上 下
85 / 170
3.

84.モンスーンウェディング

しおりを挟む
テーブルに並べられた品物。
のすり銀椋鳥ぎんむくどり孔雀くじゃくの部屋に呼ばれていた。

「やはり若い感性の意見を聞かないとな」
天河てんがはあれこれと説明を始めた。
どうも、結婚式の引き出物について感想を聞かせろと言う事らしい。
サンプルやカタログ好きの孔雀くじゃくはカタログギフトを楽しそうに眺めている。
「・・・今時いるか?鰹節だの赤飯だの紅白饅頭だの。こんな切り株のようなバームクーヘンまでどうするんだ」
翡翠ひすいは言いながら、バームクーヘンを手で割って勝手に食べている。
「・・・うまい。なにこれ」
天河てんが様がバームクーヘンって言うから、実家のカエルマークの製菓部門で試作してみたんです」
「これはいいねえ。下の売店でも取り扱おうか」
味にバリエーション出してみるかい、と結構乗り気になっている。
「でしたら、一本丸ごと焼いて、焼きたてをサーブするのも楽しいかも」
孔雀くじゃくは早速専用のオーブンを発注しようとしている。

「・・・このように、引き出物には、バームクーヘンのこの形状。穴が開いて居て見通しがいいなんとも縁起がいい食い物だ。正月のおせちの蓮根みたいなもんで。さらに」
と、天河てんがが鍋セットまで出してきたのに翡翠《ひすい》がげんなりする。
「・・・あのな。どこで忘れたふりして置いて行こうか悩むような重くてでかい引き出物出すなよ。名入りの皿・・・?・・・うわあ、やだやだ」
「なんで鍋セットがダメなんだよ」
「重い。邪魔」
天河てんが様、冬はまあいいとして。夏はどうされるの?」
「流しそうめんセットとか?」
バカか、と翡翠ひすいは呆れた。

「新郎新婦の生まれた年のワインを振舞って、後々発送で結婚式の年のシャンパンをプレゼントするでいいじゃないか。手荷物は最小限。消えものか軽いもんにしろ。カタログとか商品券とか」
「・・・・結婚っちゃ、炭酸の泡あぶくのように軽いようなもんじゃないんだよ」
「重い。お前、うざったらしい。だいたい、鍋だの皿だのあったって離婚した時邪魔じゃないか。で、お前いつ離婚すんの?」
「・・・・はあ?」
険悪になって行く雰囲気に、のすりはハラハラとしたが、いつもこんな調子よ、と銀椋鳥ぎんむくどりは気にも留めない。
「皇帝は総家令の結婚に文句は言えないけど、離婚させる権限はあるんだって。・・・孔雀くじゃくお姉様、これおいしそう。お赤飯?」
「そうそう。カエルマーク、和菓子部門もあるから、あんこ炊きやお赤飯も得意なの」
孔雀くじゃくがちょっと食べてみようか、と皿を取りに行った。

廊下を走る気配がして唐突にドアが開いて双子が入ってきた。
そのままタックルするかのように天河てんがに抱きついて、半分吹っ飛ばした。
「天パパ、おかえり!」
「・・・おー、双子。元気だったかい。何してた?」
雉鳩きじばとにおんぶしてもらってた!」
「私だっこ!」
「・・・・双子ちゃん、雉鳩きじばとお兄様、今年に入ってもう二回もギックリ腰やってるから、手加減してやって・・・」
「そろそろギックリ腰じゃすまないよ。次はヘルニアだからね」
翡翠ひすいが釘を刺すように言った。

そうこうしているうちに、今度は大嘴おおはしが孔雀の末息子の金剛こんごうを摘んで現れた。
天河様てんが、先週打ち合わせのお客様の式の場所なんですけど、デッキがいいか、ガーデンがいいか決まりませんで。・・・孔雀くじゃくがならばチャペルを増設するかと言い出すし・・・」
大嘴おおはしお兄様、なら神殿も作っちゃう?」
天河てんがは、金剛こんごうを受け取って抱き上げた。
幼子は三回、蹴りを入れると体をぐにゃぐにゃそらして天河てんがの腕から逃げ出そうとした。
「・・・うなぎかお前は・・・」
「でも孔雀くじゃく、そうなるとさ。寺も作るのかよ。神式、チャペル式、仏式ございますってのが売りなんだろ」
うーん、と孔雀くじゃくは考え込んだ。
「そうよねえ・・・。作ってみたい気はするけど・・・。大嘴おおはしお兄様、できる?」
「そりゃ木ノ葉梟このはづく姉上の専門だな。最近頼まれてた山車だしを仕上げたって言ってたから。今なら時間あるだろ」
木ノ葉梟このはづくは神殿造や仏教建築を得意としている。

「・・・大嘴おおはしお兄様、実は、私。山をいくつか確保してまして。あの杉とひのきが役に立つ日が来たかもしれない・・・!」
リフォーム好きの孔雀くじゃくとしては興味のある方向だ。
「山までかよ。その収集癖どうにかなんないのか?・・・で?若い感性からすると、どれがいいんだ?」
大嘴おおはしが若い妹弟子に尋ねた。
「・・・私は、チャペル婚がいいかな」
銀椋鳥ぎんむくどりがちょっと照れて言った。
のすりは?」
「正直、結婚式はちょっと・・・でも、もしやるならお食事会くらいのがいいです」
「・・・・なるほど、さすが若い感性。人前式というやつだな。合理的だ」
翡翠ひすいが頷いた。
「一番いいな。会費制の食事会。お土産がシャンパンと商品券」
「あっさりしすぎだろ、若い感性・・・」
天河てんがは信じられないとのすりを見た。
のすりは戸惑ったが、そもそも自分の結婚式など想像出来ない。

孔雀くじゃくお姉様はしたの?」
「それが意外にもしたのよ、ここで。大嘴おおはしお兄様が神様の代理人でお式を取仕切ってくれたの」
自分も招待客だったらしい銀椋鳥ぎんむくどりが画像がある、とタブレットを出してきた。
「・・・まあ懐かしい。それが、ざあざあ降りでねえ」
「そうそう。モンスーンに乗って線状降水帯が次々やって来てね。海上警備やら海軍も様子見に来て、宴会なんかやってる場合かと言われてね。幸先悪かったね。止めればよかったんだよね。・・・何度見ても、可愛いね」
「まあ、翡翠ひすい様」
孔雀くじゃくお姉様、お腹大きかったのよね」
「そうね。だいぶ予定日過ぎてたもの」
金糸雀カナリアが仕立てたという純白を通り越して青いくらいのウェディングドレスに、見たこともない長い真珠のネックレス姿の孔雀くじゃくはとても美しかった。
しかし、どうしても違和感がある。
なぜか誰も指摘しないが、明らかにおかしい。
のすりが画像を示した。

「・・・・あの、なんでお嫁さんがもう一人いるんですか・・・すごい、きれいなひと・・・」
とてもきれい、ではなく。まさにすごいというのが正しい。凄みのある美人だ。
そのものすごい美貌の新婦が、誰より目立つ真ん中にいるのだが。
なぜかこちらも、ゴールドががったマーメイドラインのウェディング姿。
ぐっと開いた胸元や蜂のようにくびれたウェストのすばらしいプロポーションをした豪奢な姿で孔雀と腕を組んでいる。
孔雀くじゃくがそうなの、と手を打った。
「すっごい綺麗でしょう?これが真鶴まづるお姉様よ。もう、ウェディング姿が本当にきれいだったの。もう私感動して終始泣いてしまって・・・。外はモンスーンの土砂降りでもね、真鶴まづるお姉様の花嫁姿の周りはね、さあっと太陽が差し込むように素敵だったの・・・」
うっとりと言う孔雀くじゃくに対して、翡翠ひすい天河てんがは苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

偽装夫婦

詩織
恋愛
付き合って5年になる彼は後輩に横取りされた。 会社も一緒だし行く気がない。 けど、横取りされたからって会社辞めるってアホすぎません?

秘事

詩織
恋愛
妻が何か隠し事をしている感じがし、調べるようになった。 そしてその結果は...

若社長な旦那様は欲望に正直~新妻が可愛すぎて仕事が手につかない~

雪宮凛
恋愛
「来週からしばらく、在宅ワークをすることになった」 夕食時、突如告げられた夫の言葉に驚く静香。だけど、大好きな旦那様のために、少しでも良い仕事環境を整えようと奮闘する。 そんな健気な妻の姿を目の当たりにした夫の至は、仕事中にも関わらずムラムラしてしまい――。 全3話 ※タグにご注意ください/ムーンライトノベルズより転載

処理中です...