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6通目:夏休みと約束
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「……は、はちじゅう…に点……?」
数学の答案用紙を手にして私は驚愕した。だってまさかそんな。念のため確認したところ出席番号も名前もちゃんと私のものだった。
数学でこんなに赤い丸を見たのは初めてじゃないだろうか。もちろん歴代最高得点である。
「あ、彰くん!!」
「その様子だと大丈夫だったみたいだね」
隣の席に体ごと向けて話し掛けると、彰くんは安心したように笑った。
テストの構成は彰くんの言った通り、問題のほとんどが基本問題で応用は残りの数題に限られていた。頭のいい人はテストの傾向と対策がしっかりと取れているんだと知った。これからは見習おうと思う。
「彰くんのお陰だよ。本当にありがとう」
「そんな事ないよ。問題が解けるようになったのは本人が努力した結果だから。でも栞里が数学苦手なんてちょっと意外だったな」
「……そう?」
「うん。苦手なものとかないのかと思ってた」
「……それは彰くんの方でしょ」
「俺だって苦手なものくらいあるよ」
このパーフェクトボーイに弱点があるなんて考えられない。
「じゃあ彰くんの苦手なものって何?」
「ははっ。それは内緒」
聞いても笑ってはぐらかされるだけだった。まぁ確かに、自ら弱点を晒す人なんていないよね。
次々に返ってくる答案用紙を受け取る。他の教科は特に心配する必要はなかったので、私は無事に夏休みという楽園への切符を手にする事が出来たのだ。
*
「アンタが八十二点? 数学で?」
「そう。自分でも信じられない」
「うわマジだ……彰サマすごすぎ」
廊下を歩きながら由香にテストを見せると、やはり彼女もこの結果に驚いていた。彰くんは将来教師になった方が良いと思う。数学が苦手な未来の生徒達のためにもその方がいい。
「着いたよ。あそこ」
由香が一階の廊下にある掲示板を指差す。そこにはすでに人だかりが出来ていた。
うちの学校では、テストが行われる度に各学年上位十名までの名前が掲示板に貼り出される。昔の風習がまだ健在しているのだ。
いつもは気にも止めないこの場所を訪れたのには訳がある。ちょっと気掛かりがあって、わざわざ由香に付き添ってもらったのだ。
「あ、あったわよ。二年A組平岡彰」
由香の声に私は掲示板を見上げる。パソコンで入力された味気無い文字の中で、何故か輝いて見えるその三文字。
「……へぇ。今回もトップだったみたいね」
──平岡彰。
右端の中央列にその名前は堂々と記されていた。晃くんは今回のテストでも首席の座を守ったらしい。ああ良かった。ようやく肩の力が抜けた。
だって、私に勉強を教えていたせいでトップから陥落したなんてことになったらどう償えばいいかわからなかったから。これで気兼ねなく夏休みを迎えられそうだ。私の心は弾む。
終業式を終えて帰り支度をしていると、隣から妙な視線を感じた。周りはみんな明日からの夏休みを前にして浮き足立っている。
「…………なに?」
「数学、何点だったんだっけ?」
彰くんはニコニコしながら確認するように聞く。
「お陰様で八十二点だったけど……」
「うん、じゃあ目標の七割は優に越えたわけだ。良かった良かった」
目標の七割。……そうだ、そういえばテストが始まる前にそんな話を確かにしていた。そして──
「約束、忘れないでね?」
ごめんなさい。正直すっかり忘れていました。
数学の答案用紙を手にして私は驚愕した。だってまさかそんな。念のため確認したところ出席番号も名前もちゃんと私のものだった。
数学でこんなに赤い丸を見たのは初めてじゃないだろうか。もちろん歴代最高得点である。
「あ、彰くん!!」
「その様子だと大丈夫だったみたいだね」
隣の席に体ごと向けて話し掛けると、彰くんは安心したように笑った。
テストの構成は彰くんの言った通り、問題のほとんどが基本問題で応用は残りの数題に限られていた。頭のいい人はテストの傾向と対策がしっかりと取れているんだと知った。これからは見習おうと思う。
「彰くんのお陰だよ。本当にありがとう」
「そんな事ないよ。問題が解けるようになったのは本人が努力した結果だから。でも栞里が数学苦手なんてちょっと意外だったな」
「……そう?」
「うん。苦手なものとかないのかと思ってた」
「……それは彰くんの方でしょ」
「俺だって苦手なものくらいあるよ」
このパーフェクトボーイに弱点があるなんて考えられない。
「じゃあ彰くんの苦手なものって何?」
「ははっ。それは内緒」
聞いても笑ってはぐらかされるだけだった。まぁ確かに、自ら弱点を晒す人なんていないよね。
次々に返ってくる答案用紙を受け取る。他の教科は特に心配する必要はなかったので、私は無事に夏休みという楽園への切符を手にする事が出来たのだ。
*
「アンタが八十二点? 数学で?」
「そう。自分でも信じられない」
「うわマジだ……彰サマすごすぎ」
廊下を歩きながら由香にテストを見せると、やはり彼女もこの結果に驚いていた。彰くんは将来教師になった方が良いと思う。数学が苦手な未来の生徒達のためにもその方がいい。
「着いたよ。あそこ」
由香が一階の廊下にある掲示板を指差す。そこにはすでに人だかりが出来ていた。
うちの学校では、テストが行われる度に各学年上位十名までの名前が掲示板に貼り出される。昔の風習がまだ健在しているのだ。
いつもは気にも止めないこの場所を訪れたのには訳がある。ちょっと気掛かりがあって、わざわざ由香に付き添ってもらったのだ。
「あ、あったわよ。二年A組平岡彰」
由香の声に私は掲示板を見上げる。パソコンで入力された味気無い文字の中で、何故か輝いて見えるその三文字。
「……へぇ。今回もトップだったみたいね」
──平岡彰。
右端の中央列にその名前は堂々と記されていた。晃くんは今回のテストでも首席の座を守ったらしい。ああ良かった。ようやく肩の力が抜けた。
だって、私に勉強を教えていたせいでトップから陥落したなんてことになったらどう償えばいいかわからなかったから。これで気兼ねなく夏休みを迎えられそうだ。私の心は弾む。
終業式を終えて帰り支度をしていると、隣から妙な視線を感じた。周りはみんな明日からの夏休みを前にして浮き足立っている。
「…………なに?」
「数学、何点だったんだっけ?」
彰くんはニコニコしながら確認するように聞く。
「お陰様で八十二点だったけど……」
「うん、じゃあ目標の七割は優に越えたわけだ。良かった良かった」
目標の七割。……そうだ、そういえばテストが始まる前にそんな話を確かにしていた。そして──
「約束、忘れないでね?」
ごめんなさい。正直すっかり忘れていました。
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