56 / 95
素直に「はい」と言いなさい
しおりを挟む
「分かりました。もういいです。」
「・・・・・。」
それはまるで、深く息を吐き出すような諦めの言葉であった。アリッサは、こうして自分の気持ちを終わらせる為にレナートに会いに来た。なのに、どうしてしまったのだろう・・・。
背後から自分の体に回された彼の腕から、アリッサは未練がましく自分の手を離せないでいる。涙を見せたくなくて、急いでレナートに背を向けたと言うのに、次々と溢れてくる涙が勝手に彼の袖に落ちて行ってしまう。
(離したくない・・・。)
レナートの服に染み込んで行く涙を見ながら、アリッサは自分の情けなさに胸が詰まる思いだった。
だがこの後、思いもよらないレナートの言葉によって、それまでの惨めな気持ちに終止符が打たれることとなった。
「貴女にはもう聞きません。私が教えます。」
「・・・え?」
「・・・アリッサが笑顔になれない理由は、アリッサが今、泣いている理由は、私に好意があるからです。アリッサは、私のことが好きなんです。」
「あ・・・・。」
「アリッサ、ちゃんと返事をしてください。」
戸惑うアリッサを、レナートはくるりと回して自分の方に向かせた。そして、真剣な面持ちで詰め寄った。
「私の目を見て、ちゃんと答えるのです。ほら、素直に「はい。」と、言えばいいのです。」
「レナート様・・・ですが、私では―――」
「アリッサ、貴女の正直な気持ちを聞いているのです。貴女は私を愛していますね?」
「そんな・・・でも・・・言って・・・いいのですか?」
助けを求めるようにレナートを見つめると、まるで懇願しているような情けない顔の彼が何度も頷いた。それを見たアリッサは、今までずっと我慢していたレナートへの想いが溢れて止まらなくなるのを感じた。
「レナート様が、好きです。」
その言葉を聞くなり、レナートは力強くアリッサを抱きしめた。
「寂しかったです。辛かったです。レナート様が好きです。大好きです。私はレナート様が・・・」
「愛しています、アリッサ。私はもう貴女しか愛せない。」
きつく抱きしめていた手を緩めると、レナートはアリッサの顔を上げ、その唇に口付けした。
「アリッサ、アリッサ。ああ、ずっとこうしたかった。私のアリッサ。」
何度も繰り返されるレナートの口付けは、唇から頬に、頬からこめかみに、顔中に落とされてゆく。
「婚約はしません。私は、アリッサ以外の女性と一緒になるつもりなどありません。」
それはアリッサにとって、とても嬉しい言葉だった。しかし、いくらお互い思い合っていたとしても、自分達の置かれた状況が変わるわけではない。自分達の気持ちで事が解決するほど世の中は甘くはない。
アリッサは、急に現実に戻されたように俯くと、自分の首筋に口付けているレナートの肩をゆっくり押した。
「私はレナート様が好きです。それは、間違いなく私の正直な気持ちです。ですが、私は貴方とはつり合わない・・・。やはり私では公爵家のレナート様と一緒になることは無理なのです・・・。」
「アリッサ!」
レナートの鋭い瞳がアリッサを射貫くように見据えた。そして、乱暴にアリッサの両手をひとまとめにして掴むと、もう片方の手でアリッサの頭を押さえ、まるで噛みつくように大きな口を開けてアリッサの唇を奪った。突然のことに驚くアリッサになどお構いなしに自分の舌をねじ込んできたレナートは、アリッサの呼吸もろとも奪うように荒々しい口付けを続けた。
「あの男となら将来の夢が見れるからですか?」
「ふっ・・・く・・・」
「私とは目も合わせてくれなかったのに、あの男とは楽しそうに笑っていましたね。」
「レナート・・・さ・・・。」
「あいつを私の代わりにしようとしたのか!?」
どうなんですか?と、言ったレナートは、今度はアリッサの首筋に顔を埋め舌を這わせた。
長い口付けから解放されたアリッサは、直ぐに違うと否定したかったが、呼吸もままならない状態で、はあ、はあ、と、息を整えているとチクッっとした痛みが首筋に走った。
「貴女は私のものです。誰にも渡さない。」
はぁ、と、息を荒げたレナートが、また首筋に吸い付いた。
「んっ・・・、レナート様!!」
アリッサが、体をのけ反らせて抵抗しようとすると、レナートの腕の力は更に強まり、今度はアリッサの制服のボタンを外しだした。気付けば、はだけた胸元からアリッサの下着が見えていた。それを呼吸を荒くしたレナートが、凝視しているのだ。
「レナート様!!」
「アリッサ、貴女があの男を選ぶと言うなら・・・、私はあの男を殺します。」
温和で優しいレナートの青い瞳が、仄暗く気味の悪い光を宿していた。
「ころ・・・え!?そ、んな冗談は・・・」
