その答えは恋文で

百川凛

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9通目:文化祭と準備

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 夏休みも明けて、あっという間に学校が始まった。始業式やら宿題の提出やらテストやらというハードスケジュールを、休みボケですっかり鈍くなった頭と体に鞭を打ちながらこなしているうちに、気付けば一週間が経っていた。

 学校生活は相変わらずだった。

 まぁ、女子からの嫌がらせや好奇な視線は少なくなったし、夏休み前よりも落ち着いた環境になったので、その点はこちらとしても過ごしやすくなって助かっている。でも、彰くんとは挨拶をする程度であまり話はしていない。なんとなく避けてしまうのだ。私が。

「何か意見はありませんか?」

 教壇に立った文化祭実行委員の言葉にクラス中がざわめく。本日最後の授業はホームルーム。議題は来月行われる文化祭についての話し合いだった。

「お化け屋敷!」
「たこ焼き! 焼きそば! かき氷!」
「お前それ祭り気分抜けてないだけだろ」
「ライブやろうぜ! オタ芸付きで!」
「じゃあメイド喫茶!」
「えー? メイド喫茶は定番過ぎない?」
「教室使って脱出ゲーム!」
「コスプレ撮影会!!」
「なにその趣味丸出し感! キモいんだけど!」

 今は、各クラスで主催する模擬店等の出し物についての話し合いが行われていた。

 だが、定番なものからマニアックなものまで、あちこちから意見が飛び交いまとまる様子はまったく見受けられない。私は別に何に決まっても構わないので、他人事のようにみんなの様子を眺めていた。決まるまで長引きそうだな、と小さく溜息をつく。

「でもさぁ!」

 散々文句を言われていた生徒が反論のため口を開いた。

「コスプレとはいえ好きな子と一緒に写真撮れるチャンスなんだぜ!? しかも正々堂々と!!」
「うわーお前下心見えすぎ!」
「あれ? てことはお前このクラスに好きな奴いんの? 誰だよ言えよ!」
「ばっ! ち、ちげーよ!!」

 彼の一言で、女子たちの目の色が変わった。

「はいはいはーいっ! 私コスプレ撮影会に一票!!」
「私もーっ!!」

 これはおそらく〝好きな人と写真が撮れる〟というフレーズに心を鷲掴みされたのだろう。二年A組の出し物は女子の圧倒的賛成多数でコスプレ撮影会に決まった。恋する女子の力って怖い。

 だが、流石にコスプレ撮影会のままでは学校側の許可が取りづらいということで、最終的に「コスプレ体験館」という名前になったらしい。ちょっとした印象操作である。

 コスプレ体験館とはまず、教室をいくつかに区切り、そこに不思議の国のアリスや赤ずきん、シンデレラなどの童話をモチーフにしたコーナーを設ける。私たちはその世界観に合った衣装を着てお客さんを案内し、一緒に記念撮影を行う。もちろん、いくつか衣装や小物を用意しておくので、お客さんで着たい人がいれば更衣室で着替えてもらい、その格好で一緒に写真を撮ることも可能だ。教室使用許可を二部屋以上申請するという、大掛かりなものを予定しているそうだ。

 これならSNSが大好きな女子にもウケるだろうし、なかなか良いアイデアだと思う。私は絶対に写りたくないけれど。

 トントン拍子で進む話し合いの中で、私はいつの間にか受付係りに決まっていた。どうやら客引き要員らしいのだが、私なんかでいいのだろうか。愛想ないしめんどくさがりだし、どう考えても客引きには向いていないと思うんだけど。

 コスプレ体験館というだけあって、クラスのほとんどが何かしらの衣装を着るのは必然だった。何しろ各コーナーの案内人は必ずそのコーナーの世界観に合った衣装を身に付けなければならないのだから。黒板にはモチーフになる作品名が次々と書かれていく。その中で、女子たちはさっそく自分たちの着る衣装と、主役である彰くんの衣装を考え始めた。

 女子の多くは彰くんと写真を撮るために出し物をこのコスプレ体験館にしたのだから、衣装決めには熱が入る。

「平岡くんはやっぱり王子様かなぁ?」
「でも和装もいいよねぇ」
「だったら海賊船の船長とかも良くない?」
「あー、それも捨てがたい!」
「吸血鬼とかも見てみたーい!」
「見たい!! てかそれ言ったら執事も見たいんだけど! 燕尾服!」
「もはや童話関係ないけどね!」
「あはは確かに! じゃあやっぱ王子様にする?」
「だったらシンデレラの王子かなぁ?」
「ちょっ! 白タイツだけは勘弁して!」

 彰くんが焦ったように止めに入るが、女子の妄想は止められない。これは本人の意思などお構いなしに決まった衣装をごり押しされるだろう。イケメンは大変だ。御愁傷様である。

 私は受付だから着なくても大丈夫そうだから、ひとまず安心だ。

 話し合いは滞りなく進み、衣装班や撮影班、美術班などの振り分けもされていく。
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