90 / 211
3.
90.柘榴の果実
しおりを挟む
唐突に基地が騒がしくなった。
鸚鵡に抱えられた孔雀が、医務室に運ばれた。
保温用の防水加工のシートに包まれて、微動だにしない。
他にも負傷者がいて手術室の用意が間に合わないと雉鳩が叫ぶと、ここでやると鸚鵡も怒鳴り返した。
「邪魔だ、どけ!」
隊員が集まって来たのを雉鳩は蹴散らした。
鷂が、その場にいた全員に簡易式の処置服を手際良く着せていく。
鸚鵡が孔雀をベッドに寝かせて保温シートを剥ぐと、音を立てて床に大量の赤い血液が流れ出した。
あまりの惨状に一瞬全員が息を飲んだ。
いつから居たのか、天河が孔雀の腕に触れたのを、鸚鵡が強く払った。
「触ってはいけません!」
はっとして天河が手をひっこめた。
「・・・殿下。いいですか。孔雀の血液には触れないように。こちらで処置致しますから、どうぞお控えください」
そう言うと、処置室の扉を閉める。
服をハサミで切ると、思ったより傷の範囲が広い。
「ショットガンか・・・」
「至近距離のショットガンでこれだけて済んだなら、もうけもんよ。金糸雀の開発した素材は優秀と言う事。・・・手伝いがあと何人か必要ね」
青鷺が急いで海兵隊の医師を数人呼びつけた。
「・・・雉鳩、これ、わかるか?」
ピンセットで取り出した弾を鸚鵡が見せた。
「・・・なんだ、この弾?」
軽い素材で、金平糖のような形状で不規則な突起がついている。
一個一個の棘の形状が返しになっていた。小さくて軽いが、体に入ったら四方八方の肉を食い破って進むだろう。
傷口の表面や奥にびっしりと食らいつく小さな赤い粒子の塊は、まるで割れた柘榴の果実のようで気味が悪い。
「殺傷能力を上げる為のものだろう。・・・中が空洞で、管のようになる。これでは出血が止まらないはずだ。・・・なんてことだ」
鸚鵡が孔雀の体内をスキャンした画像を見た。
少なくとも八十個は入っている。
「弾は後で解析させるとして。素材だって何でできてるもんだか。・・・鸚鵡兄上、それじゃダメだ」
ピンセットでひとつづつ取っていたら間に合わない。
出血は今でも止まらないのだ。
とにかく弾を取り出して傷を塞いで血を止めてしまうしかない。
雉鳩は手袋を三重にすると、自分の手と孔雀の体に大量に消毒液をかけて傷口に手を突っ込んだ。
あまりの荒っぽさに召集された海兵隊の医師が目を疑った。
「たいしたもんだ、金糸雀の寄越した新素材。内臓まではいってないよ。軍に入る前に五キロ太れって言ってたのが良かったな」
血が溢れて崩れた肉の感触の中に、硬い質感を感じた。
そのまま、傷に手を滑らせて拾い出す。
それを地道に繰り返した。
途中何度もラテックスの手袋がズタズタになり取り替えた。
鸚鵡と交代し、孔雀の肉もこそぎながらかなり無茶な取り出し方をした。
定期的にストックしていた輸血パックも足りなくなり、雉鳩から抜いた血液を孔雀に輸血しながら、血管を留め、繋ぎ、五時間かかった。
「・・・なるだけ傷が残らないようにしてやって頂戴」
後で形成手術をするにしても、これではなんとも酷い、と青鷺が首を振った。
「・・・お前も休みなさい」
鸚鵡は青い顔をしている雉鳩にそう言って労った。
総家令負傷のニュースで艦内は持ちきりだった。
孔雀は丸二日、朦朧とし、突然ぱっちりと目を開けて二言三言話したが、またすぐ眠ってしまった。
駆けつけた鷂が、難民だと思った子供に撃たれたのだ、と報告を聞き「何で不用意に近づいたの」と言うと、孔雀は「子供だったから。子供だったのよ、鷂お姉様。私が初めて軍に入った時より、もっと小さかった・・・」とだけ言って、また目を閉じてしまう。
体のダメージが大きく、起きていられないらしい。
ちょくちょく意識は浮上していたのだが、うまく表出できなかった。
孔雀は、口の中に甘い氷を入れられて、雉鳩がそばにいるのに気づいた。
「・・・雉鳩お兄様、私、だいぶ血を貰ったんでしょう?だいじょうぶ?・・・今日で何日?梟お兄様からどこに来いって連絡来た?」
これだけを話すのに大変な労力を必要として、改めて大分出血したのだなと自覚した。
いわゆるまれな血液型が同じである雉鳩が生血をくれたのだろうと思った。
その為に同行してるんだ、と言いそうだが、雉鳩だって貧血でフラフラだろう。
氷をまた口に入れられて、孔雀が噛んだ。
噛む体力は戻って来たようだ。