「冗談に聞こえますか?」
慄然とした表情を浮かべ固まっているアリッサに、レナートは、寒気のするような冷酷な笑みを浮かべた。
「アリッサを私から奪おうとする者は、皆、消えてもらいます。」
レナートは、アリッサの胸元に顔を埋め舌を這わせながら、何度も強く吸い付いた。
真っ白なアリッサ胸元に、たくさんの赤い花が散りばめられたのを恍惚とした表情で見下ろしたレナートは、最後にアリッサの唇に優しい口付けをすると、幸せそうに微笑んだ。
「もう、私以外の男に関心を向けてはいけませんよ?貴女を失うくらいなら、私は殺人鬼にもなれるようですから。」
自分でも知りませんでしたが・・・。と、呆れたように話すレナートを前に、いくつもの感情に翻弄されながら、アリッサは呆然とレナートを見つめていた。
「・・・・・。」
それはまるで、深く息を吐き出すような諦めの言葉であった。アリッサは、こうして自分の気持ちを終わらせる為にレナートに会いに来た。なのに、どうしてしまったのだろう・・・。
背後から自分の体に回された彼の腕から、アリッサは未練がましく自分の手を離せないでいる。涙を見せたくなくて、急いでレナートに背を向けたと言うのに、次々と溢れてくる涙が勝手に彼の袖に落ちて行ってしまう。
(離したくない・・・。)
レナートの服に染み込んで行く涙を見ながら、アリッサは自分の情けなさに胸が詰まる思いだった。
だがこの後、思いもよらないレナートの言葉によって、それまでの惨めな気持ちに終止符が打たれることとなった。
「貴女にはもう聞きません。私が教えます。」
「・・・え?」
「・・・アリッサが笑顔になれない理由は、アリッサが今、泣いている理由は、私に好意があるからです。アリッサは、私のことが好きなんです。」
「あ・・・・。」
「アリッサ、ちゃんと返事をしてください。」
戸惑うアリッサを、レナートはくるりと回して自分の方に向かせた。そして、真剣な面持ちで詰め寄った。
「私の目を見て、ちゃんと答えるのです。ほら、素直に「はい。」と、言えばいいのです。」
「レナート様・・・ですが、私では―――」
「アリッサ、貴女の正直な気持ちを聞いているのです。貴女は私を愛していますね?」
「そんな・・・でも・・・言って・・・いいのですか?」
助けを求めるようにレナートを見つめると、まるで懇願しているような情けない顔の彼が何度も頷いた。それを見たアリッサは、今までずっと我慢していたレナートへの想いが溢れて止まらなくなるのを感じた。
「レナート様が、好きです。」
その言葉を聞くなり、レナートは力強くアリッサを抱きしめた。
「寂しかったです。辛かったです。レナート様が好きです。大好きです。私はレナート様が・・・」
「愛しています、アリッサ。私はもう貴女しか愛せない。」
きつく抱きしめていた手を緩めると、レナートはアリッサの顔を上げ、その唇に口付けした。
「アリッサ、アリッサ。ああ、ずっとこうしたかった。私のアリッサ。」
何度も繰り返されるレナートの口付けは、唇から頬に、頬からこめかみに、顔中に落とされてゆく。
「婚約はしません。私は、アリッサ以外の女性と一緒になるつもりなどありません。」
それはアリッサにとって、とても嬉しい言葉だった。しかし、いくらお互い思い合っていたとしても、自分達の置かれた状況が変わるわけではない。自分達の気持ちで事が解決するほど世の中は甘くはない。
アリッサは、急に現実に戻されたように俯くと、自分の首筋に口付けているレナートの肩をゆっくり押した。
「私はレナート様が好きです。それは、間違いなく私の正直な気持ちです。ですが、私は貴方とはつり合わない・・・。やはり私では公爵家のレナート様と一緒になることは無理なのです・・・。」
「アリッサ!」
レナートの鋭い瞳がアリッサを射貫くように見据えた。そして、乱暴にアリッサの両手をひとまとめにして掴むと、もう片方の手でアリッサの頭を押さえ、まるで噛みつくように大きな口を開けてアリッサの唇を奪った。突然のことに驚くアリッサになどお構いなしに自分の舌をねじ込んできたレナートは、アリッサの呼吸もろとも奪うように荒々しい口付けを続けた。
「あの男となら将来の夢が見れるからですか?」
「ふっ・・・く・・・」
「私とは目も合わせてくれなかったのに、あの男とは楽しそうに笑っていましたね。」
「レナート・・・さ・・・。」
「あいつを私の代わりにしようとしたのか!?」
どうなんですか?と、言ったレナートは、今度はアリッサの首筋に顔を埋め舌を這わせた。
長い口付けから解放されたアリッサは、直ぐに違うと否定したかったが、呼吸もままならない状態で、はあ、はあ、と、息を整えているとチクッっとした痛みが首筋に走った。
