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84.モンスーンウェディング
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テーブルに並べられた品物。
鵟と銀椋鳥が孔雀の部屋に呼ばれていた。
「やはり若い感性の意見を聞かないとな」
天河はあれこれと説明を始めた。
どうも、結婚式の引き出物について感想を聞かせろと言う事らしい。
サンプルやカタログ好きの孔雀はカタログギフトを楽しそうに眺めている。
「・・・今時いるか?鰹節だの赤飯だの紅白饅頭だの。こんな切り株のようなバームクーヘンまでどうするんだ」
翡翠は言いながら、バームクーヘンを手で割って勝手に食べている。
「・・・うまい。なにこれ」
「天河様がバームクーヘンって言うから、実家のカエルマークの製菓部門で試作してみたんです」
「これはいいねえ。下の売店でも取り扱おうか」
味にバリエーション出してみるかい、と結構乗り気になっている。
「でしたら、一本丸ごと焼いて、焼きたてをサーブするのも楽しいかも」
孔雀は早速専用のオーブンを発注しようとしている。
「・・・このように、引き出物には、バームクーヘンのこの形状。穴が開いて居て見通しがいいなんとも縁起がいい食い物だ。正月のおせちの蓮根みたいなもんで。さらに」
と、天河が鍋セットまで出してきたのに翡翠《ひすい》がげんなりする。
「・・・あのな。どこで忘れたふりして置いて行こうか悩むような重くてでかい引き出物出すなよ。名入りの皿・・・?・・・うわあ、やだやだ」
「なんで鍋セットがダメなんだよ」
「重い。邪魔」
「天河様、冬はまあいいとして。夏はどうされるの?」
「流しそうめんセットとか?」
バカか、と翡翠は呆れた。
「新郎新婦の生まれた年のワインを振舞って、後々発送で結婚式の年のシャンパンをプレゼントするでいいじゃないか。手荷物は最小限。消えものか軽いもんにしろ。カタログとか商品券とか」
「・・・・結婚っちゃ、炭酸の泡のように軽いようなもんじゃないんだよ」
「重い。お前、うざったらしい。だいたい、鍋だの皿だのあったって離婚した時邪魔じゃないか。で、お前いつ離婚すんの?」
「・・・・はあ?」
険悪になって行く雰囲気に、鵟はハラハラとしたが、いつもこんな調子よ、と銀椋鳥は気にも留めない。
「皇帝は総家令の結婚に文句は言えないけど、離婚させる権限はあるんだって。・・・孔雀お姉様、これおいしそう。お赤飯?」
「そうそう。カエルマーク、和菓子部門もあるから、あんこ炊きやお赤飯も得意なの」
孔雀がちょっと食べてみようか、と皿を取りに行った。
廊下を走る気配がして唐突にドアが開いて双子が入ってきた。
そのままタックルするかのように天河に抱きついて、半分吹っ飛ばした。
「天パパ、おかえり!」
「・・・おー、双子。元気だったかい。何してた?」
「雉鳩におんぶしてもらってた!」
「私だっこ!」
「・・・・双子ちゃん、雉鳩お兄様、今年に入ってもう二回もギックリ腰やってるから、手加減してやって・・・」
「そろそろギックリ腰じゃすまないよ。次はヘルニアだからね」
翡翠が釘を刺すように言った。
そうこうしているうちに、今度は大嘴が孔雀の末息子の金剛を摘んで現れた。
「天河様、先週打ち合わせのお客様の式の場所なんですけど、デッキがいいか、ガーデンがいいか決まりませんで。・・・孔雀がならばチャペルを増設するかと言い出すし・・・」
「大嘴お兄様、なら神殿も作っちゃう?」
天河は、金剛を受け取って抱き上げた。
幼子は三回、蹴りを入れると体をぐにゃぐにゃそらして天河の腕から逃げ出そうとした。
「・・・うなぎかお前は・・・」
「でも孔雀、そうなるとさ。寺も作るのかよ。神式、チャペル式、仏式ございますってのが売りなんだろ」
うーん、と孔雀は考え込んだ。
「そうよねえ・・・。作ってみたい気はするけど・・・。大嘴お兄様、できる?」
「そりゃ木ノ葉梟姉上の専門だな。最近頼まれてた山車を仕上げたって言ってたから。今なら時間あるだろ」
木ノ葉梟は神殿造や仏教建築を得意としている。
「・・・大嘴お兄様、実は、私。山をいくつか確保してまして。あの杉と檜が役に立つ日が来たかもしれない・・・!」
リフォーム好きの孔雀としては興味のある方向だ。
「山までかよ。その収集癖どうにかなんないのか?・・・で?若い感性からすると、どれがいいんだ?」
大嘴が若い妹弟子に尋ねた。
「・・・私は、チャペル婚がいいかな」
