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二章 伊達政宗

史実 伊達政宗

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 伊達政宗


戦国時代後期~江戸時代前期に生きる。
一五六七年九月五日山形米沢にて生誕。
一六三六年六月二七日江戸にて死没。

幼名:梵天丸
仮名:藤次郎
渾名:独眼竜

伊達氏 一七代目当主
仙台藩初代藩主

お父さんは、伊達輝宗伊達輝宗だててるむね
お母さんは、義姫よしひめ
義姫は最上義守最上義守もがみよしもりの娘で、義光よしあきの妹でした。
ですから政宗は最上義光の甥に当たります。


 当時奥羽は大きく分けて奥州(東北太平洋側)と出羽(日本海側)に分かれていました。
 奥州の大名の父と、出羽の大名の子を母に持つ政宗は、奥州のサラブレッドです。生まれるのがあと10年早ければ天下は政宗のものになっていただろうというのは有名な話です。



独眼竜どくがんりゅうと称される由縁ゆえんは、五歳の時、天然痘にかかりその後遺症で右目の視力を失ったからです。

 政宗は己の容姿をとても気にしていたそうで、こんなに気になるならと片倉小十郎に右目を切り捨ててもらったというわれもありますが、後に政宗の頭蓋骨を調査したところ、頭蓋骨には眼球を摘出した骨の削れなどが見つからないということで、本当のところはわかっていません。


 ちなみに独眼竜の初例は中国の李克用李克用りこくよう。唐時代に生きた豪胆な武将です。李克用も隻眼せきがんでした。


 僧の虎哉こさいが政宗の師として、政宗と出逢ったのは、病気で視力を失った翌年のことでした。


 虎哉は政宗に「いにしえの隻眼の英雄を見習いなさい」と教えます。この時手本にした隻眼の英雄というのが独眼竜、李克用だったそうです。これはとても恥ずかしがり屋だった政宗を、豪胆な男に育て上げるいしずえとも言えるそうです。



 一五八五年一○月八日
 政宗の父、輝宗は畠山義継はたけやまよしつぐによって拉致されました。大好きな鷹狩りに出掛けていた政宗は、知らせを聞きつけ急ぎ父の跡を追いました。鉄砲隊が先に到着、政宗は輝宗ごと裏切り者の畠山義継を撃ち殺してしまいました。



 この経緯についてちょっと解説。


 この頃は、秀吉が西の統一を果たして、四国に勢力を伸ばしているところでした。

 しかし政宗らの奥羽はまだ群雄割拠ぐんゆうかっきょで、政略結婚や実質上の人質となる養子によって大名らはなんとか均衡を保っている状態でした。


 そんな中で、だんだんと伊達と、芦名がぶつかるようになります。
芦名の勢力圏と伊達の勢力圏の間に挟まれたのが、小浜おばま城主大内定綱おおうちさだつなと二本松城主の畠山義継でした。



 そんな中、輝宗は四一歳という若さで政宗に家督を譲ります。

 これは妻の義姫が長男の政宗を邪剣に扱い、弟の小次郎を溺愛していたことで、政宗を可哀想に思ったとも、なんとしても家督を長男に継がせたかったとも言われていますが、決定打は政宗の度量を見込んでの人選だったのでしょう。

 当主交代で藩内がゴタゴタしている隙に、これ幸いと畠山義継は、芦名寄りに転身。元々、伊達に従っていた大内定綱を、芦名に寝返らせました。

 この事に激怒した政宗。
 大内定綱の支城である小手森城おてのもりじょうを攻撃。家臣はもちろん女子供に至るまで八○○人あまりを殺してしまいます。

 定綱は危険を察知。
殺される前に畠山義継のいる二本松城に逃げます。義継は滅ぼされてはいかんと、自分の持っている領地の半分を差し出すことを条件に許しを乞います。

 けれど政宗はその条件を良しとはしませんでした。
村五つ以外のほとんどの土地の没収と、義継の跡目の国王丸くにおうまるを人質に出せば、許そうと申し出たのです。


 一五八五年一○月六日。
義継がその条件を飲み、伊達と畠山の和睦成立。


 しかし、そのわずか二日後。
宮森城みやもりじょうにいた輝宗は義継の和睦のおれいに来たという言葉に騙されて門をあけ、拉致されてしまいました。

 当時、宮森城には成実など名だたる武将が控えていましたが、輝宗の首に刀を当てられていて、手出しができなかったのです。


 そして先に述べたような、父親ごと敵を打つという事件が起こったのでした。

  



 小説内では片倉との関連性をつけたかったので、政宗には兄がいることになっていますが、史実で政宗の兄弟は

弟、小次郎。
末弟、秀雄。
妹、二人(うち一人は千子姫)です。
末子の秀雄は仏門へ。
二人の妹は、幼くして亡くなっています。



 小次郎は幼名、竺丸じくまると言います。
 母義姫は、竺丸と共謀して、政宗に毒を飲ませようとします。それは秀吉の小田原攻めへの参戦を決めた日。一五九○年四月五日のことでした。


 義姫は小田原攻めへ出陣する政宗を激励するふりをして、毒をもった食事を政宗に与えました。


 古文書を見ると、この時、毒見役がすぐさま血を吐いて死んだというものと、政宗が食したけれど、解毒剤を飲んで事なきを得たという二つの説があります。


 この時の母、義姫の心情としてあがるのは

一、政宗が病で失明したことにより、その体を受け入れられず、弟の小次郎を溺愛していった。家督を政宗より小次郎に継がせたかった。
二、政宗が、義姫の実家である最上を嫌っていたので、実家を嫌う政宗より溺愛していた弟の小次郎を家督にしたかった。
三、政宗が秀吉の家臣であった芦名家を滅ぼしたことで買った秀吉の怒りをおさめるために政宗を毒殺しようとした。

などがあります。


 政宗が食事に入った毒が母親の陰謀と知るや、義姫は山形の生家、最上家に逃れます。

 四月の七日。
政宗は小次郎のいる屋敷に赴き、小次郎を自らの手で成敗します。小次郎、十三才の時でした。

 その時、政宗は
「お竺、許せよ。お主に罪はないが、母上を罰することは出来ぬからお主を討ったのだ」
と、涙を流したと言われています。


 小次郎は、七代先までの、勘当を言い渡され、死後二○三年経ってやっと、伊達家で法要が行われました。




 政宗はお洒落さんとしても有名でしたね。

 先でも述べたように、母の陰謀によって命をとられかけた政宗は、事後処理のために小田原攻めに遅れて参じることになりました。

この時、「遅れて申し訳ありません」という気持ちを込めて「私は殺されても構いませんよ」と、白装束で秀吉の元を訪れました。こういったボキャブラリティがあった秀吉は、これを許します。

 また葛西大崎一揆の黒幕と疑われた時にも政宗は、弁明のために秀吉の元を訪れています。この時も白装束に、金の十字架を掲げており、この時も秀吉からのおとがめはありませんでした。


 一五九二年・朝鮮出兵の際。
京へ赴いたときの装束も有名です。

 紺色の布に、金の日の丸模様の登りが三○本。
金のとんがり帽子に赤鞘の足軽隊。
騎馬隊はみな黒塗りの鎧を身につけて、兜は金色の半月の前立てで統一。
馬の鎧は、虎や熊の毛皮や孔雀の羽根で出来ていた。
金の鎖で肩から下げた二・七メートルの大太刀二本。
大将の政宗は、熊毛の陣羽織で登場。
そんな奇抜な装束を身につけた三千人の兵士たち。


 秀吉のみならず、見物にきていた京のひとびとはくちぐちに「さすが伊達だ。さすが伊達者だ、伊達男だ」と手を叩いて喜んだそうです。

 これが現代の「伊達者」の由縁です。


 この時の出兵は、政宗自身、秀吉の朝鮮攻略軍に従軍し、約半年朝鮮へ赴いています。


 この際、母、義姫が朝鮮の政宗を心配して、現金三両と和歌を送りました。そのお返しにと政宗は朝鮮の土産物屋で衣類を買い、義姫に送っています。


この辺りを見ると、毒殺されそうになって、険悪かと思いきや……。政宗の母への愛をうかがわせる一件です。


 政宗はとても筆マメでした。
また代筆を頼まず手紙は直筆で書くのがマナーだという実に日本人らしい考え方を持っていたようで、家臣に「手紙は自分で書くように」と言っていたそうです。


電話もメールもない時代の連絡手段はまさに手紙。
「昨日は飲みすぎたので午後の仕事は休ませて」
「準備に手間取っちゃった。遅れるわー」
など。ラフな感じのお手紙も残っています。


 急いでいるときなどはやはり字が汚くなるようで
そんなときの手紙には「即火中」という言葉が添えられています。
こんなどうでもいい手紙、読んだらすぐに燃やしてくれ。という意味ですね。殿からもらった手紙はどんなに粗末な内容でも燃やせません。残っています。



 政宗は日に三度、喫煙しています。
今と違い、政宗の頃は煙草は薬と考えられていたため
嗜好品というわけではなく、健康のために吸っていたものと考えられます。



 政宗は一六三六年。
春から体調を崩します。食道癌でした。

 しかし、人前で床に臥せることは、よほどのことがない限りしなかったと聞きます。死期を悟ったのか仙台にいた政宗は、江戸を目指して旅に出ます。


 江戸に着いてからは寝ては起きの生活が続き、五月二一日に政宗を「伊達の親父殿」と慕っていた徳川家光公との見舞いを受けました。


 それから二日後の夜
「曇りなき心の月を先立てて 浮世の闇を照らしてぞ行く」
辞世の句を詠んだ政宗は、感慨深そうに言いました。


「幼い頃から何度も死地を駆け抜け、その度生かされて参ったが、よもやこうして畳の上で死ぬるとはな」


 政宗が亡くなったのは、その翌日。
一六三六年五月二四日 午前六時頃の事でした。


亡くなる少し前、自ら起き上がり身だしなみを整えて、「私が死んでも無闇に中に人を入れるな」と側近に言いつけて、最期の床についたそうです。


政宗は生前から「親からもらったものが欠けた姿を残すのは不敬にあたる」との理由で「私が死んだのちに描く肖像画は、必ず両目の揃ったものを」と言っていました。


伊達政宗の肖像画が隻眼ではないのは、政宗の生前の想いを汲んだ形なのです。


史実 伊達政宗 了。
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