「貴女は私のものです。誰にも渡さない。」
はぁ、と、息を荒げたレナートが、また首筋に吸い付いた。
「んっ・・・、レナート様!!」
アリッサが、体をのけ反らせて抵抗しようとすると、レナートの腕の力は更に強まり、今度はアリッサの制服のボタンを外しだした。気付けば、はだけた胸元からアリッサの下着が見えていた。それを呼吸を荒くしたレナートが、凝視しているのだ。
「レナート様!!」
「アリッサ、貴女があの男を選ぶと言うなら・・・、私はあの男を殺します。」
温和で優しいレナートの青い瞳が、仄暗く気味の悪い光を宿していた。
「ころ・・・え!?そ、んな冗談は・・・」
「冗談に聞こえますか?」
慄然とした表情を浮かべ固まっているアリッサに、レナートは、寒気のするような冷酷な笑みを浮かべた。
「アリッサを私から奪おうとする者は、皆、消えてもらいます。」
レナートは、アリッサの胸元に顔を埋め舌を這わせながら、何度も強く吸い付いた。
真っ白なアリッサ胸元に、たくさんの赤い花が散りばめられたのを恍惚とした表情で見下ろしたレナートは、最後にアリッサの唇に優しい口付けをすると、幸せそうに微笑んだ。
「もう、私以外の男に関心を向けてはいけませんよ?貴女を失うくらいなら、私は殺人鬼にもなれるようですから。」
自分でも知りませんでしたが・・・。と、呆れたように話すレナートを前に、いくつもの感情に翻弄されながら、アリッサは呆然とレナートを見つめていた。
0
お気に入りに追加
42
あなたにおすすめの小説
再会した彼は予想外のポジションへ登りつめていた【完結済】
高瀬 八鳳
恋愛
お読み下さりありがとうございます。本編10話、外伝7話で完結しました。頂いた感想、本当に嬉しく拝見しました。本当に有難うございます。どうぞ宜しくお願いいたします。
死ぬ間際、サラディナーサの目の前にあらわれた可愛らしい少年。ひとりぼっちで死にたくない彼女は、少年にしばらく一緒にいてほしいと頼んだ。彼との穏やかな時間に癒されながらも、最後まで自身の理不尽な人生に怒りを捨てきれなかったサラディナーサ。
気がつくと赤児として生まれ変わっていた。彼女は、前世での悔恨を払拭しようと、勉学に励み、女性の地位向上に励む。
そして、とある会場で出会った一人の男性。彼は、前世で私の最後の時に付き添ってくれたあの天使かもしれない。そうだとすれば、私は彼にどうやって恩を返せばいいのかしら……。
彼は、予想外に変容していた。
※ 重く悲しい描写や残酷な表現が出てくるかもしれません。辛い気持ちの描写等が苦手な方にはおすすめできませんのでご注意ください。女性にとって不快な場面もあります。
小説家になろう さん、カクヨム さん等他サイトにも重複投稿しております。
この作品にはもしかしたら一部、15歳未満の方に不適切な描写が含まれる、かもしれません。
表紙画のみAIで生成したものを使っています。
【完結】婚約者が好きなのです
maruko
恋愛
リリーベルの婚約者は誰にでも優しいオーラン・ドートル侯爵令息様。
でもそんな優しい婚約者がたった一人に対してだけ何故か冷たい。
冷たくされてるのはアリー・メーキリー侯爵令嬢。
彼の幼馴染だ。
そんなある日。偶然アリー様がこらえきれない涙を流すのを見てしまった。見つめる先には婚約者の姿。
私はどうすればいいのだろうか。
全34話(番外編含む)
※他サイトにも投稿しております
※1話〜4話までは文字数多めです
注)感想欄は全話読んでから閲覧ください(汗)
性悪という理由で婚約破棄された嫌われ者の令嬢~心の綺麗な者しか好かれない精霊と友達になる~
黒塔真実
恋愛
公爵令嬢カリーナは幼い頃から後妻と義妹によって悪者にされ孤独に育ってきた。15歳になり入学した王立学園でも、悪知恵の働く義妹とカリーナの婚約者でありながら義妹に洗脳されている第二王子の働きにより、学園中の嫌われ者になってしまう。しかも再会した初恋の第一王子にまで軽蔑されてしまい、さらに止めの一撃のように第二王子に「性悪」を理由に婚約破棄を宣言されて……!? 恋愛&悪が報いを受ける「ざまぁ」もの!! ※※※主人公は最終的にチート能力に目覚めます※※※アルファポリスオンリー※※※皆様の応援のおかげで第14回恋愛大賞で奨励賞を頂きました。ありがとうございます※※※
すみません、すっきりざまぁ終了したのでいったん完結します→※書籍化予定部分=【本編】を引き下げます。【番外編】追加予定→ルシアン視点追加→最新のディー視点の番外編は書籍化関連のページにて、アンケートに答えると読めます!!