何度か眠ってしまったようだが、目がちょっとずつ見えるようになり、周囲の状況が理解できるようになるまで、一時間はかかったろうか。
それまでずっと、口の中に氷を含んでいたから脱水も多少良くなったようだ。
点滴だけでなく経口からの水分摂取というのは大事らしい。
「・・・・梟が何だって?どこに来るって何の事だ?」
その声が雉鳩ではなく天河だと気付いて、はっとして孔雀はゆっくり毛布を被った。
「・・・なんでもありません・・・・・ごきげんよう・・・」
「なんだって?」
天河は毛布を引っ張ってまた孔雀の口に氷の欠片を詰め込んだ。
総家令が覚醒したと言う報せは、基地に関わる人間達を大いに喜ばせた。
鸚鵡に抱えられた孔雀が、医務室に運ばれた。
保温用の防水加工のシートに包まれて、微動だにしない。
他にも負傷者がいて手術室の用意が間に合わないと雉鳩が叫ぶと、ここでやると鸚鵡も怒鳴り返した。
「邪魔だ、どけ!」
隊員が集まって来たのを雉鳩は蹴散らした。
鷂が、その場にいた全員に簡易式の処置服を手際良く着せていく。
鸚鵡が孔雀をベッドに寝かせて保温シートを剥ぐと、音を立てて床に大量の赤い血液が流れ出した。
あまりの惨状に一瞬全員が息を飲んだ。
いつから居たのか、天河が孔雀の腕に触れたのを、鸚鵡が強く払った。
「触ってはいけません!」
はっとして天河が手をひっこめた。
「・・・殿下。いいですか。孔雀の血液には触れないように。こちらで処置致しますから、どうぞお控えください」
そう言うと、処置室の扉を閉める。
服をハサミで切ると、思ったより傷の範囲が広い。
「ショットガンか・・・」
「至近距離のショットガンでこれだけて済んだなら、もうけもんよ。金糸雀の開発した素材は優秀と言う事。・・・手伝いがあと何人か必要ね」
青鷺が急いで海兵隊の医師を数人呼びつけた。
「・・・雉鳩、これ、わかるか?」
ピンセットで取り出した弾を鸚鵡が見せた。
「・・・なんだ、この弾?」
軽い素材で、金平糖のような形状で不規則な突起がついている。
一個一個の棘の形状が返しになっていた。小さくて軽いが、体に入ったら四方八方の肉を食い破って進むだろう。
傷口の表面や奥にびっしりと食らいつく小さな赤い粒子の塊は、まるで割れた柘榴の果実のようで気味が悪い。
「殺傷能力を上げる為のものだろう。・・・中が空洞で、管のようになる。これでは出血が止まらないはずだ。・・・なんてことだ」
鸚鵡が孔雀の体内をスキャンした画像を見た。
少なくとも八十個は入っている。
「弾は後で解析させるとして。素材だって何でできてるもんだか。・・・鸚鵡兄上、それじゃダメだ」
ピンセットでひとつづつ取っていたら間に合わない。
出血は今でも止まらないのだ。
とにかく弾を取り出して傷を塞いで血を止めてしまうしかない。
雉鳩は手袋を三重にすると、自分の手と孔雀の体に大量に消毒液をかけて傷口に手を突っ込んだ。
あまりの荒っぽさに召集された海兵隊の医師が目を疑った。
「たいしたもんだ、金糸雀の寄越した新素材。内臓まではいってないよ。軍に入る前に五キロ太れって言ってたのが良かったな」
血が溢れて崩れた肉の感触の中に、硬い質感を感じた。
そのまま、傷に手を滑らせて拾い出す。
それを地道に繰り返した。
途中何度もラテックスの手袋がズタズタになり取り替えた。
鸚鵡と交代し、孔雀の肉もこそぎながらかなり無茶な取り出し方をした。
定期的にストックしていた輸血パックも足りなくなり、雉鳩から抜いた血液を孔雀に輸血しながら、血管を留め、繋ぎ、五時間かかった。
「・・・なるだけ傷が残らないようにしてやって頂戴」
後で形成手術をするにしても、これではなんとも酷い、と青鷺が首を振った。
「・・・お前も休みなさい」
鸚鵡は青い顔をしている雉鳩にそう言って労った。
総家令負傷のニュースで艦内は持ちきりだった。
孔雀は丸二日、朦朧とし、突然ぱっちりと目を開けて二言三言話したが、またすぐ眠ってしまった。
駆けつけた鷂が、難民だと思った子供に撃たれたのだ、と報告を聞き「何で不用意に近づいたの」と言うと、孔雀は「子供だったから。子供だったのよ、鷂お姉様。私が初めて軍に入った時より、もっと小さかった・・・」とだけ言って、また目を閉じてしまう。
体のダメージが大きく、起きていられないらしい。
ちょくちょく意識は浮上していたのだが、うまく表出できなかった。
孔雀は、口の中に甘い氷を入れられて、雉鳩がそばにいるのに気づいた。
