料理中に火傷していたそうで、壺は火傷を癒す為に走り出したようだった。

「本当に回復の壺になっちゃった。」

「そうですわね。」

 回復の壺は役目を終えたからか、その場で静かに体育座りをしている。

「聖女の回復魔法って凄いんですのね。」

「いや、あんなの聞いた事ないけど……」

 勿論、セリアも聞いた事はない。

「取り敢えず、部屋に持って行きましょう。」

「そうだね。」






その日の夜

「……とういう事がございましたのよ?」

「それは……凄いけど、なんともいえない不気味さがあるね。」

「そうでしょうか?」

「それよりも……さ。」
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