いつかの空を見る日まで
たつみ
恋愛
皇命により皇太子の婚約者となったカサンドラ。皇太子は彼女に無関心だったが、彼女も皇太子には無関心。婚姻する気なんてさらさらなく、逃げることだけ考えている。忠実な従僕と逃げる準備を進めていたのだが、不用意にも、皇太子の彼女に対する好感度を上げてしまい、執着されるはめに。複雑な事情がある彼女に、逃亡中止は有り得ない。生きるも死ぬもどうでもいいが、皇宮にだけはいたくないと、従僕と2人、ついに逃亡を決行するのだが。
------------
復讐、逆転ものではありませんので、それをご期待のかたはご注意ください。
悲しい内容が苦手というかたは、特にご注意ください。
中世・近世の欧風な雰囲気ですが、それっぽいだけです。
どんな展開でも、どんと来いなかた向けかもしれません。
(うわあ…ぇう~…がはっ…ぇえぇ~…となるところもあります)
他サイトでも掲載しています。
「君以外を愛する気は無い」と婚約者様が溺愛し始めたので、異世界から聖女が来ても大丈夫なようです。
海空里和
恋愛
婚約者のアシュリー第二王子にべた惚れなステラは、彼のために努力を重ね、剣も魔法もトップクラス。彼にも隠すことなく、重い恋心をぶつけてきた。
アシュリーも、そんなステラの愛を静かに受け止めていた。
しかし、この国は20年に一度聖女を召喚し、皇太子と結婚をする。アシュリーは、この国の皇太子。
「たとえ聖女様にだって、アシュリー様は渡さない!」
聖女と勝負してでも彼を渡さないと思う一方、ステラはアシュリーに切り捨てられる覚悟をしていた。そんなステラに、彼が告げたのは意外な言葉で………。
※本編は全7話で完結します。
※こんなお話が書いてみたくて、勢いで書き上げたので、設定が緩めです。
王太子殿下が私を諦めない
風見ゆうみ
恋愛
公爵令嬢であるミア様の侍女である私、ルルア・ウィンスレットは伯爵家の次女として生まれた。父は姉だけをバカみたいに可愛がるし、姉は姉で私に婚約者が決まったと思ったら、婚約者に近付き、私から奪う事を繰り返していた。
今年でもう21歳。こうなったら、一生、ミア様の侍女として生きる、と決めたのに、幼なじみであり俺様系の王太子殿下、アーク・ミドラッドから結婚を申し込まれる。
きっぱりとお断りしたのに、アーク殿下はなぜか諦めてくれない。
どうせ、姉にとられるのだから、最初から姉に渡そうとしても、なぜか、アーク殿下は私以外に興味を示さない? 逆に自分に興味を示さない彼に姉が恋におちてしまい…。
※史実とは関係ない、異世界の世界観であり、設定はゆるゆるで、ご都合主義です。
え、幼馴染みを愛している? 彼女の『あの噂』のこと、ご存じないのですか?
水上
恋愛
「おれはお前ではなく、幼馴染である彼女を愛しているんだ」
子爵令嬢である私、アマンダ・フィールディングは、婚約者であるサム・ワイスマンが連れて来た人物を見て、困惑していた。
彼が愛している幼馴染というのは、ボニー・フルスカという女性である。
しかし彼女には、『とある噂』があった。
いい噂ではなく、悪い噂である。
そのことをサムに教えてあげたけれど、彼は聞く耳を持たなかった。
彼女はやめておいた方がいいと、私はきちんと警告しましたよ。
これで責任は果たしました。
だからもし、彼女に関わったせいで身を滅ぼすことになっても、どうか私を恨まないでくださいね?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる