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一章
第19話 無名の密告
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「ふぅ……」
新谷愛美は、放課後誰もいない教室の窓際で窓の外を眺めながら深いため息をつく。
紗耶香からあの話を聞いてしまった日から、愛美は友樹のことを避けていた。
兄に対しての思いは、これからもずっと変わらない。そう信じてきた。
愛美にとって、兄は昔からヒーローだった。
愛美がいじめに合ったら自分のことのように怒り、何度もクラスまで乗り込んでいじめたやつを怒鳴ってくれた。
でも、どんなに怒った時でも"力で解決するのは絶対だめだ"と言って、決して暴力だけは振るわない人だったのだ。
だから、そんな兄が暴力を振るうだなんて、信じられなかった。
自分が信じてあげなくてどうするんだ、と何度も自分自身に言い聞かせることで、気持ちを落ち着けようとした。
それでも、あんな話を聞いてしまった以上、兄とどう顔を合わせたらいいのか分からなくなっている。
兄を信じたい気持ちと、疑ってしまっている気持ちの間で、愛美の心はゆらゆら揺れ動いていた。
紗耶香も、自分があんな話をしてしまったことで愛美が元気をなくしていることに罪悪感を感じているのか、あれから心配して毎日一緒に帰ってくれていた。
今も、"絶対、私が部活終わるまで帰っちゃだめだからね!"と紗耶香から何度も釘を刺され、こうして紗耶香が来るのを一人待っている、という状況だ。
こういう紗耶香のさっぱりした性格が、愛美にとってはありがたく、そして好きだった。
「愛美ちゃん!ごめん、おまたせ。」
誰もいないクラスに、馴染みのある少し低いアルトの声が響く。
振りかえると、息を切らしながら教室に入ってくる紗耶香の姿があった。
走ってきてくれたのだろう、額にはきらりと汗が滲んでいた。
愛美の前に来ると、手に持っていたビニール袋を持ち上げてニィッと歯を見せて笑う。
そしてそのビニール袋から苺大福を2つ取り出して見せた。
「部活の先輩にもらっちゃったの。ちょうど2つあるから、食べながら帰ろ!」
「…うん。」
紗耶香は愛美の答えに満面の笑みを受かべると、愛美の手を引いた。
愛美と紗耶香は1階の昇降口まで行き、それぞれ靴を履くため自分の下駄箱のある場所へと分かれる。
もう一度、ふぅ、と軽くため息をつきながら下駄箱を開ける。
靴を出そうとして、愛美は思わず伸ばしかけていた手を止めた。
そこには白い封筒が入っていた。
見ると、表には"新谷愛美様"と書いてあった。
愛美はそのまま裏を返して確認するが、差出人の名前はない。
首をひねりながら中身を出して確認すると、何か写真のようなものが2枚入っているだけだった。
愛美は写真に写っているものを確認して、思わずひっ、と声を上げた。
そこには、兄と知らない女の人が写っていた。
1枚目は、兄と女性が体育館に入っていくところを撮った写真。
そして2枚目は…兄が女の人にまたがり、手を振り上げている写真だった。
「愛美ちゃん!?どうしたの!?」
愛美の悲鳴を聞いて、心配した紗耶香が駆け寄ってくる。
愛美は返事の代わりに、ぷるぷると震える手で封筒を紗耶香に差し出した。
それを確認した紗耶香も、みるみる表情を強張らせていく。
「愛美ちゃん、これ……」
「あはは……舞先輩や、紗耶香ちゃんの言った通りだった。」
愛美はへらりと笑って見せるが紗耶香の表情は変わらない。きゅっと唇を引き締めている。
愛美は耐え切れずに、くしゃりと顔を歪ませると思い切り紗耶香に抱き着いた。
紗耶香は、愛美の背中を優しくさすってくれる。
何も言わずにただただ撫でてくれるだけの紗耶香の優しさが、かえってあたたかい。
そのぬくもりに、愛美は瞳から水分が溢れ出すのを止めることができなかった。
新谷愛美は、放課後誰もいない教室の窓際で窓の外を眺めながら深いため息をつく。
紗耶香からあの話を聞いてしまった日から、愛美は友樹のことを避けていた。
兄に対しての思いは、これからもずっと変わらない。そう信じてきた。
愛美にとって、兄は昔からヒーローだった。
愛美がいじめに合ったら自分のことのように怒り、何度もクラスまで乗り込んでいじめたやつを怒鳴ってくれた。
でも、どんなに怒った時でも"力で解決するのは絶対だめだ"と言って、決して暴力だけは振るわない人だったのだ。
だから、そんな兄が暴力を振るうだなんて、信じられなかった。
自分が信じてあげなくてどうするんだ、と何度も自分自身に言い聞かせることで、気持ちを落ち着けようとした。
それでも、あんな話を聞いてしまった以上、兄とどう顔を合わせたらいいのか分からなくなっている。
兄を信じたい気持ちと、疑ってしまっている気持ちの間で、愛美の心はゆらゆら揺れ動いていた。
紗耶香も、自分があんな話をしてしまったことで愛美が元気をなくしていることに罪悪感を感じているのか、あれから心配して毎日一緒に帰ってくれていた。
今も、"絶対、私が部活終わるまで帰っちゃだめだからね!"と紗耶香から何度も釘を刺され、こうして紗耶香が来るのを一人待っている、という状況だ。
こういう紗耶香のさっぱりした性格が、愛美にとってはありがたく、そして好きだった。
「愛美ちゃん!ごめん、おまたせ。」
誰もいないクラスに、馴染みのある少し低いアルトの声が響く。
振りかえると、息を切らしながら教室に入ってくる紗耶香の姿があった。
走ってきてくれたのだろう、額にはきらりと汗が滲んでいた。
愛美の前に来ると、手に持っていたビニール袋を持ち上げてニィッと歯を見せて笑う。
そしてそのビニール袋から苺大福を2つ取り出して見せた。
「部活の先輩にもらっちゃったの。ちょうど2つあるから、食べながら帰ろ!」
「…うん。」
紗耶香は愛美の答えに満面の笑みを受かべると、愛美の手を引いた。
愛美と紗耶香は1階の昇降口まで行き、それぞれ靴を履くため自分の下駄箱のある場所へと分かれる。
もう一度、ふぅ、と軽くため息をつきながら下駄箱を開ける。
靴を出そうとして、愛美は思わず伸ばしかけていた手を止めた。
そこには白い封筒が入っていた。
見ると、表には"新谷愛美様"と書いてあった。
愛美はそのまま裏を返して確認するが、差出人の名前はない。
首をひねりながら中身を出して確認すると、何か写真のようなものが2枚入っているだけだった。
愛美は写真に写っているものを確認して、思わずひっ、と声を上げた。
そこには、兄と知らない女の人が写っていた。
1枚目は、兄と女性が体育館に入っていくところを撮った写真。
そして2枚目は…兄が女の人にまたがり、手を振り上げている写真だった。
「愛美ちゃん!?どうしたの!?」
愛美の悲鳴を聞いて、心配した紗耶香が駆け寄ってくる。
愛美は返事の代わりに、ぷるぷると震える手で封筒を紗耶香に差し出した。
それを確認した紗耶香も、みるみる表情を強張らせていく。
「愛美ちゃん、これ……」
「あはは……舞先輩や、紗耶香ちゃんの言った通りだった。」
愛美はへらりと笑って見せるが紗耶香の表情は変わらない。きゅっと唇を引き締めている。
愛美は耐え切れずに、くしゃりと顔を歪ませると思い切り紗耶香に抱き着いた。
紗耶香は、愛美の背中を優しくさすってくれる。
何も言わずにただただ撫でてくれるだけの紗耶香の優しさが、かえってあたたかい。
そのぬくもりに、愛美は瞳から水分が溢れ出すのを止めることができなかった。
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