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第一章
第9話
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「それにしてもびっくりしたわね。」
帰り道、春華が胸に手を当ててほぅ…と感嘆のため息を吐いた。
あの時のその場の空気は異様だった。
果穂は、たしかにあの女子生徒の手を振り払ったのだ。
わざわざキーホルダーを届けてあげたというのに。
果穂の態度に、千尋も春華も呆然としていた。
だけどもっと驚かされたのは、その後だ。
周りの生徒達も事の成り行きはすべて見ていたはずだ。
なのに、周りの生徒の反応は、果穂に対する侮蔑や避難のまなざしではなかった。
「果穂様、やっぱり素敵。」
「かっこいいわ。」
そんな言葉があちこちから聞こえてきたのだ。
皆、うっとりとした表情で果穂を見ている。
隣にいる瑞穂もまた、尊敬と憧れのまなざしで姉を見つめていた。
ふと、こちらを振りかえった果穂と瑞穂と目が合った。
事の一部始終を見ていた千尋と春華は、思わず肩をびくりと震わせる。
しかし、こちらに気づいた果穂はそれまでとは打って変わったようにパッと笑顔になった。
その顔は、まるで聖母マリアのようだった。
それまでの出来事がなかったかのように、果穂はこちらにパタパタと可愛らしく駆け寄ってきた。
「千尋!」
果穂は無邪気に、千尋の腕に自分の腕を絡める。
「千尋先生!」
瑞穂も同じようにもう片方の腕に抱き着いてきた。
「千尋、どうしたのこんなところで。……えっと。」
ふと、果穂の視線が春華に移る。
まるで値踏みをするように、すっと下から上へと視線を巡らせた。
「あ、私の友達の仙道春華ちゃんだよ。」
「え、と…仙道春華です。宜しくお願いします!」
年下相手なのに、つい敬語になっている春華。
だけど果穂の圧倒的に大人びたオーラの前では、それも仕方ないような気もした。
「へぇ。可愛い人じゃない。」
果穂にじっと見つめられ、春華は恥ずかしそうに顔を赤らめる。
瑞穂もそれに倣うようにうんうん、と頷いた。
「二人とも、今の…見てたわよね?」
そう言って、果穂はいたずらっ子のようにペロッと下舌を出した。
千尋と春華は顔を見合わせて、おずおずと頷くしかなかった。
やっぱり…と果穂は諦めたようにため息を吐いた。
「でも、果穂は悪くないの。」
「え?」
「あの子、いつも空気読めないことばっかり言ったりしたりするの。クラスの子たちからも嫌われてる。それにいつも同じ服ばっかり着てるし、不潔なのよ。」
「で、でもあの態度は…」
「千尋は私のこと責めるの?」
眉をハの字にして上目遣いで千尋を見つめてくる。
その目に見つめられ、千尋はうっと声を上げた。
そんな目で見るのは反則だ。
「そ、そんなこと……」
「私は悪くないわ。身分もわきまえないで話しかけてくるあの子が悪いのよ。そうでしょ?」
たしかに、果穂と瑞穂のオーラは、他の子とはまったく違う。
果穂と瑞穂に気軽に話しかけるなど、身分をわきまえていないと言われても当然なのだろう。
千尋も春華も、それには曖昧に笑うしかなかった。
そんなこんなで、千尋と春華は圧倒されたまま岐路についたのだった。
「果穂ちゃんは、本当にすごいのね。」
「うん……、女王様って感じ。」
「明らかにオーラが違ってたもんね。あーぁ…なんだか変な汗かいちゃった。」
さきほど果穂の純粋な目に見つめられ、あの女子生徒のことを少し可哀そうに思いながらも千尋は感じてしまった。
この子には、絶対に嫌われてはいけないのだと。
帰り道、春華が胸に手を当ててほぅ…と感嘆のため息を吐いた。
あの時のその場の空気は異様だった。
果穂は、たしかにあの女子生徒の手を振り払ったのだ。
わざわざキーホルダーを届けてあげたというのに。
果穂の態度に、千尋も春華も呆然としていた。
だけどもっと驚かされたのは、その後だ。
周りの生徒達も事の成り行きはすべて見ていたはずだ。
なのに、周りの生徒の反応は、果穂に対する侮蔑や避難のまなざしではなかった。
「果穂様、やっぱり素敵。」
「かっこいいわ。」
そんな言葉があちこちから聞こえてきたのだ。
皆、うっとりとした表情で果穂を見ている。
隣にいる瑞穂もまた、尊敬と憧れのまなざしで姉を見つめていた。
ふと、こちらを振りかえった果穂と瑞穂と目が合った。
事の一部始終を見ていた千尋と春華は、思わず肩をびくりと震わせる。
しかし、こちらに気づいた果穂はそれまでとは打って変わったようにパッと笑顔になった。
その顔は、まるで聖母マリアのようだった。
それまでの出来事がなかったかのように、果穂はこちらにパタパタと可愛らしく駆け寄ってきた。
「千尋!」
果穂は無邪気に、千尋の腕に自分の腕を絡める。
「千尋先生!」
瑞穂も同じようにもう片方の腕に抱き着いてきた。
「千尋、どうしたのこんなところで。……えっと。」
ふと、果穂の視線が春華に移る。
まるで値踏みをするように、すっと下から上へと視線を巡らせた。
「あ、私の友達の仙道春華ちゃんだよ。」
「え、と…仙道春華です。宜しくお願いします!」
年下相手なのに、つい敬語になっている春華。
だけど果穂の圧倒的に大人びたオーラの前では、それも仕方ないような気もした。
「へぇ。可愛い人じゃない。」
果穂にじっと見つめられ、春華は恥ずかしそうに顔を赤らめる。
瑞穂もそれに倣うようにうんうん、と頷いた。
「二人とも、今の…見てたわよね?」
そう言って、果穂はいたずらっ子のようにペロッと下舌を出した。
千尋と春華は顔を見合わせて、おずおずと頷くしかなかった。
やっぱり…と果穂は諦めたようにため息を吐いた。
「でも、果穂は悪くないの。」
「え?」
「あの子、いつも空気読めないことばっかり言ったりしたりするの。クラスの子たちからも嫌われてる。それにいつも同じ服ばっかり着てるし、不潔なのよ。」
「で、でもあの態度は…」
「千尋は私のこと責めるの?」
眉をハの字にして上目遣いで千尋を見つめてくる。
その目に見つめられ、千尋はうっと声を上げた。
そんな目で見るのは反則だ。
「そ、そんなこと……」
「私は悪くないわ。身分もわきまえないで話しかけてくるあの子が悪いのよ。そうでしょ?」
たしかに、果穂と瑞穂のオーラは、他の子とはまったく違う。
果穂と瑞穂に気軽に話しかけるなど、身分をわきまえていないと言われても当然なのだろう。
千尋も春華も、それには曖昧に笑うしかなかった。
そんなこんなで、千尋と春華は圧倒されたまま岐路についたのだった。
「果穂ちゃんは、本当にすごいのね。」
「うん……、女王様って感じ。」
「明らかにオーラが違ってたもんね。あーぁ…なんだか変な汗かいちゃった。」
さきほど果穂の純粋な目に見つめられ、あの女子生徒のことを少し可哀そうに思いながらも千尋は感じてしまった。
この子には、絶対に嫌われてはいけないのだと。
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