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04.二人のお茶会
しおりを挟むティーテーブルの上に並ぶ茶器は二人分。席に着いているのは公爵令嬢とそのお付きの使用人。少女達がお喋りに興じる様子は微笑ましいものだが、身分格差の大きい社会でその光景は奇異に映るに違いない。事実、以前はメイド長などは度々アミリアを窘め、リィンを折檻している。今では場面で使い分けることを覚えた為に、屋敷内では多少親しい主従程度で抑えており、いい顔はされないものの節度さえ弁えれば、と半ば諦められているのが現状だ。しかし、その実がこれ程気安い関係であると知られれば、家の者達は黙っていないだろう。
鮮やかな紅色を湛えた液体が白磁のカップの中で揺れる。水面に写る少女の表情はとても楽しげだ。
「やっぱりリィンが焼いたスコーンはとっても美味しいわ。紅茶を淹れるのも上手くなったし」
「本当? リアが喜んでくれるなら頑張って覚えた甲斐があったな」
不思議なことだが、アミリアはリィンの作った菓子が判るようだ。師匠たる屋敷のシェフにお墨付きを貰って初めてティータイムに出したときにそれだったため、若しや何かおかしなところでもあったかと心配したものが、彼女は曇りない笑顔で美味しい、と言うのだ。そしてリィンの不安げな表情を見て、
『なんとなく判るの、ひとつひとつ丁寧に作られているからかしら』と柔らかく微笑んでいたのをよく覚えている。
「──リィン、おかわりを頂戴?」
アミリアの声で今に引き戻される。
「うん」
アミリアからカップを受け取ってミルクを注ぐ。保温しておいたティーポットから茶葉を漉しながら、初めより濃くなった紅茶を注ぐと、白と赤茶色が複雑な模様を描きながらゆっくりと混じっていく。そこに砂糖を二つ入れて溶かせば、少女好みのミルクティーが出来上がる。
「はい、どうぞ」
「ありがとう」
それからも穏やかにティータイムは続く。
ふと、リィンは少し前に浮かべていた疑問を思い出して口にした。
「ねえリア、今日学園で何かあったの?」
すると終始笑顔だったアミリアの表情が不満げに歪む。嫌な事を思い出したと言いたげだ。彼女は下ろした髪の中でひと房だけ三つ編みにしている髪を指先で弄ぶ。いつの日からかする様になって、お揃いね、と無邪気に笑っていたものだ。
「最近、学園に編入してきた子がいるの。ちょっと、横柄な子でね。身分は高いのだけれど、それが先代以前の功績であることを理解していないのよ。それが、少し、気に入らなかったの」
それを聞いてリィンは目を細める。本人には自覚のない、ひやりとした声がそっと紡がれる。
「まさか、リアにまで失礼なことしていたりしない……?」
「んー、その方が個人的には気楽なのだけど。まあ、悪い子ではないと思うの。気長に話してみるわ」
リィンの様子を気にした風もなく遠回しに彼女の疑問を否定する。するとリィンもこれまでの調子に戻る。
「そっか。うん、それがいいと思う。でも、何かあれば言ってね? 私はいつだってリアの味方だから」
「ええ、分かっているわ。ありがとう、リィン」
二人のお茶会はいつも通り、リィンが夕食の買い出しに向かう時間になるまで和やかに過ぎていった。
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