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第一章
第13話
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放課後、いつも一緒に行動している他の三人は、それぞれ用事があるということで別行動になった。
今日は家庭教師もないので、どうしようか…と考えた結果、千尋は迫ってきている試験のために勉強をしようと決め、図書室へと向かった。
家で勉強するよりも、静かな図書室で勉強をしたほうがはかどる。
他の生徒も同じことを考えているのか、図書室にはちらほら教科書とにらめっこしている生徒が見受けられた。
「あら、千尋ちゃん!」
図書室にはよく知っている先輩がいた。
高石理紗(たかいし・りさ)。
前髪はきっちりと切りそろえられ、ポニーテールの長い髪が揺れる。
トレードマークの眼鏡がよく似合う。
講義で一緒になって声をかけてもらったことがきっかけで、それからは会うたびにこうして話しかけてくれる、優しい先輩だ。
「千尋ちゃんも、お勉強?」
「はい、そうです。…高石先輩もですか?」
千尋はテーブルの上に広げられた先輩の教科書に視線を落とす。
「そうよ~。私頭悪いから、人の倍は勉強しなくちゃいけなくってさ。」
コロコロと陽気に笑う先輩。
この人といると、自分まで明るい気持ちになれる。
「なに言ってるんですか。あれだけ頭がよくって。」
「それは、人の倍やってるからよ。人並みにやってたら、私なんか中の下。」
実際先輩は学年でもトップ5には入るくらい頭が良い。
謙遜して言っているのだろうが、それこそいつも学年で中くらいの成績の千尋からすると羨ましい限りだった。
これで頭の良い姉妹の家庭教師をしてるのだから、笑ってしまう。
「そいえば千尋ちゃん、湊くんとはどうよ。」
「順調ですよ。」
先輩は湊と付き合っていることを知っている。
たまに湊のことで不安なことがあると、相談に乗ってもらっていた。
「それなら良かった。湊くんモテるから、千尋ちゃんも大変でしょ。」
「そうですね……」
たしかに、湊と付き合ってからすでに数回は彼が告白されている現場に遭遇してしまっている。
あのルックスと性格だから、いいよる女子は少なくない。
中には、千尋と付き合っていると知っているのに告白してきた子もいたくらいだ。
そんなわけで、千尋はいつ湊の心が他の人に向いてしまうのではないかと気が気でならない。
「それにしても意外よね~」
「なにがですか?」
「いや……」
そう言うと先輩は、しまった、と言う風に口を押さえた。
「そこまで言ったなら言ってくださいよ~!気になるじゃないですか。」
そう言うと先輩は諦めたように肩を竦めた。
「最初、実を言うと…湊くんは春華ちゃんが好きなのかなって思ってたから。」
先輩の言葉に、ちくりと胸が痛む。
それは、千尋もずっと感じてきたことではあった。
湊と春華は、四人の中でも特に仲が良かった。
個人的に遊びに行ったりもしていたくらいだった。
だから、てっきり湊の気持ちは春華に向いているものだと思っていた。
そしてまた春華の方も、湊に気持ちがあるものだと思っていたから。
仄かに湊に恋心を抱いてはいたが、もし湊と春華がくっついていたとしたも納得だった。
いや、むしろその方が自然だったのだ。
なのに湊は、春華ではなく千尋に告白をしてきた。
正直当初は"嬉しい"という気持ちよりも、戸惑いのほうが大きかった。
だけど今は、湊のことを知り、湊の優しさに触れ、千尋も湊が大好きになっていた。
だから、今は湊を誰かに取られるのは…正直嫌だった。
たとえそれが、大事な友人の春華だったとしても。
「いいんですよ、先輩。私もそう思ってましたから。」
千尋は必死に笑顔を取り繕って言う。
「千尋ちゃん…」
「春華は可愛いですし、あの二人は私なんかよりずっとお似合いだって思ってました。」
「でも今は、あなたの彼氏よ。湊くんはあなたを選んだのだから。」
「……はい。そうですよね。」
先輩が申し訳なさそうにフォローを入れてくれるが、千尋の気持ちは晴れない。
どことなく気まずい雰囲気が先輩との間に流れる。
その時、救急車のサイレンの音が近くで鳴り響いた。
今日は家庭教師もないので、どうしようか…と考えた結果、千尋は迫ってきている試験のために勉強をしようと決め、図書室へと向かった。
家で勉強するよりも、静かな図書室で勉強をしたほうがはかどる。
他の生徒も同じことを考えているのか、図書室にはちらほら教科書とにらめっこしている生徒が見受けられた。
「あら、千尋ちゃん!」
図書室にはよく知っている先輩がいた。
高石理紗(たかいし・りさ)。
前髪はきっちりと切りそろえられ、ポニーテールの長い髪が揺れる。
トレードマークの眼鏡がよく似合う。
講義で一緒になって声をかけてもらったことがきっかけで、それからは会うたびにこうして話しかけてくれる、優しい先輩だ。
「千尋ちゃんも、お勉強?」
「はい、そうです。…高石先輩もですか?」
千尋はテーブルの上に広げられた先輩の教科書に視線を落とす。
「そうよ~。私頭悪いから、人の倍は勉強しなくちゃいけなくってさ。」
コロコロと陽気に笑う先輩。
この人といると、自分まで明るい気持ちになれる。
「なに言ってるんですか。あれだけ頭がよくって。」
「それは、人の倍やってるからよ。人並みにやってたら、私なんか中の下。」
実際先輩は学年でもトップ5には入るくらい頭が良い。
謙遜して言っているのだろうが、それこそいつも学年で中くらいの成績の千尋からすると羨ましい限りだった。
これで頭の良い姉妹の家庭教師をしてるのだから、笑ってしまう。
「そいえば千尋ちゃん、湊くんとはどうよ。」
「順調ですよ。」
先輩は湊と付き合っていることを知っている。
たまに湊のことで不安なことがあると、相談に乗ってもらっていた。
「それなら良かった。湊くんモテるから、千尋ちゃんも大変でしょ。」
「そうですね……」
たしかに、湊と付き合ってからすでに数回は彼が告白されている現場に遭遇してしまっている。
あのルックスと性格だから、いいよる女子は少なくない。
中には、千尋と付き合っていると知っているのに告白してきた子もいたくらいだ。
そんなわけで、千尋はいつ湊の心が他の人に向いてしまうのではないかと気が気でならない。
「それにしても意外よね~」
「なにがですか?」
「いや……」
そう言うと先輩は、しまった、と言う風に口を押さえた。
「そこまで言ったなら言ってくださいよ~!気になるじゃないですか。」
そう言うと先輩は諦めたように肩を竦めた。
「最初、実を言うと…湊くんは春華ちゃんが好きなのかなって思ってたから。」
先輩の言葉に、ちくりと胸が痛む。
それは、千尋もずっと感じてきたことではあった。
湊と春華は、四人の中でも特に仲が良かった。
個人的に遊びに行ったりもしていたくらいだった。
だから、てっきり湊の気持ちは春華に向いているものだと思っていた。
そしてまた春華の方も、湊に気持ちがあるものだと思っていたから。
仄かに湊に恋心を抱いてはいたが、もし湊と春華がくっついていたとしたも納得だった。
いや、むしろその方が自然だったのだ。
なのに湊は、春華ではなく千尋に告白をしてきた。
正直当初は"嬉しい"という気持ちよりも、戸惑いのほうが大きかった。
だけど今は、湊のことを知り、湊の優しさに触れ、千尋も湊が大好きになっていた。
だから、今は湊を誰かに取られるのは…正直嫌だった。
たとえそれが、大事な友人の春華だったとしても。
「いいんですよ、先輩。私もそう思ってましたから。」
千尋は必死に笑顔を取り繕って言う。
「千尋ちゃん…」
「春華は可愛いですし、あの二人は私なんかよりずっとお似合いだって思ってました。」
「でも今は、あなたの彼氏よ。湊くんはあなたを選んだのだから。」
「……はい。そうですよね。」
先輩が申し訳なさそうにフォローを入れてくれるが、千尋の気持ちは晴れない。
どことなく気まずい雰囲気が先輩との間に流れる。
その時、救急車のサイレンの音が近くで鳴り響いた。
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