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二章 伊達政宗
第一ニ話 意識喪失
しおりを挟む「あ……俺も、よーく考えたんだけどさ、やっぱ理子は違う奴好きんなった方がいいよ」
よく、こうもペラペラと言い訳が出るものだと思う程、政宗は饒舌に偽る。
「俺なんか好きになってもいいことねえし。鷹のことになると何も見えなくなるし、いつも鳥くさいし、小十郎や成がいないと何も、ほんと何も出来ないし、まして愛なんかわかんねえし、無茶苦茶だし……っ俺、理子を泣かす自信ならあるし、ほらサイテーな男だろ」
政宗の言葉を聞きながら、理子は胸が苦しくなった。それは我が身可愛さではない。
政宗が辛そうだったからだ。
政宗は止まらない。一種の興奮状態なのかもしれない。頬が上気している。
「それにほら、俺……っ俺」
あとの言葉が続かない。確信に触れることを恐れた。
「俺……の、ことは諦めてよ、理子」
悲しそうに眉をひそめて、苦笑する。その時だった。
カキンッ
理子たちの右手側。土手下の草野球コートで、野球部の打った球が、遠目にこちら目掛けて飛んでくるのが見えた。
「伊達くん、そこ危ないかも」
「え、何が」
高く、高くあがった球だ。理子が声をあげたあとでも、政宗は充分確認できたし、避けられるフライボールのはずだった。
しかし、政宗はそれを見つけることが出来ない。
球は宙に大きな弧を描き、そして政宗の頭に直撃した。鈍い音がしたかと思うと政宗は、崩れるように倒れこむ。あわや、階段から落ちるところを理子が寸でで、抱き留めた。
「ちょっと、だ、伊達くん!?伊達くん!!」
政宗は反応しない。意識がない。理子はよろめきながらも、懸命に助けを呼んだ。
「だ、だだだだだれかっ、助けてっ」
幼い頃から人前で腹から声を出すことがどうしても出来なかった。声から自分を透かしとられる気がして恐かった。
「助けてくださいっ」
それでも理子は大声で、叫ぶ。腕の中の政宗を助けたい一心だった。
「理子さん……と、政宗くん?」
その時、理子の背後から声をかけたのは、登校途中だった校医の明智だった。
「あ、あけ、明智先生っ伊達くんを助けてっ!」
明智が見れば、政宗の右前頭部はみるみる膨れていく。皮下出血をしているらしい。
明智の頭脳は瞬時に状況を弾き出し
「とにかく医務室へ……手伝ってください」
そう言って、強くうなずいた。
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