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プロローグ
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「逃げろ!!」
少年の叫び声に、少女は弾けるように走り出した。
目的地は分からない。とにかく前へ、少しでも遠くへ。少女は小さな足をひたすら動かす。
必死に走っているせいか呼吸が苦しい。横っ腹は痛いし、喉はからからだし、全身から吹き出る汗の量も半端じゃない。だけど、動かす足を止めるわけにはいかなかった。
「ヒャハハハハハハ! 遅い遅い!!」
楽しそうな声に勢い良く振り向くと、少女の口からはヒッ、という叫び声が漏れた。
二メートルを軽く超えた大きな体。その頭には二本の角が生えており、ギョロリと飛び出た目玉に低く潰れた鼻、ニヤニヤと意地悪そうに歪んだ口元からは、隕石さえも噛み砕いてしまいそうな鋭い牙が突き出していた。カラダは乾いた血の色みたいに赤黒くて、全身毛むくじゃらだ。オマケに、切れ味のとびきり良さそうな長い爪がギラギラと光っている。
まさに、本の中から飛び出して来たような恐ろしい赤鬼が、地面を揺らしながら猛スピードで少女の背中を追い掛けていた。
あ、あんな奴に捕まったらまちがいなく殺される……! まだまだ幼い少女でも本能的にそれを察知したのだろう。必死な様子で逃げ回っていた。
赤鬼は右手に持った黒い棍棒を振り回しながら笑い声を上げる。わざと一定の距離を保ちながら走るその姿は、この状況を楽しんでいるようだった。
「ぅ、わっ!」
疲れと恐怖から足がもつれ、少女はその場で転んでしまった。赤鬼がそれを見逃すはずがなく、一気に距離を詰めて目の前に立ちふさがった。
いつの間にか山の中に入っていたらしい。周りは草木ばかりで人の気配がまったく感じられなかった。目の前には巨大な鬼。最悪なことに、逃げたくても足がすくんで動けない。絶体絶命の大ピンチだ。
「お前、ウマそうだなぁ」
舌舐めずりをするその姿に、少女は震えあがる。
「ヒャハハハ! やっぱ恐怖に歪む顔を見るのは最高だぜ!!」
赤鬼は声高らかに笑った。上から下までジロジロと少女を眺めると、その大きな口をニタリと三日月形に釣り上げる。
「安心しろよ。一口で喰ってやるから痛みはないぜ? ああでも、叫び声を聞きながらってのも捨てがたいなぁ」
毛だらけの、太い丸太のような手が少女の目の前に迫り来る。
「や……だ、だれかっ! だれか助けてぇぇ!!」
泣き叫ぶように大声を上げた。その瞬間──
「縛っ!」
どこからか空気を引き裂くような凛とした声が聞こえてきて、目の前の鬼はピタリとその動きを停止させた。まるで金縛りにでもあったように、微動だにしない。
「やれやれ。不法侵入した挙句、人間界で人を襲うなんて重大な違反行為ですよ。言い訳を聞く気にもなれないな」
ザリ、ザリと砂を踏む音と共に、呆れたような呟きが聞こえた。どこからともなく現れたその男は、深い紫色の装束を揺らしながらこちらに近付いてくる。赤鬼は目玉だけをギョロリと動かして、その男を鋭く睨み付けた。
少年の叫び声に、少女は弾けるように走り出した。
目的地は分からない。とにかく前へ、少しでも遠くへ。少女は小さな足をひたすら動かす。
必死に走っているせいか呼吸が苦しい。横っ腹は痛いし、喉はからからだし、全身から吹き出る汗の量も半端じゃない。だけど、動かす足を止めるわけにはいかなかった。
「ヒャハハハハハハ! 遅い遅い!!」
楽しそうな声に勢い良く振り向くと、少女の口からはヒッ、という叫び声が漏れた。
二メートルを軽く超えた大きな体。その頭には二本の角が生えており、ギョロリと飛び出た目玉に低く潰れた鼻、ニヤニヤと意地悪そうに歪んだ口元からは、隕石さえも噛み砕いてしまいそうな鋭い牙が突き出していた。カラダは乾いた血の色みたいに赤黒くて、全身毛むくじゃらだ。オマケに、切れ味のとびきり良さそうな長い爪がギラギラと光っている。
まさに、本の中から飛び出して来たような恐ろしい赤鬼が、地面を揺らしながら猛スピードで少女の背中を追い掛けていた。
あ、あんな奴に捕まったらまちがいなく殺される……! まだまだ幼い少女でも本能的にそれを察知したのだろう。必死な様子で逃げ回っていた。
赤鬼は右手に持った黒い棍棒を振り回しながら笑い声を上げる。わざと一定の距離を保ちながら走るその姿は、この状況を楽しんでいるようだった。
「ぅ、わっ!」
疲れと恐怖から足がもつれ、少女はその場で転んでしまった。赤鬼がそれを見逃すはずがなく、一気に距離を詰めて目の前に立ちふさがった。
いつの間にか山の中に入っていたらしい。周りは草木ばかりで人の気配がまったく感じられなかった。目の前には巨大な鬼。最悪なことに、逃げたくても足がすくんで動けない。絶体絶命の大ピンチだ。
「お前、ウマそうだなぁ」
舌舐めずりをするその姿に、少女は震えあがる。
「ヒャハハハ! やっぱ恐怖に歪む顔を見るのは最高だぜ!!」
赤鬼は声高らかに笑った。上から下までジロジロと少女を眺めると、その大きな口をニタリと三日月形に釣り上げる。
「安心しろよ。一口で喰ってやるから痛みはないぜ? ああでも、叫び声を聞きながらってのも捨てがたいなぁ」
毛だらけの、太い丸太のような手が少女の目の前に迫り来る。
「や……だ、だれかっ! だれか助けてぇぇ!!」
泣き叫ぶように大声を上げた。その瞬間──
「縛っ!」
どこからか空気を引き裂くような凛とした声が聞こえてきて、目の前の鬼はピタリとその動きを停止させた。まるで金縛りにでもあったように、微動だにしない。
「やれやれ。不法侵入した挙句、人間界で人を襲うなんて重大な違反行為ですよ。言い訳を聞く気にもなれないな」
ザリ、ザリと砂を踏む音と共に、呆れたような呟きが聞こえた。どこからともなく現れたその男は、深い紫色の装束を揺らしながらこちらに近付いてくる。赤鬼は目玉だけをギョロリと動かして、その男を鋭く睨み付けた。
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