銀椋鳥がちょっと照れて言った。
「鵟は?」
「正直、結婚式はちょっと・・・でも、もしやるならお食事会くらいのがいいです」
「・・・・なるほど、さすが若い感性。人前式というやつだな。合理的だ」
翡翠が頷いた。
「一番いいな。会費制の食事会。お土産がシャンパンと商品券」
「あっさりしすぎだろ、若い感性・・・」
天河は信じられないと鵟を見た。
鵟は戸惑ったが、そもそも自分の結婚式など想像出来ない。
「孔雀お姉様はしたの?」
「それが意外にもしたのよ、ここで。大嘴お兄様が神様の代理人でお式を取仕切ってくれたの」
自分も招待客だったらしい銀椋鳥が画像がある、とタブレットを出してきた。
「・・・まあ懐かしい。それが、ざあざあ降りでねえ」
「そうそう。モンスーンに乗って線状降水帯が次々やって来てね。海上警備やら海軍も様子見に来て、宴会なんかやってる場合かと言われてね。幸先悪かったね。止めればよかったんだよね。・・・何度見ても、可愛いね」
「まあ、翡翠様」
「孔雀お姉様、お腹大きかったのよね」
「そうね。だいぶ予定日過ぎてたもの」
金糸雀が仕立てたという純白を通り越して青いくらいのウェディングドレスに、見たこともない長い真珠のネックレス姿の孔雀はとても美しかった。
しかし、どうしても違和感がある。
なぜか誰も指摘しないが、明らかにおかしい。
鵟が画像を示した。
「・・・・あの、なんでお嫁さんがもう一人いるんですか・・・すごい、きれいなひと・・・」
とてもきれい、ではなく。まさにすごいというのが正しい。凄みのある美人だ。
そのものすごい美貌の新婦が、誰より目立つ真ん中にいるのだが。
なぜかこちらも、ゴールドががったマーメイドラインのウェディング姿。
ぐっと開いた胸元や蜂のようにくびれたウェストのすばらしいプロポーションをした豪奢な姿で孔雀と腕を組んでいる。
孔雀がそうなの、と手を打った。
「すっごい綺麗でしょう?これが真鶴お姉様よ。もう、ウェディング姿が本当にきれいだったの。もう私感動して終始泣いてしまって・・・。外はモンスーンの土砂降りでもね、真鶴お姉様の花嫁姿の周りはね、さあっと太陽が差し込むように素敵だったの・・・」
うっとりと言う孔雀に対して、翡翠と天河は苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
鵟と銀椋鳥が孔雀の部屋に呼ばれていた。
「やはり若い感性の意見を聞かないとな」
天河はあれこれと説明を始めた。
どうも、結婚式の引き出物について感想を聞かせろと言う事らしい。
サンプルやカタログ好きの孔雀はカタログギフトを楽しそうに眺めている。
「・・・今時いるか?鰹節だの赤飯だの紅白饅頭だの。こんな切り株のようなバームクーヘンまでどうするんだ」
翡翠は言いながら、バームクーヘンを手で割って勝手に食べている。
「・・・うまい。なにこれ」
「天河様がバームクーヘンって言うから、実家のカエルマークの製菓部門で試作してみたんです」
「これはいいねえ。下の売店でも取り扱おうか」
味にバリエーション出してみるかい、と結構乗り気になっている。
「でしたら、一本丸ごと焼いて、焼きたてをサーブするのも楽しいかも」
孔雀は早速専用のオーブンを発注しようとしている。
「・・・このように、引き出物には、バームクーヘンのこの形状。穴が開いて居て見通しがいいなんとも縁起がいい食い物だ。正月のおせちの蓮根みたいなもんで。さらに」
と、天河が鍋セットまで出してきたのに翡翠《ひすい》がげんなりする。
「・・・あのな。どこで忘れたふりして置いて行こうか悩むような重くてでかい引き出物出すなよ。名入りの皿・・・?・・・うわあ、やだやだ」
「なんで鍋セットがダメなんだよ」
「重い。邪魔」
「天河様、冬はまあいいとして。夏はどうされるの?」
「流しそうめんセットとか?」
バカか、と翡翠は呆れた。
「新郎新婦の生まれた年のワインを振舞って、後々発送で結婚式の年のシャンパンをプレゼントするでいいじゃないか。手荷物は最小限。消えものか軽いもんにしろ。カタログとか商品券とか」
「・・・・結婚っちゃ、炭酸の泡のように軽いようなもんじゃないんだよ」
「重い。お前、うざったらしい。だいたい、鍋だの皿だのあったって離婚した時邪魔じゃないか。で、お前いつ離婚すんの?」
「・・・・はあ?」
険悪になって行く雰囲気に、鵟はハラハラとしたが、いつもこんな調子よ、と銀椋鳥は気にも留めない。
「皇帝は総家令の結婚に文句は言えないけど、離婚させる権限はあるんだって。・・・孔雀お姉様、これおいしそう。お赤飯?」
「そうそう。カエルマーク、和菓子部門もあるから、あんこ炊きやお赤飯も得意なの」
孔雀がちょっと食べてみようか、と皿を取りに行った。
廊下を走る気配がして唐突にドアが開いて双子が入ってきた。
そのままタックルするかのように天河に抱きついて、半分吹っ飛ばした。
「天パパ、おかえり!」
「・・・おー、双子。元気だったかい。何してた?」
「雉鳩におんぶしてもらってた!」
「私だっこ!」
「・・・・双子ちゃん、雉鳩お兄様、今年に入ってもう二回もギックリ腰やってるから、手加減してやって・・・」
「そろそろギックリ腰じゃすまないよ。次はヘルニアだからね」
翡翠が釘を刺すように言った。
そうこうしているうちに、今度は大嘴が孔雀の末息子の金剛を摘んで現れた。
「天河様、先週打ち合わせのお客様の式の場所なんですけど、デッキがいいか、ガーデンがいいか決まりませんで。・・・孔雀がならばチャペルを増設するかと言い出すし・・・」
「大嘴お兄様、なら神殿も作っちゃう?」
天河は、金剛を受け取って抱き上げた。
幼子は三回、蹴りを入れると体をぐにゃぐにゃそらして天河の腕から逃げ出そうとした。
「・・・うなぎかお前は・・・」
「でも孔雀、そうなるとさ。寺も作るのかよ。神式、チャペル式、仏式ございますってのが売りなんだろ」
うーん、と孔雀は考え込んだ。
「そうよねえ・・・。作ってみたい気はするけど・・・。大嘴お兄様、できる?」
「そりゃ木ノ葉梟姉上の専門だな。最近頼まれてた山車を仕上げたって言ってたから。今なら時間あるだろ」
木ノ葉梟は神殿造や仏教建築を得意としている。
「・・・大嘴お兄様、実は、私。山をいくつか確保してまして。あの杉と檜が役に立つ日が来たかもしれない・・・!」
リフォーム好きの孔雀としては興味のある方向だ。
「山までかよ。その収集癖どうにかなんないのか?・・・で?若い感性からすると、どれがいいんだ?」
大嘴が若い妹弟子に尋ねた。
「・・・私は、チャペル婚がいいかな」
銀椋鳥がちょっと照れて言った。
「鵟は?」
「正直、結婚式はちょっと・・・でも、もしやるならお食事会くらいのがいいです」
「・・・・なるほど、さすが若い感性。人前式というやつだな。合理的だ」
翡翠が頷いた。
「一番いいな。会費制の食事会。お土産がシャンパンと商品券」
「あっさりしすぎだろ、若い感性・・・」
天河は信じられないと鵟を見た。
鵟は戸惑ったが、そもそも自分の結婚式など想像出来ない。
「孔雀お姉様はしたの?」
「それが意外にもしたのよ、ここで。大嘴お兄様が神様の代理人でお式を取仕切ってくれたの」
自分も招待客だったらしい銀椋鳥が画像がある、とタブレットを出してきた。
「・・・まあ懐かしい。それが、ざあざあ降りでねえ」
「そうそう。モンスーンに乗って線状降水帯が次々やって来てね。海上警備やら海軍も様子見に来て、宴会なんかやってる場合かと言われてね。幸先悪かったね。止めればよかったんだよね。・・・何度見ても、可愛いね」
「まあ、翡翠様」
「孔雀お姉様、お腹大きかったのよね」
「そうね。だいぶ予定日過ぎてたもの」
金糸雀が仕立てたという純白を通り越して青いくらいのウェディングドレスに、見たこともない長い真珠のネックレス姿の孔雀はとても美しかった。
しかし、どうしても違和感がある。
なぜか誰も指摘しないが、明らかにおかしい。
鵟が画像を示した。
「・・・・あの、なんでお嫁さんがもう一人いるんですか・・・すごい、きれいなひと・・・」
とてもきれい、ではなく。まさにすごいというのが正しい。凄みのある美人だ。
そのものすごい美貌の新婦が、誰より目立つ真ん中にいるのだが。
なぜかこちらも、ゴールドががったマーメイドラインのウェディング姿。
ぐっと開いた胸元や蜂のようにくびれたウェストのすばらしいプロポーションをした豪奢な姿で孔雀と腕を組んでいる。
孔雀がそうなの、と手を打った。
「すっごい綺麗でしょう?これが真鶴お姉様よ。もう、ウェディング姿が本当にきれいだったの。もう私感動して終始泣いてしまって・・・。外はモンスーンの土砂降りでもね、真鶴お姉様の花嫁姿の周りはね、さあっと太陽が差し込むように素敵だったの・・・」
うっとりと言う孔雀に対して、翡翠と天河は苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
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