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三章 片倉小十郎景綱

第三話 片想い

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「……なんだよ」
「よかったわね、手作りクッキー」
「こんなもの、あいつらの感情を盛り上げる材料に過ぎんさ」


 手元の包みの端をぎゅっと握りつぶした小十郎は、己を落ち着けるように深く息をはいて、楓花に歩み寄る。そして楓花に包みを差し出した。条件反射で楓花が受けとると、小十郎は更衣室の方へと足早に足を運んだ。


 背中合わせの楓花が小十郎に尋ねる。


「ちょっと、これ」
「やる」
「いいの?」
「ああ」
「……好きな子の手作りなのに?」
 一度歩を止めた小十郎だったが、楓花を振り返り、憮然ぶぜんとした態度で言う。


「そんなわけないだろ、政宗の恋人だぞ」
「でも、片倉くんずっと見てたわ、あの子のこと」

 高揚していく精神。図星をさされての動揺か、それとも土足で踏み入る楓花への怒りか。理由も解さないまま、小十郎は
「うるさい、それ以上喋るな」
静かな怒りを露にすると、今度こそ更衣室へと入っていく。

「しまった、怒らせたわ……」
楓花はそんな小十郎の様子を見つめながら、息をつくように呟いた。




 がらんとした更衣室。
窓から日差しが入っている。

 並木通りの木々の影が更衣室に入り込み、ざわざわと揺れていた。まるで小十郎の心模様のようだった。 手慣れた手つきで胴着を脱いでいく。洗練された肉体があらわになった。

 ナンバー入力をして、ロッカーをあける。 小十郎はハンガーにかけられた制服を手にした。Yシャツを着てボタンをラフに留める。赤いネクタイをつけようと手を忙しなく動かせた。

 いつも通りを心がけるも、心にちらつく理子の笑顔と、政宗の信頼の眼差し。どうしようもなく苛立った。
「くそ……っ!!」
力任せにロッカーを叩くと、腕には筋が浮き出る。キィキィと音がしてロッカーの戸は、強烈な力の惰性だせいで右往左往した。


やがて、始業前の鐘は鳴った。
今日も退屈な授業がはじまる。

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