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第四話
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カーディナル家には、ウィルが準備した封書が一通届いていた。
『隣国から王都の生活を視察しに密使がやって来る。隣国と頻繁に交易を結んでいる貴殿の元で丁重にもてなすように。』
そう綴られた封書には、国王の勅命であることを表す紋章が記されていたので、カーディナル家は失礼の無いよう客人をもてなす準備に追われていた。
そうした中、異国の要人へと姿を変えたヴィンスが、カーディナル家に到着した。
「ようこそ、おいでくださいましたダグラス殿!」
ウィルの用意した身分証には、密使スコット・ダグラスという偽名が使われていた。
「初めまして、カーディナル伯爵。この度王都の視察に招かれました、ダグラスと申します。我が国と貴国の友好と繁栄を目的として命を受けました。しばらくの間、お世話になります」
ヴィンスは礼儀正しく挨拶をし、カーディナル家に潜入した。
カーディナル家の応接間に通されたヴィンスは、当たり障りのない世間話をしながら、令息ヘンリーの話題に近付けた。
「実のところ、こちらの皆さんとは文化的な違いもありますし、なかなか相容れないのではないかと懸念しているんです。特に教育レベルに関しては、この国の若者たちは、身分に関係なく教育を受ける機会が与えられているとか……」
「そうですね。うちの息子たちも、長男はすでに卒業し家業を手伝っていますが、次男が現在王立アカデミーに通っています。爵位家の子供から、商人、職人の子供、それから少数ですが魔道具使いの子供まで、幅広い交友関係を築いているようですな。まぁ、国内にはどうしても入学できない貧困層も一部おりますが……」
「なるほど。ではご子息たちはさまざまな身分の友人をつくることができる、ということですね」
「我々のように爵位を与えられた家門の子供は、幼い頃から将来を見据えた育てられ方をしていますのでね。学園生活くらいは、羽根を伸ばしてもいいだろう、と私は考えています。どの道、アカデミーを卒業すれば嫌でもお互いの身分を思い知らされる場面が出てくるのですがね」
会話を通して、ヴィンスは伯爵本人の考え方を確かめていた。爵位家の、もっともオーソドックスな思考だろう。卒業までは自由に、しかし卒業後は家門に自覚を持った付き合いを、ということだ。
「ところで、一つ気になっていたのですが、そのように幅広く交友関係を築いている内に、自由恋愛に目覚める者も出てくるのではないでしょうか?身分の差がある者たちが惹かれ合う可能性も出てきますよね?我が国は、同等の身分の者同士しか一緒に教育を受けませんので、そもそも出会う事すら難しいですが……」
ヴィンスの発言を受けて、カーディナル伯爵は少し困ったような表情を浮かべた。
「確かに、さまざまな身分の友人が出来れば、想いを募らせる相手に出会っても不思議ではありません。ですがやはり、家格は大切ですので、我々の多くは、入学前に既に相応な家の子供と婚約を結ばせています」
「なるほど。ではご子息にも婚約者がおられるのですね」
「ええ。長男は既に結婚し、跡継ぎの男の子を設けていますが、次男はワトソン子爵家のお嬢さんと婚約しております。我が家の交易ルート上に領地を持つ家なので、ビジネスの発展にひと役買ってくれるでしょう」
カーディナル伯爵と談笑しながら、ヴィンスは次の一手、ヘンリーとの接触の仕方を考えていた。
『隣国から王都の生活を視察しに密使がやって来る。隣国と頻繁に交易を結んでいる貴殿の元で丁重にもてなすように。』
そう綴られた封書には、国王の勅命であることを表す紋章が記されていたので、カーディナル家は失礼の無いよう客人をもてなす準備に追われていた。
そうした中、異国の要人へと姿を変えたヴィンスが、カーディナル家に到着した。
「ようこそ、おいでくださいましたダグラス殿!」
ウィルの用意した身分証には、密使スコット・ダグラスという偽名が使われていた。
「初めまして、カーディナル伯爵。この度王都の視察に招かれました、ダグラスと申します。我が国と貴国の友好と繁栄を目的として命を受けました。しばらくの間、お世話になります」
ヴィンスは礼儀正しく挨拶をし、カーディナル家に潜入した。
カーディナル家の応接間に通されたヴィンスは、当たり障りのない世間話をしながら、令息ヘンリーの話題に近付けた。
「実のところ、こちらの皆さんとは文化的な違いもありますし、なかなか相容れないのではないかと懸念しているんです。特に教育レベルに関しては、この国の若者たちは、身分に関係なく教育を受ける機会が与えられているとか……」
「そうですね。うちの息子たちも、長男はすでに卒業し家業を手伝っていますが、次男が現在王立アカデミーに通っています。爵位家の子供から、商人、職人の子供、それから少数ですが魔道具使いの子供まで、幅広い交友関係を築いているようですな。まぁ、国内にはどうしても入学できない貧困層も一部おりますが……」
「なるほど。ではご子息たちはさまざまな身分の友人をつくることができる、ということですね」
「我々のように爵位を与えられた家門の子供は、幼い頃から将来を見据えた育てられ方をしていますのでね。学園生活くらいは、羽根を伸ばしてもいいだろう、と私は考えています。どの道、アカデミーを卒業すれば嫌でもお互いの身分を思い知らされる場面が出てくるのですがね」
会話を通して、ヴィンスは伯爵本人の考え方を確かめていた。爵位家の、もっともオーソドックスな思考だろう。卒業までは自由に、しかし卒業後は家門に自覚を持った付き合いを、ということだ。
「ところで、一つ気になっていたのですが、そのように幅広く交友関係を築いている内に、自由恋愛に目覚める者も出てくるのではないでしょうか?身分の差がある者たちが惹かれ合う可能性も出てきますよね?我が国は、同等の身分の者同士しか一緒に教育を受けませんので、そもそも出会う事すら難しいですが……」
ヴィンスの発言を受けて、カーディナル伯爵は少し困ったような表情を浮かべた。
「確かに、さまざまな身分の友人が出来れば、想いを募らせる相手に出会っても不思議ではありません。ですがやはり、家格は大切ですので、我々の多くは、入学前に既に相応な家の子供と婚約を結ばせています」
「なるほど。ではご子息にも婚約者がおられるのですね」
「ええ。長男は既に結婚し、跡継ぎの男の子を設けていますが、次男はワトソン子爵家のお嬢さんと婚約しております。我が家の交易ルート上に領地を持つ家なので、ビジネスの発展にひと役買ってくれるでしょう」
カーディナル伯爵と談笑しながら、ヴィンスは次の一手、ヘンリーとの接触の仕方を考えていた。
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