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序章
第三節 第一項 習慣
しおりを挟むタルバーン王立学武院に到着した翌朝。エミリオは日の出頃に起きた。これは幼い頃に身に付けた習慣だ。就寝時間が多少遅くなっても大抵この時間帯に起きる。それは学院に入学することで環境が変わった翌日も変わらないようだ。
ルームメイト達を起こさないように静かに二段ベッドの下段から抜け出し、動きやすい格好に着替えて部屋を後にする。
軋みを上げる階段を慎重に降りて一階まで来ると、カウンターには既に人がいた。
「おはようございます」
「よお、お早うさん」
二人は小声で挨拶を交わす。
カウンターにいたのは巌の様な偉丈夫。男子寮の寮監であり、戦術科目教官も勤めるガイウスだ。歯を剥き出しにして笑う様は獲物を前にした肉食獣にも見えるため子供には恐怖の対象となるだろうが、寮監を勤めていることから判るように、生徒達の面倒見がよく不思議と愛嬌のある親しみやすい男だ。
エミリオの出で立ちを見て、ガイウスは片眉を持ち上げる。
「朝練か? 入寮早々熱心だな」
「はい、習慣なんで。むしろ欠かすと調子が出ないというか」
自分では当然のことだと思っているが改めて言われるとどこか気恥ずかしく感じてしまう。エミリオの反応に、白い歯を覗かせてガイウスは笑う。
「そら良いことだ。俺もこうやって朝練組と話すのを眠気覚ましにしてるからな」
ガハハ、と豪快に小声で笑うという妙な器用さを見せたガイウスに見送られて寮を後にした。
***
軽く学院の敷地外周部で走り込みをして体が温まってきたところで、校舎の裏手にある練武場と名がついているグラウンドに向かった。手前の建物で利用受付を済ませ、受け取った模擬剣を片手に歩いていく。まだ朝早いこともあってそれほど人は多くない。エミリオは出入口付近の適当な場所で素振りを始めた。昨日と変わらず身体に染み付いた一定のペースで剣を振るう。
「…………」
しかし、そう時間が立たないうちに止めてしまった。傍目にはなんら変わりないように見えるが、彼には自身の太刀筋が揺らいでいることに気が付いていた。正眼に構えた剣を見据えて苦笑じみた溜息を吐いた。気掛かりは昨夜感じた些細な違和。
「……後で話してみるか」
そこで区切りを着けるように眼を閉じて深く息を吐き出す。
「ともあれ、一通り体を動かしてから、だな」
剣の柄を握り直す。先ほどまでのような太刀筋の揺らぎはなかった。
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