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一章 伊達成実

第七話 理子の暴走

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  ***
「で、なんでお前らがいんの」
「伊達くんこそ」
 双子と従兄弟同士が目指した場所は、運命のいたずらか。はたまた神のお導きか。


 同じ、屋上だった。


 憮然と眉をひそめる成実と、泣き腫らした目を丸めた麻美が向かい合う。それ以降、何を口にしていいのかわからず押し黙る成実と麻美をしり目に、仲良く談笑を始めたのは、政宗と理子だった。



「また会ったな」
「は、はははははは、はい」
「今日二度目だ。すげえ偶然」
「し、幸せです」
「おおげさだな。んんと、理子だったか?」
「そそそそそそうです、わわわたし、うれ、しいです。名前おぼ、おぼぼぼぼえててくれたなんて」
「理子、どもりすぎ」
 くはっと涙目で笑い出す政宗に、苛立ったのは成実だ。


「おい、政宗。女共ふたり連れてどっか行けよ」
「はあ?おかしいだろ、麻美は成担当じゃん。朝は付き合う気満々だったじゃねえか」
 不義理な成実は嫌いだ。
今度は正宗が苛立って言葉尻を強めた。

「それは......片倉さんに反対、されたから」
 ふと成実は、麻美を見やる。


 泣き腫らした目。
未だ涙に濡れて見える長い睫毛。
赤く剥けたような頬。
落ち込んだように下がる眉。

 朝はあんなにはつらつとしていた麻美が、今は見る影もない。

 成実の心臓がまた音を立てる。麻美が想いを吐露してくれたあの時と同じように。戸惑いを感じるような、切なくて身が擦りきれそうな、政宗が落ち込んでいる時側にいてやりたいと思うあの瞬間にも似た……そんな感情が湧き出でる。


 しかし、成実はこの感情の呼び方も知らなければ、どう表せばいいのかもわからない。ただその感情に翻弄されて苛立ちだけが溜まっていく。



「あああ、もう。なんなんだよお前っ」
 その矛先は当然のことのように、麻美へと向いた。突然大声で怒鳴られた麻美は、わけもわからず身をすくめる。見かねた政宗が二人の間に割って入った。


「ちょ、成お前、いつもの俺と立ち位置逆!どうしたんだよマジで」
「こいつが泣いたような顔してんのが悪いっ、こういうの嫌なんだよ、マジでムカつく」
その言葉に、麻美の目にはまた涙が溜まる。ふるふると震える涙が落ちる寸前、声を大きくあげたのは、なんと、理子だった。

「ま、ままま待ってよっ」
 顔を真っ赤にして、目を釣り上げて、成実の前に歩み出る。その目に迷いはない。いつも麻美の影に隠れている理子。こんなに大声を聞いたのは麻美にもしばらく覚えがない。

「り、理子……?」
 驚いてすっとんきょうな声で、姉を呼んだ麻美に目もくれず、理子は成実を見上げて告げる。


「す、好きな人にそんなこと言われたらっ、女の子は誰だって泣きたくなっちゃうよっ。麻美ちゃんいつもは、泣かないよ。泣いたのなんかしょ、しょ小学生の頃、半裸の変態にふたりで追いかけられた時が最後なんだからっ。いつもはわわわわ私の方が泣き虫で、麻美ちゃんはいつも慰めてくれる方で、麻美ちゃんが泣くのは今じゃもう……成実君のことだけなんだからっっ!」

 
 肩で呼吸しながら、歯を食いしばって捲し立てる。まるで理子ではないようだ。それは大人しい理子の、わば癖のようなものだった。

 人に意見をすることを極端に嫌う理子は、普段から色々なことを溜め込んでしまう。それが時おり、火山のように噴火するのだ。こうなっては、麻美ですらどうすることもできない。



「ちょっ理子、やめて」
 このまま麻美の成実への想いを喋り続けられたのでは、恥ずかしくて死んでしまいそうだ。麻美は理子の肩に手をかけて、そっとやめるよう促した。だが、予測通り理子は止まらない。


「一年間ずっとずっとずっと麻美ちゃんは、成実君のこと見てきたんだから。美術部に入ったのだって美術室からならサッカー部の練習がよく見えるからなんだから。試合の前の日には必ず神社にお参り行くし、成実君がシュート決める度、バカみたいに喜んで。二年に上がったときクラスが一緒になれなかったって言って一ヶ月も落ち込んでたの成実君知らないでしょ、わ、わわたしは全部、全部、ぜえええんぶ見てきたんだからねっ、夢にまで見た好きな人と手繋いで二人っきりになれたら嬉しくって涙ぐらい出るよ、それの何が悪いって言うのっ」


 理子に暴露されてしまった麻美の額には、汗の玉が浮く。心が丸裸にされた気がして、顔から火が出そうだった。


 やっとこ、伊達の二人に視線を配れば、成実も政宗も呆気にとられて、口すら閉じることを忘れている。

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