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三章
第67話 交錯する想い
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あれから千早と舞は何件かショップを回り、拓海に似合いそうなスマホケースを購入した。
千早はプレゼント用にラッピングしてもらった袋を大事そうに持ち、舞はその姿をほっこりとした気持ちで見つめていた。
片思いでもいい、振られてもいい、と思える千早は強い。
そういうところ、かっこいいなと思う。
私は…と舞はゆっくりと瞼を閉じる。
おそらくもう会うこともない、竜一の笑顔が浮かび上がる。
そんな風に強くはなれないな。
Cafe cosmosでのバイト中そんなことを思いながら、お客さんが使ったお皿を洗っていると。
ポン、と肩に手を置かれた。
「どうしたの?ぼんやりしちゃって。手が止まってるわよ。」
はっと顔を上げると絵理の丸顔が目に入った。
「ご、ごめんなさい!」
舞は慌てて手を動かすと、絵理はふふっと笑った。
「いやねぇ、別に怒ってないわよ。」
そう言って絵理は、そばにあった椅子にどかっと豪快に座った。
せっかく年齢よりも若く見えて可愛らしいのに、こういうところがもったいないと思ってしまう。
そう言うと絵理は"いいのよ、もう女捨ててるから"なんてあっけらかんと言うのだけれど。
「なに?恋のお悩み?お姉さんが聞いてあげようか?」
「残念ながら違いまーす。」
笑って返すけど、あながち間違いではないのでつい顔が引きつってしまった。
絵理はニヤニヤしながら見つめてくる。
舞は洗い物を終えて手を拭きながら、絵理の方に向き直る。
「私ではなくて、私の友人です。」
「あぁ、よく来てくれるショートカットの子?」
「そうです。」
「ほぉほぉ。」
舞は拓海さんには内緒ですよ、と言って人差し指を唇に当てるとこれまでの経緯を話した。
話し終わると、絵理は微笑ましそうに笑う。
そして顔を上げて、遠くを見るような表情を浮かべた。
「片思いって切ないわよね。私にもいたなぁ、そんな人。結局思いは伝えられずに、そのうちその人は他の人と付き合って結婚しちゃった。」
今でこそいい思い出だけどね、と絵理は笑う。
「だけど、その子は強いわね。普通はできないわよ、ダメだと分かっていて向かっていくなんてとても勇気がいることだもの。」
「はい、本当にそうだと思います。」
舞は同調して深く頷く。
と、ポケットが振動した。
ごめんなさい、と言ってスマホを取り出すと、絵理は"そろそろ戻るわね"と言って厨房を出て行った。
画面を見ると、真桜からのLINEだった。
初めて会ったあの日以来、自分からはLINEを送ったことはあったが真桜の方から来たのは始めてだ。
『舞さん、こんにちは。』
『真桜ちゃんこんにちは(^^♪どうしたの?』
『瑞穂さんに聞いたんですけど、舞さんて瑞穂さんとお友達なんですよね?』
その文章を見た時、体が一気に強張った。
友達、という言葉が頭の中でリピートされる。
何も迷うことなんてない。"そうだよ"と、すぐに返せばいいじゃないか。
そう思いながらもなかなか指が動いてくれない。
震える指を落ち着かせて、なんとか"うん"とだけ打って送信ボタンを押す。
すぐに既読になり、返信が返ってくる。
『舞さんに聞きたいことがあるんです。』
『なに?』
『お兄ちゃん、瑞穂さんに異常に冷たいんです。瑞穂さんに聞いても"分からない"って言われて……舞さんは、お兄ちゃんから何か理由は聞いていませんか?』
舞は、思わず眉をしかめた。
拓海からは、瑞穂を嫌っている理由は聞いているはずだ。
それなのにあえて聞いてくるということは…
癒えかけていた胸の傷が痛む。
ようするに、真桜は信じたいのだ。
瑞穂が自分の友人を殺したのではないと。
私と同じなのだ。
自分も友人を、陽菜子を失った。
もしかしたら自殺ではないかもという考えは何度も浮かんだ。
自分に罪の意識を植え付けるために、自殺に装って殺されたのではないかと。
そしてそれは、もしかしたら瑞穂の仕業なのではないかと。
だけどその度にそんなはずはない、とその考えを打ち消してきた。
瑞穂を…こんな私に声をかけてくれて友達になってくれた友人を疑いたくはなかった。
