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5.
146.新たな娯楽
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表向きインフルエンザで体調を崩したとされた第二太子宛の贈物や目録を整理していた金糸雀と大嘴が話を聞いて|呆れて顔を見合わせた。
「何ですか、それ」
すっかり回復した天河が、機嫌よく昼食の海鮮丼をかっ込んでいた。
一時心臓が止まったとは思えぬ食欲。
「孔雀にそんな事仰ったんですか?そういうのって頭を三角にして考えることですか?」
それで本当にうんうん唸って考えているとしたら、孔雀に色恋沙汰は向いていない。
「・・・大嘴、次、緋連雀からカトレア。猩々朱鷺お姉様からフルーツとナッツ盛り合わせ・・・。見てよこれ。一尺玉みたいな黒いスイカが二つも乗ってる」
お見舞いのフルーツ盛り合わせの籠にマスクメロンは定番だろうが、スイカが二玉も入っているなんて見たこともない。
「このボーリングの玉みたいな黒いスイカ。うまいやつだ」
「猩々朱鷺お姉様ってさ、いつもいいとこ持ってくのよ。博才があるタイプね」
孔雀の動向について賭けに負けた金糸雀は悔しそうに呟いた。
金糸雀は、翡翠の怒りをかって天河が放逐または廃嫡、にだいぶ賭けていたのだ。
ところが、孔雀《くじゃく》が涙ながらに取りなして現状維持、となった。
賭けに勝った緋連雀と猩々朱鷺からしたら、天河への謝礼のようなものだろう。
すらすら速記している大嘴も勝ったので、機嫌がいい。
「とりあえず、丁度いいから、食えば?」
と、果物とナッツ類を天河が示した。
「・・・・天河様、私達、べつに本当に鳥なわけじゃありませんから」
「あ、そう」
天河が構わず自分は文旦を食べ始めると、大嘴からノートを取り上げた。
「・・・なるほどね。見舞いの品を送ってきたのが賭けに勝ったやつらか」
梟、大嘴、猩々朱鷺、緋連雀。物品名の欄にカトレア、果物、モンブラン、等と書いてある。
孔雀がお見舞いはこれがそれが常識だと教えられたということは、彼らもまたそうなのだろう。
記載のない家令達は、負けて、悔しい連中というわけだ。そっちは見舞いも寄越さないのが、らしい。
なんとも不謹慎で現金な鳥共。
意識が戻ってみたら、インフルエンザで療養中とされているが、実は心臓が止まったらしいと聞いた。
当たり前だが、そんな自覚は無い。
孔雀の毒が回ったらしい。
そして、翡翠の血液から精製された血清で助かったそうだ。
なぜか頭にタンコブが出来ていて湿布が貼られていた。
心臓と関係ないはずなのにと言ったら、黄鶲に「金糸雀がぶん殴ったからです。私は去勢手術してやりたい」と鬼の形相で言われた。
それだけのことはしたし、させた。
「・・・全く。あれじゃ、まだマシな部類で腹上死、下手したら無理心中ですよ?!」
悔し紛れに金糸雀もバナナを剥いてむしゃむしゃ食べ始めた。
大嘴もピンポン玉程あるマスカットをつまんだ。
「いかに宮廷とは言え、第二太子が皇帝の寵姫とも言われる総家令を寝取ったら大事故ですよ。手癖の悪い家令が王族に手を出したなんては話はあるでしょうけど」
とんでもない言い草である。家令は全く始末に負えない。
金糸雀がため息をついた。
一番問題なのは、本人が後悔も反省もしていないことだ。
皇帝から正式に謹慎の書類が出て、サインを求めると、天河はまるで宅配便の書類に気軽にサインするかのようにしてファイルをぽんと投げてよこした。
事態をちゃんと理解しているのだろうか。
「わかってるよ。ほら。書いてあったじゃないか。只今を以って第二太子は総家令への接近を今後無期限に厳しく禁ずる也」
確かにそうだ。
その一文を起こしたのは自分だものと金糸雀が頷いた。
およそ宮廷の司法に関することは、梟と金糸雀と鷂の目と手を通される。
「・・・だから、総家令の方から近付いて来てくれないとな」
金糸雀は呆れた。
「ああ、いい気分だ。あの孔雀のことだ、一日中、頭をひねって俺のことああでもないこうでもないと考えてるわけだ。それこそインフルエンザにかかったみたいに、そのうちウィルスが身体中で増えて、にっちもさっちもいかなくなんだろ」
わけわからなくなるか、焦れるかすれば、間違いなく困惑してまたやってくるだろう。
自分の事で頭をいっぱいにして考えればいい。
泣き出すまで悩まされて焦れて煮詰まって、弱って弱々になったら。その時こそ、責任を取れと突きつけてやる。
「・・・・まあ、なんて悪質な。・・・まるで本当、ウィルスか悪霊じゃありませんか」
「お前達が言えたもんか、悪い鳥共」
天河は濃紫色の葡萄を口に含んだ。
甘く濃厚で鮮烈な風味に、天河は孔雀との記憶を思い出し機嫌を良くした。
「天河様、じゃあ、孔雀をどうにかするつもりではなく、本気で孔雀とどうにかなるつもりなんですか?あの翡翠様相手に?今更?」
あんまりおすすめはできないけど、と大嘴が言った。
「そう。さあ、どうしような」
天河の悪乗りとも本気ともつかない様子に、これは面白いことになったぞ、と金糸雀と大嘴はまた新たな賭けの対象をみつけた、とほくそ笑んだ。
「何ですか、それ」
すっかり回復した天河が、機嫌よく昼食の海鮮丼をかっ込んでいた。
一時心臓が止まったとは思えぬ食欲。
「孔雀にそんな事仰ったんですか?そういうのって頭を三角にして考えることですか?」
それで本当にうんうん唸って考えているとしたら、孔雀に色恋沙汰は向いていない。
「・・・大嘴、次、緋連雀からカトレア。猩々朱鷺お姉様からフルーツとナッツ盛り合わせ・・・。見てよこれ。一尺玉みたいな黒いスイカが二つも乗ってる」
お見舞いのフルーツ盛り合わせの籠にマスクメロンは定番だろうが、スイカが二玉も入っているなんて見たこともない。
「このボーリングの玉みたいな黒いスイカ。うまいやつだ」
「猩々朱鷺お姉様ってさ、いつもいいとこ持ってくのよ。博才があるタイプね」
孔雀の動向について賭けに負けた金糸雀は悔しそうに呟いた。
金糸雀は、翡翠の怒りをかって天河が放逐または廃嫡、にだいぶ賭けていたのだ。
ところが、孔雀《くじゃく》が涙ながらに取りなして現状維持、となった。
賭けに勝った緋連雀と猩々朱鷺からしたら、天河への謝礼のようなものだろう。
すらすら速記している大嘴も勝ったので、機嫌がいい。
「とりあえず、丁度いいから、食えば?」
と、果物とナッツ類を天河が示した。
「・・・・天河様、私達、べつに本当に鳥なわけじゃありませんから」
「あ、そう」
天河が構わず自分は文旦を食べ始めると、大嘴からノートを取り上げた。
「・・・なるほどね。見舞いの品を送ってきたのが賭けに勝ったやつらか」
梟、大嘴、猩々朱鷺、緋連雀。物品名の欄にカトレア、果物、モンブラン、等と書いてある。
孔雀がお見舞いはこれがそれが常識だと教えられたということは、彼らもまたそうなのだろう。
記載のない家令達は、負けて、悔しい連中というわけだ。そっちは見舞いも寄越さないのが、らしい。
なんとも不謹慎で現金な鳥共。
意識が戻ってみたら、インフルエンザで療養中とされているが、実は心臓が止まったらしいと聞いた。
当たり前だが、そんな自覚は無い。
孔雀の毒が回ったらしい。
そして、翡翠の血液から精製された血清で助かったそうだ。
なぜか頭にタンコブが出来ていて湿布が貼られていた。
心臓と関係ないはずなのにと言ったら、黄鶲に「金糸雀がぶん殴ったからです。私は去勢手術してやりたい」と鬼の形相で言われた。
それだけのことはしたし、させた。
「・・・全く。あれじゃ、まだマシな部類で腹上死、下手したら無理心中ですよ?!」
悔し紛れに金糸雀もバナナを剥いてむしゃむしゃ食べ始めた。
大嘴もピンポン玉程あるマスカットをつまんだ。
「いかに宮廷とは言え、第二太子が皇帝の寵姫とも言われる総家令を寝取ったら大事故ですよ。手癖の悪い家令が王族に手を出したなんては話はあるでしょうけど」
とんでもない言い草である。家令は全く始末に負えない。
金糸雀がため息をついた。
一番問題なのは、本人が後悔も反省もしていないことだ。
皇帝から正式に謹慎の書類が出て、サインを求めると、天河はまるで宅配便の書類に気軽にサインするかのようにしてファイルをぽんと投げてよこした。
事態をちゃんと理解しているのだろうか。
「わかってるよ。ほら。書いてあったじゃないか。只今を以って第二太子は総家令への接近を今後無期限に厳しく禁ずる也」
確かにそうだ。
その一文を起こしたのは自分だものと金糸雀が頷いた。
およそ宮廷の司法に関することは、梟と金糸雀と鷂の目と手を通される。
「・・・だから、総家令の方から近付いて来てくれないとな」
金糸雀は呆れた。
「ああ、いい気分だ。あの孔雀のことだ、一日中、頭をひねって俺のことああでもないこうでもないと考えてるわけだ。それこそインフルエンザにかかったみたいに、そのうちウィルスが身体中で増えて、にっちもさっちもいかなくなんだろ」
わけわからなくなるか、焦れるかすれば、間違いなく困惑してまたやってくるだろう。
自分の事で頭をいっぱいにして考えればいい。
泣き出すまで悩まされて焦れて煮詰まって、弱って弱々になったら。その時こそ、責任を取れと突きつけてやる。
「・・・・まあ、なんて悪質な。・・・まるで本当、ウィルスか悪霊じゃありませんか」
「お前達が言えたもんか、悪い鳥共」
天河は濃紫色の葡萄を口に含んだ。
甘く濃厚で鮮烈な風味に、天河は孔雀との記憶を思い出し機嫌を良くした。
「天河様、じゃあ、孔雀をどうにかするつもりではなく、本気で孔雀とどうにかなるつもりなんですか?あの翡翠様相手に?今更?」
あんまりおすすめはできないけど、と大嘴が言った。
「そう。さあ、どうしような」
天河の悪乗りとも本気ともつかない様子に、これは面白いことになったぞ、と金糸雀と大嘴はまた新たな賭けの対象をみつけた、とほくそ笑んだ。
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