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第2章 海辺へ

みづきの朝

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 青く透き通った海の中に、しろいクラゲさんがいました。 
 くらげさんはとてものんびり屋さんで、いつもふわり、ふわりと漂っていました。 

 お友達もいるんですよ? 

 まわりには色とりどりのお魚さんが泳ぎ回っています。 
 小さくて可愛いお魚さん、大きくてかっこいいお魚さん。 
 みんなくらげさんと仲良くいました。 

 でも……ある日。 

 眩しい日差しが、お空からキラリと差し込みました。 
 すると、お魚さん達は一斉に、まるで光に導かれるように泳ぎ去ってしまいました。 
 でも、くらげさんはのんびり屋さんだったので、それに気がつきませんでした。 
 いつの間にか、くらげさんの周りには誰もいなくなってしまいました。 

 一人きりは、とても寂しいです。 

 我慢しても、涙がぽたり、ぽたりと流れてしまいます。 
 その涙はくらげさんからこぼれて、ふわり、ふわりと降りていきました。 
 深い海の底へと。 

 すると、海の底には黒い蝶がいました。 

 その蝶は羽が裂けて、力も尽きてもう動けませんでした。 
 まだ飛びたい、お空に帰りたい。 
 そう思っても、体が思うように動きませんでした。 

 そこへ、くらげさんの涙の粒が降りていきます。 

 くらげさんの涙が黒い蝶に降り注ぐと、どうしたことでしょう。ぼろぼろに裂けた羽の傷がみるみるふさがっていきます。 
 力を取り戻した黒い蝶は、思い切ってひらりと羽をひるがえし、海の中を舞い上がってくらげさんの元へと 

 

「……さん、みづきさん」 
「あい。……あぅ……ぁぁ」 
「起きてください。……起きてない、ですね。ううん、どうしよう」 
「だ、れ」 
「私です。凜霞です」 
「はぁ……う、ん……ん?」 
「みづきさん。あ、よだれ、たれちゃう」 

 凜霞がティッシュを取り、みづきの頬を垂れようとしているしずくを優しく拭き取る。みづきの安らかすぎる寝顔。凜霞の口元に、自然と優しい微笑みが浮かぶ。 

「みづきさん。気持ち悪いところはないですか」 
「だいじょ……ぶ。ぁりあと」 
「よかったですね。…………って。ああ、すみませんでした」 

 みづきの頭を何度もなでていた凜霞は、突然驚いた表情に一変し、みづきからさっと手を離す。 
 異変に気づいたみづきがうっすらと片目を開いた。 

「どうした、の?」 
「あの……ですね。申し訳ありません。勝手に顔を触ったり、撫でたりしてしまいました」 
「いいよぉ、りんかさんなら。触って、も」 

 みづきが再び目を閉じる。その無防備すぎる姿態にどうしていいかわからず固まっていた凜霞は、ついに意を決してそろそろと手を伸ばしていく。 
 人差し指で、つん、と頬に触れる。子供特有の瑞々しさのある弾力に、思わず凜霞の口元からため息が漏れる。そして、つつ、と指先で撫で上げていく。 
 みづきがぴくりと体を震わせて声にならない声を漏らす。それを聞いた凜霞もビクッと体を震わせて手を引っ込める。そして恐る恐るみづきを覗き見てみると、すでに安らかな寝顔に戻っていた。 
 凜霞はため息をついて、みづきに触れた方の手をみつめながら握ったり開いたりする。そしてそのまま片手をぱたりと降ろし、もう片方の手で黒髪を掻き上げながらみづきの耳元に顔を寄せて、吐息のような声でつぶやいた。 

「みづきさん、申し訳ありませんが、時間です。起きてください」 

 みづきがゆっくりと、嫌がりながらもぼんやりと目を開く。 

 その目に映るのは、漆黒のカーテン……ではなくて、黒髪。そして、正面には透けるようは白い肌に切れ長の目、蒼く光る瞳。 

 いつの間にか、凜霞がみづきをほんの間近で覗き込んでいた。 

「おはよ、う……ずっと見て、た……?」 
「はい。寝顔が可愛いな、って思いました。起こしてしまい、すみません」 
「あぅ……みじゅきちゃ……りんかさんにおはよ……う。って」 
「おはようございます」 
「うー、まだ……ねりゅの」 
「時間、大丈夫ですか?」 
「いま、なんじ」 
「7時半です」 
「ちち、ぢ……? ぁぁあさ、ごはんっっ!」 
「……!」 

 凜霞が本能的に身を避けると同時に、みづきが飛び起きた。 
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