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146.新たな娯楽

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 表向きインフルエンザで体調を崩したとされた第二太子宛の贈物や目録を整理していた金糸雀カナリア大嘴おおはしが話を聞いて|呆れて顔を見合わせた。

「何ですか、それ」

すっかり回復した天河てんがが、機嫌よく昼食の海鮮丼をかっ込んでいた。
一時心臓が止まったとは思えぬ食欲。

孔雀くじゃくにそんな事仰ったんですか?そういうのって頭を三角にして考えることですか?」

それで本当にうんうん唸って考えているとしたら、孔雀くじゃくに色恋沙汰は向いていない。

「・・・大嘴おおはし、次、緋連雀ひれんじゃくからカトレア。猩々朱鷺しょうじょうときお姉様からフルーツとナッツ盛り合わせ・・・。見てよこれ。一尺玉みたいな黒いスイカが二つも乗ってる」

お見舞いのフルーツ盛り合わせの籠にマスクメロンは定番だろうが、スイカが二玉も入っているなんて見たこともない。

「このボーリングの玉みたいな黒いスイカ。うまいやつだ」
猩々朱鷺しょうじょうときお姉様ってさ、いつもいいとこ持ってくのよ。博才ばくさいがあるタイプね」
孔雀くじゃくの動向について賭けに負けた金糸雀カナリアは悔しそうに呟いた。

金糸雀カナリアは、翡翠ひすいの怒りをかって天河てんが放逐ほうちくまたは廃嫡はいちゃく、にだいぶ賭けていたのだ。
ところが、孔雀《くじゃく》が涙ながらに取りなして現状維持、となった。

賭けに勝った緋連雀ひれんじゃく猩々朱鷺しょうじょうときからしたら、天河への謝礼のようなものだろう。
すらすら速記している大嘴おおはしも勝ったので、機嫌がいい。

「とりあえず、丁度いいから、食えば?」

と、果物とナッツ類を天河てんがが示した。

「・・・・天河様、私達、べつに本当に鳥なわけじゃありませんから」
「あ、そう」

天河てんがが構わず自分は文旦ぶんたんを食べ始めると、大嘴おおはしからノートを取り上げた。

「・・・なるほどね。見舞いの品を送ってきたのが賭けに勝ったやつらか」

ふくろう大嘴おおはし猩々朱鷺しょうじょうとき緋連雀ひれんじゃく。物品名の欄にカトレア、果物、モンブラン、等と書いてある。
孔雀くじゃくがお見舞いはこれがそれが常識だと教えられたということは、彼らもまたそうなのだろう。
記載のない家令達は、負けて、悔しい連中というわけだ。そっちは見舞いも寄越さないのが、らしい。
なんとも不謹慎で現金な鳥共。

意識が戻ってみたら、インフルエンザで療養中とされているが、実は心臓が止まったらしいと聞いた。
当たり前だが、そんな自覚は無い。

孔雀くじゃくの毒が回ったらしい。
そして、翡翠ひすいの血液から精製された血清で助かったそうだ。
なぜか頭にタンコブが出来ていて湿布が貼られていた。
心臓と関係ないはずなのにと言ったら、黄鶲きびたきに「金糸雀カナリアがぶん殴ったからです。私は去勢手術してやりたい」と鬼の形相で言われた。
それだけのことはしたし、させた。

「・・・全く。あれじゃ、まだマシな部類で腹上死、下手したら無理心中ですよ?!」

悔し紛れに金糸雀カナリアもバナナを剥いてむしゃむしゃ食べ始めた。
大嘴おおはしもピンポン玉程あるマスカットをつまんだ。

「いかに宮廷とは言え、第二太子が皇帝の寵姫とも言われる総家令を寝取ったら大事故ですよ。手癖の悪い家令が王族に手を出したなんては話はあるでしょうけど」
とんでもない言い草である。家令は全く始末に負えない。

金糸雀カナリアがため息をついた。
一番問題なのは、本人が後悔も反省もしていないことだ。
皇帝から正式に謹慎の書類が出て、サインを求めると、天河てんがはまるで宅配便の書類に気軽にサインするかのようにしてファイルをぽんと投げてよこした。
事態をちゃんと理解しているのだろうか。

「わかってるよ。ほら。書いてあったじゃないか。只今を以って第二太子は総家令への接近を今後無期限に厳しく禁ずるなり

確かにそうだ。
その一文を起こしたのは自分だものと金糸雀カナリアが頷いた。
およそ宮廷の司法に関することは、ふくろう金糸雀カナリアはいたかの目と手を通される。

「・・・だから、総家令の方から近付いて来てくれないとな」

金糸雀カナリアは呆れた。

「ああ、いい気分だ。あの孔雀くじゃくのことだ、一日中、頭をひねって俺のことああでもないこうでもないと考えてるわけだ。それこそインフルエンザにかかったみたいに、そのうちウィルスが身体中で増えて、にっちもさっちもいかなくなんだろ」

わけわからなくなるか、れるかすれば、間違いなく困惑してまたやってくるだろう。
自分の事で頭をいっぱいにして考えればいい。
泣き出すまで悩まされて焦れて煮詰まって、弱って弱々になったら。その時こそ、責任を取れと突きつけてやる。

「・・・・まあ、なんて悪質な。・・・まるで本当、ウィルスか悪霊じゃありませんか」
「お前達が言えたもんか、悪い鳥共」
天河は濃紫色の葡萄を口に含んだ。
甘く濃厚で鮮烈な風味に、天河てんが孔雀くじゃくとの記憶を思い出し機嫌を良くした。

天河てんが様、じゃあ、孔雀くじゃくをどうにかするつもりではなく、本気で孔雀くじゃくとどうにかなるつもりなんですか?あの翡翠ひすい様相手に?今更?」

あんまりおすすめはできないけど、と大嘴おおはしが言った。

「そう。さあ、どうしような」

天河てんがの悪乗りとも本気ともつかない様子に、これは面白いことになったぞ、と金糸雀カナリア大嘴おおはしはまた新たな賭けの対象をみつけた、とほくそ笑んだ。
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