「・・・雉鳩お兄様、私、だいぶ血を貰ったんでしょう?だいじょうぶ?・・・今日で何日?梟お兄様からどこに来いって連絡来た?」
これだけを話すのに大変な労力を必要として、改めて大分出血したのだなと自覚した。
いわゆるまれな血液型が同じである雉鳩が生血をくれたのだろうと思った。
その為に同行してるんだ、と言いそうだが、雉鳩だって貧血でフラフラだろう。
氷をまた口に入れられて、孔雀が噛んだ。
噛む体力は戻って来たようだ。
何度か眠ってしまったようだが、目がちょっとずつ見えるようになり、周囲の状況が理解できるようになるまで、一時間はかかったろうか。
それまでずっと、口の中に氷を含んでいたから脱水も多少良くなったようだ。
点滴だけでなく経口からの水分摂取というのは大事らしい。
「・・・・梟が何だって?どこに来るって何の事だ?」
その声が雉鳩ではなく天河だと気付いて、はっとして孔雀はゆっくり毛布を被った。
「・・・なんでもありません・・・・・ごきげんよう・・・」
「なんだって?」
天河は毛布を引っ張ってまた孔雀の口に氷の欠片を詰め込んだ。
総家令が覚醒したと言う報せは、基地に関わる人間達を大いに喜ばせた。
2
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
独身寮のふるさとごはん まかないさんの美味しい献立
水縞しま
ライト文芸
旧題:独身寮のまかないさん ~おいしい故郷の味こしらえます~
第7回ライト文芸大賞【料理・グルメ賞】作品です。
◇◇◇◇
飛騨高山に本社を置く株式会社ワカミヤの独身寮『杉野館』。まかない担当として働く有村千影(ありむらちかげ)は、決まった予算の中で献立を考え、食材を調達し、調理してと日々奮闘していた。そんなある日、社員のひとりが失恋して落ち込んでしまう。食欲もないらしい。千影は彼の出身地、富山の郷土料理「ほたるいかの酢味噌和え」をこしらえて励まそうとする。
仕事に追われる社員には、熱々がおいしい「味噌煮込みうどん(愛知)」。
退職しようか思い悩む社員には、じんわりと出汁が沁みる「聖護院かぶと鯛の煮物(京都)」。
他にも飛騨高山の「赤かぶ漬け」「みだらしだんご」、大阪の「モダン焼き」など、故郷の味が盛りだくさん。
おいしい故郷の味に励まされたり、癒されたり、背中を押されたりするお話です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
高貴なる人質 〜ステュムパーリデスの鳥〜
ましら佳
キャラ文芸
皇帝の一番近くに控え、甘言を囁く宮廷の悪い鳥、またはステュムパーリデスの悪魔の鳥とも呼ばれる家令。
女皇帝と、その半身として宮廷に君臨する宮宰である総家令。
そして、その人生に深く関わった佐保姫残雪の物語です。
嵐の日、残雪が出会ったのは、若き女皇帝。
女皇帝の恋人に、そして総家令の妻に。
出会いと、世界の変化、人々の思惑。
そこから、残雪の人生は否応なく巻き込まれて行く。
※こちらは、別サイトにてステュムパーリデスの鳥というシリーズものとして執筆していた作品の独立完結したお話となります。
⌘皇帝、王族は、鉱石、宝石の名前。
⌘后妃は、花の名前。
⌘家令は、鳥の名前。
⌘女官は、上位五役は蝶の名前。
となっております。
✳︎家令は、皆、兄弟姉妹という関係であるという習慣があります。実際の兄弟姉妹でなくとも、親子関係であっても兄弟姉妹の関係性として宮廷に奉職しています。
⁂お楽しみ頂けましたら嬉しいです。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
我が家の家庭内順位は姫、犬、おっさんの順の様だがおかしい俺は家主だぞそんなの絶対に認めないからそんな目で俺を見るな
ミドリ
キャラ文芸
【奨励賞受賞作品です】
少し昔の下北沢を舞台に繰り広げられるおっさんが妖の闘争に巻き込まれる現代ファンタジー。
次々と増える居候におっさんの財布はいつまで耐えられるのか。
姫様に喋る犬、白蛇にイケメンまで来てしまって部屋はもうぎゅうぎゅう。
笑いあり涙ありのほのぼの時折ドキドキ溺愛ストーリー。ただのおっさん、三種の神器を手にバトルだって体に鞭打って頑張ります。
なろう・ノベプラ・カクヨムにて掲載中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる