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128.黄金の鳥籠
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突然、隣室が騒がしくなった。
女達が何か、わっと沸いたと思ったら、すぐに静かになった。
「・・・何だろうね。ウチの子達、食べ過ぎてひっくり返ったとかじゃないだろうねえ」
心配そうに母后が立ち上がった。
「・・・ああ。きっと・・・」
孔雀が言いかけて、その場で扉に向かって礼をした。
翡翠が現れ、雉鳩が困ったような顔で付き従っていた。
「まあ、翡翠様。お昼餐のパーティーはいかがでしたか?」
孔雀がにこやかに微笑みかけた。
「・・・おやまあ、陛下。ご案内も致しませんで、失礼申し上げましたこと。宴の設えはお目にもお口に合いませんでしたか」
「皇太后陛下。実は私は社交があまり得意ではなくて。妃がおりますから、充分でしょう。彼女はこちらのお心遣いにとても感謝しておりましたよ」
「・・・まあ。嬉しい事です。さようでございましたか」
三妃には記念として、翡翠の正式な妃として名誉賓客と言う肩書つきの勲章が与えられた。
三妃は感激して、涙を浮かべた程であった。
それだけ彼女は三妃としての立場を不満、というか不安であったのだと孔雀は複雑にも思った。
他の兄弟子姉弟子は、それが宮廷。こんなの、ただの一日署長みたいなもんじゃないか。バカにしやがって、喜んでるなんて更にバカだわ、何かに利用されなきゃいいけど、と憤っていたが。
孔雀もそれは理解出来る。
そして、そんな事だと更によく分かっているのは、この母后だ。
彼女に笑顔で勲章付きの豪華な首飾りを掛けた時の目が、まるで兄弟子や姉弟子と同じであったもの。
やはり、根っから家令。
そして宮廷で異国の母后として生き抜いてきた女だ。
狸親父や女狐なんて良く言うけれど。
ならば、彼女は狼か。
そう言えば、彼女の渾名は地獄の番人と言ったらしいではないか。
地獄の番犬ならば尚お似合いだと孔雀はなんだか嬉しくなった。
翡翠に後でそう言ったなら、きっと面白がるだろう。
「それに、最近は孔雀の作った食事しか食べたくないんです。ああいうのはチョット」
皇太后がそう言った翡翠をじっと見て、大笑いした。
「社交も嫌い、設宴の食事も食うもんかだなんて。それが仕事なはずなのにお世辞も言わない。なんて不良皇帝だろう!・・・ああ、孔雀、お前、大変ね」
孔雀は可笑しくて微笑んだ。
「とっても真面目でお優しい方よ、お姉様」
え、どこが、と家令達が顔を見合わせた。
母后が翡翠に向き直った。
「翡翠陛下。私の出自の事はこの妹弟子から聞いてご存知のことでございましょう。大変な偽りであろうとご不審に思った事と存じます。お詫びと、改めましてお礼申し上げます。私共の弟の為に御心遣い賜りましたとか。また、その際にこの妹弟子は第二太子様にお助け頂いたとも聞き及んでございます。私も兄弟子も悲しく思っておりましたので、深く感謝申し上げます」
大鷲の遺体が見つかり、やっと葬られた件を鷂《はいたか》に聞いてどれほど安堵したか。
家令一同が翡翠に礼をした。
翡翠は、この母后とやらも骨の髄から女家令だな、と苦笑した。
だからと言って政治的にどこまで歩み寄ってくれるかは、また別の話だけれど。
「私の兄王も安堵し喜んだところだと思うよ。当時の兄王と大鷲は子供の私から見ても、とても幸せそうであったからね。私はそれが嬉しくて羨ましかった」
幸せ、と言われて、余程意外な言葉、意外な表現であったのか、戴勝は一瞬戸惑った表情を見せたが、少しだけ目を潤ませた。
「陛下、それは宮廷では最も得難きものでございますね。さようでしたか・・・」
まだ幼い頃に別れ、苦難を味わった弟弟子にそのような時間があったとしたら何より嬉しい。
その最後への道程がいかに悲惨なものであったとしても、彼の中で温かく光り輝く思い出であるなら。
満足した、と言うように母后は微笑んだ。
遠巻きにやりとりを見ていた女達が、もういいよ、と母后に促されると、嬉しそうに鮮やかな熱帯魚のように母后のもとに集まってきた。
「ママ様、お菓子すごくおいしかったわ!カタログ頂いたから、取り寄せてくださらない?」
「あら、カタログあるの?見せて。これ私も好きなやつだわ。そうね、いろいろあるけど、ここはね、やっぱり昔からカステラが一番ですよ。後で手配するわ」
「ママ様、陛下は翡翠様と仰るんですって。宝石と同じ名前ね」
「そうだね。こちらのお国は、王族方は皆、鉱石の名前ですよ」
「ママ様、この方のことご存知なの?」
「ママ様もパパ様も、翡翠陛下のお祖父様とお母様は存じ上げてますよ。ふふ、お二人ともそれはもう個性的な王様だったよ。そばにいたら苦労する。きっとこの方もよ」
そう言って母后が笑うと、女達もにこにこと微笑む。
「・・・母后様、ママ様パパ様、というのは・・・」
孔雀が尋ねた。
「ええ。ああ、ごめんなさいね。この子達、内々では、ママ様パパ様と私たちを呼んだものだから」
家令達が意外だとまたも顔を見合わせた。
「・・・陛下、総家令殿。この子達は、後宮の女達。皇帝の子を産んだ妃もおります。でも、そうでなくともいいと思って私と大宰相は育ててきました」
「では、先ほどまで宮殿で私が会食をしていた彼らは何にあたるんですか?」
失礼を承知で翡翠は訪ねた。
公式行事や設宴では、皇帝と子供達五人と引き合わされた。
この男の本質は遠回しに物事を言わないタイプか、と母后はまたも困った方ね、と呟いた。
「妃として御目通り賜ったのは妃で間違いございませんし、同席を賜りました子供達は皆この女達が産んだ子です。母后である私が責任を持って養育しております」
何人かの女が会釈をした。
妃の地位を賜った女で、子供達の母親なのだろう。
ならばなぜ彼女達は行事にも設宴にも出席していないのか、と孔雀は首を傾げた。
王子をもうければ身分が保障され、地位が与えられるはずなのに。
「我が国の今の状況ではこれが精一杯。悲しいけれど。この子達はいつまでも日陰の身ですよ。・・・本来、表に女や子供が出る文化はございませんからね。有り体に申し上げるのをお許し頂けるならば、この度の機会に国際的に非難されないように急ごしらえで取り繕った、と言うのが正直なところです」
それはかつて戴勝自身も驚いた事なのだろう。
女達が首を振った。
「いいえ。ママ様。私達は満足していると申し上げましたのに。母后様が後宮に上がられた時代は。王子は王となる一人を残してあとは死ぬか、家臣の身分を与えられて辺境の守護に着くのが決まりでございました。その母となれば、何人が生きて無事で過ごせたでしょう」
「それに、私達にたくさんの教育を受けさせて下さったのも、ママ様とパパ様ですもの。産まれた娘のうち、特別優秀な者は、宮殿の外にご身分を頂いて、海外に留学までさせて頂いております」
ああ、と翡翠は悟った。
アカデミーに籍を置いていた才媛達は、つまりここの女達が産んだ娘達だったのか。
戴勝と目白の本来の立場など、彼女達は知る由も無いだろう。
が、慕われているのは確かなようだ。
女達は、今度は新たに現れた美貌の家令である|
雉鳩《きじばと》に夢中らしい。
纏《まと》わり付いて熱心に何か話しかけていた。
「・・・全く、懐っこいんだから」
「お姫様方は警戒心が少なくてお相手を受け入れる余裕があると言う事。母后様や宰相閣下がご十分にお可愛がってお育てあそばされたからでございましょう」
我々家令がそうであるように、と孔雀が唇で伝えた。
「・・・だといいのだけれど」
嬉しそうに、どこか安心したように母后が呟いた。
「ここの女達はね、もともと字も書けなかったのよ。・・・皇帝、あの子、リドというのだけど。あの子の母親は、この国の言葉すら話せなかったらしいよ。自分の国の言葉を話すのは禁止されていたから、息子とはまともに話したこともないまま死んだそうだよ」
家令達は訝しがった。
「こちらの女性方は、どのようにして後宮にいらっしゃったのですか?」
継室として入るわけでもない、昔は奴隷の身分として仕え、その代わりに寝食の心配がない。というのは知った。が、そもそも後宮のこの女達の容姿を見ると、多種多様なのだ。
ギルド系で海外にも拠点を持つ者の中には、その地で妻や夫を娶り、血が混じった者もいる。
孔雀や白鴎、天河の母である二妃もそうだ。
だが、本来鎖国に近いこの国において、未だになぜこんなに様々な地方の者が集まってきたのか。
だからこそ、外国人の宰相と母后が受け入れられたのだろうけれど。
「作為的に集められたんだよ。そういう仕事があるのは知ってるでしょう?人を買ったり、拉致したり。貧しい地方だとね、娘を売ったりね。この中にも何人かはいるよね。・・・金髪に青い目の娘達なんかはそう。美人が多い地方として、人間が主な名物なんだよ。高く売り買いされる」
ここはね、と母后が指で示した。
「この後宮は黄金の鳥籠とか地獄の宝石箱なんても呼ばれてた。・・・まあ、後宮なんてそんなものなのかもしれないけれど。だいぶひどいシステムでさ・・・」
思い出すかのように彼女は苦々しくため息をついた。
黄金の鳥籠、地獄の宝石箱。
それは地獄の番犬たる彼女が命懸けで守ってきたものなのだろう。
花の監獄とも表現される後宮を守る家令がそうであるように。
「大戦後、飛躍的に技術的にも教育的にも伸びたと伺っておりました」
「・・・そうだね。でもまだまだ。これが現実」
そう言った彼女の目がとても悲し気だった。
「貴方、パパ様を知ってる?」
よほど気に入られたらしく、雉鳩が女達に質問攻めにされていた。
「姫君、残念ですが、存じ上げません」
何のことだと雉鳩は首を傾げた。
母后が笑った。
「・・・この子のじいちゃんとパパ様は親友だったよ」
「まあ、ママ様、本当ですか?・・・ならあなたもきっとすてきで優しいのね」
「バカおっしゃい。あんたらなんかより数百倍の手練手管をお持ちだよ。ご教授頂きなさい」
鷂から、雉鳩や緋連雀の宮廷での悪行の数々を聞いているのだろう。
女達が何か、わっと沸いたと思ったら、すぐに静かになった。
「・・・何だろうね。ウチの子達、食べ過ぎてひっくり返ったとかじゃないだろうねえ」
心配そうに母后が立ち上がった。
「・・・ああ。きっと・・・」
孔雀が言いかけて、その場で扉に向かって礼をした。
翡翠が現れ、雉鳩が困ったような顔で付き従っていた。
「まあ、翡翠様。お昼餐のパーティーはいかがでしたか?」
孔雀がにこやかに微笑みかけた。
「・・・おやまあ、陛下。ご案内も致しませんで、失礼申し上げましたこと。宴の設えはお目にもお口に合いませんでしたか」
「皇太后陛下。実は私は社交があまり得意ではなくて。妃がおりますから、充分でしょう。彼女はこちらのお心遣いにとても感謝しておりましたよ」
「・・・まあ。嬉しい事です。さようでございましたか」
三妃には記念として、翡翠の正式な妃として名誉賓客と言う肩書つきの勲章が与えられた。
三妃は感激して、涙を浮かべた程であった。
それだけ彼女は三妃としての立場を不満、というか不安であったのだと孔雀は複雑にも思った。
他の兄弟子姉弟子は、それが宮廷。こんなの、ただの一日署長みたいなもんじゃないか。バカにしやがって、喜んでるなんて更にバカだわ、何かに利用されなきゃいいけど、と憤っていたが。
孔雀もそれは理解出来る。
そして、そんな事だと更によく分かっているのは、この母后だ。
彼女に笑顔で勲章付きの豪華な首飾りを掛けた時の目が、まるで兄弟子や姉弟子と同じであったもの。
やはり、根っから家令。
そして宮廷で異国の母后として生き抜いてきた女だ。
狸親父や女狐なんて良く言うけれど。
ならば、彼女は狼か。
そう言えば、彼女の渾名は地獄の番人と言ったらしいではないか。
地獄の番犬ならば尚お似合いだと孔雀はなんだか嬉しくなった。
翡翠に後でそう言ったなら、きっと面白がるだろう。
「それに、最近は孔雀の作った食事しか食べたくないんです。ああいうのはチョット」
皇太后がそう言った翡翠をじっと見て、大笑いした。
「社交も嫌い、設宴の食事も食うもんかだなんて。それが仕事なはずなのにお世辞も言わない。なんて不良皇帝だろう!・・・ああ、孔雀、お前、大変ね」
孔雀は可笑しくて微笑んだ。
「とっても真面目でお優しい方よ、お姉様」
え、どこが、と家令達が顔を見合わせた。
母后が翡翠に向き直った。
「翡翠陛下。私の出自の事はこの妹弟子から聞いてご存知のことでございましょう。大変な偽りであろうとご不審に思った事と存じます。お詫びと、改めましてお礼申し上げます。私共の弟の為に御心遣い賜りましたとか。また、その際にこの妹弟子は第二太子様にお助け頂いたとも聞き及んでございます。私も兄弟子も悲しく思っておりましたので、深く感謝申し上げます」
大鷲の遺体が見つかり、やっと葬られた件を鷂《はいたか》に聞いてどれほど安堵したか。
家令一同が翡翠に礼をした。
翡翠は、この母后とやらも骨の髄から女家令だな、と苦笑した。
だからと言って政治的にどこまで歩み寄ってくれるかは、また別の話だけれど。
「私の兄王も安堵し喜んだところだと思うよ。当時の兄王と大鷲は子供の私から見ても、とても幸せそうであったからね。私はそれが嬉しくて羨ましかった」
幸せ、と言われて、余程意外な言葉、意外な表現であったのか、戴勝は一瞬戸惑った表情を見せたが、少しだけ目を潤ませた。
「陛下、それは宮廷では最も得難きものでございますね。さようでしたか・・・」
まだ幼い頃に別れ、苦難を味わった弟弟子にそのような時間があったとしたら何より嬉しい。
その最後への道程がいかに悲惨なものであったとしても、彼の中で温かく光り輝く思い出であるなら。
満足した、と言うように母后は微笑んだ。
遠巻きにやりとりを見ていた女達が、もういいよ、と母后に促されると、嬉しそうに鮮やかな熱帯魚のように母后のもとに集まってきた。
「ママ様、お菓子すごくおいしかったわ!カタログ頂いたから、取り寄せてくださらない?」
「あら、カタログあるの?見せて。これ私も好きなやつだわ。そうね、いろいろあるけど、ここはね、やっぱり昔からカステラが一番ですよ。後で手配するわ」
「ママ様、陛下は翡翠様と仰るんですって。宝石と同じ名前ね」
「そうだね。こちらのお国は、王族方は皆、鉱石の名前ですよ」
「ママ様、この方のことご存知なの?」
「ママ様もパパ様も、翡翠陛下のお祖父様とお母様は存じ上げてますよ。ふふ、お二人ともそれはもう個性的な王様だったよ。そばにいたら苦労する。きっとこの方もよ」
そう言って母后が笑うと、女達もにこにこと微笑む。
「・・・母后様、ママ様パパ様、というのは・・・」
孔雀が尋ねた。
「ええ。ああ、ごめんなさいね。この子達、内々では、ママ様パパ様と私たちを呼んだものだから」
家令達が意外だとまたも顔を見合わせた。
「・・・陛下、総家令殿。この子達は、後宮の女達。皇帝の子を産んだ妃もおります。でも、そうでなくともいいと思って私と大宰相は育ててきました」
「では、先ほどまで宮殿で私が会食をしていた彼らは何にあたるんですか?」
失礼を承知で翡翠は訪ねた。
公式行事や設宴では、皇帝と子供達五人と引き合わされた。
この男の本質は遠回しに物事を言わないタイプか、と母后はまたも困った方ね、と呟いた。
「妃として御目通り賜ったのは妃で間違いございませんし、同席を賜りました子供達は皆この女達が産んだ子です。母后である私が責任を持って養育しております」
何人かの女が会釈をした。
妃の地位を賜った女で、子供達の母親なのだろう。
ならばなぜ彼女達は行事にも設宴にも出席していないのか、と孔雀は首を傾げた。
王子をもうければ身分が保障され、地位が与えられるはずなのに。
「我が国の今の状況ではこれが精一杯。悲しいけれど。この子達はいつまでも日陰の身ですよ。・・・本来、表に女や子供が出る文化はございませんからね。有り体に申し上げるのをお許し頂けるならば、この度の機会に国際的に非難されないように急ごしらえで取り繕った、と言うのが正直なところです」
それはかつて戴勝自身も驚いた事なのだろう。
女達が首を振った。
「いいえ。ママ様。私達は満足していると申し上げましたのに。母后様が後宮に上がられた時代は。王子は王となる一人を残してあとは死ぬか、家臣の身分を与えられて辺境の守護に着くのが決まりでございました。その母となれば、何人が生きて無事で過ごせたでしょう」
「それに、私達にたくさんの教育を受けさせて下さったのも、ママ様とパパ様ですもの。産まれた娘のうち、特別優秀な者は、宮殿の外にご身分を頂いて、海外に留学までさせて頂いております」
ああ、と翡翠は悟った。
アカデミーに籍を置いていた才媛達は、つまりここの女達が産んだ娘達だったのか。
戴勝と目白の本来の立場など、彼女達は知る由も無いだろう。
が、慕われているのは確かなようだ。
女達は、今度は新たに現れた美貌の家令である|
雉鳩《きじばと》に夢中らしい。
纏《まと》わり付いて熱心に何か話しかけていた。
「・・・全く、懐っこいんだから」
「お姫様方は警戒心が少なくてお相手を受け入れる余裕があると言う事。母后様や宰相閣下がご十分にお可愛がってお育てあそばされたからでございましょう」
我々家令がそうであるように、と孔雀が唇で伝えた。
「・・・だといいのだけれど」
嬉しそうに、どこか安心したように母后が呟いた。
「ここの女達はね、もともと字も書けなかったのよ。・・・皇帝、あの子、リドというのだけど。あの子の母親は、この国の言葉すら話せなかったらしいよ。自分の国の言葉を話すのは禁止されていたから、息子とはまともに話したこともないまま死んだそうだよ」
家令達は訝しがった。
「こちらの女性方は、どのようにして後宮にいらっしゃったのですか?」
継室として入るわけでもない、昔は奴隷の身分として仕え、その代わりに寝食の心配がない。というのは知った。が、そもそも後宮のこの女達の容姿を見ると、多種多様なのだ。
ギルド系で海外にも拠点を持つ者の中には、その地で妻や夫を娶り、血が混じった者もいる。
孔雀や白鴎、天河の母である二妃もそうだ。
だが、本来鎖国に近いこの国において、未だになぜこんなに様々な地方の者が集まってきたのか。
だからこそ、外国人の宰相と母后が受け入れられたのだろうけれど。
「作為的に集められたんだよ。そういう仕事があるのは知ってるでしょう?人を買ったり、拉致したり。貧しい地方だとね、娘を売ったりね。この中にも何人かはいるよね。・・・金髪に青い目の娘達なんかはそう。美人が多い地方として、人間が主な名物なんだよ。高く売り買いされる」
ここはね、と母后が指で示した。
「この後宮は黄金の鳥籠とか地獄の宝石箱なんても呼ばれてた。・・・まあ、後宮なんてそんなものなのかもしれないけれど。だいぶひどいシステムでさ・・・」
思い出すかのように彼女は苦々しくため息をついた。
黄金の鳥籠、地獄の宝石箱。
それは地獄の番犬たる彼女が命懸けで守ってきたものなのだろう。
花の監獄とも表現される後宮を守る家令がそうであるように。
「大戦後、飛躍的に技術的にも教育的にも伸びたと伺っておりました」
「・・・そうだね。でもまだまだ。これが現実」
そう言った彼女の目がとても悲し気だった。
「貴方、パパ様を知ってる?」
よほど気に入られたらしく、雉鳩が女達に質問攻めにされていた。
「姫君、残念ですが、存じ上げません」
何のことだと雉鳩は首を傾げた。
母后が笑った。
「・・・この子のじいちゃんとパパ様は親友だったよ」
「まあ、ママ様、本当ですか?・・・ならあなたもきっとすてきで優しいのね」
「バカおっしゃい。あんたらなんかより数百倍の手練手管をお持ちだよ。ご教授頂きなさい」
鷂から、雉鳩や緋連雀の宮廷での悪行の数々を聞いているのだろう。
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