迷ったあげくに"何も聞いてないよ"と返信をしようとしたらLINEの通知が鳴り、舞はその画面を見て目を見開いた。
『お兄ちゃんは、舞さんのことが好きだと思います。』
千早はプレゼント用にラッピングしてもらった袋を大事そうに持ち、舞はその姿をほっこりとした気持ちで見つめていた。
片思いでもいい、振られてもいい、と思える千早は強い。
そういうところ、かっこいいなと思う。
私は…と舞はゆっくりと瞼を閉じる。
おそらくもう会うこともない、竜一の笑顔が浮かび上がる。
そんな風に強くはなれないな。
Cafe cosmosでのバイト中そんなことを思いながら、お客さんが使ったお皿を洗っていると。
ポン、と肩に手を置かれた。
「どうしたの?ぼんやりしちゃって。手が止まってるわよ。」
はっと顔を上げると絵理の丸顔が目に入った。
「ご、ごめんなさい!」
舞は慌てて手を動かすと、絵理はふふっと笑った。
「いやねぇ、別に怒ってないわよ。」
そう言って絵理は、そばにあった椅子にどかっと豪快に座った。
せっかく年齢よりも若く見えて可愛らしいのに、こういうところがもったいないと思ってしまう。
そう言うと絵理は"いいのよ、もう女捨ててるから"なんてあっけらかんと言うのだけれど。
「なに?恋のお悩み?お姉さんが聞いてあげようか?」
「残念ながら違いまーす。」
笑って返すけど、あながち間違いではないのでつい顔が引きつってしまった。
絵理はニヤニヤしながら見つめてくる。
舞は洗い物を終えて手を拭きながら、絵理の方に向き直る。
「私ではなくて、私の友人です。」
「あぁ、よく来てくれるショートカットの子?」
「そうです。」
「ほぉほぉ。」
舞は拓海さんには内緒ですよ、と言って人差し指を唇に当てるとこれまでの経緯を話した。
話し終わると、絵理は微笑ましそうに笑う。
そして顔を上げて、遠くを見るような表情を浮かべた。
「片思いって切ないわよね。私にもいたなぁ、そんな人。結局思いは伝えられずに、そのうちその人は他の人と付き合って結婚しちゃった。」
今でこそいい思い出だけどね、と絵理は笑う。
「だけど、その子は強いわね。普通はできないわよ、ダメだと分かっていて向かっていくなんてとても勇気がいることだもの。」
「はい、本当にそうだと思います。」
舞は同調して深く頷く。
と、ポケットが振動した。
ごめんなさい、と言ってスマホを取り出すと、絵理は"そろそろ戻るわね"と言って厨房を出て行った。
画面を見ると、真桜からのLINEだった。
初めて会ったあの日以来、自分からはLINEを送ったことはあったが真桜の方から来たのは始めてだ。
『舞さん、こんにちは。』
『真桜ちゃんこんにちは(^^♪どうしたの?』
『瑞穂さんに聞いたんですけど、舞さんて瑞穂さんとお友達なんですよね?』
その文章を見た時、体が一気に強張った。
友達、という言葉が頭の中でリピートされる。
何も迷うことなんてない。"そうだよ"と、すぐに返せばいいじゃないか。
そう思いながらもなかなか指が動いてくれない。
震える指を落ち着かせて、なんとか"うん"とだけ打って送信ボタンを押す。
すぐに既読になり、返信が返ってくる。
『舞さんに聞きたいことがあるんです。』
『なに?』
『お兄ちゃん、瑞穂さんに異常に冷たいんです。瑞穂さんに聞いても"分からない"って言われて……舞さんは、お兄ちゃんから何か理由は聞いていませんか?』
舞は、思わず眉をしかめた。
拓海からは、瑞穂を嫌っている理由は聞いているはずだ。
それなのにあえて聞いてくるということは…
癒えかけていた胸の傷が痛む。
ようするに、真桜は信じたいのだ。
瑞穂が自分の友人を殺したのではないと。
私と同じなのだ。
自分も友人を、陽菜子を失った。
もしかしたら自殺ではないかもという考えは何度も浮かんだ。
自分に罪の意識を植え付けるために、自殺に装って殺されたのではないかと。
そしてそれは、もしかしたら瑞穂の仕業なのではないかと。
だけどその度にそんなはずはない、とその考えを打ち消してきた。
瑞穂を…こんな私に声をかけてくれて友達になってくれた友人を疑いたくはなかった。
迷ったあげくに"何も聞いてないよ"と返信をしようとしたらLINEの通知が鳴り、舞はその画面を見て目を見開いた。
『お兄ちゃんは、舞さんのことが好きだと思います。』
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