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STEP3:一緒に帰りましょう
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私と皐月ちゃんが並ぶ後ろを鳴海くんがついてくる。三人で歩くのはなんだか新鮮で、だけどとても緊張した。
「昨日のスパイス☆ファミリー見た? ジンジャーめっちゃ可愛かったよね!」
皐月ちゃんが持ち前のコミュ力で色んな話題を提供してくれるので、雰囲気はなかなか良好だ。私は聞かれた質問に答えたり相槌を打つだけで精一杯だったけど、皐月ちゃんと鳴海くんの会話はテンポが良く、聞いていて面白い。
この調子なら家に着くまでなんとかやっていけそうだ。……そういえば一緒に帰るってどこまでなんだろう。ていうか鳴海くんの家ってこっちなの?
ようやく他のことを考える余裕が出てきた頃、事件は起こった。皐月ちゃんが突然手元のうすっぺらい鞄を開け、「あっ!」と声を上げたのだ。私たちは皐月ちゃんに注目する。
「ア、アレー? ワタシ、チョット忘れ物シチャッタ! 取リニ戻ルカラ先ニ帰ッテテ!」
何故かカタコトの日本語でそれだけ言うと、止める間もなく走り出した。
「えっ!? ちょ、皐月ちゃん!?」
私は驚いて叫んだ。皐月ちゃんは途中でくるりと振り返ると「鳴海は一花のことちゃんと家まで送り届けてね! マネージャー命令!」と更にとんでもないことを言い残して走り去った。
残された私たちは呆然と立ち尽くす。
いやいやいやいや! 何これこんな状況聞いてない。なんてことしてくれたの皐月ちゃん!! これから私どうすればいいの皐月ちゃん!! 三人でも緊張してたのに二人きりだなんて無理だよ!!
なんだか母ライオンに谷に突き落とされた子ライオンの気分だ。なんでも、ライオンは生まれたばかりの子を谷底に落とし、そこから這い上がってきた生命力の強い子どもしか育てないらしい。本当かどうかわからないけど。……ダメだ。どうでもいいことばっかり浮かんでくる。
「あー……笹川さん」
「はっ、はい!?」
やばい。テンパりすぎて声が裏返った。恥ずかしさから顔が赤くなるのが自分でもわかる。
「このまま一緒に帰っても大丈夫か?」
「へっ!?」
「やっぱ二人だとキツい? マネージャーにも頼まれたし家まで送って行こうと思ってんだけど……」
「えっと……」
言い淀んだ私の様子を肯定だと捉えたらしい。申し訳なさそうな顔で続ける。
「もし嫌だったら俺、少し離れて歩くから」
どうやら気を遣ってくれているみたいだ。こんな風に見かけによらず優しいところが鳴海くんの良いところだと思う。でも、一定の距離をあけて同じ方向に進むなんて下手したらストーカーに間違われてしまいそうだ。鳴海くんは私の苦手克服のために協力してくれてるんだから、私もちゃんと向き合わなきゃいけない。
「その……と、となりで大丈夫です」
「えっ!?」
よほど驚いたのか、つりあがった目を丸くして私を見ていた。
「……いいの?」
一拍置いて確認するように言われた言葉にこくりと頷く。彼の耳は赤くなっていた。
「あー……とりあえず行くか。家どっち?」
「……こ、こっちです」
私たちはぎこちなく歩き出した。
「昨日のスパイス☆ファミリー見た? ジンジャーめっちゃ可愛かったよね!」
皐月ちゃんが持ち前のコミュ力で色んな話題を提供してくれるので、雰囲気はなかなか良好だ。私は聞かれた質問に答えたり相槌を打つだけで精一杯だったけど、皐月ちゃんと鳴海くんの会話はテンポが良く、聞いていて面白い。
この調子なら家に着くまでなんとかやっていけそうだ。……そういえば一緒に帰るってどこまでなんだろう。ていうか鳴海くんの家ってこっちなの?
ようやく他のことを考える余裕が出てきた頃、事件は起こった。皐月ちゃんが突然手元のうすっぺらい鞄を開け、「あっ!」と声を上げたのだ。私たちは皐月ちゃんに注目する。
「ア、アレー? ワタシ、チョット忘れ物シチャッタ! 取リニ戻ルカラ先ニ帰ッテテ!」
何故かカタコトの日本語でそれだけ言うと、止める間もなく走り出した。
「えっ!? ちょ、皐月ちゃん!?」
私は驚いて叫んだ。皐月ちゃんは途中でくるりと振り返ると「鳴海は一花のことちゃんと家まで送り届けてね! マネージャー命令!」と更にとんでもないことを言い残して走り去った。
残された私たちは呆然と立ち尽くす。
いやいやいやいや! 何これこんな状況聞いてない。なんてことしてくれたの皐月ちゃん!! これから私どうすればいいの皐月ちゃん!! 三人でも緊張してたのに二人きりだなんて無理だよ!!
なんだか母ライオンに谷に突き落とされた子ライオンの気分だ。なんでも、ライオンは生まれたばかりの子を谷底に落とし、そこから這い上がってきた生命力の強い子どもしか育てないらしい。本当かどうかわからないけど。……ダメだ。どうでもいいことばっかり浮かんでくる。
「あー……笹川さん」
「はっ、はい!?」
やばい。テンパりすぎて声が裏返った。恥ずかしさから顔が赤くなるのが自分でもわかる。
「このまま一緒に帰っても大丈夫か?」
「へっ!?」
「やっぱ二人だとキツい? マネージャーにも頼まれたし家まで送って行こうと思ってんだけど……」
「えっと……」
言い淀んだ私の様子を肯定だと捉えたらしい。申し訳なさそうな顔で続ける。
「もし嫌だったら俺、少し離れて歩くから」
どうやら気を遣ってくれているみたいだ。こんな風に見かけによらず優しいところが鳴海くんの良いところだと思う。でも、一定の距離をあけて同じ方向に進むなんて下手したらストーカーに間違われてしまいそうだ。鳴海くんは私の苦手克服のために協力してくれてるんだから、私もちゃんと向き合わなきゃいけない。
「その……と、となりで大丈夫です」
「えっ!?」
よほど驚いたのか、つりあがった目を丸くして私を見ていた。
「……いいの?」
一拍置いて確認するように言われた言葉にこくりと頷く。彼の耳は赤くなっていた。
「あー……とりあえず行くか。家どっち?」
「……こ、こっちです」
私たちはぎこちなく歩き出した。
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